薬草の秘密2
次の日からリュウジ達は、採ってきた苗を鉢植えにして、いろいろな実験を続けた。
結果今の処解った事は、青陰大葉シダは魔素水を与えなければ、只の木陰シダに成ってしまうと言う事。
逆に言えば木陰シダが、魔素水を吸い上げ青陰大葉シダに成っていた訳で、この二つは、同じ植物だったと言う事と、長葉蒼木は、成長に魔素を使う為、魔素が無い処では育たないのではないか、と言う事だ。
此れは多分間違えないだろう、魔素を放出するほかの植物と、一緒に入れた長葉蒼木だけが成長こそしていないが、枯れずに残っているのだから、多分魔素の量が多ければ成長し始める事だろう。
現在は、出来るだけ魔素を多く作り出す植物を見つけ出す実験をしている。
ガラスの蓋の付いたケースに植物を入れ、次の日リュウジが確認するだけなのだが、候補は幾つか有ったが、決定打となる様な植物は見つからなかった。
そしてもう一つ、此れは難航しているのだが、魔素水の濃縮実験もしていた。
実際魔素水を約一リットル位飲むと、少しではあるが、体内魔素が回復し疲れも取れるのだ、簡単に言うと回復薬と言う言葉が一番当てはまりそうなのだが、要はそんなに沢山魔素水を飲むのは無理だと言う事だ。
故に濃縮なのだが、温めれば水より早く気化して只の水が残るばかり。
遠心分離も効かない、凍らせれば一緒に凍ってしまう。魔法も今の処イルベリーにお願いして、思い付く限りのイメージで試しているが成功していない。
此れが成功すれば、強力な回復薬の精製できると言う訳なのだが、青陰大葉シダの栽培と共に、先は長そうだった。
◇◆◇◆◇
最近、夕方仕事を終えると、ザルクに魔法を教える代わりにリュウジは弓を教えてもらっていた。
ザルクの弓は日本の弓ほど大きくは無いが威力は引けを取らない、その分引くには相当の力がいる。
どちらかと言うとアーチェリーに近いような形の飾り気の無い無骨な弓で、ガゼックから譲り受けたものだと言っていた。
その弓で、ザルクが見本に射た矢は、ザルクの魔素に包まれ、まるで小さな流星の様に的に吸い込まれていった。
的になっていた大きな板は、ドンと言う音を立てて振動した。
「ザルク、魔法使てるじゃないか」
「魔法なんて使って無いぞ、此れは師匠から貰った強弓だから」
「いや、矢がしっかり魔素に包まれていたよ、今度は矢が回転しながら速くなるようにイメージして矢を射てみてくれ」
「本当に魔法に成っているのか?」
あれほど使えなかった魔法が、知らず知らずの内に使っていた等、信じられなかった。
「しっかりした魔法だ、今言った通りやってみてくれ、」
リュウジに促されて、ザルクは再び無骨な弓を構える。
しかし先程と同じ様な矢が先程と同じ様に的に当っただけだった。
「ザルク、ちゃんとイメージしたのか」
「ああ、ちゃんとイメージしたぞ」
それから何度となくザルクは矢を放ったのだが、いつも通り的に当るだけで何も変わらなかった。
「リュウジ本当に、魔法に成っているのか」
「ああ、それは確かだ、ちゃんとザルクの魔素も見えているし、大体この距離で、全て的の中心に当るって、有りえないだろ」
「いや、いつも当たっているぞ、それは俺の腕だ」
結局その日は、そのまま夕食まで弓を引き続けたのだが成果は無かった。
だが、リュウジは一つ推測し、夕食後矢を三本借りると、部屋に戻って細工を施した。
◇◆◇◆◇
次の日、昼食をすますと、リュウジは細工を施した三本の矢を持って、ザルクを昨日の続きに誘った。
「見てくれ、矢の方にも、少し改良してみた」
そう言ってリュウジの見せた矢は、少し細くなり、螺旋上の引っ掻き傷のような模様が付いていた、矢羽も三分の一程に切り詰められ、何とも異様な矢だった。
「今度は此れで試してみてくれ、威力が格段に上がるはずだ」
「此れでか?」
「ああ、矢羽を小さくして、空気の抵抗を減らし、矢を細くして、軽量したことで、スピードが上がり、この螺旋の掘り込みで矢が回転して貫通力を上げるんだ。倍以上の威力が出る筈だ」
リュウジは事も無げに言い切って見せた。
ザルクはその矢を受け取ると、いつも通り的に向かって矢を放った。
ザルクが放った矢、回転しながら青い魔素に包まれ、的を貫通し遥か先の石壁まで届いた。
魔素は石壁近くで霧散したが矢は、弧を描かずにそのまま重力を無視して直進し石壁に中って弾けた。
矢は三本とも同じような威力で、的を貫通し石壁に直撃した。
「リュウジ此の矢、作り方教えてくれ」
「構わないけど、矢羽を切って、模様書き込んだくらいで、あんな威力は出ないって」
確かに言われてみればその通りだが、威力は各段に上がっている。
「どう言う事だ」
「これがザルクの魔法だ、と言う事だ」
ザルクは、事も無げに言ったリュウジの言葉に胸躍らせ、直ぐに次の矢をつがえた。
それからザルクは、楽しそうにニヤニヤしながらひたすら矢を射続けたが、すべて先程と同じ様に的を貫通して石壁に中って弾けている。
とても普通の矢とは思えない威力で、的はもう粉々になっていた、此れなら今まで矢を弾かれていた魔獣も仕留められるだろう。
「確かに、魔法なのは解ったが、何と言うか魔法を使っている気がしない」
「俺も魔法使えないから解らないが、そんなもんなのじゃ無いのか」
「そうなのか、的作り直さないとな」
ザルクが嬉しそうにぼやいていると、何時の間にかイルベリーとギルがお茶を持って来ていた。
すぐ後ろには、茶菓子を持った白と雪がチョコチョコと二人の後を付いて来ていた。
「魔法は使えたの」
イルベリーに声を掛けられ、ザルクは何とも答えづらそうに、後ろ頭を掻きながら答えるのだった。
「使えるには使えたのだが、何と言うか」
それを聞くとイルベリーは、持って来たお茶を配りながら嬉しそうに話し出す。
「そうなの、凄いわ、私にもみせて」
ザルクはお茶を片手に、的まで歩いて行き、大きな破片を見つけると、巧く立て掛けて帰ってきた。
「見てろよ」
ザルクは低くなった的に合わせて構えると、ゆっくりと溜めて矢を放った。
放たれた矢は、低空で的を貫通すると、何故か軌道を変えて上昇すると空の彼方に消失してしまった。
「おお」
「え」
「あれっ!」
「すごーい」
四人ともお茶を片手に空を見上げている。
「ザルク、いま少し矢が上に行けば良いって思わまかったか」
「ああ、少しな、地面に突き刺さらないで壁まで行くように、少し上に浮けばと思ったが、そのせいか」
「多分、石壁の少し手前でザルクの魔素が、霧散しているから、其処までだったら、自由に軌道を変えられると言う事かな?」
「軌道が自由になる!どういう事だ」
「いまま自分で軌道変えたじゃないか」
「え?」
「少し浮けばよい、と思ったんだろ」
「ああ」
「なら今度は、右に曲がればよいと思えばいい」
「本当にそんなんで曲がるのか」
魔法は思いこまなければ発動しない、そう思ったリュウジは、ザルクの半信半疑の態度を懸念し、きっぱりと言い切る。
「先刻曲がったろ」
「いや・・・・あれは」
「上に曲がるなら、どの方向にだって曲がるさ」
「ホントか」
ザルクは次の矢を弓に番える。
「ちょっと待った。ザルク俺の世界の弓使いは、魔法は無くても弓の軌道を変える事が出来る」
「本当か」
「ああ、曲がるのはほんの少しだけだがな」
勿論嘘っぱちである、放った矢を途中で曲げるなど出来る筈がない。
「どうやるんだ」
「いいか、矢が離れる瞬間に曲げたい方向に弓を持ってる方の手首を、ほんの少し返すんだ」
「そんな事で曲がるのか」
「曲がる」
「リュウジは言い切る」
ザルクはゆっくりと矢を番えると、矢を放つ。
矢は見事に途中から軌道を変え、左に曲がって視界から消えた。
少しして、ドンと大きな音に視線を向ければ、遥か隣の家の壁に大穴が開いていた。
「あ・・・・」
そこには残心を残したザルクが立ち尽くすのもだった。
◇◆◇◆◇
次の朝、リュウジとザルクが庭に出ると、白と雪が、切り株の上で葉を一杯に広げ、青白い魔素を振りまいていた。
リュウジが近づくと二匹とも葉を閉じてチョコチョコと寄ってきてしまう。
リュウジは二匹を抱き上げると、顔の前まで持って来て、まじまじと見つめる。
二匹が出しているのは植物が出すのと同じ普通の魔素だった、青白い魔素が体から薄らと出ている。
リュウジは二匹を切り株の上に戻すと、もう一度葉を広げて光合成をしてくれるように、身振り手振りを交えて話してみた。
「白ほら、もう一度、雪も葉っぱ広げて先刻みたいに、頼むよ」
リュウジが手をパタパタさせながら言うとしっかり伝わったらしく、二匹とも葉を広げて気持ち良さげに黄緑色の体中から、大量の魔素を放出し始まった。
「ザルク、問題が解決したかもしれないぞ」
そう言うと皆リュウジに注目する。
「なにが解決したんだ」
「魔素の問題だ、白と雪が魔素を沢山出している」
「魔素って、植物と同じ魔素か」
「そう、その魔素だ」
「成る程プランテラーは植物系の魔獣だからな、と言う事は、白と雪がいれば魔素問題は解決で、長葉蒼木の栽培に取り掛かれるって事か」
「そうなのだが、栽培には取り掛かりつつ、別の植物も探した方がいいな」
「どうしてだ、問題解決、て、言っていただろ」
「そうなんだが、二匹は移動するし、長葉蒼木の大きさと量にもよるだろ」
「そうだな、なら植物を探しつつ始めよう」
その日から二人は、家の建て増し工事を始めた。
勝手場とリックの部屋の間に、渡り廊下の様なサンルームを造る為だ。
石畳の石はガゼックに手伝ってもらい、石切場からウォーターカッターで切り出す、此の世界では有得ない位なめらかな切断面の石材が出来あがり、それをリックが荷馬車で運び出す。
ガラス板は大きな物も、薄物も作れないと言う事で、厚くて、気泡が多く、青味掛ったガラス板を使うしかなかった。
お蔭で、木材は重いガラスに耐えられる太い木材を使わねばならず、かなりごついサンハウスに成予定だ。
ガラスを嵌めるための格子の細工は、素人の二人には難しく思いの外難航している。
ガラスの方も値段もさることながら、大きさと厚さを揃えて、出来るだけ透明にと言ったら、日に数枚しか納品しかできないと言われ、それを二十枚溜まる毎に隣村から丸一日かけて運んでくる羽目に成っている。
残念なことに、ミュラにガラス職には居なかった。
そんな折にも、本の編纂は行われ、科学の書も融合の書も三巻目に入っていた。
白と雪も成長し、いつの間にかトトに乗れなくなってしまった為、リュウジが作った専用荷車をトトに引かせて畑に通っていた。
そんな緑の犬の引く荷車に乗って畑に行通う、二匹のプランテラーの話は、その近所では微笑ましい話として、いつの間にか町中に広まていた。
トトも今では、甲斐甲斐しく世話をしてくれる白と雪に懐いて、寝床も白と雪の脇と決めている様だった。
そして、イルベリーとギルは魔素水の濃縮方法を模索しているのだが、今の処成果は上がらず、サンプルの魔素水も少ないため、休止状態だった。
各種ポーションも試してみたが、色だけ分離する事は出来たが、ポーションとしての効力を失ってしまったりもして、前途多難だ。
逆に、その合間にイルベリーの作っているフリーズドライ食品は中々行けそうな状態に成っていた。
当然ながら、フリーズドライにした料理を入れるビニール等ある筈もなく無く、紙も貴重なこの世界で、一体何に入て売るのかと思いきや、紙のような大きな木の葉に包み、器は買う人任せ、中身を自前のカップに入れてお湯を注げと言う事にした様だ。
要はこの世界初のチ○ンラーメンだ、上手く行けば量産して、ミュラの特産にしようと言う魂胆だ。
試しにそのラーメンと野菜スープを試食したが、これは買いだ。
旅先で此れが食べられるなら絶対に買うだろう、それに其のままでも食べられるのだから、こんな便利な保存食売れない筈がない。
リュウジとしても旅に出る時には是非とも持って行きたいと思う仕上がりだった。
旅のお供にチ○ンラーメンだ。