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異世界の誓約者  作者: 七足八羽
獣市
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ガロンベルグと獣市

 その都市は、灼熱の砂漠の中に有る巨大なオアシスを、厚い城壁で囲んだ城塞都市。


 その城壁の周りには、その大きさ故、世界樹と呼ばれている樹が四本、内側に二本聳そびえ立ち、その木樹高城壁よりも高く空に突き刺さり、幹は城よりも太く、其の樹冠は広く傘の様に広がり灼熱の砂漠にに犇めく者たちに恵みの陰を落としている。


 世界樹は樹ではなく、魔獣ではないか、とも言われているが、それは今でも定かでは無かった。


 どうやって造ったのか今となっては知る者の無い、巨大な石を積み上げて造られた巨大な城壁があり、城壁の外まで張り出した世界樹の樹幹の木陰には、常設のテントがぎっしりと立ち並んでいる。


 テントと言っても、頑丈な木材で組まれた物で、立派な店舗兼住居だ。


 そんな店舗の間の太い丸太で作られた無数の柵の中には、見た事も無い獣や魔獣が放されていた。


 小さなものはケイジや籠に入れられ、店先に並べられている。


 その、テントのひしめく世界樹の木陰の中には、何十か所もの井戸がある、その周りは円形の広場になっており、出店や屋台が並んでいる。


 この乾燥した土地の城壁の外に何十か所もの井戸を掘る等、普通では考えられなかったが、此処には世界樹とそれだけの井戸がある。


 地下には、六本の世界樹が作った水脈があり、そのお蔭で、この灼熱の砂漠の中に、ガロンベルグが成り立っているのだ。


 獣市が、ガロンベルグにどれ程経済効果をもたらしているのか測り知れない、扱うものが獣でなければ、獣市は間違いなくオアシスの有る城壁内で行われていた事だろう。


 糞尿の為だけではなく、中には、信じられないような危険な魔獣まで集まる為、とても城壁内では開催できないのだ。


 城壁内で開催する為に、そう言った魔獣等を規制すれば、集まる獣が限られ、獣市の付加価値が下がり集客力はがた落ちだろう。


 何と言っても、ここに来ればどんな獣でも手に入る、と言うのが売りなのだから規制などできない。


 又出店に関しては、は城壁の外にも関わらず、ガロンベルグの許可と、けして安くない出店料が必要となる。


 其れでも売る者、買う者、無数の人が集る獣市は、ガロンベルグの発展の要となっている。


 元々小さな街だったガロンベルグは、獣市と共に発展したと言っても過言ではない都市だ、今では目的の獣を手に入れる為に、数か月の道のりを旅して来る者もざらに居る。


 其の為、獣市の警備はガロンベルグの正規軍が行い、獣市でもめ事を起こそう物なら、デザートドラゴンに騎乗した正規軍の陸戦ドラゴナイトが相手と言う訳だ。


 それ故世界樹の枝からは、翼竜部隊が監視し、場内は重装備の甲冑を身に着けたドラゴナイトが、常時巡回している、そのお蔭での獣市の治安は見事なまでに維持されている。


 この世界で、ドラゴナイトに盾突こうとする者等いる筈もなく、今ではガロンベルグのドラゴナイトの主な役割は、暴走した獣の鎮圧となっている位だ。


 只それでも、暴走する獣の大半は、魔獣である為、場合によっては鎮圧も命懸けとなる為、暴走させた者は安くはない賠償金を取られる。


 獣の持ち込みの際も、竜種を筆頭に戦闘力の高い上位魔獣は、ガロンベルグに持ち込み登録の義務が課せられているが、無許可持ち込みは後を絶たない。


 暴走する魔獣の大半は、無許可の持ち込み魔獣だ、中には判別に困る、見た事もないような魔獣もまだまだ多く、今では兵士の装備も対魔獣用の重装備となっていた。


 そんな兵士たちに守られたガロンベルグの獣市は、今では知らぬ者の無いネームバリューとなり、ガロンベルグ城塞都市を支え続けている。


 又上位魔獣持ち込み登録の際、直接国が買い上げる魔獣も多く、殆ど出る事は無いが、竜種となれば必ず買い上げられるため、最もドラドナイトの多い国となっているのだ。


 そしてこの付近で 一番大規模な翼竜部隊を有した国でも有る。


 特に翼竜(スカイドラゴン)を率いる飛龍(ワイバーン)は炎竜と呼ばれ、はそのドラゴナイト、シーバレンと共にガロンベルグの守護者として国民には称えられ、敵には恐れられていた。




 ドラゴナイトとはドラゴンと誓約した者の称号であり、ドラゴンと意識を共有し、誓約したドラゴンと同じ寿命を持つようになった者の事でだ。


 彼らは、孤高の存在と位置づけられ、貴族達よりも敬意を払われていた。


 その戦闘力は誓約したドラゴンにより違ってくるが、人からすれば、抜きん出た力に変わりなく、誓約を交わしたドラゴンによっては、一騎で国を滅ぼすことも可能であると云われる程である、その為、どの国でもドラドナイトとなれば最高の待遇で受け入れる。


 誓約の交わし方は、一つしか無い、聖約の血液を持つドラゴンに己の血を飲ませ、その後にドラゴンの血を飲むのだ、ただしドラゴンに血をもらう方法など限られている。


 経緯はいろいろだが、戦って勝った者等まずいない。


 最初のドラゴナイトは、瀕死のドラゴンを救け、ドラゴナイトとなったと言われている。


 この話は有名で、そのドラゴンと共に各地を旅するドラゴナイトの御伽噺はこの世界の子供なら必ず一度は聴いている。


 そして、一番多くのドラゴナイトを生み出している方法は、卵のダッシュである、卵からドラゴンを育て、孵化したら誓約をするのだが、卵さえ手に入ってしまえば、一番リスクの少ない方法だろう。


 只卵の入手方法を考えれば、当然リスクは跳ね上がる、偶然も含め色々な方法で卵を入手した者は、自らドラゴナイトになるか、卵を売って孫の代まで遊んで暮らすか、ドラゴンの卵とは、それ程の価値がある。


 そうしたリスクを冒し、ドラゴンエッグハンターにより、入手された貴重なドラゴンの卵の幾つかは獣市に流れて来る。


 そうした卵が上位魔獣登録の際、買い上げられ、ガロンベルグのドラゴナイトとなっている。


 それ故ガロンベルグは、多くのドラゴナイトを抱えているのだ。


 他にも方法は有るのかもしれないが基本的には卵からでなければ、聖約は難しい。


 そんなドラゴナイトも無敵では無い、単騎では無理でも精霊騎士や、魔獣騎士が、束になってかかれば、勝てない相手ではないのだ、精霊騎士も魔獣騎士も、パートナーによっては、強力な力を発揮するドラゴナイトに準ずる存在であり、事実ドラゴナイトが倒された記録は多々残っている。



◇◆◇◆◇



 リュウジは獣市に近づくと、ザルクと一緒に御者台に座り、巨大な城壁に驚いたり、ドラゴンが居ないかと世界樹の枝をを見上げてみたり、実に見事なおのぼりさんとなっていた。


 リュウジにしてみれば、見るものすべてが珍しく、初めて見るものばかりだった。


 特に柵の中に入っているファンタステックな獣達はリュウジの興味を引き付けて離さなかった。


 勿論リュウジにしてみれば、元の世界の映画や、ゲームの中でしかお目に掛かれなかったような生物が、回り中に溢れているのだ、興味どころか軽くパニック状態だった。


 ザルクは、余りにも落ち着きの無くなったリュウジを見ると、苦笑いを漏らしながらいつもの宿に馬車を進めるのだった。


 ザルクが懇意にしている老舗の宿で、東地区の中心の井戸の周りに店を構える、木漏れ日亭と言う宿だ。


 城壁の脇に、ガロンベルグを囲むように開かれている獣市、今では城壁の中よりも、遥かに広く、世界樹の木陰の外にまでも溢れ出して賑わっていた。


 リュウジ達の来た南の正門の方からだと、獣市の中を四分の一ほど回って行く事になる。


 最初に通り抜けた、獣の売り買いされているエリアでは、獣の臭いと、もちろんその排泄物の臭いとで、かなり強烈なものが有ったが、木漏れ日亭の近くまで来ると、食べ物と宿が殆どとなり、臭いも無くなりはしないが薄くなり、気にならない程度まで慣れていた。


 木漏れ日亭についてみれば、この炎天下の砂漠中、この地に陰の恵みを落としている巨大な世界樹の、すぐ脇に建っていた、この獣市の中では、四箇所しかないその木の根元近くは老舗が立ち並ぶ一等地だ。


「ザルク大丈夫なのか」


 宿を見た途端、ソレノが心配そうに聞いてきたが、尤もな心配だった、木材と石材を巧く組み合わせた造りの宿は、一階が食堂になっており、城壁の中でも通用しそうな店構えだった。


「大丈夫だ、と言うか、此処じゃないとダメなのだ、ここ以外で、リックを預けられる宿は、魔獣騎士用の宿になっちまうからな、リックを連れて泊まれる宿は此処ぐらいなのだよ」


「いや宿代の話なのだが」


ソレノはもう一度確認した。


「大丈夫だ、今回は良いのが狩れているからな、はぐれのブロンズ山犬と、白マダラオオトカゲ三匹、特にブロンズ山犬は一匹だが、赤に近い良い色出ている上物だからな」


 ザルクの答えを聞いて、二人の客が絶句いていた。


「ザルク、お前、其れを狩って来られるのか」


 二人の客の驚きをよそに、ザルクから気の無い返事が返ってくる。


「ああ」


 ザルクの気の無い返事に、再起動した二人のテンションが上がっていく。


「ザルク、其れ、普通は返り討ちだぞ、両方とも一人で狩れる相手じゃない」


 ソレノが真剣に突っ込む。


「そうなのか、師匠はよくグリーンサーヴェラとか、サラドラグラとか一人で狩ってたぞ、グランバザールに行く時には、よく持たされる、最も、売った金は、半分以上酒に換えて来いって言われてるがな」


 又さらっと帰って来た答えに、少しフリーズしそうになりながら、今度はハンクが突っ込みを入れる。


「そんなの既に人間じゃないぞ、お前の師匠って誰だ、何の師匠だ、ていうか、酒どんだけの量だよ」


「魔境側の門番の爺さんだ、習ったのは、剣に、弓に、魔法だな」


「いつの間に習っていた、て言うか、お前ほとんど魔法使えないじゃねーか」


「だな、師匠に、お前は剣も駄目、弓も駄目、魔法も駄目、取柄は魔獣リックに乗ってるだけなのだから、魔獣に感謝しろって言われたぜ」


「確かに、お前の魔法って俺達と殆ど変らないよなと言うか、俺達より酷いよな」


 ハンクの容赦ない物言いにザルクが少しむくれる。


「言うな、師匠にも魔法は特にボロクソ言われていたのだから、俺だって少しはへこむぞ」




◇◆◇◆◇




「よく来たなね、次来るのはもう少し先かと思っていたよ」


 店の近くまで来ると、何処からか見えたらしく、ぽっちゃりとした体格で、腰まである栗色の髪を一纏めにした背の低い女将さんが、エプロンで手を拭いながら出て来て、ザルクに話しかけてくる。


「ええ今回は、少し別の用事も出来まして」


「そうなのかい、どんな用事か知らないが、宿はとるのだろ」


「はい、馬の買い付けなのですが、今回も何日かお願いします」


「負かしときな、で、今回は何人だい」


「この四人で」


 ザルクはそう言って三人の方を示す。


 女将さんは青い瞳を三人に向けると、気さくな笑みを作って話始まる。


「ハイよ、この四人とリックだね、おや黒髪とは珍しいね、何処から来たんだい」


 女将さんはそう言うと、賺さずザルクが答えた。


「遥か東の方の小さな村で、ミレアス語も最近やっと覚えたところだ」


「そうなのかい、とりあえず店に入りなよ」


 そう言うと女将さんは、リックの差し出した触手を引いて店に向かっていた。


「解ってるさねリック、少し待ってな、いつもの部屋を用意してやるから」


 そう言って、女将さんがリックの鼻面を撫でると、リックが女将さんの頬を舐めまわす。


「リックこら、止めなさい」


 女将さんがリックの鼻面を押し戻す。


「悪いけどザルク、店で待ってておくれ、部屋を用意して来るから」


「女将さん、相部屋二部屋で頼む」


ザルクが叫ぶと女将さんが手を挙げてたえる。


「解ったよ、荷物はリックの部屋に置いておくよ」


今度はザルクが手を挙げる。


「あんたの部屋も作るから、あんたも手伝うんだよ」


 女将さんにいわれ、リックは、ぶるると鳴いて馬車を引きながら、女将さんと一緒に店のうらへ消えていった。



 木漏れ日亭の中に入ると、外とは打って変わって、冷房でも有るのでは無いかと疑いたくなる涼しさだ。


 ウェスタンカントリー調の店内に十六のテーブルが有り、部屋の真ん中には巨大な氷柱が、鎮座している、よく見れば その外にも小さな氷柱が幾つか隅の方に置かれている。


 涼しさの原因は明らかだが、一体どうやってこんな大きな氷柱を作ったのか、リュウジには謎だった、ハンクとソルノは半信半疑、ザルクは確実にその訳を知っていた。


「凄いだろ、マスターの魔法だ」


 ザルクが言うとハンクが答える


「水の魔道師か、俺なんて、小さい方の氷柱だけでもびっくりだ」


ソルノも少しうなだれて答える


「俺もだ」


「お前らはまだ良い、俺なんて氷にすらならん」


 ザルクがヤケクソ気味に答えると、二人がかなり驚いている。


「何、本当に出来ないのか、習ってたんじゃないのか、コップに入る氷位は出来るだろ」


「出来ん、氷が出来ないと言ってるだろ」


 魔法と言うのはどんな物なのだろう、店の中央に有る直径一メートル高さ二メートルの氷柱は、凄いらしい、部屋の隅にある五十センチくらいの氷柱も難しそう、ザルクに至っては、氷にすらならない、そして此の店のマスターは氷の魔道師で、ハンとソルノは普通の人、でも少しではあるが、魔法は使えるらしい、リュウジには全くこの世界の魔法の位置づけが、イメージ出来なかった、其れよりもあんな氷柱を作り出せるほどの魔法が有る事が驚きだった。


 自分もザルクの師匠につけば、魔法が使えるように成るのだろうか、リュウジは何遠足前の子供の様に、ワクワクしながら、心音が高まり、耳耳元で鳴り響いていた。


 魔法と言ったら、現代地球では本物の夢だ、基本的に一生使える様には成らない架空の概念なのだが、自分は其れを使える様になれるかもかもしれない。


 溢れんばかりの期待感に、リュウジの中では、自分があの巨大な氷柱を、一瞬にして出現させるイメージが脳裏を過っていた。


 そんな熱い妄想に浸っていると、ザルクに肩を叩かれ、現在地に引き戻される。


「リュウジ、マスターが一杯奢ってくれるってよ」


 振り向けば既に、ほかのメンバーはカウンターに陣取っていた。


 リュウジが席に付くとマスターが目の前で氷を作り始めた。


 まず水の入ったコップに手をかざすと、手の平から、銀色に輝く霧のようなものが現れ、コップの水を覆って行く、すると、水だけが手の平に吸い上げられるように浮かび上がり、手の平を上に向けると、手の平の直ぐ上で球状になって静止する。


 すると直ぐに輝く霧は球状の水に吸い込まれたかと思うと、それは完全な球状の氷になっていた。


 球状の氷はそのまま、リュウジのグラスの中に納まり、リュウジが留めていた息を吐き出すと、そこに強そうな、真っ黒い酒が注がれる。


「リュウジ、呑むぞ」


 ザルクがそう言ってグラスを挙げると、四人は一気に呑み干した。


「旨い、マスター此れは何んと言う酒なのです」


ワインともブランデーとも言えない味に、何かのジャムが混じった様な香り、其処に、ほんの少しスパイシーさが漂う、何とも呑み口の良い、酒だった。


「黒曜酒と申しまして、黒葡萄と、黒木苺の実から造った酒に、各種スパイスをブレンドした物です、勿論この黒曜酒は、私のオリジナルブレンドですよ、」


「うーん旨い、けど強い、一気に煽るような酒じゃ無い様な気がする」


リュウジが呟くと、反対端に陣取っているザルクから、解答が帰ってくる。


「最初の一杯だけさ、こんなの一気に煽り続けたら、あっと言う間に出来あがってしまう」


「そうよ、荷解きしてからにしないと、リックが怒り出すわよ、」


 部屋の用意が出来たのだろう、何時の間にか、乾草と、此の町では高価な野菜の盛り合わせの載った大きな籠を、両手で抱えた女将さんが後ろに立っていた。


 女将さんに付いてリックの部屋に行ってみれば、リックはしっかりと御客として扱われていた。


 しっかりとした乾草のベッドに、テーブルには、大きなボウルに冷えた水が汲んであり、隅にはしっかりと鞍置きが設置され、にリックのお気に入りの鞍が置かれている。


 女将さんがスタスタとテーブルに歩みより、抱えていた籠を置くと、リックは起き上がり、女将さんの方に寄って行く。


 女将さんの手にペタペタと触手をつけて、一体何を言っているのか、挨拶でもしているのだろうか。


 リックの前に立つと子供に見える女将さんが、何やら、ニヤニヤしながら嬉しそうにリックの頸を撫でている。


「駄目よ、もうそんな事言っても何も出ないよ」


 リックは一体女将さんと何を言ったのだろう。


 女将さんがはニヤニヤしたまま、こちらに歩いて来ると、擦れ違いざま「可愛い紳士だね、リックは、」と言って、厨房に戻って行った。

リック、一体何を言ったんだ?


◇◆◇◆◇



「どうです、マスター」


 ザルクとリュウジは、マスターの部屋に魔獣の皮を持ち込み商談をしていた、尤もリュウジは社会科見学だが。


「そうだな、この白マダラは、人気は有るが、最近かなり出回っているからな、一枚五万ラグル、と言ったところかな、 しかし此方のハグレブロンズは良いねー、この色だと八十万から事によると百万には成るよ、此処で売るよりも、次回グランドバザールへ持って行った方が良いよ」


 マスターの誠実さが窺がえる台詞だった、普通ならそのまま安く買い叩かれている処だろう。


 宿代は白マダラの皮三枚で十分だった、見た事も無いような緋色を出しているハグレブロンズは、グランドバザールに持って行けば間違いなく此処よりも良い値段でとってもらえるだろう、マスターは其のままそれを、ザルクに伝えたのだ。


「マスター、出来たらマスターの処で引き取って欲しいのですが、何とか成りませんか」


 ザルクはザルクの思惑があり、何とか此処で売りたかった。


 ハグレは良い値段に成るとは聞いていたが、実際狩れたのは今回が初めだ。


 ハグレで無ければ、白マダラより安い皮なので、セイゼイいっても十万ラグル位だろうと踏んでいたのだが、良い方に当てが外れ、ザルクには新たな思惑が湧いていた。


「そうだな、今出せるのは、頑張っても八十万と言った処なのだがかなり、毛並みも、色合いも良い品だからね・・・・どうだろう、八十万に今回の宿代無料と言う事で」


「助かります、では其処に白マダラ三枚も付けます」


「良いのかね、ザルク、其れでは君に利が無くなってしまうだろう」


「いいえ、これからも、お世話になるつもりですから、其れと、リュウジがこの子を探している、ので、協力をお願いしたいと言うのもありまして」


 ザルクはそう言って緑子の似顔絵を渡した。


「恋人かね」


「はい」


 リュウジが答える。


「仲間内にも通達して、見つけたら必ず連絡を入れよう。では成立だな、此れからもサービスさせてもらうよ、見つかると良いな」


「「ありがとうございます」」


「何を言う、此方こそだ、良い取引だった」



 部屋に戻ると、ザルクが言った。


「リュウジ、この金でお前の仔馬も買って行こう、持って来た金と合わせれば、良い子馬が買えるだろう」


 リュウジは思いもよらないのザルクの言葉を嬉しく思ったが、自分の為にそんなに利益を割いてしまって良いのかと心苦しくもあった。


「そんな事をして、良いのか、折角良い値で売れたのに」


「良いのさ、予定外の収入だ、間違いなくイルベリーも賛成のはずだから、・・恋人探しに行くんだろう」


 リュウジは頷く。


「リュウジが師匠の処で鍛えている間に仕上がるだろう」


 リュウジは先程目の前で見た魔法を思い出し、再び心躍らせるのだった。

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