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現代アヤカシ怪鬼譚  作者: 狼森エイキ
救いの手
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救いの手 壱

初投稿です。

そこそこ前に書いたものですが、チキって出さないでいました。

暖かい目で見てもらえれば幸いです。

ずっと退屈だった。 それが苦痛だったこともないし、だからといって何かを変えようと思ったわけではない。 でも出会ってしまった。 どんな甘酸っぱい恋愛漫画よりも、どんな熱いアクション映画よりも、どんな面白い(と評判の)お笑い芸人よりも。 こんなに心躍ることはない。 でも出会ってしまったのだ。 とても刺激的で心躍る、そんな出会いだった。










ピピピッ 音が鳴る。 この音を私はよく知っている。 ピピピッ 音は黙ってても勝手に止まってくれない。 うう…… ベッドに入ったまま手だけで音のなるほうを見ずに探る。


ドサッ


落ちてしまった。 そうだった、そうだった。 止めたらまた寝るから、ベッドから体ごと出られるトコに置いたんだった。 何を隠そう彼女、柊凪咲は、寝起きがすこぶる悪いのだ。


しかし、布団に包まっていたおかげで、大して痛くない。 あ、このまま寝れる。 そうして私は、再び眠気に身を任せ……


「なぎさ!! 遅刻するよ!!」


られなかった。


気怠い身体を鞭打ち、体を起こす。 半分寝ているんじゃないかと思われる、というか実際そんな感じのまま食卓に着く。 


「お姉ちゃん、起きてる?」


妹である葵の至極当然な問いに対し、凪咲は、


「んん、だいじょぶ、だいじょぶ…………」


「絶対大丈夫じゃないな、いつものことだけど」


姉の寝起きの悪さなど妹はもう慣れたものである。


朝食後、歯を磨き、顔を洗ったところで、凪咲は目を完全に覚ます。 そして、一旦、部屋に戻り学校へ出かける準備が整ったところで、


音叉を取り出して、窓枠に軽くたたく。


チーンという澄み切った音が鳴る。 いつからか思い出せないが、ルーティーンのようになっている。 この音叉は……誰に貰ったんだったか、保育園に通いだすころにはもうあった。 しかし、その辺の記憶を思い返す暇はない。


「行ってきます!」


と、家の玄関の扉から出て、自転車のカギを外す。


今のところ、天気良し。 寒くなく、暑くない、ゴールデンウィークが終わったあたりの一番過ごしやすい季節。 いつものように自転車を漕ぎだす。

 

 今日、彼女の人生が大きく変わる節目になるなどわかるはずもなく。

 





授業が全て終わった放課後。 帰宅部の凪咲は何もなければ真っ先に帰る。 勿論、友人との付き合いや寄り道もよくあることなのだが。


帰り支度を済ませた彼女のそばに、三神一美が寄ってきた。 彼女とは今日、某コーヒーチェーン店に行くと約束している。


「それじゃあ、行こうか。 柊さん」


「うん」


 自慢ではないが凪咲は、こういうお洒落で、チャラそうなイマドキな若者たちが来るような店(※本人の主観です)に来たことがない。 だから、


(あ、暗号?)


注文ができない。 カタカナ語なのに情報が多すぎて、理解できないのだ。 で、助けを求めるべく隣で注文している一美を見て……


「………………………………でお願いします。」


何故だろう。 たぶん、いま日本語を話していたはずなのに全く理解できなかったのは……


すると一美は、凪咲の助けを求める視線に気づいたのか、


「注文してあげるよ。 どんなのがいいの?」


「お、同じので……」


これは無理だ、凪咲は考えるのを放棄した。






あのまま店にいても良かったのだが、意外にも混んでいたし、近くの公園に行くことにした。 二人のカフェオレ(色気的にそうだと思う。多分)を凪咲の自転車のカゴに入れ、二人並んで歩く、ちなみに一美はバス通だそうで今は歩きだ。


「はい。 にしてもあれ何? 外国語かと思ったよ? 」


「ありがとう。 まあ横文字だからね。 外国語っちゃあそうなんだけど。 でもそんなに難しいことだったかな?」


一美の返答に凪咲はミュージカルのように大仰に動きつつ


「いや、あれはそんな次元じゃないね。 外国映画のワンシーンみたいだったね。 ボンジュール、何トカナントカってね」


「フランス映画なんて見てるの?」


「んにゃ、全く。 雰囲気で」


そう言って、容器を右手に一回転する。


すると、


「あ、危ない!」


一美の注意は少し遅かった。 一回転しようとした凪咲の視界に人影が見えた。 やばい、間に合わない、と思ったが、慣性に身を任せる彼女の身体は急に止まれない。


「わっとっとっと」


なんとか衝突だけは避けられたらしい。 しかし、当然ながら液体にも慣性は働き、結果、自分の右側上半身に少しかかってしまった。 しかも、最悪なことに相手側を見ると袖口が少し濡れている。


「あわわ…… ごめんなさい」


相手を見ると、少し年上と見える女性だった。 首元ぐらいの短さながらもきれいな黒髪。 切れ長の目と相まって、身長こそ自分と同じくらいだろうが、凛々しく、カッコいい、美しいという表現が似合いそうである。


そんな素敵な女性の服にカフェオレをかけてしまった。 さらに運の悪いことに白いシャツを着ているではないか。 なので勝手にこれは土下座しかない。 と思っていたのだが、


「ん~ 別にいいよそんなに気にしないでも」


見た目に反して少し気の抜けた言葉が発せられた。 ともかく、許してもらったのなら一安心だ。


「ああ、せめて拭くなりなんなりしないと染みになりますよ」


「大丈夫、大丈夫」


彼女はそういうが絶対大丈夫ではない。 のだが、そのままの状態で去って行ってしまった。


「……なんか、カッコよかった」


「そうかな? ただ服装とか適当なんじゃない?」


近づいてきた一美が答える。


「そんなことより制服に付いちゃってるよ? 着替えたら?」


確かに、家に帰れば代えの制服がある。 でも、それまでこれではあまりよろしくない。


「それもそうだね…… ジャージに着替えるよ これ持っててもらっていい?」


そう言って、容器を預け、学校のジャージを持ってトイレに向かった。






「邪魔が入っちゃったな…… あそこから足がつくことはないだろうけど……でも、注意するべきか、自分のは飲み切って……こっちは……いや、まだなんとかいけるか……」


独り言を言っていた彼女の前に小さな少女が現れた。 この子供のことを一美は知らない。 こっちを見ているし聞かれただろうか、聞いたところで何のことかわかるまいが。


「どうしたの? 一人?」


あまり関わりたくないが放っても置けない。 こっちを見てるし、一応声をかけてみる


すると、少女が


「ねえ、あなたもそうなんでしょ?」


「は?」


あまりにも脈絡のない問いかけについ聞き返してしまった。


「あなたもそうなのよ! あなたも! あなたが!」


急に狂ったように怒り出した。 その気迫は子供のそれも少女のそれと思えなかった。 そして少女は姿を変える……






「キャアアアア!!」


一美のものと思われる悲鳴はトイレにいた当然凪咲の耳にも聞こえていた。 急いで外に出るとそこには異形な光景が広がっていた。


一美の右足をつかんでいるのは大きな手、手が伸びている胴体からはさらに八本の手(足かもしれない)が伸びており、女性の似たような顔をした頭が二つ向かい合わせに生えている。 一美はといえば右足をつかまりながらも這いつくばり必死に抵抗していた。


こんな動物は聞いたことはない。 でも、宇宙人か、妖怪か、新種の生物か、とりあえず彼女に害意はもっている。 凪咲は急いで彼女のもとに駆け寄る。 その途中で木の枝を拾った。


「何だか知らないけど……離れろ!」


木の枝を一美の右腕をつかんでいる大きな腕の手首に木の枝を突き立てる。 効くかどうかも考えなかったのだが、結果的にたじろがせることはできたらしく、右足を離した。 しかし、これは八本の内の一本、すぐに二本目、三本目が飛んでくる。


(ヤバい…… 死ぬかも……)


本能的にではあるが死を予感し、両手を顔の前に出す。 しかし、結論から言えば、彼女の予感通りにはならなかった。


「ん?」


夕方でそろそろ暗くなり始めるというのに急に目の前が明るくなった。 両手を開けてみるとそれは光ではなく炎であった。 見ただけでわかるすさまじい熱量。 だというのにこの近距離でも全く熱くない。 どちらかといえば暖かさを感じるほどに。


「大丈夫?」


炎のなかをよく見ると女の人が立っていた。 見れば先ほどカフェオレをかけてしまったあの人。 炎の中で先ほどと同様涼しい顔をしている。


凪咲はこんな異常事態にも関わらず、目の前に立つ女性とそれを取り巻く炎の美しさに目を奪われていた。


「きれい……」

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