ホルンソの攻防ⅩⅢ(チビの気まぐれ)
ヒュランは一際大きな光剣を両手に、真直ぐルピタに向かって来る。
ルピタはダブルアックスに雷を纏わせ、ヒュランを薙ぎ払おうとするが、見事なまでに受け流され、ヒュランの光剣がルピタの首を薙ぎに来る。
纏わせた雷も受けている筈なのだが、派手な火花は散る物の、ヒュランは何事も無かったかのように光剣を振るう。
ルピタは躱すのが間に合わないと見るや、更に踏み込み、肩口からヒュランに体当たりをかます。
(まさか、そこから踏み込んでくるのか)
ヒュランは躱し切れずに、ルピタに弾き飛ばされる。
激しい体格差もあり、ヒュランは派手に飛ばされ、シルバーナイツを巻き込んで、転がって行く。
ルピタの後ろを守っているカベルネは、間合いの外から光弾を浴びせられ、苦戦していた。
リビングデットが盾になってくれてはいるが、早々総て防げる訳では無い。
「いててて、それは一寸痛いだけで効かないって、いででで、だからやめろって、まともに勝負しやがれ」
カベルネは、そんな攻撃に悪態をつくが、シルバーデモニアは無言でカベルネを撃ち続ける。
ゲンブも光弾の嵐にさらされてはいるが、前面のワニ顔付近だけ巨大なアックスで防御し、自分の間合いまで踏み込んでは長く太い尻尾でシルバーデモニアをサッカーボールのように飛ばしてゆく。
が、飛ばされたシルバーデモニアは直ぐに立ち上がり、その場から光弾を撃ちこんでくる。
左手をゲンブに向け光弾を撃ち続けるシルバーデモニアの後ろを通り過ぎる竜巻の中から、ガラシャが現れる。
ガラシャはシルバーデモニアの背中に、手を添える、と、ガラシャの体全体が滲んだように映り、シルバーデモニアはその場に崩れ落ち、息絶えていた。
そんな光景を目にしたシルバーデモニアは、直ぐにガラシャに光弾が集中させるが、ガラシャの装甲に傷一つ付けることはできなかった。
光弾の攻撃を諦めたシルバーデモニアは、直ぐに光剣を装備するとガラシャに向かうが、ガラシャを斬りつけようと近づいた瞬間、懐に入られ、ガラシャを斬りつける前に絶命する。
次にガラシャの目に留まったのはヒュランだった。
ヒュランは、雷を飛ばし火花を散らして、派手にルピタと戦っていたが、いきなり、背骨を掴まれた様な恐怖にも似た違和感に襲われ、その場を飛びのいた。
其処には、自分達にも似たような黒い甲冑に身を包んだ戦士が拳を構えていた。
(あれは危険だ)
ヒュランの中の警報が鳴り響く。
ヒュランはルピタを躱し、カベルネの槍を薙ぎ払い、戦場に消える。
「ああー畜生、俺の槍、どれだけこの槍につぎ込んだと思ってるだ」
カベルネの槍は刃が斬り落とされ、棍になっていた。
カベルネは棍を投げ捨て、ヒュランを捕まえようと手を伸ばすが、ヒュランには届かない。
代りに、一緒に消えようとしたシルバーデモニアを捕まえる。
「捕まえた!あいつの代りに俺の武器になってもらおう」
カベルネはシルバーデモニア(そいつ)の足をもって振り回す。
「わああああー やめろ止めてくれ」
まるでヌンチャクでも振り回すように大きな手でシルバーデモニア(そいつ)両足をもって敵を殴る。
躱されればそのまま生きた得物地面に叩きつけ、当たれば一緒に叩き潰す。
カベルネの周りから敵が離れ、遠巻きになるが、カベルネは構わず生きたヌンチャクを振り回しながら、敵に突進してゆく。
「なかなかいい得物じゃねーか」
カベルネは口角を上げる
(チッ仕方ない)
捕まったのは、自分が引き連れてきたセレニア人だ、見捨てる訳にはいかない、ヒュランは取って返して、カベルネの前に立ちはだかる。
ガラシャを視界の端に捉えつつ、自分の体格に不釣り合いなくらい大きな光剣を両の手に構え、カベルネをけん制する。
「来たな、皆手を出すなよ、此奴は俺の獲物だ」
怒り心頭のカベルネは生きたヌンチャクを構える。
「カベルネ、そいつとやるなら、これを貸すぞ」
ルピタが自分のガントレットを放ってよこす。
アダマンタイトの爪を内蔵し、甲の部分にはグラビナイトを使ったミスリル製のガントレット。
「姫様」
「存分に戦え、そいつなら慣れているだろ」
そう言うとルピタはダブルアックスを振り回し、押し寄せるシルバーナイツを薙ぎ払う。
「ありがとうございます」
カベルネは生きたヌンチャクを放りだすと、慣れた手つきで、魔道調整を効かせ、ガントレットを自分の手に合わせると、自分達の爪を模ったショートソードほども有るアダマンタイト製の爪を、二本ずつジャックナイフの様に跳ね出させる。
そんなガントレットと爪を使った鉄甲術、これは銀虎族のお家芸だ、必ず皆子供の頃から仕込まれる。
勿論ガントレットが無ければ、自前の爪と拳を振るって戦う為の体術だ。
これはカベルネも例外ではない、子供の頃からこの鉄甲術を仕込まれている。
ガントレットを付けたカベルネは、堂に入った低い構えから、ヒュランンの懐に飛び込む。
(先刻より速いじゃないか)
ヒュランは驚く暇もなく、喉元めがけて繰り出されたアダマンタイトの爪をスウェーで躱しざま、光剣を振り下ろすが、既にカベルネは飛びのき、再度ヒュランに向って来ている。
ヒュランは目の端に、仲間の救出状況を確認する。
(もう少しか、幸い此奴の宣言通り、手出しする者がいないのは助かるが、)
ヒュランは下段から光剣を払い、躱したカベルネに蹴りを入れようとするが、それはカベルネの足で器用に払われ、苦し紛れに振り下ろした光剣に爪をかけられ、光剣を絡め取られてしまう。
(しまった)
(よっし)
決まったと思たカベルネは油断した。
ヒュランはその隙を逃さず、そのまま首を刈りに来たカベルネに対し、躱さずに踏み込み、懐に飛び込むとカベルネに肩口からぶちかます。
大人と子供に近い体格差だが、それでもヒュランはカベルネを弾く。
カベルネは体勢を崩し、数歩押し戻されて、踏みとどまる。
ヒュランはその隙を有効に活用し、仲間の救出を確認すると、逃げの一手でその場を離脱する。
「え、ちょ、そこで逃げるのかよ」
向かって来るものと身構えたカベルネは上手くすかされ、ヒュランを見失ってしまう。
「チッ戦利品は此れだけかよ」
カベルネはヒュランから絡め取った光剣を拾うと、発動させようとしたがうんともすんとも言わないので、柄だけになった光剣を懐にしまう。
◇◆◇◆◇
『チビ、そのまま敵の一番後ろまで行って様子を見てくれ』
チビは水鏡を潜って、銀翼船をやり過ごすと、ショートソードを持ち直してリゼルダに言われた通り、敵の後方を偵察に向かう。
それは戦場のはるか後方、砂漠に隆起した大岩の陰。
其処には思った通り敵が陣を張っていたが、リゼルダ達のイメージとはかけ離れたものだった。
大きなテントが幾つも張ってあるのではと思いきや、銀色の無機質な四角い箱がいくつも並んでいる。
箱は一つ一つが大きく、小さな家の様になっているのだろう、扉が有り、人が出入りしている。
その銀色の箱は、一つの大きな箱を守る様に小さな箱が配置されており、チビが見ていると、一つの小さな箱が、戦場に向かって、移動し始めた。
リュウジがこの光景を見る事が出来たなら、即座に装甲車だ、と言ったことだろうが、チビにもリゼルダにもそんな事は解る筈もない。
「あれは拙い、銀翼船と同じような物で出来た動く箱で陣を作っている」
銀翼船と同じ材質の物なら、貫いて攻撃すると言う訳にはいかない。
「動く箱?何が見えるんだ、リゼルダ、もう少し詳しく説明してくれ」
リゼルダはチビの目から、銀色の箱で出来た、敵陣を観察する。
銀色の箱は、馬車よりも少し大きく、やはり馬車の車輪よりずっと小ぶりではあるが、やはり車輪らしき物が付いている。
只それを牽引する馬も獣も居ない。
箱だけが自走している。
「そうだな、引かなくても勝手に動く馬車?かな」
「なるほど」
『車ですね』
『多分な、動力は何か解らんが車だろうな、』
「なるほどって、解ったのか」
リュウジの答えにリゼルダが不思議がる。
「ああ、多分車ってやつだが、銀翼船と同じ物で出来ているなら、リゼルダの言う通り、中にいる者を殺るのは難しいだろう、もし装甲車とかだったら、お手上げかな」
「装甲車?」
「分厚い装甲で覆われた勝手に動く馬車だ」
「なるほど、それは困るな、どちらにしても、敵の大将を直接って訳には行かないな」
「構わん、なら、予定通り、北門から引き入れた敵を包囲して殲滅しつつ、外壁を守るしかない、まさに予定通りだ」
クジョウ将軍は言い放つ
「籠城か」
「その為の地下都市だ、援軍が来なくても、地下で自給自足が可能だ、そう簡単には落ちんぞ、外壁が抜かれても、城壁もあるからな」
リュウジの呟きに、リュウマ王が隈の出来た目をぎらつかせる。
本来、籠城は援軍をあてにした作戦だが、内で、自給自足が成り立つと、攻める方にしてみればこの上なく厄介だろう、攻めるには相手の数倍の戦力をつぎ込み、補給を絶つ事が出来ないのだ。
外からは分からないが、広大な地下都市があり、水、食料はおろか、資源に、工場まで備えて武器まで自前で生産できるのだ、補給が無くても一向に困る事は無い。
そんな城、落とすのにどれだけの戦力をつぎ込まなければならないか、見当もつかないだろう。
リュウマ王の言う通り、簡単には落とせない城だ。
さらに連絡さえ取れれば、太陽の王国の援軍すら期待できるのだ。
(とりあえず、チビは戻すか)
『チビ、もどれ』
リゼルダの指示に、ショートソードを持ったまま、戻ろうとしたチビだが、ショートソードをもって帰るのが面倒に立ったチビは、何気に目に入った敵の本陣めがけて急降下を始める。
自分の速度に絶対の自信を持つチビは、此処で重たいショートソードを放せば、もう誰も自分に追いつく事は出来ないだろう、ならばここでショートソードを放して戻る事にしたのだが、そのショートソードを、どうせなら、敵の本陣に落としてやろうと考えた。
チビは全力で敵本陣めがけて垂直降下を始める。
敵本陣の磨き抜かれた銀色の屋根に音速越えのショートソードが突き刺さる。
爆音を上げ、真上に弾け、地面に落下した本陣の屋根は、クレーターの様に陥没しその中央にショートソードの柄が佇立する。
チビは音の壁を破り再び上昇すると、一路リゼルダの待つ北の二番塔に向かうのだった。




