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異世界の誓約者  作者: 七足八羽
剣と魔法と科学
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使えない魔法

其れから始まったガゼックの修行は容赦の無い物だった。


 本気でリゼルダよりも強くしようとしているとしか思えない所業だった。


 そうは言っても、リュウジの魔法は今のところ全く進歩が見られず、ガゼックは頭を抱えていた。


 その分自然と剣術のけいこが長くなっていたが。


 ガゼックの家の前、魔境の門の脇の広場で、毎日早朝に行われているリュウジの剣術修行は熾烈だった。


 使っているのは本物の剣だが、ガゼックの魔法で、当たってもヘルメットの上から殴られた位のダメージで済むように調整され、その状況でガゼックを相手に延々と体力の続く限り戦うのだ。


 基本いいように滅多打ちである、朝練を終え、朝食を取りに戻ってもその朝食が喉を通らない事の方が多い。


「リュウジ、お前は儂よりも遥かに遅いのだぞ、よく見て観察しろ。動きを予測て無駄な動きを一切無くさない限り、触れる事も出来んぞ」


 しかしリュウジにしてみれば、殆ど見えないし、見えないものをどうやって観察たら良いのか、予測処では無く、そもそも動けもしない。


 リュウジは苦し紛れに、剣を上段から振り下ろし、その軌道をそのまま突きに変えて攻めてみた。


「そんな攻撃は使うな、格下の者にしか通用しない、考えろ、予測しろ」


 リュウジに預けられた、盾と剣、この世界では一番オーソドックスなスタイルだ。


 ガゼックは、片手を腰に、大剣を片手で操り、リュウジの攻撃をいなしては打ち込んでくる。


 リュウジが、たまらず盾のをかざして後ろに隠れれば、殆ど攻撃されるところなどない筈なのに、盾など無いかのように更に打ち込まれる。


 盾をかざした瞬間にガゼックは立ち位置を変え、打ち込むのだ。


 リュウジにしてみれば、盾を使う度に打ち込まれるのだ。


 リュウジは盾を捨てた。


「思いっきりが良いの」


「勝つには攻撃しなければ、攻撃こそ、最大の防御だ!」


 リュウジは剣を両手で持って、ガゼックに切りかかる。


 渾身の一撃も、かるく逸らされ、大剣が迫る。


 リュウジは地面に転がりながらそれを避けると、目の前に見えたガゼックの足を切り払う。


 ガゼックは、その剣を避けもせずに、踏みつぶして動きを止める。


「少しは良くなったが、甘いな」


 リュウジは、すぐさま剣から手を放すと、ガゼックの足につかみかかる。


 しかしガゼックはリュウジの視界から忽然と消え、背中に激痛が走る。


 つかみ掛かったリュウジを、脇に一歩回り込んで躱したガゼックが、目の前にさらけ出された無防備なリュウジの背中を、大剣の腹で叩き伏せたのだ。


 リュウジはそのまま、痛みをこらえ、振り向きもせずに走り出し、ガゼックと距離を取る。

 

 まるで逃亡するように走り出したリュウジを唖然として見ていると、リュウジが振り向いてガゼックに向かって拳をを構える。

 

「ハハ、ハハハ、良いな、面白い、ハハハハハ、その諦めの悪さも最高だハハハハ」


 ガゼックは大剣を担ぐと大声で笑いだす。


 リュウジは手放した剣を、どうやって取り戻そうかとあたりを見回す。


 リュウジの剣は、ガゼックのすぐ後ろに転がっている

 

 そして自分の周りには手ごろな石が幾つか。


 リュウジは数歩踏み出し一番近くにあった石を手にすると、つかんだ瞬間に、ガゼックに向けて全力でスローイング。


 二死満塁ツーダンフルベースバックホームの様に、つかんでからは最短でのスローイングだ。


 師匠に石を投げつける等、リュウジも迷ったが余りにも毎日ボコられすぎてリュウジも切れ気味だった。


 二つ目、三つ目と近くの石を投げつけながら回り込み剣に向かって行く。


 予想外の攻撃と、狙いの正確さに、ガゼックは思わず剣の腹ではじき返す。


 速度はそれなりだが、ガゼックには直撃してもノーダメージだろう、普通の人間が当たれば、痛いでは済まないレベルの速度ではあるが相手が悪かった。


 それでもリュウジはスライディングをかまして剣を取り戻す。


「残念、そのまま攻撃してくれば、もう一撃入れてやろうと思っとったのに」


「素手で行くわけないでしょ」


「ハハハ、そのまま目の前で石でも投げて来るのかと思ったのじゃがの」


「そこに石が無かったもので」


 言いながら構えなおしたリュウジは剣を片手にガゼックの目の前まで来ると、隠し持っていた石を取り出し、剣を捨てると、盗塁ランナーを刺すように、クイックフォームでガゼックに投げつける。


 ガゼックはドラゴナイトの反射速度を持って、それを躱し、大剣の腹でリュウジを弾き飛ばす。


「今のは良かったぞ、やるとは思っておったが、石を投げるのに無拍子を使うとは、驚かされたぞ、未熟でなければ当てられたかもしれんな、思わず本気で避けてしまったわ、ハハハハ」


 バウンドして飛んで行ったリュウッジが、止まると、ガゼックはそう言ってまた大声で笑いだす。


 待機していたザルクが、ポーションをもって走り出す。


「無拍子・・・」


 立ちあがたリュウジの口から、生暖かい者が流れだし、足元に血だまりが広がる。


「だいぶ違ってはいるが、あの投げ方は、考え方的にはそれが一番近かろう」


「師匠、やりすぎだ!」


「すまん、つい反射してしまって」


 リュウジは目の前に差し出されたポーションを何とか飲み込むとその場に崩れ落ちた。



◇◆◇◆◇



馬達の育成も順調で、月もクリもブチも予定よりもだいぶ早く仕上りそうだった。


意思の疎通が行えると言うのは、思っている以上に大きなメリットだったらしい。


 特にリックが選んだ馬は賢く、唯の馬とは思えない程だ。


 獣市のあれだけの数の中から、リックがたった三匹に絞り込んだ馬なのだ、半端な賢さでは無いのは当然かもしれない。


 今その三匹の馬は簡単な言葉なら理解し、飼い主との直接の意思の疎通が図れるのだ。


 此れは普通の馬では有りえないレベルのやり取りだ、特にブチの物覚えの良さと、リュウジへの忠誠は特筆するべき物が有った。


 頻繁に行く幾つかの行き先は覚えてしまい、行き先を告げればリュウジは乗っているだけで現地に到着する。


 何処に居ても呼べば直ぐに走ってくる、右を指せば右、左を指せば左そしてわからなければ、鳴いて支持を求めるのだ。


 それどころか道具の片付けまでも手伝ったりするのだ、馬の域は既に超えているだろう。



 そんななか、白と雪は、縄張りを持つ事となった。


 ある日、一緒に畑に連れて行った時の事だった。


 畑に着くと二匹は歓喜して畑に向かて、トトトトと走り出し、畝の中に消えてしまった。


 正に保護色、いや擬態か、どちらにしても、頭の花を閉じられたら何処にいるのか、探し出すのはまず無理だろう。


 二匹は、畑に入ると畝の中を歩き回り、飽きる事無く虫を捕まえては、食べていた。


 休息時にリックに捕まえてもらい、話してみると、二匹にとってこの畑は非常に魅力的な場所らしい、大好物の芋虫が其処かしこに居ると言うのだ。


 ザルクが「そんなに沢山いるのか」と尋ねると、嬉しそうに両手を挙げながら「たくさんたくさんいる、もっと食べたい」と言う返事が帰ってきた。


 毎年、虫の駆除には苦労していたザルクがニンマリと嬉しそうに微笑んだ。


「此処の植物は、俺が大事に育てている物だ、しかし虫が其れを食べてしまう、お前達が、駆除してくれるのなら、駆除した虫は全てお前達にやろう、ただし大事な植物は絶対に傷付けないように」


 ザルクは畑の範囲をよく教え、そう言い聞かせると、白と雪は直ぐに言われたのか理解した。


 に引きはザルクの足に纏わり付いて喜んだ。


 満腹になると、に引きは皆の傍に来て、花と葉を広げてくつろぎ始めた。


 ザルクは、そんな二匹に、沢山採って溜めておけば、夕食や明日の朝も、大好きな芋虫が食べられるぞ、と教えて小さな袋を渡した。


 その日夕方まで掛けて、白と雪は自分の袋に、ぎっしりと芋虫を詰め込んだ。


 此れだけあれば二三日は持つかと思われたが、二匹とも思ったよりも大食漢で、次の朝には食べ尽くしていた。


 翌日から、二匹は、イルベリーさんに作ってもらった、専用の虫入れ袋を首から下げて、自分達の縄張りとなったサルク家の畑に通うようになった。


 送迎はトト役目となり、二匹は毎日トトのの背中に乗って畑に通う事となった。


 その日から、トトの食事を届けるのはすっかり白と雪の役目になり、二匹とも又この役目は誰にも譲ろうとはしなかった。


 畑に居る時にトトが、二匹の為にずっと辺りの警戒をして呉れているのを解っているのだろう。


 犬もプランテラーも群れを作る生き物なので、お互い群れと認識しているかもしれない。



◇◆◇◆◇



 側から見ていれば、討ち込まれているだけに見える剣術の稽古は日に日に激しさを増していた。


「リュウジ盾では無いのだ、ただ受けては駄目だ、必ず次の初動の体制で相手の攻撃を流して、そのまま相手を斬れ」


 リュウジは息を切らしながら実行するが、未だにガゼックにはかすりもしない


「重心を崩すな、崩せばそれが隙になる」


 この頃に成ると、攻撃こそ当たらないが、打たれる数は減じていた。


「リュウジ無駄に動くな、相手をよく見れば動かくて済む」


 打ち込みながら言うガゼックの言葉を聞きながらリュウジに答える時間は無かった。


 ただ、何故当たらない、相手が早すぎるのは解る、それでも一発ぐらい当たっても良いじゃないか、リュウジなりに考えながら、最小限の動きで、最短コースを討っているはずなのに、ことごとく躱される。


 ガゼックからリュウジの考えが聞こえたかのような言葉がかけられる。


「相手の剣を討ち込みながら払え、払いながら討ち込め」


 確かに、リュウジの剣はその様に払われているのだろう、リュウジが先に振り被り、振り下ろしているにもかかわらず、後から振り下ろしているガッゼックの剣が討ち込まれ、リュウジの剣はガゼックの剣に流されているのだろう、弾かれた感触も無く空を切っている。


 未だにガゼックにはかすりもしないが、リュウジは着実に上達していた。


 只、その上達に合わせて、ガゼックも少しずつ加減を外して行く為、リュウジ自身は上達している事に気づけないでいた。 


 それよりも、実際ガゼックに頭を抱えさせたのは魔法の方だった、何をどう頑張ってもリュウジから魔法のまの字も出て来ないのだ。


 普通ならいくら才能が無くても何かしら出て来る筈だ、此れほど何も出てこないと言うのは有りえない筈だった。


 一緒に来ていたギルが門前の小僧宜しく、しっかり魔法を覚えているのだから。


 ギルは金色の魔素を操り、今では基本的な魔法は概ね修得していた、十一歳と言う年齢を考えると、末恐ろしい才能だった。


 この際全く進歩しないリュウジに分けてやってほしい位だった。


 此れはもう才能がどうのとかでは無く、魔法の使えない全く別の原因が有るとしか思えなかった。


 リュウジは魔素が見えるのだが、自分の魔素だけは見えないと言っていた。


 此れは見えなかったのでは無く、魔素が放出されていなかったのっでは無かろうか。


 魔素が放出されていない。


 此れは魔素を体に溜められないのか、溜められるが、出せないのか、出し方が判らないだけか、何にせよ異世界人で有る事が原因になっていそうだ。


 こうなってくると、ガゼックもどう教えたものか、リュウジもどう努力した物か、皆目見当が着かなくなっていた。

 

「リュウジ、こりゃ駄目だ、無理、才能とかセンスなんて問題じゃねー、根本的に異世界人ってのが問題なんじゃねーか、きっと」


 ガゼックはついに投げ出した。


「師匠、それは無い!根性の悪い魔道師に絡まれたらどうするんです」


「剣術で対処しろ、そんな強力な魔道師そうそう居るものじゃ無い、だいたい魔素が見えるのじゃから、発動前に潰してしまえ」


「そんな簡単に」


「ハハハお前、いったいどんな魔道師に絡まれるつもりじゃハハハ」


 ガゼックは豪快に笑い飛ばした。


「師匠・・・・」


「戦いに行く訳じゃ有るまいに、そんな強力な魔道師遭うのも難しかろ、ハハハハ」


「その分剣術をみっちり仕込んでやる、そうだ、リゼルダが来たらあれで試してみろ」


「師匠無茶言わないでください、ドラドナイトですよ」


「無茶なものか、あいつの魔法なんて大した事ない、剣術だって、あいつ以上にしてやる、あ奴がドラゴナイトに成ったとしても関係ないわ」


「本当に、師匠…」


 リュウジにしてみれば、まともなドラゴナイト等、ガゼック以外に見た事が無いのだ、どうしても基準がガゼックに成ってしまう。


 そのガゼックに未だにリュウジの剣はかすりもしないのだ、ドラゴナイトと本気で戦う等考えただけでも冷汗が出ると言うものだ。


「あんな駆け出しの性悪小娘、如何程でも無い、」


 ガゼックは一蹴するが、リュウジは背中に嫌な汗が広がって行くのがわかった。


 その日から魔法はキッパリと諦め、魔素が見えるメリットを生かし、剣術に魔法を発動する前に潰す術を織り交ぜていった。


 ガゼック発案の、魔素を視認出来るリュウジ専用の、対魔法剣術とでも言った処だろうか。


 練習中、ガゼックの魔素が発動した瞬間に、それを潰せと言うのだが、発動した魔法を躱す事すらままならない今、先はまだ長そうだった。




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