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現代アヤカシ怪鬼譚  作者: 狼森エイキ
救いの手
4/13

救いの手 肆

「さて、こちらも動き出しますか。 こっちは静かに」


と、凛たちも動き出す。 両面宿儺は響稀たちが抑えているから邪魔はされないだろうが、気付かれずに行きたい。


だから、慎重にゆっくり壁に沿って動いた。 倒れた人たちはもう目と鼻の先、何とか気づかれずに行けた。 そう思った矢先。


「凛、避けろ!」


茉莉香の叫び声、反射的に両面宿儺のいた方向を見て、そして目が合った。 さらに、その拳がこちらに向いていた。


「っ!!」


なんとか身を屈めて回避する、拳は壁に突き刺さり大きな亀裂を作った。


「ちょっとちょっと! 抑えててくれるんじゃなかったの!?」


凛の後ろにいた環たちも驚きながら止まる。



ここまで結構距離があったはずなのにそれを一気に詰めてきた。 


そして両面宿儺は凛たちを攻撃しようとして……電撃をほとばしらせた足に蹴り飛ばされた。 正確に言うと、飛びはしなかったが、電流で痺れたようで手足で器用に飛んで距離をとった。


蹴ったのは雷獣の光莉。 自分の体内で電気を起こし攻撃したり、加速もできる。 でも勿論電気ウナギではないし、ピ○チュウでもない。


「悪いね、アイツ意外と速くて」


そう言いながら、光莉は警棒を構える。


「おまけに私の炎もあまり効いてない。 やっぱり鬼の私だと相性が悪いんだ」


両面宿儺の伝承の中に鬼を討伐したというものがあった。 それがどんな戦いだったかは知る由もないし、本当かも確かめられないが、鬼に対し優位に立てる可能性はあった。 


それでなくても両面宿儺はその身一つの力だけでで、数々の伝承を残している。 おまけに膂力だけでなく速さもあるらしい。 身体能力の高い相手というのはそれだけで手に負えなくなるものである。


「これだけ速いと一苦労ですね、まずは動きを止めましょう」


そう言って紗佳もまた妖怪へと姿を変えた。 黒いホットパンツと裾の長い薄手の白い着物は白衣にも見える。 そして右頬には蜘蛛の巣のような模様。 


そして紗佳が指を少し動かすと両面宿儺の手足が硬直した。


「私の糸、なかなか千切れないでしょう? 手足が多い分絡めとるのは楽ですね」


と、余裕な風を装ってはいるが実際は力負けして、足で踏ん張ってはいるが、少しずつ引きずられている。


そしてそれを皆が黙って見ているようなことはしない。


真白が素早く両面宿儺の足元に滑り込み薙刀を振るう。 それが当たることはないが薙刀に纏わりついていた冷気が足に当たった瞬間、両面宿儺の足元が凍った。


その隙に響稀、茉莉香、環が、それぞれ別方向から攻撃を浴びせる。


ちなみに、響稀が燃えた刀身による斬撃で、燃えずとも腕を切り落とすことができた。 茉莉香が刀の居合いで刀を振るう。 切り落とせなくても手首を切って腱を切断し使えなくさせる。


環は手の爪によるひっかきである。 環の姿が変わることはないが、目は猫のような縦に細長い動向になっていた。


三方向から浴びせられた攻撃によって四本の腕の内三本が切り付けられ、響稀と茉莉香が切ったものはそのまま切り落とされ地面に落ちた。


唯一切り落とせなかった環がなんとなく不満げな顔をする。


「爪じゃあの太い腕は無理ですよ。 剣術でも始めて「絶対ヤダ」」


「…………」


まさか食い気味で拒否られると思ってもいなかった紗佳はそこで閉口してしまった。


ともかく、腕っぷしだけの両面宿儺の戦闘力はこれで文字通り半減したことになる。


あとは、こいつの対処と捕らわれた人間の解放……だけだったのだが






そのころ戦闘に全くかかわってこなかった凛は何をしていたかというと、捕らわれた人たちの介抱をしていた。


全員眠っているのか気絶しているのかわからないが、とりあえず息はしている。 目立った怪我もないし、一応病院に搬送したほうがいいだろうが多分大丈夫だろう。


「う、うう……」


捕まっていた中の一人の男が目を覚ましたらしい。 


「大丈夫ですか?」


「……」

問いかけに返事はない。 無理もないか、結構長いこと捕らわれていたかもしれないのだ。とりあえず、柱にもたれ掛けさせる。 


次の人は…… と周りを見渡して手が止まった。 視線の先には、凪咲と同じ制服。 彼女が凪咲の友人だという子だろうか。 


とそこで、フッと自分の視界が暗くなる気がした。 いや、膝をついて屈んでいる自分の背後から何かが覆いかぶさり影が差したのだ。


後ろを向くと、先ほどの男が消火器を両手で掲げながらこちらを向いていた。 普通に考えてきっと消火器をこちらに振り下ろすのだろう。 つまり、害意がある 


しかし、凛には男の本心がわからなかった。 勿論そんなことをされる理由も。


というのも、男の表情はまさに無、であり、その目焦点があっておらす虚ろだった。 息はとても荒く、汗をかいているようだった。 誰でもわかる、この男は普通の精神状態ではない。


(気付くのが遅れた! 避けきれるか?)


何とかして避けようとして、足に力を入れようとしたその時、横から男の顔に何か布がかぶせられた。 これによって男は怯んで消火器を落とした。


隙さえあれば凛でも簡単に制圧できる。 男の右腕をつかんで足を払い組み伏せた。


男にかぶせられた布をよく見ると、学校の制服の上着だった。


「大丈夫でしたー?」


上着を投げた張本人がへらへらしながらこちらに近づいてくる。 確か隠れるように言ったはずだが、助かったので叱ることはするまい。 それ以前によくこの場に入ってうまく援護できたものだと驚きを通り越し感心すらしている。


両面宿儺は、動きを止めたまま、凪咲たちを見ている。 一応おとなしくしてはいるがいつ動き出すとも知れないので気が抜けない。


「があああ ああああ ううあ……」


男から呻き声が漏れる。 最初は思いっきり組み伏せたことでどこかを打ち付けたのかなと思った凛だったがどうやら違うようだ。


「この人正気なくしたんですかね?」


「まだわかりません。 私に襲い掛かったのも襲われたが記憶がフラッシュバックしたかもしれません」


「……ほんとにそう思ってます?」


「あんまり思ってません」


それは男の顔を見れすぐわかる。 先ほどは逆光になっていたせいでよくわからなかったが、ガリガリに頬はこけ、目にはひどい隈がある。暗いからよくわからないが顔色も相当悪い。 体重も身長に対してだいぶ足りてない気がする。 これは……


「イケナイお薬でしょうかね」


「ここにいる全員?」


「そうよ…… 悪いことをしている人たちを集めたの……」


答えたのは凛ではなく両面宿儺だった。 


「なるほど悪い人たちにお仕置きですか 悪いことした子供を蔵とかに閉じ込める的な奴ですか」


「…………」


凪咲はこの異形の怪物相手にも物怖じせずに話しかけている。 どころか挑発までしている。 いったいどんな神経しているというのか。


「でも、こう考えられませんか? 貴女がやっていることはただの私刑ですよね。 人を攫って、怖い思いさせるなんてそれはそれで悪いことだと思いませんか?」


「私が悪いことを……? ワルイコト ワルイコト…… チガウ…… ワタシハ正義ノタメニ…… ワルクナイ…… 悪くない…… そう、私は悪いことをしていない!!」


それは大声というより悲鳴のようであった。 まるで自分を正当化しているように。 そして、目の前にいる少女に向けて手を振り上げた。


すさまじいスピードでやってくる拳に響稀たちは勿論、凛すらも反応した時には間に合わなかった。 間に合ったところで凪咲を守り切れるかどうか。 だと思っていたのに。




「へ?」


響稀たちはつい驚きの声を上げた。 一瞬何が起こったのかわからなかった。 両面宿儺の拳は凪咲の眼前で止まった。 風圧で凪咲の髪が靡くが、本人はいたって平然として不敵な笑みすら浮かべている。


「な、なんで?」


驚く凛を尻目に凪咲は響稀たちのほうを向きながら、


「後ろ頭の間に何かありますよ」


と、両面宿儺を指さした。 茉莉香が羽ばたいて固まったままの両面宿儺の頭に近づく。


両面宿儺の本体は微動だにしない。 この状況に驚いているのか、出方を伺っているのか。


確かに向かい合った頭の後頭部の間に確かに何かがある。 


(あれはひょっとして人間の手じゃないか?)


そう思って引き抜いてみると人の上半身が出てきた。 そのまま思いっきり引き抜く。 現れたのは三十代くらいの女性だった。


「よくわかりましたね」


「移動してるときに何か見えたので」


「それにしても一体何なんでしょうかね。 人が変化するものと思っていましたがそうでないのでしょうか」


という紗佳の問いかけに対し


「合体ロボみたい。」


「パワードスーツみたいじゃない?」


「何の話だ」


と、響稀が環と光莉と頭をぺシリと叩いた。


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