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B.L.O~JKがイケメンになってチェーンソーを振り回す冒険譚~  作者: 須方三城
【起】光が弾けてさよならとこんばんは。
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00,海の約束。


 記憶と言うのは儚いモノで。

 どれだけ大事にしまったつもりでも、時間が経てばボヤけて、崩れて、消えて、いつかは失くなってしまった事すら思い出せなくなる。


 大切な記憶でさえそんなザマ。


 何気ない記憶なんて、尚更だろう。



   ◆



 私は、小学生になってからこの五年間、毎年、夏になると必ず海に来ている。

 物心付いた時にはいつも傍らにいた幼馴染の彼と共に、特に目的もなく海を【眺め】に来る。


 彼を誘うのは、この小さな身体で独り遠出をするのが、流石に不安だから。体の良い幼馴染って便利。


 両親が使えるならそれが一番良いのだけれど……両親にお願いしても「お前の奇行…じゃなくて。お前がもう少しまともになるまで、あんまり下手な所に連れて行きたくない。危なっかしい」と意味不明な理由で連れてってもらえない。

 両親曰く、私は「歳不相応に大人びた代償か、幼少期の脳が柔軟な内に培われるべきだった常識モノが色々と足りてない感がある」のだそうだ。

 自分達の教育力不足を棚に上げて、娘に対してなんて言い草だろうか。

 大人は身勝手この上ない。受け入れ難く度し難い。


 私と両親は、平行線の様な存在なのだろうと察した。


 だから毎年こうして、両親には彼の家で夏休みの宿題をやっている事にして、彼と二人だけで海に来る。


 海辺で追いかけっこをする訳でも、海で泳ぐ訳でも、砂浜でヤドカリを追い立てる訳でもない。


 ただ、眺めるために。


 毎年、毎年。本当に、毎年、私は海に来る。


「お前さ、海、好きなの?」


 隣りに座っていた彼の何気ない質問に、私は少し虚を突かれた。


「…………わかんない」


 さっきも言った通り、私は毎年海に来る。

 でも、今の今まで「海が好きなのかどうか」なんて、考えた事が無かった。


「はぁ? じゃあ、なんで毎年毎年、海に行こうって言うんだよ?」

「……海を見てると、落ち着くから」


 私は【深海】と言うモノにとても興味がある。

 海の奥底には、【深海】と言うとても暗い場所があるらしいのだ。


 私は、暗い所にいるとすごく落ち着く性質を持っている。


 あれはまだ小学校に入学したばかりの頃。

 お父さんが趣味のアナログ写真をやるために暗室に改造した物置に、朝から翌朝まで引き籠っていた事がある。すごく落ち着ち過ぎて、完全に時間を忘れていた。

 外では「娘が行方不明になった」と両親がお巡りさんに半狂乱で泣きついている事など知らず、暗闇の中で独りうふふふって笑ってた。


 すごく怒られた。


 あれ以来、暗室は立ち入り禁止だ。

 それだけじゃなく、どこへ行くにも監視の目が厄介になった。鬱陶しい事この上ない。箱に入れられた様な息苦しさが拭えない。


 思えば、あれからだ。

 両親に秘密で、海を眺めに来るのが夏の恒例になったのは。


 私は海を眺めている間、あの暗室並に落ち着けるだろう暗闇に包まれた深海をずっと想像している。

 だから、海を眺めていると落ち着く奪われた暗室エデンの代替品を想像して、虚構の満足を得ている。


 太っ腹な紳士の通らない街路で、ショーケースの向こうのトランペットを眺めてる。

 きっと私はそう言う存在。


 眺めるトランペットも無いよりは、恵まれた存在だと思う。


 ……でも、やっぱり人間は欲張りで。特に幼い子供である私はそれが顕著な訳で。

 たまにどうしても「私にエラ呼吸する才能があれば、想像するだけでなく、実際に深海に行けるのになぁ……」なんて考えてしまう。


 ……普通に潜るだけじゃあ、やっぱ無理なのかなぁ……深海って到着までにどれくらいかかるんだろう。

 来年は水着持ってきて試してみようかな……いや、でも潜るなら水を吸って重し代わりになってくれる普通の服の方が都合良いのかな……


「なぁ、それってさ……やっぱり【好き】って事なんじゃねーの?」

「……? そうなのかな?」

「だってさ、見てたら落ち着くって事は、【ずっと見てたい】って事だろ?」

「うん。それはきっと、そうだと思うけど」

「……………………」

「……? 何? 何でじーっと私を見てるの?」

「ばッ…べ、別にじーっとは見てねぇよ!!」


 結構じーっと見てた気がするけど……私の顔に何か付いてた?

 ……あ、変な虫ついてた。潰しとこ。死ぬがいい。


「とにかく! ずっと見てたいって思うって事は、やっぱ好きなんだよ、それの事が」

「………………ふぅん………………」


 ……だとしたら、私は確かに海が好きなんだと思う。

 正確には、海の奥深くに広がっているだろう深海……その暗闇が、好きなんだと思う。


「あ……」

「おう? どうしたんだよ?」

「いや……大した事ではないんだけど……それを言ったら、私、けっこー君の事も好きかもなー、って」

「ぶほぇあ!? い、いきなりななななな何をぼえ、お、お前いきな、おま……」

「君の顔、見てると少し落ち着く」

「お、ぉおまおま、そんな事を言うなら俺だって…………………………って、顔…だけ……?」

「うん、顔だけ」


 私はこう……ハンサムさんとか、イケメンさんとか、見目麗しいって言うのかな? そう言う男の人の顔を眺めていても落ち着きを感じる。

 さっきの理屈で行くと、私はハンサムイケメンも好きなんだろう。


 彼の顔は、まだ幼いので【カッコイイ】より【カワイイ】が際立っているけど……将来とても有望だと思う。

 彼の顔を眺めてると「きっとその内、親戚か友達に勝手にオーディション応募されたりして、歌って踊れるアイドル事務所とかに所属するんだろうなぁ」と夢想に耽る事ができる。

 その夢想の中でぼんやりと漂う感覚を【好き】と表現するのに、何ら抵抗は無い。


「……顔だけ……顔だけかよ……!!」

「……? どうしたの?」

「なんでもねぇよッ!!」


 ……? 何でちょっと涙目で半ギレなの? 「一瞬めっちゃ喜んだのに一気に叩き落とされたよ!!」みたいな雰囲気を感じるけど、意味がわからない。


「いや……でも、俺の顔が好きって事は、かなりイケるって事じゃね……? いや、少し釈然とはしないけど……ひとまずは見た目からでも、ゆくゆくはちゃんと……昨日やってたドラマでも確かそんなんが……」


 何かブツブツ言い出した。波の音で何を言っているのかよく聞こえない。

 まぁ、そんな小声で言ってるって事は、私に聞かせるつもりのない【独り言】って事なんだろう。

 つまり、私には関係無い事だと思われる。ならどうでもいい。他人の独り言に聞き耳を立てるのは趣味じゃないし。


「……よし…………なぁ、あのさ……」

「……何?」

「…………………………」


 …………………………?


「…………………………」

「…………何? どうしたの?」

「……やっぱ、今はやめた」

「…………?」


 変なの。頭おかしいのかな。君そう言う所あるよね。

 ん? 何か不自然に顔が赤いね? 風邪? 風邪で頭のおかしさに拍車がかかってるの?


「……もう少し大人になったら、言う」

「何を?」

「でりかしー無いのかよ!?」

「???」


 何でいきなり怒るの? 意味わかんない。


「じゃあ、【もう少し大人になったら】って、どれくらい?」

「うっ……まぁ……じゃあ、そうだな。中学生になったら言う」


 約二年も勿体つけて、何を言うつもりなんだろう。


「二年後に私がこの事を覚えていられるか、正直自信が全く無いから、できれば今すぐ言って欲しいんだけど」

「ぬごッ、おま…………………………、…………やっぱ無理。今は無理。絶対無理。勇気が足りない」

「……勇気が要る様な事を言うの?」


 一体何を言うつもりなんだろう。想像もできない。

 得体の知れない恐怖を覚え始めたんだけど。


「……もし、お前がこの事を忘れてても、俺は絶対に忘れてない自信がある。中学生になったら……そうだな、今度は、俺の方から海に誘うから。その時な。その時には絶対に言うからな! ちゃんと聞けよ!!」

「来年も来る予定なんだけど、その時じゃダメなの?」

「来年じゃまだ小学生だろ!? 小学生には難しい事なんだよ!!」

「ふぅん……(欠片も意味わかんないけど)わかった(事にしとく。もう何か面倒臭い)」

「今、小声で何か言わなかったか?」

「別に」


 とりあえず、来年は特に気兼ねせずに深海チャレンジできそうだ。


「来年が楽しみ」

「いや、だから来年は言わねぇよ!?」

「あ、うん。違うよ、それは正直どーでもいいし。こっちの話」

「ど、ぅッ…どーでもいいって、お前ッ……本当にお前はァァァーーーッ!!」

「?」






 ……そして私は、案の定、この事を忘れていた。


 つい、最近までは―――


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