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お題『春一番』
あくる日の朝。ひとりの町人が、いつものように茶屋を開いていた。
小さな茶屋に、まだ客は入っていない。江戸の外れにある以上、大して客が来ないことに納得はいくのだが。こうも客が入らない日は珍しい。
——このご時世、お金がないと社会人として認めてもらえない。
町人はため息をついた。
客が入らなくては、店を開けていても意味はない。暇を持て余すくらいなら、川へ鰻採りに出かけた方が良いのではないかとも考えるが……。
この男。鰻採りで生計を立てていけるほど、鰻採りは得意でなかった。
そんなこんなで今日も。町人は頬杖をつきながら椅子に座る。春一番の風が暖簾を揺らして、自分の懐を温めてくれる日を。ただ、待ち続けているのだ。




