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異世界の誓約者  作者: 七足八羽
(仮)力
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シルバーデモニアの秘密

だいぶ間が空いてしまいましたが、またよろしくお願いします。


なんて良い匂いなのだろう、マリーが目を覚ますと目と鼻の先に美味しそうなポポンの実が有った。


マリーは直ぐに飛びつこうとしたが、手足がじたばたするだけで羽は閉じたまま動かず、空中に制止している。


長い触覚も伸ばすがポポンの実は近づいてこない、のどがカラカラに乾き夢にまで見たポポンの実、もうマリーの頭の中は、ポポンの実の甘い果汁で一杯だった。


 閉じた羽を摘ままれ、人の手でポポンの実の前に吊るされている事など、微塵も気付いていなかった。


(起きたわ、やはりよっぽどのどが渇いていたのね)


 テーブルの上のポポンの実に向かってじたばたもがいて、長い触覚を一生懸命伸ばしているマリーを摘まみながらキアナは一人微笑んでいた。


(この子癒されるわね)


 キアナは思わず、少しの間、マリーをポポンの実に近づけたり離したりしていじってしまったが、ふと我に返り、マリーをポポンの実の上に落としてやった。


 するとマリーは一心不乱にポポンの実にかぶりつき、不思議な事に、食べた物が何処に消えてしまうのか、自分よりも大きなポポンの実を、半分ほども平らげてしまった。


 するとマリーは、丸々と臨月の妊婦よりも大きくなった腹を押さえてそのまま眠ってしまった。


(この子本当に癒されるわね)


 マリーを気に入ったキアナは、今度は眠っているマリーを摘まみ上げて、ポケットに入れると部屋を出ていった。



◇◆◇◆◇



 ホルンソの引っ越しは困難を極めた、毎日二百人前後の難民を偽装し、闇に紛れてホルンソの地下都市から救出し、受け入れるのだ。


 総ての物が足りなかった、時間も人も金も、そして、一万人以上の人間を上空から偵察に来るセレニア帝国機から隠さなくてはならないのだ。


 キアナ達は、大樹街道と村の間の森の中に難民達を隠し、セレニア帝国の偵察機からの目を逃れた。


 森の中に上空からは樹木にしか見えない、そのまま木々を偽装した家々が森の中に増殖していった、まるで、まるで森の精霊や、リュウジのイメージの中のエルフの里の様な町並みが森の中に広がって行った。


 一万人以上の人が住む、上空からは森にしか見えない幻の里のだ、人々も森の保護色を身にまとい、日の高いうちは家に籠り、拠無い事情が無い限り、殆ど外を出歩く事は無かった。


 そのお陰か、何度かセレニア帝国の偵察機が上空を通って行ったが、この幻の里を見つける事は出来なかった。


 奇跡の引っ越し事業だったが、資金繰りと食料確保のために乱獲された、甲殻土竜とサラドラグラにはいい迷惑だったろう、元々希少な甲殻土竜はともかく、絶滅こそしなかったが、かなり数を減らし、市場ではサラドラグラの皮や肉はだいぶ値が下がっていた。


 もう当分サラドラグラを狩る事は出来ないだろうと危惧していたのだが、思わぬ者達がその危機を丸く収めた。


 ホルンソから引っ越してきた地下の精霊達だった。


 彼らはサラドラグラが繁殖地にしている岩山を刳り貫きそこに彼らの街をつくり、夜な夜なサラドラグラ達の卵を回収すると、自分達で孵化させ、最終的にそこに住むすべてのサラドラグラを家畜としてしまったのだ、繁殖地の岩山自体がもう、サラドラグラの牧場だった。


 騎獣にもなり、食料にもなり、皮も肉も売れる、理想的な家畜だった。


 繁殖も地下の精霊たちが立ち会って羽化させるので、保々全ての卵が羽化する。


 普通の人間はサラドラグラの卵一つ確保するのにも命がけだ、サラドラグラを家畜として安定して供給等、他では考えられない事だった、これは彼らだからこそ出来た事だ。


 丸く収まったどころか、リゼルダーナを支える特産物となっていた。


 そして、ドラゴナイトを頭に戴き、ドラゴンに擁護され、いつの間にか、国としての体を成したリゼルダーナ王国は、まだ小さな世界樹と共に人々に知られる事無く、砂漠と森の畔に静かに佇んでいた。


 砂漠と森、そして大樹街道に隣接し、豊富な水源を持ち、他に真似の出来ない高価な特産物を生産できる国の成り立ちに、商会が身内となって協力出来るのだ、こんな機会を一流の商人ともあろうものが逃す訳がない、社運を賭けるに十分な理由だった。


 画して、セルディナ商会は、リゼルダーナ王国の成長に社運を賭け、無謀とも思える、ホルンソ王国住民の危険な引っ越しに尽力し、この界隈の国々の中で抜きん出て大きな商会となった。


 これは、まだ秘密裏ではあるが、ほとんど知る者のいないリゼルダーナ王国と直接取引の出来る唯一の商会でもあった。


 セルディナ商会はリゼルダーナ王国と共に、大きな危険を乗り越え、大きな利を手にしつつあった。


 そしてもう一つ、此処リゼルダーナに、ホルンソの住民と一緒に、セレニア帝国の捕虜が連行されてきていた。


 ルピタと戦い、地面に躰を他空きつけられ、腕を捥がれそうになったあのシルバーデモニアだ。


 その捕虜は今まで、頑として鎧を外す事を拒否し、だんまりを決め込んでいた。

 その捕虜に、何かあったらしいレベル息を切らして走ってきた。


「クナシオ様、キアナ様、クジョウ将軍、シルバーデモニアが死にそうです、いきなり躰が割れて、内臓がいや、中にまた躰が、兎に角お越しいただけないでしょうか」


「解った、行こう」


「行きましょう」


「直ぐに行こう」



◇◆◇◆◇



 スカラー・ガレ、先の戦でルピタとの戦いに敗れ、捕虜となったセレニア帝国のパイロットだ。


 先程から彼の脳内にバイオボディからの警告が鳴り響いている。


 戦闘の後からパワーアシスト機能は低下し、ついに各種センサー、及び生命維持機能が停止しようとしていた。


 生命維持機能が停止すれば、バイオボディは自動的に装着を解除し、腐敗し始めるバイオボディの死だ。


 自動修復機能の優れたバイオボディには考えられない事態だが、何がどうなったのか、事実自動修復は追いつかず、バイオボディは死んでしまった。

技術者でもないスカラーには原因など判る筈もなく事態を受け入れるしかなかった。


(くっ、此処までか、万が一の覚悟がしていたが、まさか自分が、だな)


 彼は戦争に行くのだから当然自分の死は覚悟していたが、それは竹槍を持った敵に、機関銃をもって戦う程度の覚悟だだった、極めて確率の低い死が自分に訪れよう等とは思ってもみなかった、今になって、改めて覚悟しなおすような状況だった。


 そんな部屋に着いた三人はその状況に瞠目した。


そこは今建設中の小屋に、鍵と見張りを付け、板張りのベッドを置いただけの部屋だった。


 彼はその板のベッドの上で、臓腑をあらわにした甲冑の中に横たわっていた。

その予想も出来ない、(おぞ)ましくい光景に三人は驚愕した。


 開かれた甲冑の中は、まるで人を解体でもしたかのように、甲冑の内側と融合した筋肉の様な物がぎっしりと詰まり。


 その甲冑の臓腑の中から血液ではない何かが零れ落ち、異臭を放ちながら、床に広がっている。


 腐った肉の匂いだ、その異臭はキアナ達の鼻を突いたが、目の前の光景のそ衝撃は、その異臭も薄まる程だった


 その中に、横たわった餓死寸前の子供の様な体は、夥しい数の血管の様な細い管で甲冑と繋がれていた。


 髪の無い不釣り合いな大きな頭には、異様に大きな目と、小さな穴だけが目立ち、殆ど高さの無い鼻が付き、小さな口に薄い唇はこの星の住人にしても異質に見えた。


 その惨状を見て言葉を失っていたキアナ達に、その彼が話しかけてきた。


「まだ生きているぞ私は、バイオボディが死んでしまっただけだ、だが、こうなってしまってはもうおしまいだ、お前たちは私をどうしたいのだ、どの道さほど長くは持たないだろうが、もし万が一にもこんな事が有れば、誤解が広まらぬ様、この体について真実を話せと、私達は陛下から言われているのでな、先にお前たちにその真実を話そう、勿論話せない事もあるが、聞きたい事が有れば聞いてくれ私は、スカラー・ガレと言う」


 そうそれは、この世界の人間が自分達のこの姿を見た時に、真実を話さねば、最悪化け物として扱われかねないと、危惧したファイオラの指示だった。

勿論それ以外の事は話させるつもりは無く、話せる真実は誤解を招かないための最低限の真実以外は機密事項だ。


「バイオボディが死ぬ、どういう事だ、それは甲冑ではないのか」


 クジョウが何とか言葉を絞り出す。


 目の前の甲冑を見れば、生きていると言われても納得してしまいそうな位生々しい光景ではあるが、甲冑が生きているとは、クジョウの心が追い付かない。


 彼は淡々と話始まった。


「ああ、そこからか、見ての通りだ、私達のバイオボディは生きている、人間や動物の様にではないが、ある種の植物の様に生きている、言っても解らないだろうが、見れば解るだろ、私達はこのバイオボディが無ければ、起き上がる事すら出来ない、隣の机に、スープを置かれても見ている事しか出来ないと言う事だ」


「ではお前達は普段はこの甲冑、いやバイオボディか、これをどうやって身に着けるのだ」


「これは子供の頃に、親に着けてもらって以来脱いだ事は無い」


「嘘をつくな、では小便に行く時も外さないのか」


「そうだな、お前たちに解りやすく言えば、小便も大便も、バイオボディが食って力にしてしまうのさ」


「バカな、そんなこと誰が信じる、だいたいバイオボディとか言う甲冑が無いと生きられ無い体で生まれてくるなんて、どうやって信じるんだ」


 彼が言ったのは、真実だが、この世界の人間に信じろと言っても無理だろう、クジョウも例にもれず、そんな話を信じる事は出来なかった。


 高度すぎる科学は魔法に見えると言うが、まさにそれを地で行っているのだ、信じられるはずがない。


「そうだな、それは私達が一番聞いてほしい所だ、私達も最初からこんな姿だった訳では無い、元々はお前たちの様に自分で動き回れる普通の躰だったのだ、このバイオボディが開発される前までは」


「では、そのバイオボディを着るとそうなるのか」


「そういう訳では無い、このバイオボディが開発されたのは、もう一万年以上前と言われている、これも元々はパワーアシスト装置だったと言われている、常時身に着けている様な物では無かったのだろうが、発達し続ければこの通りだ、それを一万年も着続けば、躰が退化し、生まれてくる子供も未熟なまま生まれて来る様になってしまい、いつしかこれが私達の躰となってしまった、結果は今君たちが見ている通りだ」


「退化?」


 そう、この世界には退化などと言う言葉すら無い。


「君たちに解りやすく言うなら、見ての通り、君たちの様な体だったのが種として少しづつ衰え、こんな躰になってしまったと言う事だ」


 クジョウ達は、思わず、甲冑の臓腑の中に横たわるスカラー・ガレに視線を落とす。


そこには、バイオボディと繋がっていた管が腐れ落ち、筋と皮しか無い様な小さな体があらわにされていた。


スカラー・ガレはそれ以降もクジョウ達の質問に答えたが、それはファイオラが許した自分達の躰にまつわる事のみで、それ以外の事は何も口にする事は無かった。


 それでも彼は命を絶たれる事も無く、その後も捕虜として、リゼルダーナに有る事となった。


 それが後にシルバーデモニア、セレニア人の希一筋の望となるのだが、今は皆知る由もない。


今後は不定期になってしまいそうですが宜しくお願い致します。

では皆さん良いお年を。

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