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現代アヤカシ怪鬼譚  作者: 狼森エイキ
救いの手
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救いの手 参

さて、これから敵地に潜入するにあたって、凪咲には知らなければならないことがあった。


「結局、敵も妖怪ですよね? 何の妖怪ですか?」


「うん……多分だけどね……両面宿儺じゃないかな」


と答えるのは、助手席に座る響稀であった。 それもそのはず、他の面々は話には聞いてても姿を見たわけではないから、答えようもないか。


「両面宿儺か……少し面倒くさいかもしれないな」


というのは、運転している茉莉香であった。 ちなみに車の免許は人間の物らしい。 免許書の生年月日はどうなっているのか


ちなみに免許は凛も持っているらしいのだが……


「「「「「「まだ死にたくない」」」」」


という声が全員から飛んだ。 凛はどこ吹く風と笑顔を浮かべていた。  車の運転で生死がかかるとか何事か


いや、それは今どうでもいい。 リョウメンスクナとはどんなものか…… あまり妖怪とか伝奇に興味がなかったから知らないが…… こちらには文明の利器があるから、きっとすぐわかるだろう


検索ワード りょうめんす ……お? あったあった。


とりあえず、某ネット百科事典でいいか。


両面宿儺


八本の手足に二つの顔を持つ。 日本書紀にその記述があり、妖怪というよりは異形の人間のような扱いをされている。飛騨の凶賊で当時の天皇に逆らい武振熊命に討たれたらしい。 これを見るとますます妖怪という気がしない。 


画面をスクロールする。 そこにあるのは岐阜県の伝承だった。 見た目こそ似ているが、そこに書かれているのは凶賊というよりむしろ鬼を討伐したとか、妖怪を退治したとか英雄みたいに扱われている。


「あの…… 今軽く調べてみたんですけど、これ妖怪ですか?」


三列目のシート、自分の右側に座っている環に話しかける。 


「ん~? アタシ頭悪いからね~ よくわかんないや~」


あ、そうですか。


「何が気になっているんですか?」


前のシートにいた凛が後ろを向きながら問いかける。


「なんていうか妖怪っていう記述あんまりなくて…… 見た目こそすごいですけど、伝承っていうか伝説っていうか……」


妖怪はなんとなく人を襲うとか、驚かすとかそういう規模の話だと思っていた。 それが 八本足の時点で人ではあるまいが少なくとも朝廷や権力者と戦うというのは勇猛に過ぎるのではないか。


「妖怪の基準なんて曖昧さ」


答えたのは凛ではなく響稀だった。


「私たちを見れば君だって人間だって思う。 君らが気づかないだけで妖怪はいたるところにいるかもよ」


確かに今この車に乗っている人間は私だけだ。 しかし、どう見てもこの車には人間8人が乗っているようにしか見えないだろう。


「妖怪とかに関する伝承はいろいろあるけど、どこまで正しいかわからないよ」


「そもそも、妖怪が生まれるにはね、生物みたいに増えるか、もしくは人が妖怪になるかがあるのね? そこにあるお話のことはわからないけど、両面宿儺は多分後者。 今回もそうなんじゃないかな?」


と、凛が付け加える。 なるほど、そうやって数を増やしつつ人の世に紛れるのか。 


それにしても、まさか妖怪がこんなに人間に近いとは思わなかった。 そりゃ、気づかないわけだ。 普通に人間界に溶け込んでいるのだから。






さて、廃ビルだから警備がいるわけじゃないし、正面切って入れる。 といっても敷地は柵で囲まれており入るのは少し大変そうではある。しかし運よく柵の穴の隙間があったのでそこから入った。 


このビルに持ち主がいるかは知らないが多分隙間から勝手に入ったので不法侵入ではなかろうか。 


「勝手に入って怒られませんか?」


と聞いたのは凛だった。 


「どのみち騒ぎにはなる。 一応 その時に考えればいい」


確かに両面宿儺と交渉なり話し合いなりできればいいが……無理だろう、一度事を構えてしまっている。 となれば衝突は避けられないし、騒ぎにもなるだろう。


両面宿儺は意外と大型だったから潜伏先もそこそこ広いはず。 ということで、そういった場所から当たってみようとした矢先。


「――――――――――!」


何かが聞こえた。 風の音か、動物の鳴き声か、それとも誰かの悲鳴か……


「行くか……」


響稀の一言で場の空気が張り詰める。 間違いなくこの先に奴はいる……






廃ビルといっても中は一応部屋があり区切られている。 でもそこまで入り組んでいる訳でもないから迷うこともない 


声がした方向に進むとすぐにそこにたどり着いた。 ついたのだが……


「タマ、あんたさ……余罪いっぱいっていってたよね?」


と、問いかけるのは光莉である。 


「言ったね、でもこんなことになってるとは思わなかったにゃ~」


環がそう答えるのも無理はない。 余罪というからには皆何人か襲われ、すでに殺されている人もいたんじゃないかと思っていた。 しかし、部屋の反対側には老若男女、十数人が倒れている。 無造作に放り投げられたようで、生きているかもわからない。 一美の姿は薄暗くて、遠いからよく見えない。 


そんな彼女らがいるのは、ビルの入ったところのちょうど反対側、駐車場である。 柱の陰から身を隠している。 


「思ったより攫われてるね。 でも、こんなに多くの人がいなくなったら事件になりそうだけど。 よし二手に分かれよう。 凛と環と紗佳で捕まった人 私と真白、光莉、茉莉香は陽動しつつ、敵を倒す。 キミはここで待機ね」


「はい、わかってます」


凪咲は無表情で返す。


おそらくこうなるだろうことは凪咲にもわかっていた。 自分は運動神経こそいいが、戦闘経験があるわけではない。 況や妖怪をや。 彼女らの戦いに混ざれるとは微塵も思っていなかった。 ここまで来れたことにさえ若干驚いているのだ。


「よし、じゃあ行こうか」

響稀の合図で響稀たちが動き出した。





 

……と勢いよく突入してみたものの、その勢いはすぐに削がれた。 というのも、突入してすぐ目の前に小学生か、中学生くらいの少女が現れた。 それは、確かに両面宿儺が人間に擬態するときの姿だが、響稀は勿論のこと凪咲も実は知らない、凪咲に至っては、手足八本のあの状態のままうろちょろしていると思っている。


光莉たちは話を聞いてどんな凶悪な姿かと思っていた矢先、少女がいたという想定外の状況に少々面食らっていたが、それでも警戒は解かない。


「あなたたち、何か用?」


少女が話しかけてきた。 


「用事なんて後ろを見ればすぐわかるだろ? その人たち返してくれない?」


光莉が挑発半分、交渉半分で答える。 別に返してくれるとは誰も思ってない。


「この人たちはダメよ。 悪いことをしたの。 おしおきしないと」


などど、笑顔で平然と言う。 その少女の顔は平然としており、友達と談笑でもしているようだった。 しかし、この場でその顔は不気味以外の何物でもない。


「それじゃあ交渉はナシだね」


響稀そういうと、どこから出したのか、日本刀を抜いた。 さっきと同じく刀が燃え出し、袴と着物姿になった。 


それに呼応するように、真白たちも姿を変える。 


真白は、メガネがなくなり、帯から何からすべて純白の着物に、黒髪も雪のように白くなり、全身真っ白になった。 だから名前真白なんだろうか。 両手には氷でできた薙刀を持っている


光莉は黒のシャツっぽい服の上に灰色で、袖と肩に毛皮が付いた上着、下は黒いズボンに見える。 そして、狼のような耳と尻尾。 たぶん生えてきたのだろう。 そして上着の裏から伸縮する警棒を取り出す。


茉莉香は、よくある黒い袖のない忍者の服だった。 それ以上に目立つのは、背中から生えた黒い羽である。 右手には杖のようなものが見えるが多分これも何かの武器だろう。


わかっていたがやはりあの三人も妖怪であったようだ。 そして、ここにいる三人も。 


「ちなみに、響稀さんが鬼で真白さんが雪女、光莉さんは雷獣で茉莉香さんが烏天狗ですよ」


と、凛が解説してくれた。


ちなみに、ここにいる凛たち三人は、捕まった人たちを助け出すべく隙を伺っていた。 理想は響稀たちが相手と事を構えてから。 それなら彼女たちに注意をそらして救助できる。 そのタイミングを待っていた


さて、響稀たちが臨戦態勢になったのを見て少女も、その姿からは想像もつかない殺気を放ちながら、グヂュグヂュと体の肉を大きく膨らませつつ腕や脚を生やした。 その大きさは2メートル 変化が終わったその姿は八本の手足、二つの顔、両面宿儺であった。 四本の足で立ち、四本の腕をこちらに向けている。 紛れもなく臨戦態勢である。


「自分から悪いことをするなんて…… そんな悪い子はお仕置きね……」


かくして両面宿儺と、妖怪娘四人が激突した。 否。


「な‼」


声を漏らしたのは両面宿儺だった。 突っ込んできたのが響稀一人だったことが一つ。 そして彼女が走ってすぐ刀を振ったからである


しかし、驚きはしたが一度見ているものであったから、脇に逃れて回避、したところで脇から茉莉香が迫っているのを横目でとらえる。


「ハァ!!」


茉莉香が持っていたものはいわゆる鍔のない仕込み刀であった。 居合いで放たれた一撃は両面宿儺の足の一本に入り深く傷つける。

 

(チッ! 思ったより浅いか!)


今の一閃で足を一本頂戴するつもりだった茉莉香だったが、残念ながらそうはいかなかった。 元々、太い手足だから傷を入れるくらいしかできないし、茉莉香はスピードと技術で圧倒するタイプなので無理もない。


足に一太刀入れられてたじろいだ両面宿儺に対し、響稀は距離を詰め今度こそ、炎による一撃を見舞う。 回避出来ようもない広範囲に放たれた炎。 両面宿儺は炎に包まれた。


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