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異世界の誓約者  作者: 七足八羽
ホルンソ戦役
50/60

ホルンソの攻防Ⅹ(衝突)

殿(しんがり)はバレン様だ、バレン様が入ったら門を閉めろ」


 エルダードラゴン・ゴライアスが通れる様に造られた巨大な門、その内側に作られた二回りほど小さな門、それでも十分に巨大な門なのだが、その門を開き、帰還してくる黒龍騎士団を受け入れる。


 流石の黒龍騎士団も無傷とはいかなかった様だ、当然と言えば当然だが、八千を超えるセレニア軍に、百にも満たない戦力で正面からぶつかって、八割近くが生還するなど普通ならあり得ない事だ。


 その黒龍騎士団を束ねるドラゴナイト・バレンが、誓約竜サイノスと共に、北門入ろうとすると、右後方からオーラロードが戦場を貫いてくる。


 バレンは直ぐに踵を返すと、サイノスの上で長尺のハルバートを構えてオーラロードの出口を守る。


 これはグングの魔法、魔力の消費が激しく、そう長い距離は作れないと聞いていた魔法、それが戦場を貫いて、北門まで続いている。


 その距離にバレンは嫌な予感を覚えつつ、迫りくるセレニア軍を見詰めてハルバートを構える手に魔素を集める。


 そんなバレンの両脇は、シュアルキックのリビングデットと化したシルバーナイツが集まり、一緒にオーラロードの出口を固める。


 誰がオーラロードを通って来るのか、グングとホセとカフッか、オーラロードの出口を守るバレンも、門の内側から、リビングデットを送り込んでいるシュアルキックもそう思っていた。


 しかしゴリラ顔のグングも、ホセもミラージュカーバンクルのカフッも現れない。


 このまま此処に敵が押し寄せればバレンとリビングデットが如何(いか)に奮闘しようとこの出口は守り切れないだろう、門もそれまで開けておく訳にはいかない。


 目の前に敵が迫る中、オーラロードが出口に向かって消えて行く。


「シュアルキック、もう誰も来そうにない、後は任せる」


 バレンが消えゆくオーラロードに撤退を決意した時、トランフェの幻獣が現れる。


 四体のフライングナイトと四体のニードルドッグが現れる。


 フライングナイトが上空を固め、ニードルドッグが消えゆくオーラロードに飛び込んで行く。


「トランフェか、魔力が復活したのか、博士のやばいシリーズか、」


(これだけ幻獣を送り込んでくるとは、トランフェの奴、どれだけ飲んだんだ)


 魔力を回復するポーションは今の処魔素水だけだが、どんなに濃い魔素水でも魔力を完全に回復させるほどは飲めない。


 しかし博士の創ったやばい奴シリーズの魔力回復ポーションは後の副作用もさることながら、頑張れば魔力を完全に回復するくらい飲めるらしい。


 ニードルドック達は、オーラロードが消滅する少し前にキョウの魔獣鎧を銜えたニードルドックと共に戻ってきた。


 ニードルドック達はそのまま北門に駆け込み、バレンもあとに続く。


「バレン様が入られた、直ぐに門を閉めろ!」


 バレンとサイノスが飛び込み、門が閉まると、バレンの後ろを守っていたリビングデットは糸が切れた様に倒れ、フライングナイトはトランフェの魔力となって消滅した。


 セレニア軍が門の前に押し寄せた時には、シルバーナイツの死体が残るのみだった。



◇◆◇◆◇



「帰還したか、皆無事かマリー」


 黒龍騎士団からの報告がマリーを通してクジョウ将軍に入ってくる。


「いえ、結構やられてしまったみたいです」


「そうか、何人残っている」


「ラッチャが六十って言ってます」


「六十か、皆まだ戦えるか」


「戦えるって、でもラミアのガーラが、腕もがれてドクターの処に運ばれている」


「そうか、ドクターなら、繋げてくれるだろうが‥」


「ドクターは名医」


「そうだな、よし、マリー、予定通り作戦遂行だ、バレンとブレッズに伝えろ」


「はい、レイカ様」



◇◆◇◆◇



「「「「「おおおおおおおーーーーーー」」」」」


 バレンとサイノスが門に飛び込むと、地響きの様な鬨の声が上り、巨大な門が音を立てて閉まる。


 バレンとサイノスも鬨の声を上げると、バレンがサイノスの上からハルバートを振り上げて、ホルンソ軍を鼓舞する。


「敵はすぐそこだ、門が破られても気にするな、そんな事は想定内だ、だが、入って来た奴は一人も生きて帰すな、我々に刃を向けた事を後悔させてやれ」


「「「「「おおおおおおおーーーーーー」」」」」


「存分に戦え、上空は俺達に任せろ!」


 上空からバロの声が響き、バロ、ピノの率いるガウス隊が、次々と門前の広場に降り立つ。


 その数は減らしたものの、ガウスライダーは全員交代し、ポーチには治癒ポーションと解禁になった博士のヤバいポーションをぎっしりと詰め込み、臨戦態勢だ。


「おおーバロ、ピノ、制空権を奪い返したのだな」


「当たり前だ、俺達の街だぞ、いつまでも好き勝手させてたまるか、一機落としてやったらたら、尻尾巻いて逃げていったぜ」


「「「「「おおおおおおおーーーーーー」」」」」


「流石バロ様銀翼船など敵ではありませんな」


 バロとピノの言葉に再度鬨の声が上る。


 実質内情はどうあれ、結果は言葉通りだ、バロもピノも自分を鼓舞しながら、軍を鼓舞する。


「そして、見ろ、新たなドラゴナイトと太陽王だ」


 バロが示す上空に、ハーピアに抱えられたリュウジと、大きく羽を広げたチビに片手でぶら下がっているリゼルダが現れる。


「太陽王だと」


 伝説の不在国王の登場にどよめきが走る。


「そうだ、あの不在の太陽王リュウジ様と、その従者ドラゴナイト・リゼルダ様だ」


 リュウジ達が降りると、どよめきは直ぐに収まり、リュウジの言葉を待って、場は静まり返る。


 しかし、最初に言葉を発したのは、リゼルダだった。


「銀翼船は、リュウジが第一従者の私が叩き落してやった、殲滅してやろうと思ったが、奴ら逃げ足だけは早くてな、次は必ず殲滅してやる」


 リゼルダが二刀の真っ赤な剣を抜き放ち振り上げるようとすると、後方の瓦礫を飛び越え、リュウジの脇に肩で息をしながら銀の獣人が降り立つ。


「何故我を置いて行く、奴をぶちのめしたのは、我ではないか、我も一緒に運べ!我はリュウの筆頭従者だぞ」


 ルピタはハーピアに空輸拒否られ、ご立腹だった。


 ハーピアもルピタを運ぶ事が出来ないわけでは無いのだが、ハーピアがルピタを運ぶとなると、ルピタが走るよりも遅くなってしまうので、本末転倒だったのだ。


 そしてもう一人。


「姫様おいて行かないでください」


 愛用の槍を背負ったカベルネ。


(シルバーデモニア)は太陽王の筆頭従者の我が叩きのめしてやった、我は無敵だ、我に適うものな・・・」


 ルピタも得物を振り上げようとしたが、自前の爪とガントレットしかないので様にならない。


カベルネの槍を見るが、カベルネは静かに槍を自分の後ろに隠す。


ルピタはあたりを見回し、ツカツカトバレンに歩み寄ると、バレンのハルバートに手をかけようとする。


「待て、得物なら、面白い物を貸してやろう、あれを持って来い」


「ダブルアックスですか、でもあれはバレン様の」


「私はこのハルバートの方が手に馴染む、あれはルピタ殿に丁度よかろう」


 すると、バレンの少し後ろから、鈍色の兵士二人がかりで、両側がアックスになった長尺の武器が運ばれてきた。


 アックスの中心には小さいながらも玉が埋め込まれ、アックス自体はグラビナイトで出来ているようだった。


 ルピタが使う以上玉が発動する事は無いかもしれないが、


「すまんな、この得物我が借り受ける、この借りは必ず返す」


「ならば、この戦場で」


「承知した」


 ルピタは、ダブルアックスを手に取ると、ひとしきり振り回し、ダブルアックスに雷を通す。


(手に馴染む)


 魔力を通さないグラビナイトだが、電気は普通以上に通す様だ。


 ダブルアックスから盛大に雷が打ちあがる。


(凄い、雷が通飛ばせる、これなら)


 そしてもう一度、リゼルダも負けじと叫ぶ。


「「我は無敵、我に適う者無し!!」」


 リュウジの右には巨大な炎の柱、左には巨大な雷が打ちあがる。


(なんだあの武器は、いや姫様の力なのか)


 カベルネはダブルアックスから放たれる信じられない威力の雷に目を剥く。


 取り囲む兵士たちも、その魔法の大きさに思わず後ずる。


 そしてその中央にいる太陽王に皆が注目する。


(この後俺に、何を言えと、ええいもうやけだ)


「我、太陽王、古き盟約に乗っ取り、我が王国はホルンソ王国と共に戦おう、此処に太陽の王国参戦いたす!」


 リュウジもギアナタイとの刀を振り上げる。


 何も出ないが、後ろからゲンブとガラシャを引き連れたゴライアスとアーバンが現れ、ゴライアスが咆哮を上げる。


「GGGGGGGaaOOOOO―――――――」


 兵士達は一気に湧き上がる。


「「「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」」」」」


 地響きが鳴りやまない。


 士気が沸騰する。



◇◆◇◆◇



 愛騎アーマーリザードと、借り受けたスケイルホースを走らせるゲンブとガラシャにも、鬨の声は届いた。


 鳴りやまない鬨の声。


「凄いな、我が王が到着したのか」


「いや、流石にそれは早すぎます、黒龍騎士団が帰還したのでしょう、私達も急ぎましょう」


「しかし、ルピタ殿達は騎獣を使わんのか」


「さあ、でも眼中にはなさそうですね」


「兎に角急ごう、出遅れてしまう」


 二人の後ろから巨大な影が迫る。


 ホルンソの聖騎士アーバンとゴライアス。


「ゲンブ殿、参戦痛み入る」


 現在の感覚で言ったら大型バンプ並みの大きさの体躯に、全方向に向くゴライアスの長い首が下がり、ゲンブの脇をゴライアスの大きな頭が並走する。


「当然の事、戦は此れから、アーバン殿御武運を」


「ゲンブ殿もガラシャ殿も御武運を」


 ゴライアスは街の瓦礫を起用に避けながら、ゲンブ達を抜いて北門に向かう。


 ゲンブとガラシャも必死にゴライアスに続く。


 ゴライアスの咆哮と共にと共に着いたゲンブ達は、地響きの様な鬨の声に迎えられ、リュウジ達と共に、ホルンソ軍に合流する。



「バレン」


 アーバンに促され、バレンが号令する。


「はっ、皆配置に着けー!」


 バレンの掛け声に兵士たちがそれぞれの配置に散って行く。


 アーバンとゴライアスは外壁の内側にある専用の台に乗り、何時でもブレスを掛けるよう、城壁の上から首を出し、友軍の前に天蓋魔法を張り巡らせる。



 目の前には銀色の軍団が押し寄せ今にも北門に到達しようとしていた。


 バロ、ピノ率いるガウスライダー達と、翼を持つ者達は、外壁の上で弓を構える守備隊と共に、外壁の上で、銀翼船と、浮遊砲台を見詰めて臨戦態勢をとる。


 シャルドはファーナ・ファレンと共にやはり外壁の上に陣取り、出せるだけの浮遊剣を敵に向けて何時でも発射できるよう、自分達の周りに浮かせた。


 メガイとガンガナは外壁の塔に詰め、防御魔法支援魔法を司る、支援魔道士隊を守る兵士達と共に、息をひそめて時を待つ。


 シュアルキックは外壁の裏に付き、再びリビングデットを動かし始まる。


 外壁の外では、糸が切れた操り人形のように倒れていたリビングデット達がむくむくと起き上がり、銀色の軍団に向けて剣を構える。


 トランフェは単槍を握り、シュアルキックと共に外壁の裏に付き、タイガーバードを創り出す。


 過去最高のタイガーバードを。


 外壁の外では剣を構えるリビングデットの隣に、馬車位は有ろうかと言うタイガーバードが現れその大きな翼を一杯に広げ銀の軍団を威嚇している。


 そしてリュウジ達も守備隊と共に外壁の上に在り、北門の上に陣取っている。


 リゼルダは、チビを肩にとめ、足元に小型のアックスを山積みにして口角を上げると、腕を組んで待ち遠しそうに眼下に押し寄せる敵を眺めている。


 ルピタは、巨大なダブルアックスを片手に、顔にまで銀の戦化粧を施し、やる気満々で銀の体毛を逆立て、やはり眼下に押し寄せる敵を眺めている。


 ゲンブは愛用の巨大アックスを携え、ガラシャは支給してもらったグレイブを片手にリュウジの後ろに控えている。


 さらにその後ろには頭に黒曜を乗せたハーピアが長槍を手に控えていた。


カベルネも愛用の大槍を持ってルピタの後ろに控えている。


 そして太陽王リュウジは、白蓮を胸に、ギアナタイとの刀を腰に、眼下に押し寄せる銀の軍団を見て額に冷汗を流しながら、平静を装い、引き攣った笑みを浮かべる。


(どんだけ居るんだ)


『た、たくさんですね』


(流石にこれはヤバくないか)


『・・・・やばいです、でも、もう、選択肢は有りません・・・今から逃げますか』


(・・・いや、それは無理だろ、でも籠城だ、何とかなるだろ)


『でも』


(・・・でもやっぱり、銀翼船とあの砲台はヤバいか、門が破られるのが速いか、とびが落とすのが速いかって所か)


「打て――!!」


 敵を十分引き付けた処で、バレンが号令し、一斉に攻撃が始まる。


 外壁の上から、引き絞られた矢が放たれ、バリスタの巨大な矢が打ち出される。


 サイノスが、ゴライアスがブレスを吐き、ガウスライダーと翼を持つ者達が飛び立ってゆく。


 シャルドの剣は打ち出され、地上ではリビングデットが走り出し、タイガーバードが敵をなぎ倒してゆく。


 そしてリゼルダはアックスを一つ空中に蹴り飛ばし、火柱を打ち下ろす。


 チビはリゼルダの肩から飛び立つと、リゼルダが蹴り飛ばしたアックスをキャッチし、上昇してゆく。


 ルピタはダブルアックスから盛大に雷を放つ。


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