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異世界の誓約者  作者: 七足八羽
リゼルダーナ
19/60

約束


 リゼルダ―ナではチビの連絡を受け、住民全員がキアナ達を出迎える為に街の入り口に集まっていた。


 キアナ達が三十頭のスケイルホースを連れて戻ると、リゼルダ―ナはお祭り騒ぎになった。


 キアナ達は住民に囲まれながら、賑やかに広場まで行くと、用意されていた食事と酒にありつき大宴会が始まる。


 椅子やテーブル等と言った物は無いので花見のような状態なのだが盛り上がり方が半端では無い、今までその日の食糧に事欠いていた人々が、食料を手に入れ、剰え未来に日が刺してきたのだ、そしてその第一歩ともいえるスケイルホースを引き連れたキアナの凱旋なのだから盛り上がらない訳が無かった。


 うろこを膝に乗せ、レベルとチビを相手に酒をあおっているリゼルダの元に、秘蔵の酒を手にしたキアナとクナシオを先頭に達買い出し班が現れる。


「キアナ、其の酒は!」


「はい、我が家のとっておきです」


 リゼルダは杯に残った酒を急いで飲み干し、空になった杯を差し出す。


「はい、リゼルダ様」


 キアナはリゼルダの脇に腰を降ろすと、差し出された杯に酒を注ぐ。


 リゼルダは其れを一気に煽る。


「かー旨めー」


 そう言うとリゼルダはもう一度杯を差し出す。


「自慢の酒ですから」


 キアナはそう言うと、もう一度杯に酒を注いでいく。


「其れで、土産のあいつらはどうなんだい」


リゼルダが話を促すと、キアナが話始まる。


「はい、今は家は手狭なので、ダナトの処に居ます。

 道々話しながら来ましたが、彼らは元商人で、同業者に嵌められてガロンベルグを追われたようで御座います、代表のアマヒコと申す者も中々の遣り手で、今後我らの力になる事と存じます」


「そうなのかい」


「はい、その様な次第で、明日謁見の場を設けて頂きたいのですが」


「えー、そんなの遣りたくないな、面倒臭いし」


 リゼルダは悪びれもせず、とても嫌そうな顔をして言う。


「リゼルダ様」


「キアナが見て、大丈夫だったのだろう」


 リゼルダの逃げる気満々のセリフを聞いて、キアナが美眉を寄せる。


「それはそうで御座いますが、やはり」


「どうしても苦手なんだよね、そう言うの」


「諦めて下さいまし」


 キアナがぴしゃりと言ってのけると、リゼルダは善後策を出してきた。


「じゃキアナ、先に会っておくって言うのはどうだろう、丁度レベルも居るし、後はダナトを呼んで此処で会おう、大丈夫そうなら、其のまま皆と宴に参加させれば良い」


「此処で、で御座いますか」


「良いだろう、そうすれば明日は形だけで済むし、キアナ、ボス達を連れて来てくれないか」


「はい、承知いたしました」


 キアナも諦め、まずはアマヒコを連れに向かった。



 アマヒコ達はリゼルダーナに着くと、スーフェの先導で速やかに案内された。


 道中本当に小さな国だとは聞いていたが、此れは其れどころの話ではない、村以下だった。


 立ち並ぶ家も、何とか家の風体を保っている様な家が殆ど、でこんな処に、ドラゴナイトが居る等とても信じられなかった。


 アマヒコもサラドラグラを苦も無く倒すチビの姿を見ていなければ、その力も、ドラゴンだと言う事も信じられなかっただろう、況して女のドラゴナイト等殆ど居ない筈だった、アマヒコも聞き及んでいるのは二人だけだ。


 しかし、ドラゴナイトに守られた国は必ず発展する、これはこの世界において、何故か史実だった。


 百聞は一見に如かずだ、自分の目で見てしまった物は否定できない、少なくてもここにドラゴンは居る、見た事も無い様な小さなドラゴンではあるがいる、ドラゴナイトについても明日謁見すれば解る事だろう。


 スーフェに案内された家は、此処に立ち並ぶ中では一番大きく、作りもまともに見える家だった。


 アマヒコ達はその一室に通され、明日の謁見まで待機の予定だ、部屋は質素で、小さなテーブルに椅子が四つに、少しいびづな暖炉と備え付けの棚が二段有るだけだった。


 スーフェは彼らを案内すると、「その内食事を持って来てやるよ、休んでいてくれ、でも狭いのは我慢してくれよ、此処より広い処は無いのだから」と言って出て行ってしまった。


 少ししてアマヒコがドアを開けると、外には見張りすらいなかった、信用されたものである、それとも別にどうでもいい事柄だと言う事なのだろうか。

アマヒコ達は旅で酷使した体を休めようと、思い思いに腰を降ろした。


「頭、どうします」


 カインだった彼はアマヒコの右腕で、一緒に商会を立ち上げた古参の面子だった。


 その問いにアマヒコはゆっくりと話始まる


「そうだな、とても小さな国だとは言っていたが、此処は国どころか村とも言えないな、しかし彼らを襲ったのは我らで、圧倒的な戦力差だったにも拘らず、殺さないばかりか、命まで助けてもらい、職までくれると言うのだぞ」


「そうですな、ガロンベルグを追われ行くあての無い我々には有り難い話ですな」


 彼はガラントと言い、何時も冷静で物事を客観的に見る事の出来る口数の少ない男で、アマヒコの知恵袋と呼ばれていた、アマヒコよりは、アマヒコの父に近い年齢で、浅黒い肌に映えるダークシルバーの髪には最近白髪が混じり始めていた。


「どうする皆は、普通なら一笑に付す様な状況だが、一騎で城を落とせると言われるドラゴナイトが女王だと言うし、明日謁見して、話の分かりそうな女王なら俺は此処でやって行こうと思う、其れに、あのキアナ殿は相当な商人のはず、何故ここに居るのか」


「頭、俺も一緒にお願いします、あの時頭に拾われなきゃ、今頃どうなっていた事か、こんな時ほど、お供させて下さい」


 アマヒコが最後に連れて来た新人、ラフィルだった、大樹街道で盗賊に襲われ、一人生き残り、彷徨っている処をアマヒコに拾われ、商会を新しい家族と思いアマヒコに付いてきた若人だ。


「其れは俺達もだぜ、でもキアナ殿の話じゃ、此処の女王様は話の分かる良いお方に聞こえたから大丈夫だろ」


 元々、百人以上も居た従業員の最後までアマヒコに付いて来た十七人だった、最後には、アマヒコと一緒に盗賊まで身を落とし、キアナ達を襲った仲間なのだから結束は強かった、誰一人かける事無く、アマヒコに付いて行く事となった。


 自分達の方針も決まり、空きっ腹を抱えて雑談にも身が入らなくなってきたころ、キアナが訪れた。


「アマヒコ様、謁見前に女王様が少し話したいそうです」


「待ってくれ頭一人か」


 ガラントが申し立てる。


「では貴方も、宜しいでしょう」


「俺もだ」


 カインも申し立てる。


「解りました、代表の方三人と言う事で、案内いたします」


 キアナは、まだ後に続きたそうにしている者達を見てとり、状況を鑑み、後続をばさりと切り落とす。



 アマヒコ達は何処に連れて行かれるのかと、キアナに促されるままに付いて行くと、世界樹の木漏れ日の中で盛り上がる、キアナ達の帰還を祝う大宴会の中に導かれていった。


 リゼルダーナの重臣だろう面々の集まる中、一番世界樹に近い上座に、旨そうに杯を煽りながら、胡坐の上にサラドラグラの子供をのせ、肩にはチャンバー・ビッツを留まらせた見事な赤髪の女が目に止まる。


 キアナの話と、容姿が合っている、女王に違いないと、思っていると、思わず目が合う。


「お前達か、家の商隊襲っておきながら、助けられちまったダサい盗賊って言うのは」


 目が合った途端、身も蓋も無いストレートな言い様だった。


「言葉も有りません」


「まあ、座りな」


 アマヒコ達が座ると、酒の入った杯が渡され、思わず中身を凝視してしまう。


「お前達、本当に運が良かったな、もし商隊の頭がキアナじゃなかったら、今頃全員ミンチだったぞ」


 三人は、一瞬にして粉々になったサラドラグラの頭を思い出し、冷汗が噴出してくる。


 アマヒコ達は固まってはいたが、リゼルダの歯に衣着せぬ物言いには好感が持てた。


「其れで、お前達はこれからどうしたいのだ」


 アマヒコ達は驚いて少し思考が停止する、まさか、キアナ達を襲い捕まっている自分達が、此れからどうしたいと聞かれるとは思っていなかった、キアナから提案された自分達には有り難い提案だったが、其の提案を飲むか飲まないかと言う話になると思っていたのだ。


 此処で、提案をけって此処を出て行くと言っても、通るのでは無いかと、思えるような口ぶりだったのだ。


 しかし彼らの心は決まっていた、彼らは一度キアナの方を向くと「はい、この地に留まり、キアナ殿を手伝って行きたいと思います」と答えるのだった。


 この言葉で、キアナはクナシオの隣で満面の笑みを浮かべ手に持った小さな杯を口に寄せた。


「ではお前達は此処留まり、キアナと共に、この国を盛り立ててくれると言う事で良いんだね」


「はい」


「では期待している、お前達が商人だったと、言うのはキアナから聞いている、その力存分に振るってくれ」


「はい尽力いたします」


「どうだ、皆それで異存はないか」


「「「御座いません」」」


 アマヒコ達が同業者から疎まれるぐらいには腕の立つ商人だと言う事と、今後それがこの国にどれ程貢献する可能性があるかは、既にキアナによって十分に根回しされていた為皆今のやり取りで納得したようだ。


「ではアマヒコ、杯を呑み干して、仲間を全員連れてこい」


「はっ」



 十七人全員が揃うと、リゼルダは言った。


「これでお前達は今から、」


 キアナに小声で、台詞をかぶせられ訂正されてしまう


「明日からで御座います」


「あーもとい、明日謁見が終われば我々の家族だ、今日は一緒に宴を楽しめ」


 皆宴に加わろうと動き出した時、リゼルダがガラントを呼び止める。


「ガラント殿」


「はっなんで御座いましょう」


「此れで貴殿が此の国の最長老だ、宜しく頼む」


「えっ」


 ガラントの肩ががっくりと落ち、辺りからクスクス笑いが聞こえて来る。


「ガラント此処でも長老だよ」


 アマヒコが呟く。


「御頭、何か言いましたか」


「い、いや、何も」



◇◆◇◆◇



 後日、リゼルダ以外、昨夜の酒も頭の隅に残る中、謁見は滞りなく行われ、アマヒコ達十七人は晴れて正式にリゼルダーナの住人となり、リゼルダーナの外交部隊として、キアナの配下となった。


 又キアナの強い要望と本人了解の元、チビも正式名称をリゼルダのファミリーネームも取り入れ、チャンバー・ビッツ・キッシュハートとする事となった。



 アマヒコ達の最初の仕事は決まっていた。


 アマヒコ達は、キアナに案内され、甲殻土竜の甲殻のところまで案内されていた。


「どうです、貴方達には、今回私と一緒に此れを扱っていただきます」


 見た事は無いが、アマヒコ達にも此れが何なのかは直ぐに分かった、誰もが聞いた事は有っても見た事は無いと言う幻の魔獣、甲殻土竜だ、記録は口伝に残る一件のみ、現物は死骸すら見つかった事は無く、流通は保々皆無だ。


 そしてアマヒコ達の目の前に有るこの個体は、口伝の物より遥かに大きく、見る者を圧倒する。


「凄いな、此れは、だが此れだと取引先も限られてしまうな」


普段口数の少ないガラントが、甲殻土竜の爪を叩きながら呟く。


「凄いな、しかし、此れが本当に居るとは思わなかった、一体何処で捕まえたのですか?」


此方は完全にお伽噺だと思っていた口だろう、皆苦笑いしていたがラフィルの後半の質問については事情を知らない十七人は全員が耳をそばだてた。


此の件については皆聞きたても、聞くことを控えた質問だったのだが、ラフィルに其処までの考慮は無かった。


「そうですね、其のことに関しては説明するより、実際に見た方が良いでしょう、後で案内いたしますから楽しみにしていてくださいな、でも、今は此の甲殻土竜の方を先にお願いいたしますよ」


 一体何を見せてくれると言うのか、今の口ぶりだと只仕留めた現場を見せてくれると言う訳ではないだろう、ならば何が見られると言うのか、一同キアナに興味を掻き立てられるがこの場で答えが聞けない事も皆察していた。


 実際にサラドラグラの生息する岩山の調査は非常に良い結果が出つつあった。



 謁見後、リゼルダとチビは上空からサラドラグラの岩山を監視し続け幾つもの事実を突き止めた。


 サラドラグラ達の数は、今岩山付近に居るだけでも、数百にのぼり、岩山を中心に大樹の森の中にもかなりの数が生息している、さらに彼らは日が沈むとカナン荒野に狩りに出かけるが、半数以上の物は其のままに二三日帰らない事も判った。


 この岩山がこの辺一帯のサラドラグラの繁殖地の一つなのは間違いないだろう。


 そしてその繁殖地の周りに巻き散らかされているであろう、サラドラグラの糞などを求めてか岩山の周りの地下に異常に群がるサンドワームを狙って甲殻土竜が現れるのだった。


 ここ一週間以上の監視では甲殻土竜と思われる地表の蠢きは頻繁に観察されるものの、甲殻土竜が地表に現れたのは、夕刻狩りに向かおうとしたサラドラグラを狙った一度きり、それもほんの十数秒程度だけだったが、チビが狩りをするには十分な時間だった。


 この情報はリゼルダーナにとってはとてつもない朗報だった、サラドラグラはある程度安定して狩っても差し支えなく、チビさえいれば、甲殻土竜でさえ狩れると言う事なのだ、サラドラグラの繁殖地はリゼルダーナにとって正に宝箱となりうる領地となったのだった。


「楽しみにしてろ、だなんて一体何を見せてくれるんです」


 全く空気を読めていないラフィルの言葉だったが、今度はさすがに軽くかわされ、皆に批判の視線を受けて黙り込む。


「ですから、それを楽しみにしていてくださいな、今は此れを捌くのが先で御座います」


 キアナが巨大な甲殻土竜を示してアマヒコに視線を送る


 アマヒコにしても、確かに商人魂に訴え掛けられる代物だったが、濡れ衣を着せられ追放された今では状況が悪すぎた。


「凄いですね、私も初めて見ました、此れを捌くのは簡単な事ではないでしょう、取引先も絞られてしまう事でしょう、ですが先だって話した通り、今の状況では私が顔を出しただけで商談にすらならないでしょう、折角のキアナ様の好意、非常に有り難いのですが部下達だけで行ってもらうほか有りません」


「そんな事を気にしていたのですか、取引先には私に伝手が御座いますし、貴方を其処に引き合わせる都合もございます、此処からグランドバザールまでは簡単に行き来できる距離では有りません、この機会を逃したくありませんのでその様な事は気にせず同行していただく訳には参りませんかアマヒコ殿」


 そう言ってアマヒコに向けられた笑顔は自信に満ちていた、とても根拠無く出来る顔ではないだろう、昨日今日部下になったばかりの自分にその自信に満ちた根拠は話しては貰えないだろうが、アマヒコはその目を信じる事にしたのだ、もう躊躇する事は無かった。


「はい承知しました、喜んで」


「良かったわ、受けて貰えて、受けて貰えなかったらどうしようと心配していいましたので、ほっとしました。」


「キアナ様、私は貴方様の部下にございます、呼び捨てにて、命じて下されば」


 キアナはその言葉を躊躇することなく受け入れ、アマヒコに命じる。


「そうですか、ではアマヒコ、皆の疲れが癒え次第グランドバザールに向かいます、人員を選抜して出発の用意をせよ」


「はっ、承知いたしました」



 リゼルダーナからグランドバザールまでは長旅である、普通であれば人と馬の食糧と水の確保だけでも大変な作業となるのだが、水は隣に川が流れているので心配はない、況して今回購入したスケイルホースは元々荒野に生息していた為か水の摂取量は極端に少なく、暑さにも強い、力も馬数頭分に匹敵し、腐ってさえいなければどんな植物でも食べてしまう、長旅をするに至ってこれほど逞しい奴らも居ないだろう。


 そして人の食糧に関しても此処には、サラドラグラの肉と、食べるのを後回しにされている甲殻土竜の肉が大量にストックされていた。


お蔭でアマヒコ達の仕事は殆ど荷造りだけで済んでいた。


 只リゼルダの我侭で、甲殻土竜の肉を旅に持って行くのは基本却下されていたにもかかわらず、旅に同行する新入り達は一度食べてみたいと言う事で、ある程度この肉を持って行くことになったのだが、彼らが後にこの決断をどれ程後悔したことか、結局干し肉になった其れはそのまま食べられるような味では無くなり、半分近くは味を殆ど気にしない、うろことグラナダの胃袋に収まる事となり、彼らは空きっ腹を抱えて旅をする嵌めになったのだ。


以外にも苦労したのはスケイルホースも含めた馬達の調教だった、調教と言っても、チビの咆哮でパニックを起こさない様、チビが味方だと教え込むのが思いの外難しかったのだ、ドラゴンの咆哮は動物たちの本能に刻まれていて、中々味方だと認識させるのは骨が折れるのだ、チビがはるか上空で一声上げただけでパニックを起こして走り出すのだ。


結局最後は、チビが咆哮を挙げながら、パニックを起こす馬の上に何度か着地しては馬を宥める、と言う荒療治で味方だと認識させる事となった。

 もしかすると、何頭かショック死するのではないかと思ったが、何とか無事に完了した。


 今ではチビが街の上空で咆哮を挙げても、馬達はごく自然に、何事も無かったかのように振るっている。



「キアナ、クナシオ少し話があるのだが良いかい」


「はい」


「はい、なんで御座いましょう」


 クナシオとキアナは何時になく真剣な面持ちのリゼルダの前に腰を降ろす。


「二人には話しておかなければならない事が幾つかあるのだ、まず私はドラゴナイトに成る為に、弟弟子の協力を貰ったのだが、その時に一つその弟弟子と約束をしてね、チビが仕上がったら、行方知れずになっている、そいつの伴侶を探し出す手伝いをする事に成っているのだ」


「リゼルダ様、聞いても宜しいでしょうか」


「構わないよ」


「協力とは、具体的にどの様協力なのでしょう」


「ドラゴナイトになる為の権利の譲渡だ」


「権利の譲渡・・・・」


 キアナが呟く、まさかドラゴナイトに成る権利を人に譲渡する者がいようとは、ドラゴナイトになれば何百年と言う一生を保証されたような物、それを姉弟子とはいえ、譲る者がいようとは信じられない思いだった、その男がどんな思いで譲ったのか、キアナの胸に疑問が残るがこの問いにはリゼルダは答えなかった。


 ドラゴナイトとはこの世界の夢その物と言っても差し支えが無い様な存在だ、何百年と言う時をドラゴンと友に生き、その力を持って幾つもの偉業を成し、人々に敬われ、歴史にその名を残すことが出来る、至高の存在なのだ。


「その方の、名前を聞いても宜しいでしょうか」


 クナシオも又その男に興味を持った。


「リュウジだ、今ミュラで師匠や兄弟子と私を待っているはずだ」


「そうですか、守らねばならない約束ですね」


「ああ、破る訳にはいかない、其れで済まないがグランドバザールまで行ったら、私は其処からミュラへ向かおうと思う」


「そうで御座いますか、其れでは従者を選抜しますので、お連れ下さい」


「そうか、では従者はうろこと言う事で」


「却下します」


 キアナは下らない冗談に悲しそうに眉を寄せ、一蹴する。


「リゼルダ様、其れで、其の探さねばならない女性(ひと)の手掛かりは、何か有るのでしょうか」


 クナシオにそう聞かれ、リゼルダは、少ない荷物の中から獣市でリュウジに渡された緑子の似顔絵を取り出しクナシオに渡す。


 クナシオは渡された似顔絵を見ると、見事な似顔絵の右下にミレアス語で緑子と名前が書いてあり、左下には何やら見た事も無い様な文字とも模様とも見えるようなものが書いてあった。


「リゼルダ様、此の左下の模様は何ですか」


「其れは彼女の国の文字で、名前が書いてあるらしい」


「見た事も無い文字ですわね」


「ああ、だいぶ遠い国らしいからね」


 キアナはこの辺一帯で使われている言葉ならほとんど知っている自信があった、使える訳ではないがどの地方の言葉なのかぐらいは解るし、文字も然りだ、なのにこの文字はキアナの記憶の断片にすら触れるものが無い、言葉通り余程遠い国の言葉と思うしかなかった。


「そうですか、此れにはリゼルダ様の名誉が掛っているのですね、では全員で探しましょう」


「そうですわね、グランドバザールには上手い似顔絵氏が沢山います、この似顔絵を沢山写してもらいましょう」


 結局従者に関しては、クルトと、主が女性であるのだから、女性の従者も必要だろうと言う事で、アマヒコ一押しの有望株カヤナと言う事になった、それ以上はリゼルダ当人に断固拒否され、キアナも諦めざるを得なかった。


 アマヒコの選抜した商隊は六台の荷馬車に十人と言う、信じられない少人数の商隊となった、普通なら護衛も入れて少なくても二十人以上の規模の商隊になるはずだ二十人と言うのも滅多に見ない少なさなのだが、十人と言うのはリゼルダとチビが居て初めて可能となる人数だ、護衛がリゼルダとチビのみなのだから。


側から見ると、自殺行為にさえ見える此の商隊は、一路グランドバザールをめざし、リゼルダーナを後にするのだった。



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