表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
B.L.O~JKがイケメンになってチェーンソーを振り回す冒険譚~  作者: 須方三城
【起】光が弾けてさよならとこんばんは。
2/19

01,イケメン幼馴染の強襲、朝日による浄化。


 毎年、私は心の中で叫んでいる気がする。


 夏休みって最高ッ、と。


 朝っぱらから三重の遮光カーテンで陽光を完全シャットアウトし、蛍光灯すら排除する徹底ぶりで保たれた薄闇のマイルームで、適切な冷房の加護の元、日がな一日好きなだけオンゲーができる。


 腐っても現役女子高生、一応うら若きガールズとして、この長期休暇の過ごし方どうなの?

 ……とか、ふと思ったりする夜が無い訳でも無いけど……まぁ、私みたいな見た目も性格も微妙な喪ッサリ女子が、リア充ウェーイごっこしようとした所で、痛い寒い虚しいの三拍子な結果にしかならないのは目に見えてると言いますか。

 別に、自虐のつもりは無い。ただ私は、無意味にイキったスタンスを取る趣味も無い。


 自己評価は、思ってるより一回りくらい下にしておくのが無難。「ま、私は本気出してないだけだから頑張ればもうちょい上の評価になるけどね」と言う心の余裕が生まれる。

 実際、私は本気出してないだけだし。出す予定も無いと言うのが致命的なだけだし。


 そんな私のオンゲー歴は、今年で五年目を迎える。

 小六の時に海難事故に遭い、親に秘密で海に行っていた事がバレて「これやるから大人しく家で遊んでくれ!! 本当にお願いだから!!」とパソコンを買ってもらって以降、春休みもGWも夏休みも秋休みも冬休みも、この薄闇の中でオンゲーに没頭してきた。 


 たまに思うけど、多分、私の前世ってバンパイアだわ。超好きこの薄暗空間。

 私の人生に置ける【光】はパソのディスプレイが放つブルーライトだけで充分なの。


 本当は、長期休暇に限らず一生常時こうしていたい。

 でも中学の時に一度、不登校ヒッキー決め込んだら、お母さんに部屋の前で延々とガチ泣きされて鬱陶しくて仕方が無かった。

 流石の私だって人の子。騒音による精神攻撃は本当に汚いと思う。可愛い娘をその手でストレス死させる気ですかマザー。


 外に出て遊ぶのは控えろと言う癖に、人並みの社会生活はしろと言う。なんとまぁアンビバレンツな要求だろうか。


 そしてお父さんからは「大学まで出てもそのザマならもう諦める様にママを説得するから、せめてそれまでは姿勢だけでも社会に馴染む努力をしてくれ」と言う、有り難いけどちょっと刺のある御言葉をいただいた。

 大学卒業……短大を選んでも、完全ヒッキーになれるまで最短であと約四年くらいかぁ……先は長いなぁ……


 ……ま、未来の事なんて考えても億劫な気分になるだけ。

 ここは気持ちを切り替えてゲームの世界に入ってしまおう。


 さてさて、今日もログインしますはもちろん私の最推しゲー。


Burstバースト-Lightライト-ONlinオンライン


 通称BLO。

 今年で確か五周年を迎えるオンラインゲーム。


 弾ける様に輝く【光のオーブ】を求めて冒険し、最終的には魔王を倒す感じで収束する王道的シナリオを内包したMMOアクションRPG。

 なお攻略ウィキによると現在有志により第九九九九の魔王まで確認されている。まだ出てくるかも知れない。

 アバターの自由度は筋肉量(腹筋の割れ具合とか)からスリーサイズまで微調整できる自由さ。

 職業選択や転職、スキル養成システム、装備弄りの自由度も高く、今の所、毎月一回は新しいシナリオ・マップ・ボスキャラ・スキル・装備・職業等が結構な数ずつ追加されているので、マジでやり込み要素が豊富でキリが無い。


 掲示板で自分の極めたステを晒して「廃人乙」的なレスポンスをもらうのが至極の快楽たる私としては、このやり込み要素の鬼畜さはまさしく目の前に吊るされたニンジン。

 アプデ当日に新職業三種の隠しスキルを解放したスクショを貼った時の「廃神降臨」と言う賞賛レスの羅列は今でもこの網膜に焼き付いている。

 夏休みブーストがかかった私は最強無敵。


 と、まぁ、BLOのやり込み要素はたまらん至極な訳だけど……実は、私的にはやり込み要素よりもたまらんと思ってる事がある。


 それは……NPCがいちいちイケメンって所……!!

 絶対製作チームの主核は女性ですよこれウヘヘたまらんすなぁ……もう本当イケメン大好き。カッコ良いは正義。爽やかはジャスティス。もうこの想いはマッドネス。しかもイケメン町民の露出度もヤバいって。何これ、女性NPCは異様にガード堅いのに(この前のアプデで追加されたNPCでようやく初の谷間が確認され攻略掲示板でお祭り騒ぎになったレベル。曰く「この世界に谷間と言う概念があったのか……!!(ハレルヤ)」)、男性NPCは半裸族が大半ってしかも程よく逞しい何これ愛でる。モブ町民×モブ騎士とかノーネームドキャラのカプでエロ同人が何冊も出てるオンゲーなんてそうそうないですよ罪作り全くけしからんいいぞもっとやれ。


 ……あ、ちなみに弁明しておくけど、私は腐ってない。普通。


 男子が美女のおっぱい好きなのと一緒で、私はイケメンの程よい御肉が好きなだけ。

 腐った同人誌を読むのは別にそれが好きとかじゃあなくて、イケメンとその御肉がBLカプだとNLカプの倍出て来て美味しいから。ただそれだけ。


 ネコ側はとりあえず穴さえあれば性別なんてどっちでも成立する。

 ならイケメンで良いじゃあないの(真理)。


 そんな私でも、流石にゲーム内アバターは女キャラ。

 どうせ男キャラを作って男ユーザーやNPCに絡んでフフフしてるとでも思ったでしょ?

 ……まぁ、それも一度は考えたけどねー……私は、アバターに自己投影してノリノリモチベでゲーム進めるタイプだから、昔から主人公性別選択できるゲームでは同性一択なの。


 はぁー……にしても、にしてもよ? 相変わらず私ことIronRose(アイアンローズ)たん(アバター名)はイケ女すなぁ……これ私だよすごくない?

 現実世界にここまで金髪縦ロールが馴染み美女騎士がいる? いないよ。私、最高かよ。最高だよ。


 ………………はぁぁぁ………………


 …………一体、いつになったら「現実もこうだったらなぁ」なんて不毛な事を考えずにゲームを始められる様になるんだろう。

 ログイン直後…まだ熱が入っていない状態だと、どうしても思考が現実寄りになる。


「……生まれ変わったら、何の躊躇いもなく『私、最高』と断言できる様なイケ女になりたいなぁ……」


 ……我ながら、私は【大人になった】と思う。

 昔はこんな事、全然思わなかった。自分を世界の中心に据えて、自分の思うままに生きていた。


 でも、流石の私も高校生になれば気付くよ。

 自然に振舞っているだけで、両親にすら異常者扱いされ、当然の様に皆からも冷ややかな視線を向けられる。

 そんな自分が【どうしようも無い人間】だって事くらいは。


 中途半端なんだ、私は。


 変態的功績を残した偉人達の様に、脇目もふらず一心不乱に我が道を駆け抜けられるほど図太い神経は持っていない。

 そして、世間様の視線を気にする繊細な感覚も、世間様の常識に合わせて生きられる器用さも持ち合わせていない。


 非常識と常識の中間で、フラフラしてる。それを理解していても、どちらかの方向へ倒れる事ができずにいる。それが今の私。


 だから、もう今生の事は多方諦めてる。

 来世に、思いを馳せる。


 来世では、社会にきっちり適合できる絶世のイケ女に生まれたい。

 そして、ミシュランに星をもらったラーメン屋の前にできる様な長蛇の列を成すイケメン共を背で牽引して、薄暗い夜道を歩いて生きたい。

 空撮したら蓮コラに見える様な数のイケメン軍団を侍らせ、闇の中で高笑いしながら死にたい。


 ……そんな夢を見るくらい、私でも許されるはず……


「暗い夢だな、おい」

「え?」

「よう。ん? これなんて読むんだ? イロンロセ?」


 …………誰だ、このイケメン。

 何だ。何で茶髪ピアスな見るからにウェーイ系のイケメンが私とこんな頬と頬が触れ合いそうな顔面距離で私のゲームプレイ画面を覗き込んでるの?


 ……あ、思い出した。


 こいつ、私の幼馴染のビーくんだ。

 正確には忍田しのだ日元ビガンくん。

 お隣さん家の一人息子で、オムツを履きこなしていた頃から私と一緒に遊んでいた……らしい。流石にその頃の記憶は無い。


 記憶にある限りだと……一番古いのは幼稚園生の頃の記憶かな?

 一緒にお風呂入ってて、シャンプーの泡を踏んでスッ転んだ私のヘッドバットがビーくんの股間の紳士にクリティカルヒットした事件があったね。

 あの時の事は今でも申し訳ないと思う。それ以外の事は……あんま覚えてないや。ビーくんとの思い出でハッキリ覚えてるのってあれくらいだわ多分。

 あとは全部おぼろげ……あ、でも小学生の頃に私のベッドをトランポリンにしくさってぶっ壊してくれやがった件は覚えてる。恨み。


 ……にしても……わー、すっごーい。

 約一ヶ月半ぶりに見たけど、相変わらずイケメンだわビーくん。

 顔だけでお金稼げるよ本当にこいつもうけしからん。首から上だけ欲しい。美男子フィギュア棚の真ん中に飾りたい。


 ……そしてまぁ……なんだろうね。

 相変わらず、私との距離感がイカれてる。


 頬や唇にかすかに当たる鼻息が生暖かくて不快だよビーくんって言うか……


「……何でいるの?」

「おう? ってか、うっわ。お前また地声めっちゃ細くなってんじゃん。夏が来る度に声帯退化させてんじゃねぇよモヤシ眼鏡」


 放っといて欲しいんだけど。

 そりゃあ毎年夏休みは完全引き篭りで挨拶すらしなくなるから声帯退化すんのは当然じゃん。これは生物学上仕方の無い事であって、責められる謂れはないと思う。不服。


 あと顔面距離がやたら近いんだってば。

 パーソナルスペースって概念が死んでいるのか、このイケメン。

 近くでイケメンを眺められるのはお得ではあるけど生体故の呼吸が邪魔。人の吐息が肌に触れる感触って何故こんなにも不快に感じるのだろう。死なない程度で良いから息止めて本当。


「いや…って言うか、ビーくん……? いつの間に部屋の中に?」

「さっき忍び足でこっそり入った。お前って相変わらずパソコン好きなのな。熱中してて全然気付かなかったぞ。ウケる!!」

「全然ウケない……鍵は……?」

「おう、聞いてくれ。俺はついにやったんだ!!」


 爽やか嬉しそうに笑いながら、ビーくんが取り出したのは二本の細い針金。


 ああ、そうなんだ。ついに習得したと。ピッキングを。

 何このイケメン、危ない。あと顔近い。


「いやー、いくら幼馴染とは言え、勝手に部屋の合鍵作るのは流石にどうかと思って。苦節四年だぜ!?」

「……幼馴染の部屋の鍵をピッキングでこじ開けるのもどうなの……?」

「だって、夏休み中お前に会うには勝手に合鍵作るか、ピッキングするかしかねぇじゃん? 勝手に合鍵は何かストーカーっぽくて格好悪いから、スパイっぽくて格好良いこっちにしたって訳よ!! どうだ!! 納得したか!?」


 馬鹿だ。

 馬鹿が、頭の悪い理屈をさも【自分が頭の良い人間である事の証左】であるかの様に主張している。


 それから繰り返す様だけど、さっきから顔近いんだってば。

 そろそろ離れろこのイケメン。もしくは息止めてってば。私的には後者を選択してくれると嬉しい。息は邪魔だしビーくんの性格は決して好きにはなれないけどその顔は好きだから。


「ちなみに、ちゃんとお前のお袋さんの認可は得てるぜ!!」


 おい、おかん。

 こんな距離感が狂い切った馬鹿を使ってまで私を外に出させたいと?

 娘になんて仕打ち……それが人の親のする事なの?

 母親さえも信頼できないこんな世の中じゃあ、流石の私だってグレちゃうよ?


「…………で、何でそんな凶行に出たの……?」

「はぁ? 昨日のメールの事をもう忘れちまったのか?」

「昨日……?」


 そう言えば、昨日「久々に俺と夏休みの思い出作りに行こうぜ!!」と言うメールが着てた気がする。

 夏休み=引き篭り強化月間と言う概念を構築してから毎年毎年、ほぼ同じ内容のメールが執拗に送られて着てて、無視するのがデフォになってたから、完全に忘れてた。


「さぁ、今年こそ久々にどっか遊びに行こうぜ!! 夏だぞサマァァァ!! 海!! 海だよなここは!! 海しかねぇだろ!? でもすぐに海に行く訳じゃあねぇぞ!! 海はラストだ!! ラストで決めんだよ俺はァァァ!! だからその前にも色んな所に行くぞォォォーーーッ!!」

「…………………………」


 ……うぜー……何このイケメン。

 少しはその御尊顔に適したクールさを醸し出そうとは思わないのかな?

 ビーくん馬鹿だから無理かな?


 本当、耳元で!マーク連打な叫びを上げないで欲しいんだけど。あと頬っぺにツバ飛んだよ今。もう汚らしい。そろそろド突いてやろうか。私の貧弱な腕力でも、眼球を狙えばそこそこの与ダメージを望めると思う。

 ……いや、突き指が恐いし、今はまだやめておこう。


 しかしまぁ本当に元気な事で。テンション圧だけで殺されそう。

 夏のウェーイ系って本当に無理。私的には毒沼。接触してるだけで致命傷。


 なんでこの手の人種は、ただでさえ地球がクソ暑くて問題になってるのに、暑苦しいテンションを控えようとしないの?

 地球が嫌いなの? 未来の子供達に申し訳無いと思わないの? 残そうよ、美しく快適な星。


『ピピッ。室温の上昇を検知しました。設定温度への調整を再開します』


 ほらもう。文明の利器にも「暑苦しいんだよお前」って烙印を押されたよビーくん。控えようよ。控えおろうよ。


「さぁ、冷房の風より夜のロマンチックな潮風を感じに行こうぜ!!」


 冷房さんはビーくんの失態を頑張ってカバーしようとしてくれてるのに、何て言い草だろう。

 マジで眼球を強めに押し込んでやろうか。


「……あのね、ビーくん……私なんかより、他のお友達と行ってください。お願いします切実アーメン

「やだ。俺はお前と行きたい!!」

「…………………………」


 なんなのこの天真爛漫ワガママボーイ。猫じゃあないんだから気まぐれで干渉してこないで本当にお願い。

 何でそんなにイケメンなのに性格坊やなの? 成長してよ少しは。

 それとも何? 私を殺したいの? 私がそんなに憎いの? 私が一体何をしたって言うの?


 学校でもクラス違うのに休み時間の度に襲撃してくるし……おかげで私は授業終了と共に教室から女子トイレへエスケイプせざるを得ないんだよ? もちろん廊下は走らずにね。

 そのエスケイプが周りからはとても軽やかに見えるらしくてクラスの皆に陰で【疾風の便器フェチ】とか【神速歩行者グレイトフル・ウォーカー】って呼ばれてるんだよ?

 女子陸上部競歩部門の方々と女子サッカー部の勧誘すごくしつこくてウザくて仕方なかったんだよ?

 一時期ビーくんだけじゃなくて五・六人に追われてたんだよ?

 何? 私は怪盗か何かですか?

 これ全部ビーくんのせいだよ知ってた?


 って、心の中で延々と愚痴ってる場合じゃあない。

 とにかく、ここはあれだ。


 逃げよう。


 夏休み、迷うな私、エスケイプ。


 引き篭り川柳できたこれ。


 さて、どこに逃げるか……部屋の外、はダメだ。

 下の階にはビーくんを差し向けた母…いや、私を股座からひり出しただけの外道がいる。

 部屋の外へ逃げても、おそらく挟撃される形になる。神速歩行者の異名を取る歩行速度を誇る私と言えど、流石に前方に待ち伏せされていては逃げきれる保証は無い。


 ……ベッド……そう、ベッドだ。布団シェルターでこの怪男児をやり過ごそう。

 流石のビーくんだって、これから眠ろうと布団に潜った相手を引っ張り出す様な鬼畜ではないはず。


「むむッ!! 布団に逃げ込む気か!? 『今日はもう寝るから帰って』って俺を追い返すつもりか!? 姑息な手を考えて……!! だが、そうはさせねぇぞこのモヤシ眼鏡ェッ!!」


 私がベッドの方へ身を翻した瞬間、私の思惑を察しやがった危ないイケメンが、跳んだ。

 ビーくんは私の頭上をクルクル宙返りしながら越えて、私より先にベッドの上に降り立ちやがった。


 …………運動神経良いのは知ってたけど、私が見てない間に磨きかかり過ぎてない?

 もしかしてビーくんは忍者の末裔か何かなの?忍田って苗字で昔忍者忍者イジられてたのは知ってたけどマジなの?


 って言うかもうヤンチャ坊主じゃないんだからそう言うのやめてよ。スプリングが傷むから。

 これだから布団派は……ベッドを見たらそれやらないと気が済まないの?

 小学生の時に私のベッド壊した前科あるの忘れたの? ねぇ? 私すごくキレたよね。ビーくんも泣いて謝ってたよね? あの涙はなんだったの? 罰としてしばらく私の椅子にされてた屈辱を忘れたの?


 ……って、それどころじゃない。

 どうしよう。逃げ場が無い。割とヤバいかも知れない、この状況。


「良いか? 俺はもう四年も待ったんだ……この日を……【俺の方からお前を海に誘う日】を……!!」

「……はぁ……ねぇ、何でそんなに私に拘るの?」


 本当に勘弁して欲しい。

 そりゃあ幼少の頃は、一緒に外に出て、海以外にも色んな所に行って遊んでたけどさ。

 私はもう現代っ子なの。君がさっきから呼ぶ様にモヤシっ子なの。

 幼少期特有の謎バイタリティを今この時代に求められても無理です応えられませんわ。

 旧知の友人を大事にする精神は多分社会的に見ればご立派なんでしょうけど私的には本当にもうキツい。

 お願いだから他の友達に乗り換えて欲しい。


 って言うか、本当に何でこんなに邪険にしてる私に擦り寄ってくるのこのイケメン。


 何? もしかして…私の事が好きなの? 恋愛的な意味で。


 はッ(笑)んな訳ないか。

 私みたいな喪ッサリ系女子に対して、この選り取り見取りだろうイケメン様が恋愛感情? 有り得ない有り得ない。そこまで痛々しい妄想をする程、私は堕ちてない。身の程はよく理解しているつもりだ。

 もし仮に万が一まさかの展開でそんな事があったとしても……いや、無い。絶対有り得ないから。そんな想定はしない。無意味だ。

 来世に期待する権利は主張するが、今生には身の程を過ぎた展望は抱かない事にしているんだ私は。


 社会不適合性極まった喪ッサリ系女子に、イケメン幼馴染が恋愛感情を向けるなんて……そんな謎恋愛、小児乙女向けの漫画でしか無い。

 そして私なんぞに、そんな少女漫画の様な展開が有り得るはずがない。


 ビーくんの場合は……そう。単純に、邪険にされてるのに気付いてないだけだろうね。

 だってハーレムラノベの男主人公ばりに鈍感なアホの子だし。

 そうに違いない。そうに決まってる。そうだよ絶対。

 別に必死になって否定なんてしてない。これは現実性を考慮した上で当然の否定。

 そう、私はリアリスト。

 ……私は……今の私に夢を見ない。


 私は、幼い頃から両親に非常識人扱いされ、皆からおかしな奴だと白い目を向けられる事も多かった。

 私に愛してると言ってくれるのは、結婚詐欺師くらいだろう。


 ビーくんは一応、そう言う外道な人種の素養は無いと理解はしている。

 ただのアホでただのバカだもんね、ビーくんは。


 だから、絶対に有り得ない。


「それは……その…………」


 …………?

 イケメンな所といつも聞かれた事はすぐハツラツと答える元気だけが取り柄のビーくんが、押し黙った?


「どうしたの? ビーく…」

「…………えぇい!! うるさい!! とにかくお前は俺と遊んでくれれば良いんだよ!! まずはラウ●ドワンだ!! そこが俺達のアフタースクール!! そして遊園地とかも行くぞ!! お化け屋敷でギュッと来いよ!! 観覧車も一緒に乗れよもう!! そしてシメで海だ!! 夜の海だぞこの野郎!! 昨日から花火大会もやってんぞォ!! 海辺で俺と花火を見ろォォォーーーッ!!」

「何そのステレオタイプなリア充のデートプランみたいなの」


 欠片もそそられんわ。


「で、でででデートじゃあねぇし!! お前と二人っきりで遊びに行くだけだし!! 勘違いすんなモヤシ眼鏡!! ばーか!!」

「いや、それは重々わかってるけど……」

「……納得してんじゃあねぇよォォォ!! 少しは勘違いしてくれよォォォ!!」

「…………はぁ……?」


 何? 何なの?

 確かにビーくんは昔から常に情緒不安定だったけど、今日はいつにも増して不安定感がすごい。

 でも面倒臭さに負けてここで流されては駄目だ。きっぱり拒絶しなければ、明日以降の生活と来年以降の夏休みオンゲデスパレードに支障が出る。

 まだ夏休み特設イベマップにはやり込む余地が残ってる……何としても、このイケメンには帰ってもらう。


「もう本当に勘弁してくれないかな……ビーくんみたいなイケメンは私なんか放っといて鈍感難聴系ラノベ主人公みたいにハーレムでも築けば良いと思うんだ私。だから、今日はもう私をネットの海に還し…」

「お前に誰かを【鈍感】呼ばわりする資格は無ェェェんだよォォォ…………」


 ……あれ? 何かビーくん、キレてない?

 何? 私、今何か地雷踏んだの? どの辺?

 もう本当に意味わかんない……脳がボイコットを始めたのか眠くなってきたよ私……


「どーせあれだろ……薄々半分くらいは気付いてるけど『どうせ私なんかにそんな事ありえない』とか思ってたりすんだろお前どぉぉせ……」

「え? 何? 何をブツブツ言ってるの?」


 ごめんよく聞こえない。何? 今なんて言ったの?


「……もう勘弁ならねぇ!! お前のそのジメジメした性根、叩き直してやるッ!! 別に今のお前でもお前はお前だと思ってたけど、流石にこれはもう我慢の限界だこの野郎!! まずはこの部屋からだ!! 換気だ換気!!」

「え、ちょ、待っ、待って……ま、まさか……窓開ける気……!? 正気……!?」


 ちょ、いきなり何をトチ狂ってんのこのイケメンは……!?


「窓を開けないと換気できないだろ!! まずはカーテン…って分厚ッ。何だこのカーテン!? 視聴覚室の暗幕より厚いぞこれ!? カーテンって言うか柔らかい板じゃねぇか!?」

「えへへ、特注の遮光カーテン(×三)だよ……じゃなくて、や、やめて!! いきなり本格的な朝日はキツい……! 朝四時くらいの薄い朝日からならさないと死んじゃうからァッ……!!」


 いきなり冷水に飛び込んだら人は死ぬ。知ってた? だからプールに入る前に軽く水を浴びるんだよ?


 それと同様。

 私は毎年、夏休み明け三日前くらいから、まず夜中と早朝の合間と夕暮れ末期と夜にかけての間にカーテンを開けてリハビリするのが通例なのだ。


 今このイケメンは、私を殺そうとしている。


 何でいきなりこんなハードサスペンスな状況に……!?

 くそう……ビーくんがこんなサイコ野郎だなんて思わなかったよ私は……!!


「日光で人が死ぬか!! お前はバンパイアか!?」

「多分前世はそうだよ!! だからやめて!! 今すぐその手をカーテンから放しなさい!! ビーくん今、自分が何をしようとしてるか、わかっているの!? 冗談では済まないんだよ!?」

「珍しく声張ったと思えば馬鹿な事を……うだうだ言ってねぇで、夏の洗礼を喰らえェェェェェ!! サン・フラァァァッシュゥゥァァァッ!!」

「なっ、ちょ、本当に、い、いや、いやァァァァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァぐわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ……………………―――」






評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ