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異世界の誓約者  作者: 七足八羽
旅路
35/60

新天地へ

「カベルネ、信じられるか、あの姫様が()装飾(そうしょく)使ってたぞ」


「ああ、びっくりだ、今まで誰がいたって隠しもしないから、こっちが目のやり場に困ってたくらいなのに」


「姫様、あの男にするつもりか」


「まさかな、前例がないわけじゃないが、前例はドラゴナイトシンと、獣王スクァーバだけだぞ、あの男じゃ無理だ」


「じゃ姫様が出ていく方か」


「多分な、あれじゃもう別の男には目を向けんだろ」


「で俺たちはどうすんだ」


「お前は帰れ、俺は姫様に付いて行く」


「ふざけるな、お前が帰れ」


「そうだな、二人とも帰れ」


 二人が首をキリキリト回して振り向くと、体毛の無い所だけをうまくカバーした白銀の魔獣鎧を身に付けたルピタが腕を組んで二人を見下ろしている。


「姫様、帰るのはコイツ一人で十分でしょう」


「だからふざけるな、帰るのは・・・」


「二人とも帰れと言っている、皆の遺品を家族に届け、王にこのことを報告しろ、我は、リュウジ殿に決めたぞ」


「やっぱりか」


 銀虎の村では一族を統べる王になる者は夫婦でなければならない、王の資質を示す儀式も夫婦で挑み、夫婦で力を示さなければならないのだ、どんなに資質が有ろうが、力が有ろうが、独り身では認められない。


 故に王の候補者に名乗りを上げたなら、儀式までに伴侶を探し、共に儀式を受け一族にその資質を示さなければならないのだ。


 今独り身で名乗りを上げているルピタは、当然儀式までに伴侶を探さなくてはならない。


「姫様、あの男じゃ無理です、それとも諦めてリュウジ殿と一緒に姫様が村を出ていくのですか」


「何を言っている、リュウジ殿なら大丈夫だ、彼は最強の魂を持っている」


「「・・・・」」


「それとな、我が輝装飾を使うのがそんなに珍しいか」


 言い終わらないうちに二人の頭に強力無比な拳骨が飛ぶ。


 余りの激痛にその場にうずくまるカベルネとビニヨンを残しルピタ解放奴隷の見送りに向かう。



◇◆◇◆◇



 救出された解放奴隷の殆どは、帰る所の無い者達だった、身内を殺された者、身内に売られた者、犯罪奴隷、等等、理由はそれぞれだが、帰る場所は無かった。


 せっかく奴隷から解放されても、このままここに置いて行かれれば路頭に迷ってしまうものが殆どだ。


 今は奴隷商の食糧を分け合って食べてはいるが、もう数日もしないうちにそれも尽きるだろう.


 全員その事については分かっているが誰も表には出さない、殆どの場合、その話に解決策がないのも十分承知しているからだ。


 ましてこの人数では、どうにもならないだろう、自分の身の振り方は自分で決めるしかない事も彼らは重々承知しているからだ。


 だからと言って彼らに不安だけでは無い、隷から解放され希望の光の射したその影にそんな不安を抱えているのだ。


 しかし、此処にそんな不安をまとめて解消するようなセリフが、響き渡る。


「お前ら、行く所のない奴は私の国に来い、歓待するぞ、どうだ」


リゼルダーナを堂々と国、と言い切るリゼルダに、すかさずカヤナの補足が入る。


「この近くに、私たちの集落が在ります、取りあえずそこに避難して、行く当てが無ければそのまま居住する事も可能です」


この言葉を聞き二人の周りに殆どの者が集まってきた。


自分達を受け入れてくれる場所、其処がどんな場所なのか。


まず食べていけるのか、仕事はあるのか、質問は尽きない。


「姉様、もう少し詰めてから、って言ったのに」


「もう十分詰めたじゃないか、皆に説明してやれ、カヤナ」


「解りました、姉様」


リゼルダの無茶振りに頭を抱えながらもカヤナは説明を始める。


「はい、よろしいですか、まず私達の集落は」


「国だ!」


「はい、国は、規模は集落位ですが、仕事はたくさんあります、食料も十分に行き渡るでしょう、そして、砂竜や翼竜よりも強力なドラゴンと、ドラゴナイトに守られています。」


この時点では、世界樹の話や、ドラゴンの種類、仕事の内容などはまだ話すわけにはいかなかった。


世界樹の話をすれば国の位置が特定される恐れがあるし、仕事の内容は今の処極秘の物が殆どなので話せない、ドラゴンの種類に至っては信じてもらえるかどうかすら、怪しいものである。


すると、どうにも要領を得ない胡散臭い説明になってしまうのだが、一つだけ彼らの目の前にある真実がその総てを凌駕した。


「安心しろ、私がそのドラゴナイトだ!今も私の国は私のドラゴンが守っている、エルダードラゴンでも攻めて来なければ、総て私が撃ち落としてやる」


ドラゴナイトであるかどうかはともかく、あの時リゼルダの見せた火力は十分以上にドラゴナイト級だった。


 確かに砂竜や翼竜のドラゴナイトではあそこまで豪快な火力はでないだろう。


であれば、強力ではあるが、数少ない飛竜のドラゴナイトではなかろうかと、皆密かに推測した。


ガロンベルグを守る炎竜、極東の守り暴竜、魔境の深淵に居ると言う野生の爆竜、等等皆二つ名を持つ災害級のドラゴンだ。


そんなドラゴンとドラゴナイトに守られた集落なら、文句など出ようはずも無かった。


そして目の前にいるドラゴナイトだと言うリゼルダに見て取れる奔放ほんぽうそうな性格と赤い瞳も彼らの決断に一役買っていた。


格質問に対し、それは言えません、それは現地に着いてから、それは秘密ですとかばかりのヤナの胡散臭い説明にもかかわらず、全員が一時リゼルダーナに向かう事となった。


リゼルダーナまでの案内はひと悶着あったが、チビを護衛に呼び寄せ、リゼルダーナまでの道案内はクルトにまかせる事となった。


奴隷商の残りの水と食料をすべて積み込んでも、リゼルダーナまで到底もたない計算になるので、リゼルダーナからも食料をもって、こちらに向ってもらう事となった。

そんな食糧事情もあり、クルト一行はリュウジ達と別れ直ぐにリゼルダーナに向かう事となった。


「クルト、行ってしまうのか、やっぱりカヤナに行かせよう」


「何言ってるんですか姉様、私が行ってしまったら、リュウジ様にどれだけ迷惑が掛かる事か、それに、水に制限が掛かりますよ」


「リゼルダ、諦めろ、此処はやっぱりクルトに行ってもらうしかない、この先水を創れないのは非常に困る」


「お前が作ればいいだろう」


「それ御言うならお前こそだろ、俺が魔法使えないの知ってるだろが、早く水魔法覚えろ」


「無理だ、知ってるだろ、いくらやっても何故か水の、みの字も出て来んのだぞ」


リュウジの言葉にリゼルダは開き直る。


「クルト、気おつけるんだぞ、何かあったらすぐに知らせろ、チビに言え」


「姉様、過保護です、これくらいの道のり、まして向こうからも迎えに来るのですから」


「大丈夫だ、リゼルダ殿、俺たちも気合入れて護衛に着かせてもらうからな、必ず全員無事に、あんたの国まで送り届けてやるぜ」


巨大なアックスを背負い、分厚い筋肉鎧を身に着けた、ザグの冒険者チームが胸を張る。


「あんた達に返してもらったコイツが有れば大概な奴が来なければ負けませんからね」


そう言うとシャガラが長いマントのなかからどうやって入っていたのか自分の背丈ほどもある大鎌を取り出し、その石突で地面に打ち鳴らす。


「魔道具の性能は見せられないがな」


しかしリュウジの目にはその打ち鳴らした石突きと、峯の部分に魔素が集中しているのが見て取れた。


カラムもマントの内から愛用のオーブを取り出し、魔素を纏わせると、自分の周りに浮遊させる。


「そうね、でもありがとね、返してくれて、この魔獣鎧多分もう同じ物は作れないから」


 ビッチャムのその魔獣鎧は体にぴったりとフィットし、所々にエアーダクトのような突起が付いたくすんだ黄色の魔獣凱だった。


 その突起部分からビッチャムの魔素が少しずつ流れている。


現代を知っているリュウジからすれば、そこから何かを噴射して空を飛べるのではなかろうか、と思えるような配置でそのエアーダクトの様な突起はついている。


「ビッチャムさん、もしかしてその魔獣鎧、空飛べたりする」


その言葉を聞いてザグ達の動きが止まる。


「どうしてそれを知っている、と言うか、何故そう思う」


「似たような物を見た事が有るだけだが」


「それはなんだ」


なんだと聞かれても、説明しようが無く、言葉に詰るリュウジだった。


「なんだと聞かれても困るが、飛ぶところ見せてくれないか」


「かまわないわよ、そこまで解ってるのなら、隠してもしょうがないだろうし、貴方が返してくれた魔獣鎧出しね、実際は、飛ぶと言うにはほど遠いけどね」


「良いのか」


「ええ、うるさくなるから少し離れてからね」


そう言うと、ビッチャムはリュウジと一緒に皆から遠ざかる。


「ここまでくればいいかな、じゃ、行くわよ」


どれくらい離れたのか、皆が豆粒位になったころ、ビッチャムはそう言うと、くすんだ黄色の魔獣鎧に自分の魔素を通し始める。


するとリュウジには少し懐かしくもある爆音が轟始める。


パン、パパパパパパン


「え、バイク、いや内燃機関・・・・」


 リュウジは昔何度か聞いたバイクの音を思い出す、もう生産はされていないが、まだ時々見かける内燃機関を積んだバイク、その強烈なインパクトの音と同じだった。


「行くよ」


 パンパパン


 ビッチャムは爆音と共に空に舞い上がる。


(え!凄い、バイクの音を出しながら、空飛ぶ魔獣鎧)


「おお、飛べるじゃないか」


 ビッチャムはそのまま降下し、また爆音を鳴らし、減速しながらながらリュウジの前に着地する。


「こんな処かな」


「飛べるじゃないか」


「いえ、跳んだだけ、空中で自由に動こうと思っても、空中に留まり続けるほどパワーが無いの、頑張っても少しずつ落ちてしまうだけ」


「そうなのか、少し改良すれば飛べそうな気がするがな」


「本当に!どうやって、教えて」


「いやよく考えないと解らんが、多分」


「じゃ考えて」


 ビッチャムの顔は真剣だった、いつの間にか上がりきったテンションのままリュウジに迫る。


「いや、まてまて、今は無理だ、今度ゆっくり話す機会が有ったらな」


「本当ね、何処に行けば貴方に会えるの」


「え・・・」


 体よく断ったつもりの竜司は言葉に詰る


「リゼルダーナにいれば会える?」


「いや、まあ」


『主様、きっぱり断った方が、帰りに・・・既に手遅れっぽいですね・・・』


「なら、リゼルダーナで待っているわ、必ずよ!」


「でも本当に飛べるようになるかどうかは」


「いえ、一目でこの魔獣鎧が、空を飛ぼうとして創られた物だと解った貴方なら絶対よ」


「絶対はないし、約束はできないぞ、行けないかもしれないし」


「構わないは、来るまで待ってるから、この魔獣鎧は私の夢なの」


 空を飛ぶ魔法と言うのはないわけでは無いが、非情に難しく習得している者が殆どいない、風魔法で体を浮かすのや、巨大な翼を魔法で創ったりするのだが、制御が難しすぎたり、必要魔素量が多すぎて飛べる時間が殆ど無かったり、事実上空を飛ぶ魔法を使える者は殆どいない。


 実現しているのは、風魔法を見事に操り空を飛ぶ、ワンフアープと、黒い大きな翼を莫大な魔力を持って具現化して空を飛ぶマキナグレイブくらいだ、いづれも大魔法使いとして世に知られている人物だ。


 故にビッチャムの道具を使って空を飛ぼうと言う試みは、理に適ってはいるのだが、此れもいまだに、まともな成果を出した者はいない。


 魔法で空を飛ぶと言う事は、この世界での一つの夢なのだ。


『主様、帰りはリゼルダーナであの魔獣鎧に翼つけて飛ばすんですね』


(ああ、楽しそうだろ)


『あの魔獣鎧見た時から、そんな感じでしたものね』


(そうか)


『はい、楽しそうでした』


(そうだな、帰りが少し楽しみだ)




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