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現代アヤカシ怪鬼譚  作者: 狼森エイキ
救いの手
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救いの手 弐

すさまじい勢いで燃えていた炎を右手付近に収束させる。 正確に言えば右手に持っていた日本刀に。


「結構な勢いで脅かしたつもりだったんだけどな、ちゃっかり奪ってるし……ずいぶんな執着だよ、ほんと」


「え?」


凪咲は何を言ってるのかわからなかったが、すぐその意に気づいて右側を見る。 いない、慌てて前を向く。 あの炎の中、おそらくかなり驚いたのだろうが、それでもあの腕でしっかり、一美をかすめ取っていた。


「フフ……用があるのはこの娘のみ……貴様らと闘う気はない。 それでも貴様が邪魔するならするがいい……この娘もろとも焼くがいいさ……鬼の小娘よ……」


(喋った…… 話は通じる……訳ないか、いきなり戦闘態勢だもんね)


「……」


曰く鬼の小娘さん(仮)は目に見えてわかるほどの殺気を出しながら刀から出る火を消した。 というかひとりでに消えた。


「フフ……それが賢明よ」


そういうと、八本の手足を持つ謎の生物(多分生き物であることは間違いないと思う)は、腕の一本で地面を掻き土埃で煙幕を起こした。 土煙は風に乗ってすぐに晴れたがそのころにはその姿を見ることはできなかった。


「逃げたか……まあそうだよね」


「ええと……聞きたいことは山ほどあるんですけど……とりあえず貴女は一体……?」


「ん~と、どっから話したらいいか……」


凪咲の問いかけに、あくまでも悠長に振る舞っている。 何者か聞いてはいるが結局、常人でないことくらいは凪咲でも察せるところ。 果たしてまともに答えてくれるかどうか。


「わかってると思うけど、私は人間じゃない。 妖怪だ。 といっても信じられるような話じゃないだろうけどね」


(う~ん、どう受け取ったもんかな? 普通に考えれば嘘くさいけどあんなの見た後だし、少なくとも手品の類には見えなかった……)


ひとまず妖怪という事実は受け入れるとして、まだ聞きたいことがある。


「妖怪だとして、何の妖怪とかあるんですか?」


「さっきあいつが言ってた通り鬼だよ。 角はないけどね」


そう言いつつ、刀を鞘に納めると同時に彼女の服装が変わった。 いろいろインパクトの大きいものを見すぎたせいで気づかなかったが、今の彼女の服装は、明治や大正時代を思わせる白色の着物と、暗い臙脂色の袴。 その上に炎のような模様を表現したような着物を羽織っていた それが、現代風の黒いロングコートとスーツっぽい白いシャツと黒いパンツに変わった。 さっき見たのはこっちの服装だった。


「えぇっと、その服装チェンジは変身的な何かですか?」


「ずっと妖怪の姿じゃ社会に溶け込めないよ、こっちの格好のほうがいわゆる擬態。 そんなことよりさっきの妖怪と君の友人について聞きたいんだけど」


「ああ」


そうだった、一美は何者かに連れ去られている。 といってもあの妖怪についてはこっちのほうが聞きたい。 


「でも、妖怪自体初見で何なのかさっぱり……」


「ああ、そっちの正体は目星ついてるから。 ……お、来たかな?」


そう言って、公園の入り口のほうを見ると、誰かがこちらに駆け寄ってきていた。


「ああ、悪いね、まし……」


「響稀様! お怪我はありませんか!? 切り傷は!? 打撲は!? 食中毒は!?」


と、黒髪ロングで黒縁メガネと地味そうなのに、そう思わせない美少女が畳みかけるように矢継ぎ早に問いかけてくる


「まぁまぁ、真白(ましろ)、落ち着いて。 怪我はないしお腹も平気」


そりゃそうでしょうよ、関係ないし……とは空気的に凪咲には言えなかった。 それにしても真白と呼ばれたこの少女の取り乱しっぷりからすると、ひょっとして響稀は案外危ない目にあっていたのかもしれない、いや、単純に過保護が過ぎるだけかもしれない。


「おーい!! 一人で勝手に行くなよぉ~!」


と、真白が来たのと同じところからさらに五人の女性たちがやってきた。


真白なる少女はきっと響稀のことが心配で一人駆けだしたのだろう。 そして、遅れて他の人(じゃないと思うけど)が来たと。


ゴン!!! 一番長身で多分百七十越え、髪ショートで襟足を紐で結わえているイケメン風な女性が真白にドギツイ一撃を見舞う。 ちなみに真白は結構背が低いので、


「車が動いてるときに出るな! 危ない!」


心配性らしい真白はガッツリ拳骨を食らった。 痛そう。


「まあまあ茉莉香(まりか)さんどうどう、多分心配してたんですよ。 いつものことではないですか」


と、後ろの髪をあげてバレッタみたいな髪留めでまとめ、見るからに物腰の柔らかそうな女性が間を取り持つ。 良かった。 案外まともそうな人(何度もいうが人じゃないかもしれない)いるらしい。






「で? 事のあらましを教えてくれますよね?」


と、(りん)と名乗った穏やかそうな彼女が切り出し響稀が答える。 一通り話したところで……


「あれ? そういえば、なんで君ら襲われかけてたの?」


響稀が問いかけると、全員の視線が凪咲に集まる。 特に真白はジト目でこちらを見てくる。 なんだ? 響稀と一緒にいたからか?


「かけてたんじゃなくてしっかり襲われてたんですけどね? まぁ、それはこの際いいとしても、実は私もよくわかんないんですよ。 見た時にはもう襲われていたので」


そう、凪咲が見た時にはもう一美は捕まっていた。 


「では、その人が襲われるような理由は思いつかないのですね?」


と凪咲に問いかけるのは、やや短めで黒の癖毛、丁寧な話し方とは裏腹に少し冷淡さが見え隠れする、紗佳すずかである。 全体的に暗く地味な服装でとっつきにくさを凪咲は覚えた


「なんか恨まれてそうとか、学校で気になるようなこととかないの?」


赤毛でポニーテールな光莉が問いかける、先ほどの、『置いてくなよぉ~』といい、初対面の凪咲相手にもフランクに話しかけるあたり活発で親しみやすそうな気がしする。


「そう聞かれても最初に話したの二、三日前なんですよ。 それまではまともな接点もなかったです。 急に話しかけられて『話がしたい』って言うから何かと思ったんですけどね?」


「…………」


急に黙り込んでしまった一同。 というのも


「なんかヤバいんじゃない?」


「光莉さ~ん。 口滑らせてはいけませんよ~」


全員同じようなことを考えた。 根拠はないが偶然とも思えない。 たぶん、一美は何かに巻き込まれたのだ。 だから、凪咲をどうするはずだったのかといわれると答えようもないが。 でも凪咲の手前口には出さない 


攫われたのは彼女の友人、根拠もなくあれこれ言っては不快に感じるかもしれない、と空気を読んだのだ。 ……光莉を除いて。 なので凛が機転を利かせ口を塞ぐ……しかし


「私もそんな気がします。 あの妖怪とやらとも無関係じゃないかもしれないですよね?」


当の本人の感覚がこんなものだから深く突っ込むこともしない。 とはいえ


「でも、一応クラスメイトなんだし、あんま疑ってやんないであげなよ」

 

「まあ、なんでもいいや。 助け出してからいくらでも気になることは聞ける」


「しかし、どこに行ったのかあてがあるのですか? 急に姿を消したみたいなこと言ってましたが」


そう、真白の言う通り、相手にはしっかり逃げられている。 あてがあるかと言われればない……というわけでも実はない。 


「あんな目立つ奴街中歩き回れないって。 仮に人型になれたのだとしても、今度は女子高生を運ばないといけない。 それだって隠しながらは大変だ。 ということで、奴はどこに逃げるだろうか」


という響稀の問いかけに対し


「人目につかない……」


「それも人間一人担いで……」


と全員で考え込んでいると。 


「逃げ方知らないけど、とりあえずあっちにいるって」


と、何気に優秀なのか、目標を発見してしまったのは、(たまき)である。 猫耳フードを被り、二色のメッシュをいれたおさげ髪は、なんとも目立つ。 不良系?


そして彼女が誰から聞いたかというと、その辺にいた野良猫である。 しかし、情報収集していたかというとそうでもなく、話に早々に飽きてたまたま近くにいた猫に話しかけたに過ぎない。 


「で、あっちという方向はわかりましたが具体的にどのあたりを指しているのかわからないとどうしようもありませんが」


という紗佳の指摘に環は勝ち誇ったように人差し指を揺らして


「ちっちっち そうでもないんだなこれが」


「というと?」


「あそこの建物、アイツ余罪いっぱいみたい、でもまだ誰も死んでない。 生かしてるのかな? 今なら全員助け出せる」


「あそこの建物って……」


「廃ビルでしょ? 入れないよ? きっと」

 

 凪咲の言う通り危ないから立ち入り禁止のはずで一般人が入っていいところではない。 


「ああ、そっちは平気。 忍び込めばいいんだよ」


響稀って人(じゃなくて妖怪でした)、ぼんやりしているように見えてすごいことを言う。


「ということで、正式じゃないルートになるから気になるだろうけど私たちに任せて帰りなさい。 大丈夫必ず助け出します」


凛は凪咲の両肩に手を置いて優しく語りかけた。 その振る舞いや語り口から大人の雰囲気が漂う。 きっとなだめるのとかうまいんだろう。 しかし


「いえ、もしできるなら私も行きます。 私だって当事者なんです、何故襲われたのか、襲ったのが誰なのか真実を知りたい」


そういうと全員黙ってしまった。 凪咲の運動神経は意外と良いが、通用するとも限らない。 下手すれば命にかかわる。 かといって守りながら勝てるのか? であれば無理だろうかと思ったのだが。


「いいよ。 ただし、君を守りながら戦えるとも限らない。 酷だろうけど自分の身は自分で守ってね」


と響稀が言うと、予想外なのか茉莉香が響稀のそばにより何事か話しかける。 二言三言話すと。


「よし、他のみんなは文句ないね? それじゃ行こうか」


という号令というほどでもないけどでみんな歩きだした。





「スンスン」


その道中、凪咲は環になぜかにおいを嗅がれていた。 結構近い、というか服に鼻つくぞ。


「あの……どうかしました……?」


意を決して聞くと


「あんたさ、なんか臭うよ?」


……まず字がショックなんですけど、匂うじゃなくて臭うとか…… ああそうかカフェオレこぼしたんだっけ。


「ソレじゃない気がするけど」


「そんなことより、目的地までどうやって行くんですか?」


ひょっとして徒歩だろうか。 まあ、意外と近かったし。


「ふふふ~ん。 見て驚け、これだあ!」


そこにあったのはミニバンだった。 サイズ的にたぶん全員乗れるだろう。 つまり車移動。 妖怪が車に乗るの?


そう言えば真白サン車から急に降りるなとか言われてたな……


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