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現代アヤカシ怪鬼譚  作者: 狼森エイキ
救いの手
5/13

救いの手 伍

漫才しているところに茉莉香がお姫様抱っこで女性を運んでくる。


「怪我もしてないし息もしてるから大丈夫だと思う」


そう言って女性を床に寝かせる。


すると両面宿儺の身体が霧散してった。


「終わったんですか?」 

「多分ね。 両面宿儺は人が異形になったものと言われているんだ。 だから核になる人間がいなくなったから存在できないのかもしれない」


印象としては人が変化するというより何かを纏ったというほうが正しいのか。 なるほど、パワードスーツというのも当たらずとも遠からずって感じか。


「この人をここまで駆り立てるものって何ですかね?」


と、誰にでもなく問いかけた凪咲だったが、なんとなく想像はついていた。


おそらく、両面宿儺に襲われここにいる人たちは、薬物かもしくは何かしらの犯罪に手を染めているのだろう。 ……一美を含めて。


「まあいいや。 詳しいことはその道に詳しい人に聞いてもらおう」


そういうと響稀は携帯電話を取り出してカチカチと操作し始めた。






一時間もしないで救急車のサイレンが鳴り、スーツの男たちや救急車の隊員たちがビルにやってきた。 その中の長身でやせ形のスーツ姿の男がこちらに近づいてくる。


「また面倒起こしやがって……そのたびに俺が駆り出されるんだぞ?」


男は刑事のようである。 響稀たちとは深い付き合いなのだろうか、うんざりしたような顔をしている。


「その分は浦川の手柄だろう? 偉くなれるかもよ?」


「別に偉くなりたくて仕事している訳じゃねえよ」


浦川刑事、警察官の鑑。 こういう人には偉くなってほしい。 そういう人の限ってその気はないらしいが。 そんな浦川がこちらを見て


「あんたも巻き込まれたクチか?」


「あ、はい」


と答えて、これまでのいきさつを話した。 話の最後に浦川は響稀たちのほうを見た。 彼女らは首肯で間違いがないことを証明してくれた。


「そうか、でも一応尿検査はしてもらうぞ? こいつらの中には薬物とのかかわりで警察がマークしてたやつも多いんだ」


「わかりました」


別に疚しいことなんてないから二つ返事で応じる。 ビルのトイレで婦警さんに見守られながらというのは恥ずかしいが。 それにしても、まさか、警察で追っているよな人までいたとは…… 






戻ると、妖怪になってしまった女性は目を覚まさず救急車で搬送されていた。 残る人たちはぐったりしているか、警察を前にしても抵抗するか……どのみち逃げられまい。


……と、いたいた。


「あの、すいません。 この人クラスメイトなんです。 少し話してもいいですか?」


友人、とは言わなかった。友人とするか否かはこれから決める。 


女性の警官のほうは困っていた。 そして


「すいません、彼女は逮捕されたんです。 靴に薬物を隠していたんです。 検査では陽性でした。 彼女自身は尿検査で陰性でしたが、所持だけでも罪になるので ですから」


「すぐ終わります」


警官の返答は聞かず彼女に話しかける。


「今日、私を誘ったのはどうして?」


「…………」


一美は答えない。


「まさか、そういうのの売人ってわけじゃないよね? 私も仲間になってほしかった? いやどっちかって言ったら同類か」


わたしも薬の常用者にしてどうする気なのか。


「違うの!」


「中学の時の先輩に脅されて、あなたの飲み物とかに入れるようにって 睡眠薬だって聞いてたから…… まさかそういう薬だとも思わなくて 本当にごめんなさい!」


一美はそういって頭を下げた。 確かに所持は罪だが、知ってたかどうかはまた別かもしれない。 渡されただけで使用してないというのもさっきの警官の話と一致する。 その辺の法律は知らないが。 しかし、それ以前に


「でも、その話嘘だよね?」


「「え?」」


二人の声が上がった。 一人は一美、もう一人は彼女のすぐ後ろにいる警官だった。


警官がこんなはっきりリアクションをとっていいものだろうか。


「まず、睡眠薬ってのが嘘だよね。 靴に隠すなんて慎重が過ぎるよ。 普通、カバンとかポケットでしょ。 逆に先輩とやらは無警戒すぎだね。 もし私に薬を盛らなかったら? 他人にホイホイイケナイお薬渡すってのもねえ。 バレたら自分たちが危険にさらされることになる。 急ごしらえの嘘だとすぐボロが出るよ?」


「…………」


「となると余計私に近づいた意味がわからない。 私、あなたに何かしたっけ? ねえ、なんで?」


「…………」


一美は答えない。


「もういいですか?」


しばしの静寂の後、警官が一美を車に乗せようとする。 凪咲も踵を返し、響稀たちのもとに戻ろうとした。


「気に入らないのよ……」


「ん?」



「いつも飄々として、テストも簡単に良い点とるし、運動もできるし、でも何より一番気に食わないのはそれだけの能力があるのに全然そんなことに興味もなさそうで、いっっつもつまんなそうな顔で。 ねぇ貴女いつもテストで一位とってるでしょう!? 知ってる!? 私いつも二位なの! 知らないでしょ!? 下にいる奴のことなんて、ずっと上に敵わないヤツがいるプレッシャーとか!!」


「うん、わかんない」


凪咲は即答した。 紛れもない事実だったからである。 自分はいわゆる天才なのだということを凪咲は自覚している。 というか授業は受ければわかるし、スポーツも一回やってみればそこそこできる。 だからつまらなさそうとか思われるのだろう。 


ちなみに順位には興味ない。 一位だったのは知っているが下の順位までは知らない。 言うと火に油を注ぐようなものだから言わないが。 


自分が万年二位だったらどうだろうか。 彼女のように努力して努力して……そして諦めるだろうか。 実際のところはなってみないとわからない。


「でも、それを私に言われても困るよ。 人の気持ちなんて経験しないとわかんないもんじゃない?」


あなたも私のこと何にもわからないでしょ? と口に出そうとしてやめた。


「私はあなたの苦しみとかわかりようもないから言えることは一つ。 結局あなたは勝負から降りてしまった。 勝負から逃げて私の足を引っ張るしかしなかった。 自分が嵌った泥沼にね」


そう言って凪咲は一美から背を向けて歩き出した。 しかし、ふと止まって、


「……どうせ、足を引っ張るために手を伸ばすんだったら、『助けて』って手を伸ばしてほしかったけどね。 引っ張り上げるためだったらいくらでもこっちから手を伸ばしたのに……」


凪咲はそう言いはしたが振り向くことはしなかった。 その声は感情のない淡々とした声であった。






「あの女の身元が割れたってさ」


戻るなり開口一番凪咲に光莉が告げた。 他に環がいて、あとは警察と話している。


「捜査情報じゃないんですか? 私が聞いてもいいんですか?」


「その代わり今日のこと内緒ね?」


最初から誰かに話す気はない。 誰も信じてくれないだろうし、なんとなく自分の胸にしまったほうがいい気がしたからだ。


「別に言う気もないですが。 で? 誰なんですか?」


「自分の旦那さんが刑事だったんだって。 薬物事件とか追ってた、ね。 で、錯乱した中毒者に殺されたって。 今回の事件の動機もなんとなく見えてくるね」


「彼女のやったことは正義なんでしょうか」


凪咲は独り言のようにつぶやいた。 たぶん、彼女にとっては正しい行為だったんだろう。 例え私刑であったとしても。 そしてそれに対する二人の返答はというと


「「難しい話わかんない」」


……この二人はその……頭が弱いからここで待っている、いや待たされているのではなかろうか。 いや、いくら何でもそれはあるまい。 と信じたい。


「じゃあ私の独り言聞くだけでもいいです。 両面宿儺は人を捕らえこそすれど、殺しはしませんでした。 これは旦那さんが警察だったからこそ捕まえて罰を与えたんじゃないかと。 罪を憎んで人を憎まずっていうか…… むしろ人を救おうとしたんですかね 」


「でも、やったことはいけないことだよ? 拉致監禁罪っていうんでしょ? こういうの?」


環が答える。 独り言だって言ったのに、まあいいけど。 


彼女の主張はわかる。 両面宿儺の動機の本当のところはわからないが、いったい何を思って、こんな行動を起こしたのか。 ここで考えても答えは出ようもないか。


そうこうしていると響稀たちが帰ってきた。 


「送っていくか?」


茉莉香が聞いてくる。 外は暗くなってきていた。 


「いえ、大丈夫です。 一人で帰れますから」


「そうか……あのさ」


響稀が顔を近づけてくる。 ジト目で凍てつくような視線を向ける雪女は見ないふりをする。


「両面宿儺は朝廷に逆らった地方豪族って言われているけど、一方で地域の怪物や侵略から守った英雄だって言ってたでしょ? やってることは違うけど、たぶんどっちも自分の正義にのっとってやった行為だと思うんだよね。 敵から見ればそりゃ悪だけど地元の人から見れば英雄さ。 結局正しさなんてどこから見るかで変わるんじゃない?」


「なるほど……」


そう言われればなんか腑に落ちた気がする。 人によって視点が違うから正義だのなんだのという話になるのか。 


「? どうした? なんか悪そうな笑み浮かべてるけど?」


「いいえ…… ただ…… 人も妖怪も面白いと思ったので」


ひとまずここでこのお話は終わりです。

次の話は鋭意製作中です。 受けが良かったら調子に乗って投稿するかも。

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