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異世界の誓約者  作者: 七足八羽
ホルンソ戦役
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ホルンソの攻防Ⅰ(制空権)

「おい、ピノ、あそこに、何か嫌な物が見えるんだが、お前あれ、どう思う」


 バロが誓約翼竜グラートの背中から、砂ばかりの地平線の端に、蠢く銀色の一団と、浮遊物体を発見して、ピノとその誓約翌竜スカーナに話しかける。


「ありゃー、ついに来たな、お隣さんだお隣さんだ(セレニア帝国)だ、取りあえず警報出したら、後は攻撃しとけ」


「やっぱりそうか、って速すぎねーか」


 グラートとスカーナが街に向け、咆哮(警報)上げながら回避運動を取り始める。


 銀色の点はいつの間にか大きくなり、二人の目の前まで迫っていた。


 僅かばかりの飾りのような鋭角の翼に、砲弾型の船体の後方に光を吐き出し、推進してくる銀翼船六機。


(確か重さの無い攻撃は効かんのだったよな)


 バロは目の前に魔素を集め、巨大な氷の矢を生成すると、回避行動をとるグラートの上から打ち放つ。


 バロの巨大な氷の矢は、銀翼船の数メートル手前で見えない障壁に当たり砕け散る。


 銀翼船は氷の矢に障壁ごと軌道を逸らされるが、直ぐに何事も無かったように持ち直す。


 ピノも巨大な氷の砲弾を生成し、スカーナの上から打ち放つ。


 ピノの氷の砲弾も、やはり障壁に阻まれ弾かれダメージは通らない、銀翼船多少ふらついた程度で、やはり直ぐに持ち直す。


「あんまり効き目ねーじゃ、ねーか!」


「バロ、来るぞ」


 魔法を討ち終わった二人に、銀翼船から光弾が突き刺さる。


 此方も、竜たちの魔法防御壁で全て弾くが、中々に魔法の消費量多い。


 保有魔素の多いドラゴナイトでも銀翼船六機相手にこの状況では魔力が心待たない。


 二人が魔力を気にしつつ戦っている間にも、残りの四機の銀翼船は二人を無視し、街に爆撃を始める。


「ダメだ、俺達だけじゃ守り切れない」


「ガウス隊、速く上がって来い」


「まったく、こういう時に、何でホルンソ《うち》のドラゴナイトは皆地べたにへばり付いているんだ」


 バロは悪態をつきながら今度はグラートの鞍に括りつけてある鉄の砲弾を素早く取り出すと、さらに氷を纏わせ質量を加算して銀翼船めがけて打ち放つ。


 バロの砲弾は又も銀翼船の障壁に阻まれ弾かれるが、障壁ごと銀翼船を弾き、銀翼船はそのままふらふらと地上近くまで落ちて行く。


 バロがそのまま追い討ちをかけようとするが、側面からもう一機に、光弾をを打ち込まれ、躱し切れずに、グラートが魔法障壁で光弾を弾く。


 その間に銀翼船は持ち直し何事も無かったように戦線に復帰する。


「くそ、あれでも落ちないのか」


 ピノも同じように鉄の砲弾に氷を纏わせて打ち出すが、こちらは上手く躱されて反撃される。


 それをスカーナが上手く躱して体勢を立て直すも、振り切れない。



◇◆◇◆◇



「ガウス隊、魔法障壁を必ず二重に張りながら必ず二組以上で上がれ、絶対に単独では上がるなよ、上がった途端に撃ち落とされるぞ」


 ガウス隊とは、翼竜に似た大きな魔獣を馬の様に飼いならし、その背に魔法に長けた者が二人ずつ乗り込み空中戦を行う部隊だ。


 勿論、ガウスはドラゴンではないのでグラートやスカーナの様に魔法は使えないし、飛行速度も格段に遅い、当然ライダーと意識を共有したりも出来ない、認識的には空飛ぶ馬だ。


 しかし、ガウスライダーはドラゴナイトよりも格段に数を揃えやすい、馬と一緒とは言わないが、ガウスを調教すれば良いのだから。


 現在ホルンソには十八頭のガウスと百人近いガウスライダーがいる。


「二人乗っているからな、砲弾は三発か四発しか積めんそれ以上は積むな、的になる、しかし、それしか効きそうにない、打ち尽くしたら直ぐに補給に下りて来い、魔力が尽きたら直ぐに交代しろ」


「は、直ぐに上がります」


「まて、バロ様と、ピノ様が今来る、その時に上手く上がれ」


「はい」


 今、六人のガウスライダーの目に銀翼船を躱し、建物の屋根に触るほど低空で、こちらに向ってくる二頭の翼竜が目に映る。


「今だ、出るぞ」


 ガウス舎の前に氷の砲弾が飛び交い、銀翼船を弾く、その一瞬のスキを突き三頭のガウスが飛び立つ。


 ガウス隊に、上空の銀翼船から光弾が降り注ぐがガウスライダー二人分の二重の魔法障壁で何とか持ちこたえて戦場にガウス隊が参入する。


「よーし、此処を守って、次のを上がらせろ」


「は、隊長殿」



◇◆◇◆◇



「ブレッズ、我らは先に行く、後からクジョウ将軍と全員連れて来い」


 バレンは、自分の身の丈よりも大きな黒剣を二本背負うと、五メートルはありそうな長柄のハルバートを受けとり、サイノスと共に外壁に向かう。


「俺らは、アーバン様が出るまでに露払いしとかんとな」


 メガイはダークレッドの四ツ目をぎらつかせながら誓約砂竜ガンガナと。


 シャルドは誓約砂竜ファー・ナファレンと、剣の束の間にちょこんと載って。


 バレンとサイノスの後に続く。


「では、全軍召集出撃用意、クジョウ将軍には私が伝える」


「は」


 ブレッズの号令を受け、部下が召集に散って行く。


「それにしても、うちの上司達は、何故に皆自分で先に行ってしまいますのか、あの人も一癖ありますが、此れでクジョウ将軍がいなかったら大変です」



◇◆◇◆◇



「いらっしゃいませー」


 此処は大和食堂、地球人加藤里奈かとうりなが、こちらで一緒になった旦那と営む食堂だ。


「女将ー、野菜のバラ肉包、丸ごと」


「はいよー、あなた、野菜のバラ肉包丸ごとー」


 里奈が厨房に向かってオーダーを叫ぶ。


「おー、丸ごとは少し時間かかるぞ」


 里奈の旦那ガラシャ《マスター》は、周りの景色を映し出すような黒い肌、白に近い銀色の髪に鋼の様な銀色の瞳、そして丸太の様な腕にしなやかな筋肉を纏わせ、大きなフライパンを軽々と振るって食材を料理に変えて行く。


「分かってるよ、マスター」


「撫子、これも下げて」


「はーい」


 まだ、年端もいかない黒髪の娘が、両の手に山ほど食器を積み上げて、厨房へ向かう。


 彼女は、楽しそうに鼻歌に合わせてステップを踏みながら、空いたテーブルのすべての食器を器用に積み上げて行く。


 曲芸としか思えない芸当だが、彼女がそれを落としたことは一度たりともなかった。


 母親の目から見れば、皿は綺麗に、娘の魔素で覆われているのだが、それが見える者等、この世界にはほとんどいなかった。


 この辺ではほとんど見ない黒髪を肩口で綺麗に切りそろえた撫子は、既に大和食堂のカバン娘としてこの辺りでは有名だった。


 彼女の食器運び見たさに来るものまでいるくらいだ。


 皿は、そのまま線の細い青髪の青年が、皿洗いしている流しに投げ込まれるが、投げ込んだ音すら、しない。


「撫子ちゃんありがとね」


「どういたしまして」


「撫子、そしたら、これ三番さんにお出ししてくれ」


 撫子は、皿を流しに放り込むと、今度は料理を受け取り、再び客席に向かう。


「はーい、パパ、今日はリュウマおじちゃん来ないかな」


「リュウマおじちゃんは忙しいからな、なかなか来れないんだよ、この間来たばかりだろ」


「つまんないな、また、魔法のお話聞きたいな」


 撫子はそう言うと、大きな盆に乗った料理を両手で持って、客席に向かう。


ドオー


 爆音が響き、向かいの店が吹き飛ぶ。


 店のガラスが割れ、何人かガラスの破片の突き刺さった客がうめいているが、撫子は何事も無かったように、料理の載った盆を持って固まっていた。


 厨房では、ガラシャがフライパンを持ったまま武装化していた。


 黒い肌が硬質化しながら浮き出て、シルバーデモニアの鎧の様に全身を覆い、拳しに四つの突起が形成される。


 武装化は、戦闘民族と言われるヌバ族《彼ら》固有の特徴だ。


 武装化した黒い体に、白いエプロンがサーコートの様に引っ掛かったまま、フライパンを持ったガラシャが厨房から飛び出す。


 作りかけの野菜のバラ肉包をしっかりフライパンの中にキープし続けているのは流石料理人(シェフ)


 外には翼竜の咆哮(けいほう)が響き渡る。


「里奈!撫子、翼竜の咆哮だ、拙いぞ、こりゃ戦だ」


「あなた」


「皆さん、悪いが共和店じまいだ、皆さんも、速く非難した方がいい」


 ガラシャは作りかけの料理の入ったフライパンを放すと、撫子を小脇に抱え、里奈の手を引いて、外へ出る。


 避難所となっている、王城地下までかなりの距離が有る。


 ガラシャは外の状況を見て焦る。


 上空でシルバーデモニアの飛行機械と、ドラゴナイトが戦っているのだが、敵は六機ドラゴナイトは二人だ。既に四機に突破され、的を爆撃されている。


 通りに目を移せば、通りは避難する人間で溢れていたが、何時もそこかしこにいる兵士が人々を迅速に誘導し、混乱にはなっていない。


「皆さん、焦らず、王城まで移動して下さい、現在我が王国は、セレニア帝国の攻撃を受けていますが、大丈夫です!上空にはピノ様とバロ様がいます、すぐにガウス隊も出撃しますから、焦らず移動して下さい!」


 ガラシャは一度撫子を石畳に下ろすと、腰を落として目線を撫子に合わせると、撫子の手を取る。


「撫子、武装化しなさい」


「でも母さんは」


「私は大丈夫よ、撫子、武装化してちょうだい」


「大丈夫、ママはパパと撫子で守ろう」


「うん」


 撫子が武装化する、一見母親と同じ地球人にしか見えないが、撫子は父親の血もちゃんと引いている。


 撫子はキラキラと輝く炎赤色に武装化し、拳にも可愛い小さな四つの突起が形成される。


 里奈は、武装化した娘の手を引き、背中を夫に守られながら、王城へ向かう。


 誘導の兵士の言う通りガウス隊が上空に上がり始めたが、まだ爆撃は止まらない。


 避難している人々の近くに爆撃が有ると、誘導の兵士は盾を構えて壁となって、民を守る。


 鈍色の鎧と盾に飛散する瓦礫が当たり、盾が弾かれ、鎧はひしゃげ、倒れる兵士も出てくるが、そんな兵士は避難する人々に担がれ、王城へ運ばれる。


彼らは、自分達を守ってくれた兵士を見捨てない。


 ガラシャと撫子も、近くが爆撃されれば、里奈に覆いかぶさり爆撃から里奈を守る。


 兵士の鎧がひしゃげるような瓦礫に直撃されても、ガラシャの武装も、撫子の武装も傷一つ付かない。


 里奈もそんな二人に守られながら、王城へ向かう。



◇◆◇◆◇



「ブレッズ!まだ隊は整わんのか」


「程無く整います」


「何が程無くだ、待ってられるか、出るぞ、外壁に着くまでに、隊列を整えろ、この戦、最初が肝心だ」


「はっ」


 クジョウ将軍は、走る様な速足で歩きながらブレッズに指示を出す。


体の線に合わせて造られた魔獣鎧に、腰まで伸びた豪華な金髪を何かせ、彼女は長い王城の回廊を城門に向かって進んで行く。


 最初に街の外壁を抜かれれば被害は甚大になるだろう、そして自分達が遅れれば、最初の攻撃で外壁の門が抜かれる可能性は大きい。


 絶対に、シルバーデモニアの軍よりも先に、外壁門に自分達の軍を集結させなければならないのだ。


 「ブレッズ、うちのドラゴナイトどもは出たのか」


「全員出ました」


「よし」


「ガウス隊は」


「はい今上がり始めました」


「そうか」


「聖騎士は」


「王の元に」


「よし、では司令部は北の二番の塔にする、千人長は集合させろ」


 北の二番の塔は外壁の少し内側に建てられたはい壁外まで、見渡せる塔で、元からこういう用途の為に作られた塔の一つだ。


 外に出ると、ブレッズの部下が、二人の馬を用意して待っている。


 ブレッズのスケイルホースと、クジョウ将軍のスレイプニール。


 スレイプニールは、斧の様な角を二本はやしたスケイルホースより一回り大きな六脚馬で、陸上を走る騎乗種の中では最速と言われているが、気の荒さでも有名だった。


 彼女はその愛馬に跨ると、つり上がった大きな青い瞳で、上空の銀翼船をねめつける。


 上空ではバロとピノが、ガウス隊を上げようと六機の銀翼船と交戦している。


「劣勢じゃないか、あれじゃ直ぐに魔力切れを起こすぞ、ブレッズ、上の奴らに、にあれを届けてやれ」


「あれ、完成したんですか」


「何とか使える程度だがな、それと、バロとピノにはヤバイ方も届けてやれ、研究所にある筈だ」


「分りました」


「よし、行くぞ」


 クジョウ将軍は愛馬のスレイプニールを走らせる。


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