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変わらないものを繋げて
住宅街の中にある、小さな神社。境内に向かう石段に座った彼女は、ぽつりとつぶやいた。
「変わらないものが好きなの」
うつむく彼女の表情は、影になっていて、よく見えない。意図を汲みたいと思って、僕は境内へと続く石段を仰いだ。
思いがけず、母に手を引かれて石段をのぼった記憶へと繋がった。遠い日の記憶だ。
日が暮れ始めていた。ひんやりと冷たい石段が、仄かに色を帯びている。温かさを感じた。
「ここだけ、時が止まってるみたいだね」
僕が応えると、彼女のやわらかく微笑むような気配がした。
帰り道。どちらからともなく、手を繋ぐ。
夕焼けの暗がりの中。僕が振り返ると、さっきの小さな神社が少し、浮き上がるように見えた。