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お題『雨』
晴れきった朝。
ある男のもとへ1通の手紙が届いた。
差出人は不明である。
「いったい誰だ? 自分の名前を書き忘れるやつは」
文句をいいながら、男は開封した。
便箋が1枚だけ入っている。
『日照りが続くとき、私は身を隠さなくてはならない。巫女が行う雨乞いの儀式が、全くアテにならないせいだ。私が悲しければ空は泣くし、私が嬉しければ空は笑う。周知の事実だ。雨を降らせたければ、私を拷問にかけて外へ放りだすが良い。このような仕組みには、もう付きあいきれない。小説の主人公は楽ではないのだ』
手紙を読み終えて、男は首を傾げた。
それから、手紙をくずかごに入れた。
すでに自分が、小説の主人公になっていることを知らないままで——。




