ホルンソの攻防Ⅻ(伝説の転移魔法)
「クジョウよ、太陽王は此方に向かっているにではないのか」
「その筈なのですが」
王の言葉にクジョウ将軍は言いよどむ。
北の二番塔(司令部)に来るはずのリュウジが一向に現れないのだ。
ラタとタンピには此処に連れて来る様に言ったはずだが、リュウジは現れない。
「兎に角大切なお方だ、何か有ってはならん」
「は、直ちに、マリー直ぐにラタに連絡を取ってくれ」
「ラタ、クジョウ将軍が、太陽王はどうしたって?」
(どうしよう、もう)
ラタはタンピの連絡に焦りまくるがどうしようもない。
リュウジを北の二番塔(司令部)に案内しようとはしたのだが戦うなら全員で、と言うリュウジに押し切られ、北門に向かったのだ。
此れにはゲンブとガラシャも反対し、特にゲンブはだいぶ抵抗したのだが、余り解っていないリゼルダとルピタに押し切られる形となった。
哀れなラタは運を天に任せるしかなかった。
(正直に言うしかない)
「北門に向かったって伝えて」
「北門に向かった様です」
「何だと、どうして、最前線じゃないか、直ぐに保護しろ」
マリーの報告を聞き、騎乗将軍が思わず立ち上がり椅子が弾き飛ばされる。
「それは拙いな、水鏡を使おう、連絡を取って、此処から見えるところに出てもらうのだ」
「王様、いくら何でももう無理です、御身体が持ちません」
「クジョウよ、今使わずして何の能力か、速く見つけ出せ」
「ですが」
「急げ、何かあってからでは遅い」
「御意! マリー」
「将軍、あれではないでしょうか」
それを聞いていた近衛の一人が、偶然にも砲撃を受ける北門の上に、リュウジらしき姿を見つける。
「何!」
「間違いない」
「よし!ポーシャ悪いが頼むぞ」
「はい王様、任せて下さい」
ポーシャは重たい体に鞭打って王の膝の上に立ち上がる。
王もそんなポーシャを目の前の机に乗せると、自らも立ち上がり、杖と増幅玉を発動させ、魔法の増幅の準備を始める。
ポーシャは無理矢理回復した魔素を掻き集め水鏡を作り始める。
びっしょりと躰中から汗が流れ、ポーシャ前にいつもよりさらに小さな水鏡が現れるが、水鏡はそれ以上広がらない。
ホルンソ王はそれが限界とみて、増幅を開始する。
杖と、玉で増幅しても水鏡は子供が一人、通れるかどうか位のサイズにしか広がらなかった。
水鏡が出来上がると、既に立ち上がって身構えていたクジョウ将軍が躊躇せずに走るより、何とか上半身を水鏡に突っ込み、リュウジを引きずり出した。
リュウジが引きずり出されると、何故かリゼルダも一緒に水鏡から引きずりだされ、その場に転げ落ちた。
リュウジの目の前にはリュウジを引き上げたクジョウ将軍、その後ろには近衛に囲まれ、簡易的な玉座に座り、ゲッソリとやつれたホルンソ王。
その膝の上には、グッタリとしたポーシャがいた。
(これは凄い、次元転移だ)
『ええ、主の使った装置よりはかなり小さいけれど、同じようですね』
(これはもしかすると帰る算段がつくかも)
リュウジは内心色めき立つも、状況は深刻、ぐっと抑えて静かに立ち上がる。
するとクジョウ将軍が跪きリュウジに許しを請う。
「太陽王様、ご無礼誠に申し訳ありません、王様を無理矢理引きずり込むなど、手打ちにされても異存は有りませんが、出来るのならばこの戦が終わるまで、しばし猶予をいただきとうございます」
「勿論だが、一つだけ条件が有る、太陽王は、止めてくれ」
「承知いたしました、・・・リュ・・リュウジ様」
余りの予想外な条件にクジョウはドギマギして、言いよどむ。
「リュウジ様、お怪我は有りませんか、最前線に向かう等、余り無茶はしないでください、貴方が、敵の手に落たり、命を落とすようなことが有れば、総てが潰えてしまいます、貴方は既に我らの希望なのです」
やつれたホルンソ王から、切実な言葉が紡ぎだされる。
「も押し訳ない、リュウマ王すまない事をした、次からは気を付ける」
(あの魔法、そこまで消耗するのか・・・)
リュウジは目の下に隈を創りゲッソリとやつれたリュウマ王を思わず凝視する。
リュウジがリュウマ王の魔素を見ると、魔素の残り香が少しまとわりつく位でリュウマ王の魔素はほぼ底を突いているようだった。
(白蓮、あの状態は拙いよな?)
『ええ、立っているのも辛いんじゃないかしら』
(白蓮あれだ)
『良いんですか主様もう殆ど残っていませんが』
(ああ、出してやってくれ)
白蓮はその小さな手に一粒ずつ丸薬をもってリュウジの内から出てくる。
それは魔素丸、リュウジの体内で白蓮によって作り出される丸薬。
副作用も一切無く、一粒で魔素が完全に回復する丸薬だ。
それは数多の研究者が作り出そうとしている効力だが、今の処最高峰は博士のヤバイ奴だ。
これを作り出せるのは唯一守護精霊のみ、そしてその存在すら、当時から秘匿とされていたため、現在それを知る者はリュウジの身内のみかもしれない。
リュウジだ白蓮を乗せた手をリュウマ王に差し出すと、リュウマ王は白蓮の小さな手から、二粒の魔素丸を受け取る。
「これは?」
「魔素丸よ、飲んでみて」
リュウマ王がそれを口にすると、みるみると魔素が回復してゆく。
「これは凄い、博士が泣いて悔しがるな、 ポーシャ」
リュウマ王はポーシャの口にも魔素丸を入れてやる。
「凄いぞ、リュウジ、これはきっと伝説の転移魔法だ、誰の魔法だ」
キョロキョロと辺りを見回していたリゼルダが、有る程度状況を把握したららしくリュウジに詰め寄ってくる。
「この子の魔法だが」
「此れなら勝てる、好きな処に部隊を送り込めるじゃないか、敵の大将の処に私を送り込め、直ぐに首をとってきてやる」
リゼルダの問いに、リュウマ王が情けなさそうに答える。
「リゼルダ殿、残念ながらこの魔法は、ポーシャが魔法を発動した場所から、ポーシャが視認できる場所しか発動できないのだ、それに、人が通れる様になったのはつい先ほど事で、そのサイズになると今あなた達が通ったぐらいの時間が背一杯で、とても部隊など送り込めない」
実際普通ならドラゴナイト一人送り込めれば戦況がひっくり返ったりしてしまうのだが、今回は何分にも相手がシルバーデモニアではドラゴナイトですら返り討ちにあってしまうかもしれない。
「視認できる場所か」
確かに、今敵の大将が何処に居るのか特定できない。
リゼルダは何気に目の前の戦場に目を移すと、バロとグラートが見えざる(インビジイブル)網で、拘束した浮遊砲台を襲撃しようとするチビと阻もうとする銀翼船、その銀翼船をチビに近づけまいとするピノとガウスライダー達の空中戦が目に飛び込んでくる。
「なら、チビを移動させよう、そうすれば、銀翼船でも、あの浮いた砲台でも、落とせるかもしれない、入り口を窓の前に、出口を砲台の上に作れるか」
「なるほど」
王はリゼルダの意を解し、ポーシャを抱いて立ち上がる。
直ぐにリゼルダのイメージがチビに伝えられチビは銀翼船を振り切り、北の二番塔(司令部)に向けて旋回する。
チビは北の二番塔(司令部)の前に水鏡を確認すると、水鏡に向かって全力で加速する。
音速を超えて加速したチビがピノのショートソードをもって水鏡に飛び込む。
出口はバロの見えざる(インビジイブル)網を絡めた浮遊砲台の真上だ。
水鏡を潜った瞬間、チビの視界にバロの見えざる(インビジイブル)網を絡めた浮遊砲台が飛び込んでくる。
重力も垂直落下に変わり、チビは更に加速する。
チビはそのままショートソードの刃先を浮遊砲台に向けて、放すと浮遊砲台のすぐ脇をすり抜け離脱する。
チビが浮遊砲台のすぐ脇をすり抜けると簡抜入れずにチビが先程放ったピノのショートソードが浮遊砲台に着弾する。
ショートソードは浮遊砲台を貫通し大地に突き刺さる。
しかし浮遊砲台は炎上しながらも最後の砲撃を放ち、爆発する。
その最後の砲撃は傾いだ北門に突き刺さり、北門は破られ、セレニア軍が雪崩れ込む。
「破られたか、先に行くぞ、バレン殿、来い、カベルネ」
ルピタはそう言うと、カベルネを引き連れ、崩れかけた外壁から飛び降りる。
ゲンブも巨大なアックスを両手にガラシャも槍を手にあとに続く。
セレニア軍が雪崩れ込む土煙の中まず最初にリビングデット達が立ち上がり、雪崩れ込んだセレニア軍は北門の中で待ち構えていたホルンンソ軍と、自軍の中にいきなり現れた、リビングデットに翻弄され、無駄にその数を減らしていた。
ルピタたちはそこに降り立ち、リビングデットの援護を受けながらシルバーナイツをなぎ倒す。
なぎ倒されたシルバーナイツはリビングデットとして立ち上がり、ルピタたちは門前で、常にリビングデットを従えて戦う形だ。
セレニアの数少ない有翼人種も北門に現れたが、こちらはタイガーバードに墜とされ、リビングデットして再び立ち上がった時には、タイガーバードと共闘し、セレニア軍に牙をむく始末だった。
ルピタはカベルネとリビングデットを連れて皆より少し前方で雷を飛ばしながらダブルアックスを振り回す。
カベルネに雷は無効、リビングデット倒す傍から入れ替わるのでルピタは気にせず雷をまき散らしながらダブルアックスを振るう。
それを正面から受けてしまったシルバーナイツは、甲冑がひしゃげ、蹴られたサッカーボールのように転がって行く。
カベルネも大槍に電撃を通しながら、ルピタの後ろを守る。
ゲンブは、防御を無視し、両手に持った巨大なアックスを振り回し、草でも刈る様に敵を払って行く。
彼の躰にシルバーナイツの剣は通用しない、背中の甲羅や、皮膚の固い場所なら、光弾すら弾くだろう。
そんな、彼らにやられた半数以上の敵は、又立ち上がり、剣を握りなおすと再び向かって来る。
しかし、彼の倒した敵は、殆ど立ち上がる事は無かった。
ガラシャ・加藤、ルピタやゲンブ等二メートル越えの巨体の戦士の中、百八十二も満たない小柄なガラシャだが、彼の振るう拳は独特、槍で突けば槍が突き刺さらずとも敵は倒れ、近づけば、掌底、肘、肩、体当たり等で、弾かれ、外傷は無くとも二度と立ち上がらない。
ガラシャがシルバーナイツに向けて槍を突き出す、シルバーナイツのブレスプレートに中るが傷すらつかない、一瞬ピントがずれたかのように槍の輪郭が滲むと、シルバーナイツが崩れ落ちる。
そして、槍はその後三分と持たずに砕け散るが、ガラシャは気にも留めない。
砕けた槍を手放すと、ガラシャは拳で戦い始める。
超接近戦、瞬時に顔がぶつかるぐらいまで懐に入ると、ガラシャの敵に触れた部分が滲んだように見え、外傷も無く敵が崩れ落ちる。
「やっぱりこっちの方が合ってるな」
ガラシャは、周りが振動するほど踏み込むと、今度は前方の敵を肩で弾き飛ばす。
リュウジが見ていたなら、その踏み込みは震脚、とか踏鳴、とか言ったことだろう。
敵の飛ばされた先には、バレンの創ったであろう氷弾入り竜巻が巻き起こりシルバーナイツを吸い上げていた。
(ちょうどいいのが来たな)
ガラシャは体全体をずっと滲んだようにすると滑る様にその竜巻に入り込み、それを隠れ蓑に、敵を倒し始める。
そして、ダブルアックスを振り回すルピタに、光弾が浴びせられる。
「あちぃいでででえーーーー」
光弾は総てルピタの鏡の様な体毛に弾かれ跳弾したが、かなり痛い様だ。
「来たな」
「セレニア帝国、剣士ヒュラン参る」
明らかにシルバーナイツとは格の違う、シルバーデモニアが八人ルピタたちの前に立ちはだかる。
誤字修正いたしました。




