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異世界の誓約者  作者: 七足八羽
ホルンソ戦役
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ホルンソの攻防Ⅳ(死神シュアルキック)

「チッ」


 シキは何事も無かったかのように周りのシルバーナイツを斬り始める。


「逃がしたか」


 シャルドもまた二十本の浮遊剣を操り、シルバーナイツを蹂躙し始める。


 シルバーナイツの中からも魔法攻撃は時々飛んでくるが、シキは剣戟と同じように躱し、シャルドも浮遊盾で何事も無かったかのように受け、ファーナ・ファレンのの障壁を使うまでにも至らない。


 この二人よりもだいぶ先に斬り込んだ処で、バレンとサイノスはシルバーデモニアの騎士に囲まれていた。


 彼らの馬は皆スケイルホースの様だが、何故か普通のスケイルホースより二回りは大きい。


 その大きなスケイルホースに、シルバーナイツと同じ銀の馬甲ばこうをつけ騎乗したシルバーデモニアの騎士だ。


「何なんだ、あれは?」


 バレンとサイノスを囲んだシルバーデモニアの騎士は焦っていた。

先程から彼らの光弾は障壁にも阻まれず、バレンやサイノスに直撃している、しかし、相手がダメージを受けた様子が無い。


 サイノスの岩の様な皮膚はドラゴンの中でも一番硬いと言われ、装甲竜とも言われるほどだ、シルバーデモニアの光弾が直撃しても、蚊に刺されたほども感じない。


 そして、バレンの強化グラビナイトの分厚い甲冑もシルバーデモニアの光弾などものともしない、バレンは僅かに顔に直撃しそうな攻撃だけを避ける程度で光弾を躱しもせず、サイノスと共に敵の攻撃を無視して敵の撃破だけに集中する。


「例の希少種だろ、飛竜より少ないらしいぞ」


「この銃が通じない奴らがいるかもしれん、と言うのはこう言う奴の事か」


「そう言う事だろ、こういう時はこれを使えと言われたろ」


 そう言うと、シルバーデモニアの騎士の一人が、腰の後ろに装備していた短剣を取り出す。


 彼が短剣の(つば)に付いた小さなボタンを押すと短剣は伸びて長剣となり、更に光弾より強い光を帯び、光の大剣となった。


 バレンの長尺のハルバート程ではないが、バレンのハルバートと十分にわたりあえる間合いを有している。


 バレンとサイノスは、五人のシルバーデモニアの騎士を相手に奮闘するが徐々に押し戻される。


 敵の光弾も効かないが、敵も、バレンの打ち込みも受け止め、サイノスのブレスも耐えて見せる。


 バレンとサイノスを囲んだデモニアの騎士達が皆光の大剣を抜き放つ。

光の大剣は厄介だった。


 当たっても体までダメージは通らないが、グラビナイトの甲冑をそれなりに削り取って行く。


 サイノスの皮膚にも、傷がついている。


『強化グラビナイトを削り取るだと』


『我の装甲からだも削り取っていったぞ、いったん下がるか?』


『いや、シュアルキックが来た。蹴散らすぞ』



◇◆◇◆◇



 シュアルキック、彼女は黒龍騎士団の中でも三人しかいない女騎士の一人、攻撃力は騎士団最弱、彼女が直接使える武器は弓だけ。


 彼女がこの戦場にいるのは、直接的と戦う為ではない、彼女は他人を強化できる、それも半端な強化ではない、後日後遺症が出るほどに、博士のポーションのやばい奴のオリジナルは彼女の能力だ。


 そして弓以外まともに使えない彼女が、この戦場を闊歩できるのは、契約精霊達と国から支給された専用武具、そしてクジョウ将軍から贈られた騎馬のおかげ。


 彼女の契約精霊は双子のリビングアーム、シールドとソード、リビングアームと言っても生きている武具ではない、専用の武具を一つだけ特化して操る事の出来る小さな精霊だ、彼らは自分の気に入った武具を一つだけ創り出し、自分の手足の様に操る事が出来る。


 シールドもソードも人の頭程も無い小さな体で、人が使う武具と同じ大きさの盾と剣を扱う。


 その姿は、さながら剣と盾が勝手に動いて、戦っている用に見えるのだ。

彼らは、彼女とリンクし、彼女の周りを跳びまわり、攻撃を防ぎ敵を討つ。

その彼女の、いかつい合成魔獣鎧の胸と背中の専用のシェルターの中には、フェアリービーが陣取り騎馬ごと障壁を張っている。


 そしてその障壁の中、いつも彼女の襟元に陣取り、その素肌に張り付いている皮膜の翼をもった小さな蛇の様な精霊、黒シダラのマーベラ、精霊に見えない精霊だが彼女の能力は恐ろしい、見た目の通りその牙には猛毒も有するが、彼女の本当の能力はそんなものではない、契約した者に尻尾の先の針を刺し、血を貰えば、気を失った者や、死んだばかりの死体を自由に操る事が出来るのだ。


 大きさや能力によってだが、人間ならば五体から十体操れる。


 そして直接触れたものとリンクする事もできる。


 それが彼女シュアルキックの五人の契約精霊だ。


 そんな彼女のいでたちは、一見して死神、厳つく刺々しいつや消しの黒い合成魔獣鎧、素材にはサイノスの装甲まで使われた逸品に、山洋の角を模ったような角のついた古フェイスのヘルム、擦り切れたような黒いマント、同じあしらいの馬甲を付けた巨大なスレイプニール亜種に騎乗している。


 そんな()で立ちの者が動く死体リビングデットと、リビングアームを従え戦場に現れるのだ、相手《敵》によっては戦わずにその姿を目にしただけで逃亡を決め込む者も現れる。


 それほどまでに、死体を引き連れた彼女の姿は強烈だ。


 しかし、その出で立ちに反して、スレイプニール亜種に着けられたバッグにぎっしり入っているのは各種ポーションと其処に巣くう使い魔、フロートワームのムニ。


 ずんぐりとした芋虫のボディーに、無数の細長い脚、目玉だらけの顔、そして蜂の様な羽を十枚背中に持った飛び回れる芋虫だ。


『隊長が囲まれている、行く』


 シュアルキックの意志を読み取り、ソードとリビングデットが、前方の敵を切り伏せ、バレンまでの道を作る。


 シュアルキックも折り畳まれた黒い強弓を取り出し馬上で展開するとその弓はシュアルキックの背丈ほどにも広がり、黒い矢が番えられる。

ソードとリビングデットによって切り開かれた屍に道を走りながら放たれたその矢は、シルバーデモニアに中るが難なく弾かれ、シルバーデモニア二体が向かってきた。


『嫌!ソード戻って、マーベラお願い』


 ソードが急いでシュアルキックの元に戻り、リビングデットが向かってくるシルバーデモニアに押し寄せていく。


 撃たれても斬られても、何度でも際限なく立ち上がり、動けなくなるほど切り刻めば、近くの死体が起き上がって、攻撃してくる。


 シュアルキックは、地獄のローテーションで仲間の死体と戦う彼ら脇をパスして、バレンの元にたどり着く。


「隊長」


「シュアルキック、ブーストは俺だ」


「では、行きます」


 シュアルキックの能力は強力だが、一度に一体だけしかブースト出来ない。

バレンかサイノスどちらかだ。


 シュアルキックは、バレンにブーストを掛ける。


 シュアルキックから送られた魔法がバレンに到達した途端に増幅しバレンの中に吸収される。


「来た来た来た、そろそろ時間も良い頃だろ、ぶっ放して戻るぞ」


 そう言うとバレンは長尺ハルバートの先に増幅された魔素を集める。


魔素はとてつもない冷気を帯び、周囲に氷片を作り出す。


 バレンが、そのハルバートを回すと竜巻が巻き起こり辺りの氷片を巻き込みながら巨大化してゆく。


「ムニ」


 シュアルキックの言葉を確認したムニはごそごそとポーションをもってバックから這い出すと、ハチドリの様に飛びながら、その無数の細い脚に抱えたポーションをバレンの元に届ける。


 バレンが二つ目の竜冷気の竜巻を放つと、それを合図に各箇所で殲滅魔法が放たれる。


 バレンを囲んでいたシルバーデモニアの騎士も、竜巻に巻き込まれ、バレン達の視界からは消えていった。


 各所で派手に放たれた殲滅魔法だが、シルバーナイツ達には思いの外効果が薄かった。


 シルバーナイツの甲冑もシルバーデモニアには遠く及ばないまでも、この世界に普通に出回っている甲冑に比べれば、信じられない程の性能差があるのだ。


 相手が黒龍(かれ)騎士団()でも無ければその甲冑に傷つける事さえ難しい代物なのだ。


 ゆえに、彼らの殲滅魔法も、質や威力によって効果が無かったりする。

しかし今回彼らの殲滅魔法の目的は果たされ、派手な殲滅魔法が消えた後に彼らの姿遠く、既に退却が始まっていた。




◇◆◇◆◇



 ゴゴゴゴーー


 リュウジ達の目の前で、轟音と土煙を上げながら、健物を粉砕して、ガウスが墜落する。


 六機の銀翼船はまだ一機も落ちていいない。


 対して、ゴライアスの地上からの援護はままならず、ガウスライダーは既に四体落とされ、かなりの劣勢だ。


 撃墜されたがガウスライダーが投げ出され、立ち上がろうとしているが、深手を負ったらしく立ち上がれずに倒れ込む。


「ルピタ!」


「応」


 ルピタはガウスライダーに走り寄ると、ガウスライダーを小脇に抱えて戻ってくる。


リュウジ達は負傷したガウスライダーにポーションを飲ませると、を近くの兵士に託して、再び走り出す。


 先頭にリゼルダ、そして、ルピタ、リュウジその後に、カヤナを抱えたハーピアが、が超低空飛行で、その後を殿のうろこが逃げる人々と逆行して、走っていく。


「リゼルダ、黒髪だぞ」


「分かってる、見落としたりはしない」


「頼むぞ」


 リュウジもキョロキョロと避難する人々の中に黒髪を探しながら走る。

「それで、お前のドラゴンはまだ来ないのか、お前もドラゴナイトなのだろう」


「ああ、もう直ぐだ、あと少しで見えてくる」


 そして、空の彼方に、小さな黒い点が現れる。


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