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異世界の誓約者  作者: 七足八羽
精霊騎士
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秘匿の魔道

早朝まだミュラの街が雲に包まれ、何本かの塔の先端以外、霧中に沈む中ミュラの最東端。


 雲の上に頭を出すこの街で最初に日の当たるテーブル状の大きな岩舞台の上に四人は居た。


 リュウジとリゼルダに、酒瓶をもったガゼックと、その膝の上に陣取る白蓮。


 上半身裸でチッチッとクリック音を鳴らしながら構えるリュウジと、赤い練習用の皮鎧を身に着けたリゼルダがその岩舞台の上で対峙する。


 リゼルダの要望で始めた朝練だが、まだ一月とたたない内に既に、リュウジに勝は無くなっていた。


 リゼルダが身体じゅうから真紅の魔素を放出しながら、二本の木剣を派手に構えて待蒼を詰めて来る。


 その派手な構えとは裏腹に、その速やかに両脇に真紅の魔素が塊り、魔法の発動準備を整える。


まだ木剣の届く間合いに入る遥か手前で、その魔素は震えながら一瞬鈍く光ると魔法を発動する。


 魔素を視認出来るリュウジは其れを見逃さない。


 震えて光るのは魔法発動の兆し、リゼルダが魔法の発動の意思を魔素に送り込んだ合図だ。


 リュウジはその合図を捉えた瞬間斜め前方に踏み込みながらそれを回避する。


 今までリュウジが居た場所を炎の矢が通過する。


 発動はスイッチの様な物で、魔素に到達し光った後ではキャンセルできない、発動した魔法を動かす事は可能だが、其れには有る程度の距離と制御が必要だ。


 其れを接近戦で戦いながらながらやると言う事は、戦いながらラジコンを動かすようなものだ、下手に操作しようとすれば自分の防御が疎かになり、先に自分が倒れる事になるだろう。


 故に炎の矢は遥か後方で霧散する。


 リゼルダはリュウジが炎の矢を交わした僅かな隙に、リュウジの死角になる自分の真後ろに、新たな魔素塊を発現させリュウジを待ち構える。


 リュウジがリゼルダに意識を戻すと、リュウジのエコービジョンの視覚にリゼルダの発言させた魔素塊が薄らと映る。


 其れはリゼルダの真後ろに有った。


 リュウジは目の前に迫ったリゼルダを切りつけようとするが、其処にはすでに迎撃の体制を整えたリゼルダの木剣が振り下ろされていた。


 リュウジは其の剣を振り上げざまに払う。


 リゼルダが其の剣を躱し横っ飛びに其れを躱すと、リゼルダは既に炎の障壁を張っていた。


 今までリゼルダの居た位置にはすでに発動された炎の球体がリュウジに向かって放たれていた。


 リゼルダに振るった剣を躱され体制の崩れたリュウジだがそこに魔素塊が用意されていたの既に確認済みだ。


 すぐさま斜め後方に身をかわすが、その炎球は其処で爆散し躱しきれず、肩口から被弾する。


「どあーーあちちちち」


リュウジの悲鳴が遙か魔境に木霊する。


燃える物が無いので炎は直ぐに消えたが、肩口を中心にかなりの範囲で火傷する。


リュウジは膝をつくが、火傷はじわじわと治癒し始める。


其処へガゼックの膝の上を離れ、文字通り飛んできた白蓮がリュウジの内に潜り込むと、リュウジの火傷は倍速逆廻しの様に治癒されてゆく。


「私の勝だな、もう負けんよリュウジ、」


リゼルダが木剣を担ぎながら嬉しそうに口角を上げる。


「しかし其れは何度見ても凄いな、白蓮が居なくてもドラゴナイト(わたしたち)と同じ様な治癒力なのに、其れを見ると、守護精霊が王族に庇護されていたのが本当にうなずける。」


「畜生、魔素が見えたって使えないのじゃ意味が無い」


「そうじゃなー使いようじゃが、今の炎は、リゼルダが最大熱量で放っておれば戦闘不能に陥っている間に止め刺されそうじゃしな。


まあ、そうは言っても、お前の目的達成には問題なかろう、そもそも人探しが目的で此処まで強くなるとは思っておらんかったし、既に普通の人間の域は超えておるぞ」


「そう言う事だ、私に負けてもあまり気にするな」


「そうじゃな、そもそも魔法の使えない精霊騎士といい勝負になっているお前が弱すぎる訳じゃが、今度からは儂が直接鍛えてやろう」


「いや、師匠其れはまだ早い、まだリュウジで大丈夫だ、な、な、リュウジ」


後ずさりながら助けを求めるリゼルダにリュウジが明るい笑顔で答える。


「もう俺では役不足だ、武を伸ばしたければもう師匠に稽古をつけてもらうしかないな」


リュウジは木剣を拾うとガゼックに手渡す。


「済まんのう」


「この裏切り者!」


「大丈夫だよ、リゼルダ、ドラゴナイトに成ったのだろう、少しぐらいの傷、直ぐに治るさ、それにもしもの時の為に治癒ポーションも沢山持って来ているし」


 そう言うとリュウジは治癒ポーションのぎっしり詰まった小さなバックから、治癒ポーションの瓶を数本取り出してリゼルダに振って見せる。


「何時の間に」


 それを見たリゼルダの顔から血の気が失せて行く。


 当時のスパルタ修業がリゼルダの脳裏に走馬灯のように流れ出す。


「師匠が今日は持って行けってな」


「解った、解ったが其れは明日からにしよう」

 

 リゼルダはゆっくりと後ずさるといきなり踵を返して、炎球を放ちながら捨て台詞を残すと、捨て台詞を残して岩舞台の絶壁を飛び下りて行った。


「リュウジの裏切り者お~後で覚えいてろよー」


「危な、師匠、昔どれだけイジメたんですか」


「儂はイジメとらんよ、あいつの根性なしと根性悪は昔からじゃ、何とかしてやろうと思って色々目を掛けてやったんじゃがのう、ハハハ」


「「・・・・・・・・」」


◇◆◇◆◇


 早朝まだミュラが薄霧のに包まれ肌寒い時間。


 ザルクがリュウジと弓の練習をした同じザルクの家の裏庭の切り株に、ザルクがどっかりと腰を降ろしていた。


 その視線の先には、里と誓約し少し大人びた顔つきになったギルが、魔素塊を練って少し離れた場所に岩の的を作ろうとしていた。


 それは今まで。不可能と言われて来た魔法だった。


 土を盛り上げる事も、焼き煉瓦を作る事も魔法で出来る、しかし魔法で土から岩や石を作る事はまだ誰も成功していないのだ。


 しかし、ギルはに三日前からその不可能を克服していた。


 小さいながらも石を作り出すことに成功していたのだ、それどころか日に日に作り出す石は大きくなり、今ザルクの目の前に、一メートル四方にもなろうかと言う石版を出現させようとしていた。


 地面から土が盛り上がり、それが石に変化し石版となる。


 最初はゆっくりと石になったのだが、土が石になるまで今では一分を切ったっていた。


 魔法で石を作り出すのは、三大魔道師と言われる、ワンフアープ、グリセルディナ、マキナグレーヴのですら成しえなかったのだ。


 此れはとんでもない快挙だった。


 この魔法が一般化できれば石の文明が一気に進歩してしまうかもしれない。


 ザルクは唸って考え込む、此れではギルを直ぐにでも里と旅に出さなくてはならなくなってしまう。

  

 其れはザルクが獣市から馬と白花のプランテラーの子を引き連れて帰った次の日だった。


 新入りのプランテラーのちびっこ達を薬草の農園に放して雪に預けるとそのまま家にむかった。


 家に着いたザルクはイルベリーに息子が精霊騎士になったと告げられた。


 そじて、いずれリュウジかギルが魔境の深部に有る守護精霊の郷まで趣き守護精霊達をミュラまで引き連れて来なければならない言うのだ。


 其処でギルが間髪入れず、直ぐに自分が行くと言いだしたのだ。


 結局の処、今のままでは許可できない、ギルが魔法の腕を上げ、魔境を渡れるだけの力を付けたならば許可しようと言う事になったのだったが、此のままでは近い内に許可しなくてはならなくなってしまう。


「父さん出来たよ、次見て」


(何が起こった!)


 其れはほんの一瞬だった。


 少し前に翳したギルの手元辺りから一条の光が走り、石版に直撃したのだ。


 人の胸板ほどの厚みが有る石版はあと少しで貫通するほどまで溶けている。


 溶け口は高温を放し、冷えるとガラスの様に固まった。


 ザルクは切り株から立ち上がる。


「もう一発ね」


 ギルは軽く言うっと二発めを放つ。


 また一瞬で見逃しそうな程の速さだが、上へ向かった光は湾曲して降りてくる。


 光は的には当たらず、的のすぐ手前に落ちたが、光の当たった其処にはこぶし大の穴が開き石版と同じ様に焼け爛れていた。


「此れは・・・」


「そう、前にリュウジが話してくれたレーザーて奴だよ」


「どうやって?」


 此の世界には光の概念が殆ど発達していなかった。


 人は光が反射した物を見ているのだと気付く事も、光を集めると熱を持つ事も、そんな事は誰も知らない。


 ギルはそれを何度も聴き、読み、実験していた。


 それが今回里の知識と経験を得てレーザー他幾つもの魔法を実現させたのだった。


「普通の魔法と同じ、火や水と同じ様に光を動かしてやるだけ、此れは覚えてしまえば他の魔法と変わりないよ、石を作る方がずっと難しいし、魔素も普通の倍位必要なんだ」


「そうか・・・」


 ザルクが呆然と石版を眺めていると、バタバタと忙しなく羽ばたく白い精霊が降りてくる。


 其れはギルの差し出した手に降り立つとにこやかにあいさつする。


「ただいま」


「御帰り」


「朝練は終わったのか」


 ザルクの問いに後ろからリュウジが答える。


「終わったぞ、リゼルダが逃亡しちっまたから今日は早上がりだ」


 ザルクが振り向くとリュウジが此方に向かって軽く手を上げながら歩いて来ていた。


「ギル、リュウジにも見せてやってくれ」


 リュウジが首を傾げると、ギルがいきなり石版に向かってレーザーを放つ。


「なにー!」


リュウジは叫ぶと、石版に向かて走り出す。


 リュウジはレーザーで石版に穿たれたまだ高温を放つ穴を見て興奮するとまた叫ぶ。


「俺も魔法使いたい、白蓮、何とかならないか!」


 白蓮はリュウジの肩に降りると、眉尻を下げながら答える。


「主様、其れは無理です、主様には魔法器官が有りませんから・・・」


「其れは知っているけど、れーざー撃ってみたいだろ」


 そう言うとリュウジはがっくりと肩を落とすが、その目は輝いていた。


 すぐさまザルク達の元に走って戻るとザルクにもやってみろと言う。


「凄いな、ギル大したもんだ、サルクもやってみようぜ」


 そう言ってリュウジはザルクを促し、ザルクにもレーザーを撃たせようと白が朝食を知らせに来るまで頑張ったが、その努力が報われる事はなかった。


◇◆◇◆◇


「リュウジ其れは無理よ、ザルクったら魔法は全くだったのよ、弓の魔法が出来る様になっただけでも奇跡よ」


 ザルクはイルベリーの言葉に少しムッとしながら、肉団子の入ったスープにパンを浸して口に運んでいる。


 魔法には今一つコンプレックスが有るのだ。


「でもあれは本来弓も矢も無くても同じ威力の物が放てるはずなのだがな、媒介になっている訳でもないのだから」


「いや、矢が有る分少しは違うはずだ、其れよりもイルベリーの方はどうなのだ、魔素水と水の分離はできたのか」


 ザルクが仏頂面でぼそりと言う、だいぶ気にしているようである。


『其れなのですが、主様、此間聴いてから色々考えたのですが、主様達が作ろうとしているのはこれではないでしょうか』


 白蓮の意識がリュウジに話しかける。


「ザルク、魔素水と水の分離出来た様だぞ、俺の躰の中で」


 言い終わらない内に、白蓮が何か丸いガラス玉の様な物を持ってリュウジの襟元から現れる。


「え、体の中で?」


「ああ、俺の血液から作ったらしい」


「成る程」


 リュウジが見るとそのガラス玉は魔素が藍色に見える位濃縮された魔素水が中に詰まっていた。


「凄い濃度だな、何時の間に造ったのだ」


「昨夜主様が寝ている間に試してみました、私は初めてですが、私達の種族の中では普通に伝わる魔法ですので」


「一体どうやって造ったの、いくら考えても出来なかったのに」


イルベリーが悔しそうに尋ねる。


「はい、分離とか分解では難しかったので、ほしい成分だけ取り出す形で試してみました」


「成る程、分離とか分解じゃ無くて、ただほしい成分だけ取り出す。成る程、発想の転換ね、でもそれ私もやったはずなのだけれど」


「ほしい成分だけ取り出すと言っても、取り出そうと考えるのでは無くて、ほしい物を手で掬う感覚でと言うか、よりリアルに出来ると信じて微塵も疑ってはいけません、目の前のスプーンを手に取るのと同じくらい確定した物だと思って下さい、最初は実際に手を突っ込んでやってみて下さい」


「早速食べ終わったら試してみるわ」


 掌で魔素水の球を転がしていたリュウジが何気に疑問を訪ねた。


「因みにこの硝子みたいな殻は何で出来ているいんだ」


「軟骨の成分で出来ています」


「聞かない方が良かったか・・・」


「何故、お前達は此れを普通に作るのだ」


 今度はザルクの素朴な質問だった。


「はい、人は呼吸しながら魔素を取り込み、魔法器官から少しずつ放出します。

 魔法を使えばもっとたくさん消費しますが、個人差や環境の差はありますが、日中使った分は眠っている間に補給されます。

 そこでこうやって一日の終わりに使われなかった主様の体内魔素を溜めても、次の日には体に魔素が満ちています。

 ですので、こうして魔素を溜めておけば、いざと言う時これを使って魔素を回復できると言う訳です。

 まして我が主様は魔法器官が有りませんので、このように全ての魔素を魔素丸として溜められます。

 主様の場合、本人は直接は使道が無いかも知れませんが」


「成る程守護精霊ならではの生活の知恵って訳か、流石だな、と言う事は、ギルの中でも里が作っているのか」


「僕は魔法の練習で毎日使い切っているから今の処出来ないって」


「成る程」


その日から、此の飽和魔素(ほうわまそ)(がん)はリュウジの躰の中で毎日二つずつ作られていった。


 魔法器官が無く、魔素を取り入れるが放出しないリュウジの体内ではひたすら魔素が溜まっているのだ。



◇◆◇◆◇



朝食を終えると、早速試してみる為に、リックも呼んで皆で屋内の森の溜池に向かう。


白蓮が溜池の淵に立ち、クリーム色手を魔素で覆うと魔素水に伸ばしてゆく。


 その手で、ゆっくりとす水を掬うと、魔素がその手に集まり、其の小さな掌には、藍色にまで濃縮された魔素水が溜められていた。


 リックがその感覚を白蓮からイルベリーに伝達する。


 今度はイルベリーが藤色の魔素で覆った手で魔素水を掬う。


「リュウジどう、出来ている?」


「出来てないな」


「もっと出来ると信じてやってみて下さい」


「よし、もう一回やってみる」


 イルベリーは目を閉じると、リックから伝達された白蓮の感覚をもう一度思い浮かべながら再度ゆっくりと藤色の魔素で覆われた手を魔素水に沈めて行く。


 その手には魔素が集り周りの水が無色透明になって行く。


 そしてその手に溜まった魔素水をゆっくりと掬い上げる。


「やった!成功しているでしょ、感覚あるもの」


 果たしてリュウジが見るとイルベリーの掌には藍色に濃縮された飽和魔素水が掬われていた。


「ああ、ばっちりだ」


 飽和魔素水は、人が二三人も入れそうな溜池から、両手で一掬いも取れなかった。


 此の溜池がもう一度同じように魔素水で満たされたのは、半月後だった。


守護精霊達の使うこの魔素の取り出しの魔法は汎用性が広く、この家族と守護精霊の間で、その後とんでもない物を幾つも生み出すのだった。


 特にポーションの類は、翌日には各種飽和ポーションが作られ屋内の森の丸テーブルの上に並んでいた。


 しかし此の魔法は魔道書と同じ秘匿扱いにする事となった、其れはこの魔法が思いの外、外道な魔法だと言う事が解ったからだった。


 そう、対象の傷口に触れてさえいれば、生き物の血液からでも魔素を集める事が出来るだ。


 この魔法が広まれば、どんな生き物でも殺しまくってその利益に預かろうとする者が必ず出て来るだろう、いや後を絶たないだろう、命の軽いこの世界にこの魔法はまだ早すぎる、此の世界の命の重さがもっと重くなるまで、広めてはいけない魔法ではないだろうか。


 こんな思いからの秘匿だった。


 尤も、此の作り方を広めようにも、守護精霊もアイセベリックも居なければ、造るのが可能だと解っても創れるものでは無いのだが、いつかは創り出すだろう。


 その手紙が届いたのはそんな日の午後だった。


「リュウジ!手紙が来たぞ」


 リゼルダは玄関口でそう叫ぶと、クルトとカヤナを引き連れて、かつて知ったる何とやらで、白の案内もそこそこに、ザルク家の屋内の森までズカズカト入って来てリュウジにその手紙を渡した。


 その手紙を受け取ったリュウジは、の内容に望郷で涙した。



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