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異世界の誓約者  作者: 七足八羽
ホルンソ戦役
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ホルンソの攻防ⅩⅥ(ガルバドール)

 リュウマ王は隈が出来、ゲッソリと落ち窪んだ目をギラつかせ敵軍の中で叫ぶ。


 その声は驚く程通り、同胞の死を呆然と見つめていた、兵士の魂を呼び戻す。


「皆の者、真の戦はこれからだ、あの王城には、我らが守るべき民達が待っている、此処で我らが諦める訳にはゆかぬ、解るな、幸いまだ北門は門こそ破壊されたが、抜かれておらん、戻るぞ、皆奮い立て、死守せよ!!」


「「「「「「「「おおおおおーーーー」」」」」」」」


 王の言葉に、皆が奮い立つ、絶望に手放しかけた武器を再び握り締め、落ちかけた膝を伸ばし戦場の大地を踏みしめる。


 そして、諦めていた北門の方からも、ゴライアスの咆哮と、僅かではあるが、鬨の声が上がる。


 あの苛烈な攻撃の中、確りと生き残っている者がいる。


 あれを防げるものが味方の中にいる。


 アーバンの天蓋の内、ゴライアスが地に伏せ、その巨体で、が抱きかかえるように守ったほんのわずかな兵士からの、鬨の声だ、だがその意味は大きいい。


 アーバンの天蓋は僅かな時間で破壊されたが、それでも十分役目を果たしたと言えるだろう、ほんの僅かでもあの灼熱を防ぎ時間を稼いだのだ。


 その場で目の前の兵士を抱きかかえるように守り抜いたゴライアスの背は溶岩の様にとかされ焼けただれていたが、持ち堪えられたのは、アーバンの天蓋がわずかでも時間を稼いでくれたおかげだろう。


 でなければ、今頃ゴライアスの背中は血肉事焼き落とされ、流石のゴライアスも絶命していたかもしれない。


 ゴライアスは咆哮しながら体をゆすって、何事も無かったかのように、焼けただれた装甲鱗を振るい落とす。


 やせ我慢だが、それもゴライアスの役目だ、自軍の前で決して弱みは見せられない。


「「「「おおおーー」」」」


 すぐさま北門に向けて必死の退却が始まる。


 しかし、それを見て、一度は引いた敵の波も再び押し寄せ、彼らを飲み込もうと、牙を剥く。


 リュウジを抱えたルピタも、怒りをあらわに、リゼルダに向かって吼えると、北門向かって走り出す。


「リゼルダ!殿をやれ、そのまま死んで来い!!」


 その声に、リゼルダが我に返って振り向けば、戦場から頭二つとび出た銀の獣人にボロボロになったリュウジが抱えられている。


 全身血に染まり、脱力した腕がぶらぶらと揺れていた。


 怒りに顔を歪ませ、輝く銀の体毛を逆立てるルピタに睨まれ、状況を悟ったリゼルダは、全身から血の気が引きた。


 膝から力が抜け、崩れ落ちそうになるが、カベルネの太い脚に蹴られて、我に返る。


「呆けるな、死ぬぞ」


 ぶっきらぼうな言葉に、のろのろと振り向けば、隣にはいつの間にかカベルネがガントレットを構えている。


 リゼルダは今自分が何処にいるのか思い出す。


「応!一人も通さん」


 リゼルダは全身に炎を纏う。


 炎は怒りと共に熱を帯び、火柱となって天高く吹き上がる。


 その炎を纏った剣で、力任せに斬る、斬れなくてもそのまま振り抜き片手でノックでもするかのように敵を弾き飛ばす。


 そして、同じように力任せに蹴る、殴る。


 自分への怒りをそのまま敵へ叩きつける。


 並の兵士なら近づく事も出来ない炎の壁だが、彼らはそれを無視して押し寄せる。


 彼ら(シルバーナイツ)の甲冑はシルバーデモニアのボディスーツ程の性能はない、かなり熱い思いをしている筈ではあるのだが、それでも彼らは躊躇無くリゼルダの炎に飛び込み彼女の前に押し寄せてくる。


 タガの外れたリゼルダは、炎の柱となって荒れ狂う。


 隣にいるのが銀虎のカベルネで無ければ、今頃焼死体になっている処だろう。


 それでもしっかりと殿を務め、北門近くまで、敵を防ぎきるが、ふとリゼルダの体から力が抜けて行く。


 纏った炎は勝手に消えさり、視界が傾き、リゼルダの目の前に地面が迫ってくる。


(力尽きるとはこういう事か)


 いつの間にか魔力は底をつき、指一本も動かす事が出来ない。


『チビ後を頼む、一人も逃すな』


 意識の糸が切れたリゼルダは、そのまま崩れ落ち、焼け焦げた地面に転がる。


 しかし、その無念も、怒りも、悲しみも、少しも色あせる事無くチビに伝わった。


 カベルネは目の前で倒れたリゼルダを直ぐに回収しようとするが、一瞬、真上から黒い翼がリゼルダに覆いかぶさり、青白い顔がカベルネを睨んで、牙を剥いて威嚇すると、リゼルダを抱えて飛び去って行った。



◇◆◇◆◇



 上空で最後の銀翼船を墜とそうとしていたチビは、リゼルダの後悔に縁取られた焦げ付く様な思いを受け取ると、躊躇なく真下に密集した敵に向かって急降下を始めた。


 誓約者の間では言葉だけではなく、その思いも直接伝わる、チビはそれを受け取ったのだ。


 チビは真下に密集し、銀色の絨毯の様な敵に向かい音速を超えて加速する。


 垂直に落ちていったチビは減速しきれず、地面を削り取りながら敵をゴミの様に消し飛ばしてゆく。


 そして再び地上で音速を超えて加速する。


 直撃された者は、文字通り消し飛び、巻き込まれた者は、吹き荒れる暴風の様な土埃と一緒に飛ばされ、命を落としてゆく。


 チビは銀色の敵の林を抜けると、上昇し、再度、敵の林に突っ込んでくる。

阿鼻叫喚とはこの事だろう。


 上空で方向転換して、何度でも執拗に別の方向から突っ込んでくるチビに、敵はどちらに逃げて良いかわからず逃げ惑うが、チビからは逃れられない。


 もう既に追撃どころではなくなっていた、ホルンソ軍よりも自分の命だ、もう指揮も何もない、それこそ蜘蛛の子散らすように思い思いの方向に、逃げ惑う。


 それでもチビは容赦なく、敵の命を刈り取りとるその手を緩めない。


「とんでもねーなこれは、いったい何が起きてるんだ」


 カベルネの目の前では、チビが、時折曲がり切れず、爆煙を上げて地面を削り取りながら、ソニックブームの爆音を引き連れ、音速でセレニア軍を蹴散らしてゆく。


 カベルネは思わずその凄まじいさまを眺めて立ち尽くす。


 最後の銀翼船が、そのチビの攻撃を阻止しようとチビを追いかけているが、まるで追いつけない。


 スピードも旋回性も、特に旋回性は遥かにチビには及ばない。


 銀翼船は必死にチビに追い縋っているのだろうが、照準すら合わせる事が出来ずに、只々飛び回っているだけだ。


 味方の翼持つ者達も、チビのソニックブームに巻き込まれぬ様、引き揚げている。


 チビの独壇場だった。


 もうそれは戦ではなくなっていた、只々逃げ惑う敵を容赦なく虐殺していくチビ。



◇◆◇◆◇



「将軍、音速の槍の攻撃目標が兵士に移りました、現在音速で地上を飛び回り兵を攻撃しています、このままでは、退却も間に合いません」


「何だと、そんなに低く飛べるのか、銀翼船は残っていないのか」


「映像が無いので詳細は解りませんが、連絡では時折地面に当たりながら飛んでいると言っています、銀翼船はワン・セグナ機のみです」


「地面に当たりながら飛んでいるだと、有り得ん、やはり生物なのか? 銀翼船は一機だけだと、兵の被害状況は」


「既に三割近くが殺られているとの報告です」


 この報告に指揮車の中が静まり返る、わずか数分で三割近く、それもたった一機、いや一匹に殺られてしまうとは、此処で判断を誤れば全滅すらあり得るだろう、重い空気の中一同ガルバドールとスタンレスに注目する。


 この想定外も甚だしい状況での、一亥の猶予も無い状況判断、遅れれば秒単位で兵の命が失われ続け、誤ればすべてが失われる。


 スタンレスが生唾を飲み込み、言葉を発しようとした時、意を決したガルバドールが、おもむろに言葉を発した。


「この手柄、我が頂きます、我が音速の槍落としてご覧にいれますので、つきましてはプリズムドローンの輸送車両、総て借り受けます、スタンレス司令はその間に残存兵を(まとめ)て撤退をお願い致します」


「何を言っているガルバドール、輸送車両には防衛用の機銃が二門ずつ付いているだけだぞ、中っても音速()()にダメージを与えられるとは思えん、フルオートか遠隔操作で」


 それどころか、実の処中てる事が出来るかどうかすら、怪しかった。


「カメラドローン無しの遠隔操作では死角多すぎて話になりませんし、フルオートは今からでは間に合いません、せめて、一台は直接操作しないと、それに、私には秘策がありますので、任せていただきましょう、では兵たちをよろしく頼みます」


(大した秘策ではないのだがな)


 ガルバドールは口角を上げ、自信たっぷりに言い切ると、直ぐに指令車両の厚い扉を開け、振り返る事無く出ていった。


「「「御武運を」」」


 ガルバドールの背中に、願いの言葉が掛けられる。


 ガルバドールは指令車両を出ると、意識の有る魔導士達を集め、自分の乗る輸送車のコンテナ一杯に、岩を詰めさせる。


 総ての輸送車のコンテナに詰めたい所だが、それは時間と、魔導士達の体力が許してくれない。


 セレニア軍の数少ない魔導士は既に限界に近い。


 ここで時間をとれば、総てが手遅れになってしまう。


 此れ一台でも、上手く掛かってくれれば、砂漠を抜けて一番近い大樹街道の森に逃げ込むくらいの時間は稼げるかもしれない。


 空ならば、いくらシルバーガレナニュウムとはいえ、さしたる厚さの無いコンテナ等、貫かれてしまう事だろうが、いくら音速の槍でも岩を満載したこの輸送車をぶち抜こうとすれば、只では済むまい。


 ただし、自分も只では済まないだろう、ガルバドールは既に覚悟を決めている。


 これは中てられるまでへまはできない、自動化の輸送車などに積む訳には行かない、途中で自走不能にでもなればすべてが終わってしまう。


 必ず音速の槍に中てられなければならないのだ。


「さてと、一秒でも長く時間を稼がんとな」


 ガルバドールは、輸送車のコクピットに座ると、最後の銀翼船と連絡を取り、残りの輸送車を自動化し、戦闘モードに切り替えると、音速の槍をターゲットに登録してすぐさま走り出す。


 一撃ではやられないように、直線状に並ばない様散会しつつ、四角い荷台の上に二門の機銃をせり出させた輸送車が、音速の槍に向かって行く。


「此方ガルバドール、ワン・セグナ機、聴こえるか」


 ガルバドールは最後の銀翼船の搭乗者ワン・セグナに呼びかける。


「はい将軍」


「撤退戦だ、音速()の(い)()は私が引き受ける、君は戻って、帰還するまで残存兵を守れ」


「了解しました、しかし」


「大丈夫だ、任せろ」


「将軍、御武運を」


 ワン・セグナは飛び去る。


 ガルバドールは、引き揚げる兵士に逆行し、ホルンソ外壁に向けて無人の輸送車部隊を走らせる。


 皆、恐怖に顔を引き攣らせて、ほんじんに向けて必死に走っている、中には武器も甲冑も投げ出して走っている者も見受けられるが、この状況では咎める事は出来まい。


 此方の武器は一切効かず、近寄る事も儘ならない始末なのだから、生き残るための判断としては、返って正解だろう。


 ガルバドールは苦笑いしながら、上空で旋回し攻撃態勢に入った音速の槍を確認すると、全車両の武装を起動させる。


 音速の槍が射程に入ると、各機銃が射撃を開始する、正確な予測射撃で、音速の槍にヒットしている筈なのだが、総て何事も無かったように弾かれ、ダメージが通っている様子は無い。


 こんな機銃の光弾よりもずっと口径の有る銀翼船の光弾でもさしたるダメージが通らないのだから、当然の結果だろう、ガルバドールもこれは予想の範疇だ。


 音速の槍に輸送車を認識させ、攻撃させるのが目的だ、音速の槍がこれを鬱陶しいとでも思ってくれれば成功だろう。



◇◆◇◆◇



 リゼルダの昂った思いを受け取ったチビは視野が狭くなっていた。


 チビは、銀色の輸送車を視界の端にとらえるが、気にする事無く意識の外に追い出して再び敵兵士を屠り始める。


 しかし、輸送車の機関銃が執拗にチビを狙ってくる。


 しかもそれなりにチビに中ててくる。


 中ったからと言ってチビにダメージが有る訳では無いが、ずっと砂でも投げつけられている様で鬱陶しい。


 チビは上昇すると、鬱陶しい銀の輸送車に狙いをつけ急降下を始める。


 輸送車の正面から、ドライバーを狙おうとしたチビだが、ドライバーが見当たらない。


 チビは輸送車を運転席から貫き、コンテナの後部ハッチを突き破る。


 輸送車はそのまま大破し、横倒しになって沈黙する。


 鬱陶しい機銃もひしゃげて投げ出されている。


 さしたるダメージも無く輸送車を貫けたチビは鬱陶しい輸送車を先に片付けようと決め、次の輸送車に狙いを定める。


 次の輸送車は真横から貫かれ、くの字になって地面に弾かれながら大破していった。


「正面から来られたら助からんな」


 それもガルバドールの予想の範疇ではあったが、対策を立てているわけでは無い、正面から来ない方に賭けただけである。


 そもそも対策など立てている時間は無かった。


 只、正面からくれば、奴のダメージも大きくなるだろう、ガルバドール本人の命さえ考慮しなければ、それは最も効果的な当たり方だった。


 このまま行けば次は多分自分の番だろう。


(よし、正面から来やがれ、一泡吹かせてやる)


 ガルバドールは覚悟を決める。


 上空から狙うチビの矛先がガルバドールの繰る輸送車に向けられる。


 チビの狙いは輸送車の横っ腹、チビは多少なりと衝撃の少なかった横からの攻撃を選んだ様だ。


 果たしてチビがガルバドールの繰る大岩を満載した輸送車の横っ腹に迫る。


果たして、ガルバドールの思惑通りに音速の槍はガルバドールの繰る輸送車のコンテナに突っ込んでくる。


(よし、死なずに済むかもしれんな)


ガルバドールは少し案著しながらも、背筋のざわつきを押さえながら身構えた。


 次の瞬ガルバドールの繰る輸送車は、子供に蹴飛ばされた玩具の様に、満載した大岩をまき散らしながら砂煙を上げて横転してゆく。


 大岩の詰まったコンテナを貫こうとしたチビは、コンテナの側面から入り、ぎっしりと詰められた大岩にぶち当たると、大岩を爆散させ、コンテナの天井を抜いて上空に弾け飛んだ。


 上空に投げ出されたチビは、意識朦朧(もうろう)と上昇し、本能的にリゼルダを探し出すと、リゼルダに向かって飛行するが、減速しきれず、意識を失ったリゼルダを運んでいるハーピアの黒い羽を(かす)めて、そのまま地面に突き刺さった。


 ハーピアは少しぎょっとして体勢を崩すも、リゼルダを抱えたまま、突き刺さったチビの周りをうまく旋回すると、チビを回収した。


 ガルバドールは、満載した大岩をまき散らしながら横転する輸送車の運転席で撹拌されるが、無傷で這い出すと、丁度上手い具合に減速して、ガルバドールの輸送車との衝突を回避しようとしていた輸送車が、目の前を迂回してゆく。


(付いている、運が良ければ帰還できる)


 ガルバドールは無人の輸送車に取り付くと、直ぐに運転席に納まった。


 結果はどうであれ、もうガルバドールに出来る事は無い。


 幸いにして、ガルバドールの思惑通り、大岩を満載した輸送車のコンテナに突っ込んでくれた音速の槍は、そのままどこかに姿を消して今は見えない。


 敵も破壊された門に向かって引いて行く。


 ガルバドールはすぐさま残り一台の輸送車を護衛にし、撤退を開始した。


 途中息のありそうな者を見つけてはコンテナに収容しつつ撤退するが、敵もこの期に及んでわざわざそれを攻撃しては来ないだろう。


 ガルバドールはルート上で少しでも息のありそうな者は総て収容しながら撤退する。


 いくらこの期に及んでも戦場総てを回ろうとすれば敵も黙ってはいないかもしれない。


 それでもかなりの数のシルバーナイツがコンテナに収容される。


 本来なら、是が非でもセレニア(シルバーデモニア)の遺体も回収したい所だが、既にセレニア人の遺体がもしかすると捕虜が敵の手に落ちてしまっている以上、ガルバドールは生きている者を優先した。


 ガルバドールは、二台の輸送車のコンテナを負傷者で一杯にしながら帰還した。



すみません、少し入院する羽目になり、空いてしまいました。

次回より、こちらの方がしっくりきそうな内容だったので少し、こちらに加筆しました。

又執筆再会しますので宜しくお願いいたします。事項は、明日アップします。


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