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異世界の誓約者  作者: 七足八羽
精霊騎士
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パラサイト

彼女たち姉妹が宿主を探し、魔境を彷徨い始めてもう十数年たっていた。


 樹の葉を食み、虫を食し雨露を啜りながら気の遠くなるような距離を移動し伴侶(ファラナト)を探している。


 森の中に亜人の村を見つける度に、誓約の機会を窺がいその周辺に留まったが彼女たちにその機会が訪れる事は無かった。


 彼女たちの種族は人や亜人には寄生(パラサイト)精霊(フェアリー)と呼ばれ、人の体内に寄生し害をなすものとして、忌み嫌われている。


 今彼女達の種族は、人に寄生する事を諦め、魔獣や獣に寄生して種を存続させている。


 しかし其れでさえ僅か掌ほどの大きさしかない彼女達には大きなリスクなのだ。


 今は寄生と言われているが、宿主に多大な益をもたらす彼女たちの(さが)は共生である。


 当時、既に遥かな昔ではあるが、彼女達は人に求められ誓約を結んで共に生きていた。

 

 誓約を結んだ彼女らは、変態(メタモルフォーゼ)して食物を摂取したリ、摂取した食物から栄養を吸収する等と言う働きをする器官そのものを無くしてしまう。


 誓約した宿主の体内で得られる糧以外は受付無くなる為、文字道理の意味で宿主と生死を共にする事となる。


 もし宿主から引き離されれば、彼女達は、一週間と持たずに死んでしまう。


 にも拘らず、当時彼女達の中から宿主の命を奪う者が稀に表れ始めた。


 其れ等の事件の殆どは、宿主の思想や素行等に問題が有ったりするのだが、人間だれしも自分の思想や素行に自信を持っている訳ではない、なのに自分の体内に、其れを理由に生殺与奪権を持つものがいるのは等耐えられるものでは無かった。


 そうなると彼女達が迫害を受けるまでそれ程時間は掛らなかった。


 当然彼女達は人と誓約できなくなり、街を追われ、何時しか彼女達の姿を見る者は居なくなっていた。


 其れからどれくらいの時が流れたのか、人々が時折現れる異常に強い魔獣を倒し解体すると、その体内から彼女の種族が見つかる様になった。


 当然彼女達は数日後には死んでしまうが、其の為彼女の種族は今、獣に寄生する種族としても忌み嫌われる様になってしまっていた。


 そんな彼女達寄生精霊は、宿主を探さなければ三十年と生きられない、彼女達は時を経て、再度人間に宿主を求める事にした、其れは彼女達の種の存亡をかけた戦いだった。


 彼女達は今、人を求めて旅に出る、種を保存する為に其れは必要不可欠な事だった。


 彼女達が宿主を見つけるまで過ごす里には、もう種を保存するには足りないのではないかと言うほど僅かな仲間しか残って居なかった。


 彼女達が出て来た時里に残っている者は既に五百人のも満たなかった、今何人残っている事か。


 故に彼女達はギリギリまで諦めない。


 今もミュラの周辺に留まる事数か月、根気よく機会を窺がっている。


 彼女達はこの数か月、ミュラから魔境に入って来る者を観察していた。


 ミュラから魔境へ入って来る者は思いの外多い。


 殆どの者はパーティーを組んで、ミュラから魔境へ入って来る。


 其のほとんどは植物採取や、鉱物の採掘が目的である為、大人数のパーティーでとても彼女達の近づけるものでは無かった。


 魔獣狙いの剛の者の集うパーティーでも其れなりの人数はいる、なのに彼女達が観察していた此の数か月に、たった二人で何度も魔境に足を踏み入れる兵が居たのだ。


 彼女達は小心躍らせ彼らを尾行する、彼らと話す機会が来るまで彼女達はミュラ近辺の森でひたすらに何年でも待ち続ける心算だ。


 彼らはたった二人で植物採取、鉱物採取、時には魔獣まで狩って行く、一人は両手持ちの剣を自在に操り、一人は強力なの魔法を帯びた矢を放って狩りをしていた。


 そして彼らは、なぜか森の深部からほとんど出ないと言われている幻の魔獣アイセベリックを従えている。


 彼女達は、ミュラの魔境への門を見下ろせる大木の細い一枝に留まり、今日も機会を窺がっている。


 彼女達は姿を見せた途端に殺されるリスクすらあるのだ、何とかこの森で二人が別行動をとってくれないものだろうか、一人一人と話した方が可能性は格段に高いだろう。


 彼女達は其の機会をうかがい待ち続ける、しかしそれでも彼女達の状況を鑑みれば成功の可能性が殆ど無い事も彼女達は知っていた。


 それでも彼女達は諦める事は出来ないのだ。


 今彼女達は種族の存亡をかけて旅をしている。


 人間と再度友好関係を結ぶため、是が非でも人間の宿主を獲得したいのだ、野生の魔獣などを宿主にしていれば其れがどんなに強い魔獣で在っても彼女達が遠からず滅ぶのは目に見えている。


 彼女達は、其の滅びを回避するために、宿主に頼らず生存出来るギリギリまで、人間の宿主を探して旅をする。


 ここ数十年の試みではあるが、里に人の伴侶ファラトナと共に帰った者はまだ居なかった。


 彼女達は希望を込めて、大木の一枝から雨上がりのミュラを見下ろす。


 朝靄の雲海に浮かび上がる天空の街、その日最初の光がミュラに射し、白い朝靄に長い影を落としている、彼女達の希望の街はかくも美しかった。



◇◆◇◆◇



 その日ハニガルディ街長は、希望と不安の入り混じった眼でミュラの魔境の門の外側に造られた完成間近の木陰シダの畑を眺めていた。


 密集した木陰シダの間には何本もの細い土水路が張り巡らされ、みなくちの開閉で水が流れる様になっているのだが昨日の雨で水路一杯に水が張られていた.


 その間に丁度良い間隔で、長葉蒼木が植えられ、その周りには魔素を多量に放出すると言う植物が何種類かぎっしりと植えられ、さながら人口の魔境の様な環境が作り出されている。


 さらに其れをいずれは白花のプランテラー達に管理させると言うのだ。


 なんでもプランテラーが一番魔素を放出するのだとか言っていたが、それ以上に彼等に見せられた、白と雪と言うプランテラーには驚かされた.


 人に懐きある程度の言葉を理解し、働きさえするのだ、プランテラーが働くなどハニガルディも見なければ信じなかっただろう。


 しかし彼は見てしまった以上信じるしかなかった、確かに此れが何匹も居ればこの畑は管理できるだろうがそれはあり得ない光景だった。


 ザルクとリュウジの言う事が本当ならこの木陰シダは数年もしない内に青蔭大葉シダになるだろう。


 其れは今まで誰も成功しなかった青蔭大葉シダの栽培に成功したと言う事に他ならない。


 其れがどれ程価値の有る事かハニガルディは頭では理解しているが心が付いて行かない、ハニガルディは頭で希望を、心で不安を募らせながら完成間近の薬草畑を眺めるのだった。


(まち)(おさ)どうですか、あと少し木陰シダを移植して、白花のプランテラーを確保すれば完璧ですよ」


 いきなり背後から声を掛けられ振り向くと、リュウジが森へ入る装備を整え、斑に跨ってこちらに向かって来ていた。


「おお、リュウジ君かね、今日は一人かい、ザルクはどうしたのだね」


 魔境に一人で入る等普通では考えられなかったが、ガゼック、ザルク、リュウジはもう何度も一人で魔境を行き来している。


 魔境を行き来するには力や技だけでは足りない、魔境を熟知しなければならない、しかしそれは容易な事では無く、此のミュラに住む者でもこの三人以外には殆どやる者はいない。


「ええ、馬の買い付けと白花のプランテラーを探しに獣市に出掛けていまして、今日は木陰おばば様の依頼で薬草採取です」


「そうなのか、一人なのだ、十分注意してくれよ」


「はい、早い処この畑完成させたいですね」


「全くだよ、しかし木陰シダが、青蔭大葉シダになる等いまだに信じられんよ」


「其れは大丈夫ですよ、実験はすべて成功しているので、間違いありません」


 リュウジは当然の様に言い切ると、ハニガルディに視線を向け親指を突き出口角を上げる。


「そうだな、最後まで頼むぞ」


「はい、任せて下さい」


 そう言うとリュウジはブチと共に魔境の中に消えてゆく。



◇◆◇◆◇



魔境に入ると、リュウジは真っ直ぐ断崖下の青景大葉シダの群生地に向かった。


 今この近辺の浅い魔境でリュウジを脅かす事の出来る魔獣は殆どいない、ガゼックの酒の摘みの白黒トカゲの大物ですら、今のリュウジなら何とか取ってこれる。


 リュウジは其れでも警戒は怠らず、ブチを進めていく。


 青景大葉シダは既に新しい葉を蓄え、その一角の長葉蒼木の周りを隙間なく埋め尽くしていた。


 リュウジはブチから降りると、小さな鎌を取り出し何時もの様にシダの葉を袋に詰めて行く。

 

 魔素の多い植物は旨いのか、ブチもリュウジが降りると青景大葉シダをもしゃもしゃと食べ始まった。


 どの位経ったのか、十分持青景大葉シダを詰め込み、持ってって来た袋も使い果たそうと言う時、其れは起こった。


 リュウジの上の方で大きな音がした。


 反射的に見上げると自分に向かって大小様々な無数の岩が降り注いでくる。


 リュウジは反射的に、崖から離れる様に飛び退いたが間に合わなかった、幾つかの岩に被弾し意識を刈り取られる。



◇◆◇◆◇



 何かに引きずられている感覚に意識を取り戻せば、どうやらブチが自分を瓦礫の下から引き摺り出して、荷物の近くまで引き摺っている処らしい。


 襟首を咥えて引き摺られている自分の下半身が眼に入る。


 脇腹から(はらわた)が飛び出し、左足は、変な方向にねじれて骨が飛び出している。


 どうにもとんでもない光景が目に映っているのだが、全く痛みは感じない。


 ブチに引き摺られて、左右にプラプラと揺れる足が眼に入り動かそうとするが、全く動かない。


 直ぐに治癒ポーションと、思うもベルトに括り付けておいたポーション袋は紐だけをベルトに残して無くなっていた。


 痛みが無いので思の外冷静に状況を判断できた。


 これはもう助からないのではなかろうか、下半身が動かず重傷を負っているにもかかわらず痛みが無い。


 これは背骨が行ったか、済まん緑子、もう駄目そうだ、逢いたかった、せめて一目だけでも。


 最後に次元転移装置に向かう緑子の姿が目に浮かぶ、悪戯っぽく微笑み手を振りながら後ろ向きに行先の無いかもしれないゲートを潜って行く。


 きっとあのゲートはまだ繋がっていて今頃緑子は地球で今までのように暮らしているはずだ、この世界には来ていない。


 ブチが襟首を放すと、背中にシダの葉を入れた袋が当たる。


 リュウジの目から無念の涙があふれる。


 此の後ザルク達は緑子を探してくれるだろうか、自分の事を緑子に伝えてくれるだろうか、いやこの世界には来ていないほうが良い。


 緑子に逢う事も出来ず、こんな処で馬に看取られて一人朽ち果てるのは辛すぎる。


 リュウジがふと視線を落とすと、あらぬ方向に曲がった自分の脚の上に白い精霊が乗っていた。


 その小さな妖精の白い肌は透明なゼリーで薄くコーティングした様な瑞々(みずみず)しい質感を醸し出している。


 足元まで長いミルク色の重そうな髪は躰に纏わり付き、背には毛細血管の透けて見える甲虫の内翅のような形をした二対の翅を引きずっている。


 妖精は水中に潜む宝石の様に鮮やかな血色の瞳でリュウジを見据えていた。


 此の世界で見る初めての精霊は妖々しく美しく、何故か射るような視線をリュウジに向けていた。


「君が俺を看取ってくれるのか」


 リュウジが呟くと、妖精はリュウジが微塵も予想し得なかった行動に出た。


 小さく「助けてあげる」と呟くと、腸が飛び出し、まだ血の流れ出ている脇腹の傷口からリュウジの体内に潜って行ってしまった。


(助けてくれる? 食べる、の間違えじゃないのか、)


 どちらにしても、此のままなら、此処で死ぬのは確定だ、食い殺されても大した変りはないだろう、運よく助かれば其れは拾い物だ。


 リュウジは腹の中で何かが動いているのが判る、先程の白い精霊だろう、少しずつ意識が遠のき瞼を閉じる。


 瞬間『まだ駄目、飛び出した腸を戻しなさい』と、頭の中に響く声で無理やり起こされる。


 リュウジは幸い痛みが麻痺したままなので、言われるがまま飛び出した腸を、傷口から無理やり腹に詰め込んでいった。


『次は脚よ、飛び出した骨を中に入れて、元の位置に戻して』


 リュウジは、足を真っ直ぐにすると、左足の大腿部から飛び出した骨を押し戻し、傷口から指を突っ込み、骨の位置を合わせる。


 それは思いのほか重労働だった。


(人使いが荒いな、痛みは無くても、意識が遠のきそうだと言うのに)


『まだ駄目、でももう少し、此れで最後よ、躰を真っ直ぐにして寝て頂戴、必ず救けるから』


(言葉にしていないのに返事がかえて来た)


『そうよ、もうあなたとは誓約したのよ、だから必ず救けるわ、私はあなたの()約者(ティーダ)よ』


()約者(ティーダ)、・・・・そう)


 リュウジは薬草の袋をどかし、躰を真っ直ぐにすると、木々の間から見える大きな白い大の月を見ながら、眼を閉じ深い眠りについた。



◇◆◇◆◇



 その日彼女達は心の高ぶりを抑えながら男を追っていた。


 千歳一隅の機会だった。


 その日何故か男は一人で魔境に入って来たのだ。 


 男は彼女達の見下ろす下を、のんびりと斑の馬を進めて行った。


 今日男と交渉し誓約しなければならない、これ以上の好機はもう訪れないだろう、彼女達は細い枝を渡りながら男を追って行く。


 今回男は幾つか知っている薬草の群生地の中でも、一番質の良い崖下の群生地に向かっている様だった。


 其処は彼女達がミュラを見張りはじめてからも男が相棒と共に何度か訪れていた場所だった。


 彼女達は考えていた、男が馬を降り薬草採取を済ませたなら男と交渉しようと、姿を見せるのは一人、交渉が決裂して何か有っても一人は生き残れる、そして男に伝えよう自分達の種族のすばらしさ、そして可能性と、現在の窮地を。


 彼女達にはそれしか手立ては無いのだから。


 だが状況は一変する、男が馬から降り、薬草もほぼつみ終えた頃其れは起こった。


 理由は解らない、昨日の雨で地盤が緩んだのか、長い年月の疲労か、崖が崩れ男の上に土砂が降り注ぐ。


 男は彼女達の眼下で、その音を聞くなり、素早い判断と魔獣並の速さで回避を試みたが、彼の居た位置は悪すぎた。


 崖に近すぎたのだ、男は回避しきれず、降り注ぐ岩に捕まり、土砂に呑まれて視界から消えていく。


 彼女達は考える事を止め、男が飲まれた土砂を呆然と見つめていた。


 つい先ほどまであった希望は土砂と共に消え去り、又ふりだしに戻ってしまったのだ。


 彼女達の小さな膝が震え、折れそうになった時、男の斑馬が土砂の端の方から何かを引き摺りだしている。


 丁度彼女達と反対側の土砂の死角から、斑馬に引き摺りだされたのは土砂に呑まれたと思ったあの男だった。


「此処に居て」


 彼女は妹を其処に残すと、真っ直ぐに男の元へ、文字通り飛んでいった。


 男に近付き、男の様子がはっきりと彼女の眼に映ると、彼女の心は恐怖に締め付けられる。


 男は腸が飛び出し、脚から骨が飛び出して、襟首を咥えて馬に引きずられるまま、動いていなかった。


(もう死んでいるのでは)


 もし生きていたとしても、彼女は究極の選択を迫られる。


 この状態ならば、事後承諾で誓約で来るだろう、其れも感謝こそされても疎まれる事はないだろう、正に今後二度と起こらないだろう生涯一度の好機だが、誓約しても男を助けられるかどうかぎりぎりの処だ。


 もし誓約の後助けられなければ彼女の生涯もそこで終わる事なる。


 そしてもし誓約しなければ男は助からないだろう、彼女達にリスクも無くなるが、このチャンスも失われ振り出しに戻るのだ。


 彼女が男の上に降り立つと、男の胸はまだ弱々しく上下し呼吸していた、男はまだ生きている。


 彼女は決意し男を見詰める。


 すると男はその眼差しを受けて、小さく呟いた。


「君が俺を看取ってくれるのか」と。


「救けてあげる」


 彼女は決意を込めて呟くと、即座に行動に移った。


 腸が飛び出している傷口から血を啜ると、腸を掻き分けて男の体内に潜り込む。


 男の血を啜った彼女はもう後には引けなかった、その時点で男との誓約が始まり、彼女の体の中でも誓約が進められる。


 彼女は自分の中で準備が整うと、自分の血を体内の適当な血管から男の中に流し込んだ。


 これで誓約は成立し、彼女は彼無しでは生存出来なくなり、その代わりに彼の体内で力を振るう事が出来る。


 彼女は、直様男の躰の重要器官から確認して行く、男は予断を許さない深刻な状況だった、背骨に肝臓、膵臓、腎臓に肺、無事な臓器の方が少ないくらいだった。


(まず背骨、いえ背骨はあと、痛覚が戻ってしまう、まず止血、そして肺だわ)


 彼女は、ややもすると折れそうな心を抑えつつ、冷静かつ迅速に対処していく。


 彼の命は自分の命であるばかりでなく一族の未来でもあるのだ、諦める訳には行かなかった。


 彼女は眠りに落ちそうな彼に叫ぶ。


『まだ駄目、飛び出した腸戻しなさい』


 このまま眠ってしまわれると、彼女だけで飛び出した腸を戻していたのでは手遅れになってしまう、なんとしても本人に戻して貰うしかなかった。


 次は脚だった、開放骨折は彼女だけの力では直せない。


『次は脚よ、飛び出した骨を中に入れて、元の位置に戻して』


 骨が押し戻され、傷口から彼の指が入ってきて骨を元の位置に戻す。


(人使いが荒いな、痛みは無くても、意識が遠のきそうだと言うのに)


 今にも意識を手放しそうな彼の心が伝わってくる、今意識を手放されると、背骨が繋げない、彼女は焦りながらも彼を励まし呼び掛ける。


『まだ駄目、でももう少し、此れで最後よ、躰を真っ直ぐにして寝て頂戴、必ず救けるから』


(言葉にしていないのに返事がかえて来た)


 彼から驚きの心が帰ってくる。


『そうよ、もうあなたとは誓約したのよ、だから必ず救けるわ、私はあなたの()約者(ティーダ)よ』


()約者(ティーダ)、・・・・そう)


 彼は躰を真っ直ぐに横たえると静かに眠りについた。


 しかし彼女の仕事は此れからだった、まだ終わっているのは、呼吸の確保と止血呑みだ、これから彼女は彼の体の中で、骨を繋ぎ、臓器を修復しなければ彼を救う事は出来無い。


 今彼女の時間との戦いは始まったばかりだった。


 彼の惨状は酷く、普通であればいくら彼女達といえど望み薄の状態だったのだが、彼女は彼の体内で一塁の望みを見出していた。


 彼の体内は何故か魔素に満ち溢れていた、血液が、細胞が、魔素で飽和しているのだ。


 その膨大な魔素を使用出来れば、全ての臓器の修復が行える。


 まるで躰の中に魔素を溜め込んでいたかのような体内魔素量だった、実際そんな技はセンスが問われる上に、余程技に長けた魔導士でなければ修めるのは不可能だ。


 彼の素性が気になる処だったが、彼女はその豊富な魔素を使って彼の体を修復し始める。


 壊れた細胞を取り除き、周りの細胞を活性化させ新しい細胞を創り傷を治して行く。


 骨も活性化させ成長させつなぎ合わせる、カルシューム等足りない物質は魔素変換して作り上げた。


 そして自分の魔力が尽きれば彼の体内魔素を取り入れ、彼女はひたすら動き続けた。


 どれ程の時間がたったのか、彼女は疲れ果て、彼の体内で眠りに落ちる、出来る事はすべて終え、彼にも回復の兆しが見え始め、彼女も意識を手放したのだった。

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