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異世界の誓約者  作者: 七足八羽
剣と魔法と科学
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薬草の秘密1

「木陰のおばば様から、薬草の注文入ったわよ」


「そうか、量は」


「五袋以上よ」


「五袋以上か、多いな、奥へ入るか」


 ある日ザルク達が家に帰ると、この町の外れの大樹の下で、ポーションを作っている木陰おばばから、仕事の依頼が入っていた。


 治癒ポーション用の薬草、青陰大葉シダ五袋以上だ。


木陰おばばは、ザルクのお得意様だ、毎回ざるくに薬草の採取を依頼して来る。


 それはこの街で一番良質な青陰大葉シダを採取して来るのがザルクだからではあるのだが、ザルクは毎回仕事を依頼してくれるおばばに感謝してる、その為いつも納得がいくものが見つかるまで、森の奥に入り込んでいた。


「リュウジ、一緒に行かないか」


「俺、大丈夫か」


「今の腕なら十分、今度弓も教えてやる」


「あなた・・」


 薬草の群生地を知る者はみなその場所を秘密にし、親でも教えないと言われている。


 この街にも森に入って薬草を採取する者は居るが、それぞれに秘密の群生地を持っていて本人以外は知らない。


 それだけにザルクの言葉にイルベリーは驚いた。


「俺達だって、リュウジの大事な秘密知っているだろう、それに、俺、もしかすると魔法が使える様になるかもしれない」


「え!」


 イルベリーは後半の言葉に自分の耳を疑った。


当時どれ程苦労してザルクに魔法を教えようとしたことか、その殆どが徒労に終わり、ザルクがまともに覚えられた魔法は皆無だった、火の魔法ですら、指先からでは無く、自分の指がショボショボと燃えている様にしか見えない、まあ、何とか役には立つがそれが限界だったのだ。


 そのザルクが魔法を使えるようになるかもしれないと、にこやかに言ったのだ、イルベリーが自分の耳を疑ったのも当然だろう。


 イルベリーは首から上だけでリュウジの方に振り返る。


「本当なの、一体どうやって教えるつもり、それこそ魔法でも使わないと、無理よ」


「おい、酷い言われ様だな、もう少し言い方ってものが有るだろ、今度こそ大丈夫だ、リュウジには、魔素が見えるんだぞ」


「根拠に成ってないわ、魔素が見えても、あなたが動かせないと魔法は使えないわ、リュウジ大丈夫なの」


 イルベリーの言葉に少し怯むが、おもい新たにリュウジは答える。


「俺と違って、魔素は出せるんだから、何とか根気よく教えてみるよ」


「そうだ、今度こそだ」


 リュウジは若干不安が残っていたが、言葉通り何とかしようと思っていた。


 そして、明日の魔境行きに付いても、薬草に付いても興味をそそられる処だった。


「明日採りに行く薬草はどんな薬草なんだ」


「青陰大葉シダと言ってな、普通の木陰シダとそっくりなんだが、色が真青で、木陰シダよりずっと大きい」


「畑に植えたら育たないのかい」


 素朴な疑問だった、そんなに高価だったら栽培すれば良い。


「やってみたさ、半分くらいは枯れたかな、あとは不思議な事に、何時の間にか只の木陰シダに成ってしまうんだ」


「それは木陰シダが魔素か何かの影響で、青陰大葉シダってのに成っているて、事じゃないのか」


「俺もその可能性は高いと思うのだが、結局原因も、理由も解らん、まあ明日見てみろ」


「そうか、それと、魔獣とかは大丈夫なのか、あまりヤバいのとは遇いたくない」


「大丈夫だ、狩りに行く訳じゃない、基本的に奴らの縄張りは迂回するし、遭っても避けて通るよ、その辺はリックが得意だ」


「良かった、それを聞いた安心したよ、此間食った白黒蜥蜴とかは食うだけにしておきたい」


「俺もだ」



◇◆◇◆◇



 空が白みはじめ、闇と光の狭間の時間、リュウジは慣れない皮鎧を着こんでザルクの後を追っていた。


 眼を凝らし魔素を視認しながら進むリュウジの眼には、魔境の青白い魔素が霞の様に映っていた。


 場所によって濃かったり薄かったりする魔素を眺めながら、まだ朝露の残る下草を掻き分けながら獣道を進んでいた。


 鎧は昔ザルクが使っていたものを、イルベリーがリュウジに合わせて直してくれた物だ鎧の胸や肩には鉄では無く、何かの魔獣の素材であるらしい物で補強されている、その為鎧は驚くほど軽く、鎧の重さで動きを制限される事も無いだろう。


 魔獣鎧と言われ使われている魔獣の種類や素材にもよるのだが、簡単に手に入るものでは無かった。


 ザルクにしても、自分で倒した魔獣や、ガゼックに貰った魔獣の素材などを使い長年かけて作った物なのだ。


 又この位の魔獣は倒せると言う力の誇示でも有り、ステータスにもなっている。


 売る時にも魔獣の素材は高価なものが多く、いざと言う時にはパーツを外して当座の資金にも出来る優れものなのだ。


 そんなリュウジを乗せたブチは、前を行くリックを追いかけて下草を物ともせずに進んで行く。


 普通であれば、此れだけ草木の生い茂る獣道を移動する馬など有りえない。


 リックがブチに何をどう教えたのか、後でリックから聞き出そう等と思いながらブチに摑まっていると、ザルクがいきなりリックから降りてしゃがみこみ、小声で何か言っている。


「リュウジ隠れろ」


 何事かと、リュウジもブチから降りてしゃがみこみ、アヒルの様にザルクに近付いて行く。


「なにかヤバイのでも居たのか」


 するとザルクはさらに小声で、しゃがんだまま左前方を指しながら答えた。


「ヤバくは無いがいいのが居た、見えるか、あの気にたかっている奴」


 ザルクの指す方に視線を向けると、其処には人の二の腕位は有りそうな大きな虫が二匹樹液を吸っていた。


 カメムシの様な形に、外側が黄色く縁どられ、中は黄金虫の様な金属的な緑色をしていた。


「何なんだあれ」


「縁取り大黄金虫。なかなかお目に掛かれない高級素材だ、近づいて捕まえるしか無い、剣じゃ切れないし、直ぐに飛んで行ってしまうから気を付けろ」


「毒とかは」


「無い、本当に滅多に居ないのと、警戒心が強くて、ほんの少し気配がしただけで、飛んで逃げてしまう、今日で三度目だ、今回こそ捕まえるからな」


結果から言うと、今回も逃げられてしまった、息を殺して、あと五メートルと言う処で、飛ばれてしまった。


それから又ブチに摑まって揺られていると、何時の間にか麓の大樹の森の様に、周りには巨大な樹木が天に向かって立ち並んでいた。


 麓の森よりも下草は多く、ひざ下位の草が生い茂り、北側には、樹木に劣らない断崖が壁のごとく聳えていた。


 その壁伝いに歩いていると、真っ直ぐだった壁がうねりだし、青白い魔素が視界を妨げる程に濃くなっていった。


 魔素を視界から外せばその場所は、断崖に囲まれた半円形の広場だった。


 其処にはお目当ての薬草、青陰大葉シダだろう植物が、小さな公園位の広場を埋め尽くしている。


 かなり葉の大き目のシダで、名前の通り、緑と言うよりも青に近い葉の色だ、来る途中にも同種類であろう木陰シダは沢山あったのだが、緑色で葉が小さい、確かに形的には同じ種類に見えるのだが、色と大きさが全く違う、実際は何かで変異したのだろうと思いつつ、先に降りているザルクに習って、リュウジもブチから降りて荷物野中から採取用の袋を引っ張り出す。


「リュウジ此れが青陰大葉シダだ、」


ザルクは茎を一本折ると、リュウジに差し出した。


その茎から、透き通った水滴が滴り落ちていたが、リュウジが眼を凝らすと青み掛った水滴に見えた。


「凄いな、魔素水とでも言うのか青い液体の魔素が滴り落ちている、」


「やっぱり、薬草と言うのは、葉の中に魔素を蓄えている植物と言われてはいたが、誰も確かめられなかったんだ、それが今確認されたって訳だ」


「そう言う事に成るかな」


 ザルクはシダの茎を指先でくるくる回しながら答える。


「確認したからって、何も起きないんだけどな」


するとリュウジは口角を吊上げしたり顔で答える。


「そうでも無いかも知れないぞ、昨日薬草っは栽培できない、とか言っていたよあ」


「ああ・・・出来るのか」


「出来るかもだ」


「どう言う事だ?」


リュウジは今思い付いた推論をそのまま話し出す。


「昨日ザルクが話してくれた様に、植物が魔素を作り出している、と言う話を事実とするなら、薬草はその魔素を取り込ん蓄積している訳だが、街と此処とでは魔素の量が格段に違う、どのくらい違うと思う」


ザルクはいきなり聞かれて、少し考えたが直ぐに答えた。


「倍位か?」


「見える量で言うと、街ではほとんど視界の妨げに成らない程度しか無い、そして此処は、一歩先が見えないくらいだ、魔素を見ながらだと俺は前に進めなくなりそうな位有る」


 此れにはザルクも驚いた様だ。


「そんなにか、森は全部そんな感じなのか」


「此処だけだ、あとは濃い薄は有っても朝靄程度だ」


今度はザルクが口角を吊上げながら話し出す。


「と言う事はだ、魔素の多い処に木陰シダを植えてやれば、青陰大葉シダに大変身と言う訳だ」


「その通り、只魔素の多い処、作ってやらんとな」


「・・・・く、其処からか」


「さあ、薬草狩りだ」


「リュウジ全部取るなよ、中心の小さな葉は残しておけよ」


「了解」


リックとブチを見張りに立てて、二人はせっせと持って来た袋に薬草を詰めはじめる、茎を下にして詰めているせいか、袋の底が湿って青くなっている、リュウジは何とはなしに、折角蓄えられた魔素が勿体無い様な気がして葉を逆さに入れようとしたが、袋に葉が引っ掛かり傷ついてしまうので断念した。


二人が持って来た十枚の袋を一杯にし、イルベリーの力作弁当で腹拵えしていると、リックとブチがモシャモシャと凄い勢いで薬草を食べている。


「旨いのかな」


「旨いらしいぞ、草食の動物は大概食べる」


 リュウジは少し口に入れてみたがゴソゴソと味も無くとても食べられるものでは無かった。


「不味」


「当たり前だ、人が食べて旨いとは言ってないぞ」


「解っているが、試してみたかっただけだ、魔素水の方なら行けるんじゃないか」


そう言うとリュウジは薬草から滴る水滴を自分の口で受け止める。


「魔素水か、そお言えば液体の魔素って聞いた事無いな、旨いか」


「いや、味は無い、ただの水と一緒だ」


「それじゃ俺達には判別できないな、何か効力有りそうか?」


二人は持参した小さなカップに半分ほど魔素水を作り飲んでみた。


「どうだ、リュウジ効いて来たか」


「今飲んだばかりだ、それより一つ実験していかないか」


「実験?」


「ああ、木陰シダを何株か青陰大葉シダの中に植え、青陰大葉シダも何株か木陰シダの中に植えて印を付けていく」


「成る程」


 二人は早速作業に取り掛かったが、この時もう一つの予想外の事実が判明した。


リュウジが青陰大葉シダを一株引き抜くと、じめじめと湿ったその土は、引き抜かれた場所の土が薄らと青く見えたのだ、魔素水が土に含まれている。


 もちろん只の木陰シダを抜いた処もじめじめしていたが、魔素水は含まれていなかった。


 一体何故、此の場所にだけ魔素水が含まれているのか。


「ザルク、見てくれ!」


「どうした」


「魔素水だ」


リュウジが引き抜いたばかりの、魔素の滴る株を挙げて見せる。


「応、全然見えねーぞ、俺に見えるわけねーだろ」


「…あ、そうだった、説明するとだな、此の大葉シダの下の地面は魔素水で湿っている、そして、彼方の、木陰シダの下の地面は普通の水で湿っていると言う訳だ、俺にはこの土が青っぽく見えると言う事だ」


「で、どうして此処にだけ魔素水が有るんだ」


「全く解らん」


 リュウジは肩を竦めて見せ、二人は溜息を漏らしながら、先程まで自分たちが採取していた青陰大葉シダの生い茂る広場を眺めていた。


「あのこんもりした木の周りだけ、禿ちまったな」


「あの辺が、一番大きくて質が良かったからな」


広場には、リュウジよりも少し背の低いこんもりした四本の木が有り、その周りのシダは芯だけしか残っておらず、魔境の広場に四つのミステリーサークルが出現していた。


リュウジは立ち上がるとそのこんもりした木まで歩いて行き、その周りのシダを、だんだん遠ざかる様に何株か抜いて行った。


するとリュウジの推測通り、その木に近付くほど、魔素水は濃度を増している様だった。


リュウジはそれをザルクに説明すると、今度はその木の枝を、折ってみた。しだほど水っぽくは無いが、やはり魔素を含んでいるらしく、枝の折口は青っぽくなっていた。


 此の木が地下の魔素水と関係が有るのはほぼ確実だろう、そして青陰大葉シダが魔素水を吸い上げ魔素を蓄えているのも間違え無さそうだ。


 とすると此の場所の一歩先も見えない程の魔素は、全く関係ないのだろうか。


「ザルク、此れは何と言う木なんだ」


「さあ、名前など気にした事無いよ」


「じゃ呼び難いから、葉が長いし、葉が青いから、仮に長葉蒼木にしよう、」


「ああ」


「で、流石にあれは持って帰れないと思うので、小さな長葉蒼木が欲しいんだが」


「あるぞ、帰り道を少しそれるが、採って行くか」




 二人が帰路の途中長葉蒼木を採取した場所は、少し窪地にはなっているが、開けた場所で、魔素も濃かったが、前が見えなくなる程では無かった。


 其処には、ひざ下位の小さな長葉蒼木がポツリポツリと広範囲にわたって生えていた、そしてその周りにはさらに小さな青陰大葉シダが生えていた。


 やはり長葉蒼木と青陰大葉シダは密接に関連していそうだ、そして多分此の立ち込めている魔素も無関係ではないだろう。


 二人は其処で予備の小さな袋に六本の株を詰め込んで再び斬帰路に就いたのだった。




◇◆◇◆◇




「見事だのう」


 木陰おばばは、納品された青陰大葉シダを見て唸っていた。


「やはり頼むならお前かの、皆此処までの物は持って来れん」


「けっこう奥まで行てるからな」


「処でおばば様」


「おお、お前か、此の間の娘の情報ならまだ入っておらんよ、周辺の町や村まで行くだけでも、時間はかかる、焦らず腰を据えて待つ事じゃ、それよりも、似顔絵をもっともって来い、まだまだ当てが有るからの、」 


「ありがとうございます、またよろしくお願いいたします、今回俺も一緒に行って採ってきたので、おいて行きます。」


 リュウジはそう言って残り五袋もお木陰ばばの処に降ろした。


「すまんの、本当に良いのかえ」


「はい、おばば様の情報網がどれ程心強いか」


 そうミュラの木陰おばばと言えば、此処近辺の村々の中でも知らぬものは居ない程の、治癒ポーションの作り手だった。


 その治癒ポーションを求めて、どれ程の人が此処を訪れるか、考えだけでもその情報網の広さが解ると言うものだ。


「使えるものはすべて使ってやるぞ、じゃがの、流石にもう少し待て、それなりの時間は必要じゃからの」


「はい、又似顔絵持ってきますのでよろしくお願いいたします」


 情報網の張り廻った世界に生きてきたリュウジには、耐え難い時間だった。


 頭では理解している、おばば様から似顔絵を貰った人達が、ずっと先の村々まで、それこそガロンベルグよりも遥かに先まで、いって帰って来るまでの時間がかかるのだ。


 それこそ何週間どころか、数か月ぼっとすると年単位で係ってしまうだろう、それでもリュウジが一人で、闇雲に探し回るよりどれ程効率的で早い事か。


 解っていても耐え難い時間に変りは無かった、情報末端から何処にでもつながる世界を知っているリュウジには余計に耐えがたい、待つしか出来ないと言う事が耐え難い負荷となり、リュウジに伸し掛かって来る、それを振り払おうと、どんな事でも動き続けるリュウジだった。

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