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異世界の誓約者  作者: 七足八羽
剣と魔法と科学
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見える魔素


 ザルク達が尻尾の無い蜥蜴を持って帰って来ると、ギルが何か、包みを大事そうに抱えて走り寄ってきた。


「ガゼックおじさんに凄いの貰ったんだ」


 そう言ってギルが包みを開けて見せる。


 中からは、見た事も無い、透明な楕円形のガラスが出てきた。


 ザルクは其れを手に取ると、その軽さに驚きつつもギルに聞いてみた。


「凄いな、此れは何だい」


「ドラゴンの瞼」


 聞いた言葉にザルクは驚き、リュウジも其れを覗きこむ。 


 とんでもなく高価な代物だった、ドラゴンの素材と言うだけでも、高価なのに鱗でも、爪でもなく、一対しかない瞼、其れも、その大きさからドラゴンのサイズを想像すると、恐ろしい大きさに成る。


 何より師匠がドラゴナイトで、誓約のドラゴンを亡くしているのを知っている今、此れは師匠のドラゴンの形見で在ろう事は容易に想像できた。


「師匠こんな大切な物、頂いてしまって、宜しいのですか」


「何を言っている、お前にやったわけでは無いわ、ギルにやったのだ」


 ガゼックはそう言うと、義足の足を上に足を組み椅子の背凭れに体重をかけて仰け反ると、頭の後ろで両手を組んで大声で笑っていた。


 テーブルの上では、置いてきぼりを食った、雪が此方の方を向いてミュウミュウと鳴いていた。



 大蜥蜴を捌いて、もう一人の門番アレフに御裾分けをしたり、起こした火で大蜥蜴を焼いているうちに、日は心地よく傾きはじめた。


 ザルク達はアレフも呼んで丸テーブルを囲み、大蜥蜴の肉を摘みに、土産話をしながら、土産に持って来た木漏れ日印の黒曜酒を開けて、一杯始まっていた。


 大蜥蜴の尻尾の肉は脂身は少ないが、歯ごたえがあり、噛度に少しづつ口の中にむと肉汁が広がっていく。


 酒との相性は最高だった。


 これなら、ガゼックがわざわざ取りに行くのが頷けた。


近くに焚かれたかがり火の前には、先程から雪が陣取って、時々火に集まって来る虫を捕まえては頬張っていた。


ギルも一緒に虫を捕まえては、雪に渡してやっていた。


「師匠、お願いの件なのですが」


 ザルクに促され、リュウジが目的や状況を話すと、ガゼックは、リュウジの剣術と魔法の指南役を快く引き受けてくれた、人探しも出来うる範囲でと言う事で。


「焦るな、取りあえずは、剣と魔法を教えてやろう」


「ありがとうございます」


「気にするな、楽しくなりそうだ、ハハハ」


そう言うと、ガゼックは又大声で笑っていた。


「そう言えばザルクよ、儂がドラゴナイトだって、誰に聞いたのだ?」


「師匠が以前話してくれた、リゼルダと言う娘に」


「リゼルダに会ったのか?」


「はい、今回獣市で」


「あの性悪不良娘、そんな所におったか、曲がった根性少しは治っておったか」


「いえ、悪化していましたが」


「悪化してるだ、あの小娘」


 ガゼックは眉間に青筋をたてて、何かを思い出している様だった。


ザルクはガゼックに聞かれるまま、一部始終を話し始めた。


 話の始まりからガゼックの眉間の皺は深まり、こめかみはぴくぴくと震えが激しくなり、体から怒りの湯気が立ち上っていた。


「と言う訳で、彼女は現在ドラゴナイトに成っています」


 聴き終わると、ガゼックは持っていた黒曜酒を一気に煽り、テーブルに叩き付ける様に杯を置くと、悪魔もたじろぐだろう恐ろしい形相で叫んだ。


「あの小娘!もう一度根性叩き直してくれる」


 雪はギルにしがみつき、ギルは尻餅をついていた、ザルクもリュウジも危うく椅子から転げ落ちそうになる。


 短い沈黙の後、口から何か黒い物が出ている様に見える顔でリュウジに向き直ると、ガゼックはとんでもない事を言い始めた。


「リュウジ君、儂に任せておけ、小娘など足元にも及ばん剣技を伝授してやる、あの小娘少し叩きのめしてやってくれ」


「ドラゴナイトを、ですか」


 リュウジが少し気おくれしながら呟くと、きっぱり明確な答えが返ってきた。


「あ奴の様な者未熟者の剣等取るに足らん、足腰立たなくなるまで鍛えなおして呉れるわ!」


 リュウジが、ザルクの方に視線を向けると、済まなそうに視線をそらされる。




 リュウジは青ざめて、ガゼックにも押し立てた。


「ガゼックさん、し師匠、俺はそれほど強くならなくても、この世界で緑子を探し回れれば十分ですので」


「気にするな、心置きなく学べ」


 既に話を聞耳は無い様だった。ザルクに助けを求めようと、再び視線を向けると、ザルクは既に目を逸らし完全に防御体制だった。


(裏切り者)とザルクに心の中で叫ぶと、此れは事によると緑子に会う前に此処で果ててしまうのでは無かろうかと思いながら、リュウジは弱々しく答えた。


「よろしくお願いします」


「それでは早速、使える魔法を教えてやろう、よく見ていろ」


 そう言うとガゼックは、リュウジの杯に手を翳す。


 すると掌から濃紺の霧が様な物が湧き出て、黒曜酒を包み込み浮かび上がらせる、そして黒曜酒の球体は濃紺の霧を吸い込み中空で凍り付く。


 其処でガゼックが口元を吊上げてニヤリと笑うと、球状の氷は砕け、中から濃厚な黒曜酒があふれ出し氷と共にリュウジの杯に注がれた。


「どうだ、飲んでみろ」


 言われて口を付けてみると、濃厚になり、とても味わい深くもなっているのだが、アルコール度数も格段に上がっていた。


「旨い。旨いけど強い、強すぎる」


 リュウジが咽返りそうになってそう言うと、「使える魔法だろ」と言って、ガゼックは又大声で笑いながら黒曜酒を煽った。


「でも残念な事にザルクはこれが出来んのだ、こんなおいしい魔法が出来無い等、何とも勿体無さすぎだろ」


「全然出来ない訳じゃない」


 ザルクがむっとして小声で呟くと、其れをまたガゼックが拾い上げる。


「応、そうだな、此れくらいな」


 ガゼックは片目をつぶり顔の前で、親指と人差し指で僅かな隙間を作って見せ、又豪快に笑い始めザルクの酒にも魔法をかけていた。



◇◆◇◆◇


 

 次の日ギルは、テーブルの上に包みを広げて、ガゼックに貰ったドラゴンの瞼を見ていた。


 「ギルならきっと良い使い方を見つけるだろう」と言うガゼックの言葉を受けて、真剣にふさわしい使い方を考えていたのだ。


 ギルは溜息をつくと、ドラゴンの瞼を持ってリュウジの部屋に歩いて行った。


 リュウジはドラゴンの瞼を手に持ってじっくりと観察していた。


 大した厚さも無いのに、押してもねじっても少しも歪まない、恐ろしく硬い証拠だ、其の上この軽さ、羊皮紙位の重さしか無い。


 そしてこの透明度、少し離れると見失ってしまう、一体此れを何に使ったら良いのだろう、ウイスキーボトルで、驚かれる世界だ、価値的には物凄いのだろうが、使い道が思い付かなかった。


 ギルはテーブルの向こうから、真剣に此方を見ていた。


「メットのバイザー位かな」


リュウジが言うと、ギルが聞いてくる。


「メット?」


「そう、ヘルメットと言って、バイクとかに乗る時に使う頭を守る為に被る物・・・」


「バイクって何」


「そうだよな」


 其処からリュウジの地球講座が始まった。


 まずはバイクの説明から、バイクの形、動力、内燃機関、モーター、ガソリンに、電気、車に飛行機。ギルの質問は止まる事無く、答えれば、ギルは目を爛々と輝かせて聞いていた。


 するとギルは突然、「お願い、少し待っていて」といて、走って部屋から出て行った。


 少しすると、緑子の似顔絵を描いて貰った時の余りか、数枚の羊皮紙とインクとペンを持って戻ってきた、どうやら話を全て書き留めておきたい、と言った処だろう。


 しかし文字には二人とも一抹の不安が残る処だった。


「ギル、此れは素晴らしい発想だが、俺達二人では、困難を極めるな、と言うか、まともな文書に成らない様な気がする」


「…」


 二人とも沈黙してしまった。


 計画の行き詰った処に助け手は現れた、緑子の似顔絵を持ったイルベリーさんが、入ってきた。


「ギル羊皮紙一体何に使うの?」


「イルベリーさん済みません、俺の故郷の話をしていたら、ギルが、書き留めたくなったらしくて」


「それなら私も聞きたいわ」


 リュウジが似顔絵を受け取りながら言うと、イルベリーさんも話を聞く事になり、何時の間にか、話の記録はイルベリーさんが執ることになっていた。


 始まってみると、リックよりも、イルベリーさんの方が遙かに熱が入っていた。


 図解や挿絵的なものが伝わりにくいと思った瞬間、イルベリーさんは、リックを巻き込み、実に見事な、図解や、挿絵まで入れて、記録を取り始めた。


 その日から、其れが夕食後の日課となり、此方の魔法を使えば此れは再現できる、とか、もっと良くなるとか、組み合わせればこんな物が出来る、と言った物まで書留始まった。


 数日後、其れを見ていたザルクが、此れを本にしようと言い始まり、その日から夕食後は、この本の編纂がザルク家の日課となった。


 リュウジは、出来るだけ使えそうな物や、応用のききそうな物から、説明するようにしていった。


 本は、純粋に地球の物と、此方の物をかけ合わせたり、再現したりとアイディアを出した物との二つに分けて編纂する事になった。


 今は知る由もないが、この本は、後に三大魔道書と呼ばれる内の二冊だった。


 科学の書、融合の書、と呼ばれ、この世界で最も価値のある魔道書とも言われ、限られた者しか読むことを許されない禁断の書とも言われる二冊の魔導書の編纂はこの時から始まった。


 リュウジは、途中数学や化学まで三人に教えつつ本に取り入れていった。


 最終的にはリュウジが、ミュラ滞在中に、ザルクとイルベリーは、中学卒業レベル、リュウジに張り付いて離れなくなったギルはそれ以上だった。


 興味を持った部分は突出し、ベルヌーイ定理、流体力学、連続体力学、ベンチュリの理論等々、航空力学などは、リュウジの知識を全て奪う勢いだった。


 リュウジは其れからハードな日々が続いた、早朝ガゼックと剣術と魔法の修行を行い、戻って朝食を取り、午前中はリックとギルを連れて、クリの調教、午後は月の調教だ、そして帰って夕食を済ませると、本の編纂と言う毎日だった。


 この比、リュウジの脇には必ずギルと、白花のプランテラーが一緒に居るのだった。


 そのハードなスケジュールの中でも特に過酷なのは、やはりガゼックの修行だった、そして事件は、その初日に起こった。


 ガゼックが魔法の手本を見せていると、リュウジが質問したのだった。


「師匠、其の魔法の霧はどうやって出すのですか?」


 其れを聞くと、ガゼックが一体何を言っているのだ、と言うようにリュウジに聞き返した。


「霧、何の事だ?」


 今度はリュウジが不思議そうに聞き返す。


「今師匠が氷を作る時に、掌からでした、紺色の奴ですよ」


「儂は何も出しておらんぞ」


 ガゼックは怪訝そうに答えた。


「嘘ですよ、魔法を使う時は必ず出してるじゃ無いですか」


 ガゼックは黙って、両掌を出すとリュウジに聞いた。


「こんな奴か」


 するとガゼックの左手から紺色の霧が立ち上る。


「そう、其れです」


 空かさずリュウジが声を上げると霧は消滅してしまい、今度は右手から立ち上る。


「そう其れ」


 ガゼックが観察していると、確かにリュウジの視線は左から右に移動していた、本当に見えているならば、リュウジの見ている物は多分魔素だろう、この世界で魔素が見える者等彼は今まで聞いた事が無かったが、確かにリュウジには見えている様だった。


 そもそも此の世界では、魔素は見えない物と言うのが一般的な常識だった。

 

 ガゼックはもう一度確かめた。


「凄い指先からも出るんだ」


 間違い無かった、此れはもう魔素が見えているとしか言い様が無い、ガゼックは何も無い指先を通しリュウジを見詰めながら話す。


「リュウジ、此の世界の人間に魔素は見えない、儂には今この指先に何も見えていない、一体どんな風に見えるのだ」


 リュウジは、ガゼックの指先から立ち上る、紺色の魔素を凝視しながら呟く。


「こんなにハッキリ見えているのに」


「やはり見えるのだな」


「はい、紺色の霧の様な物が、体からあふれ出る様な感じです」


 リュウジは見たままを述べたが、目の前に見えるこの紺色の魔素が自分以外に見えていない、と言う方が信じられなかった。


「魔素とは紺色なのか」


 リュウジはふと思い出す、木漏れ日亭のマスターが魔法を使った時には、確か銀色だった。


「いや、決まって無い、と言うより人によって違うのかも知れない、木漏れ日亭のマスターの時は、銀色だった。」


「人によってか、しかし魔素が見える人間がいるとはな、だが此れは非常に有利だ、相手が魔法を使う前に解るのだから、戦いにおいてこんな有利な事は無い、となれば、此れは誰にも言わない方が良いな」


 ガゼックは人差し指を立てながらそう言った。


「そうですね、でも師匠本当にそれ、見えないのですか」


 リュウジはまだ半信半疑だった、それ程はっきりとリュウジには見えているのだ、今もガゼックの人差し指から紺色の魔素が立ち上っているのがはっきりと見えている。


 今度は掌を広げて、ガゼックははっきりと答える。


「全く見えない」


「そうですか、小指です、小指から魔素が出ています」


 リュウジもはっきりと答えた。


 その日リュウジとガゼックは、色々検証し、やはりリュウジが、見ているのは魔素で間違い無いだろうと言う結論に達していた。


 さらに自然に空気中に漂っている魔素も見える事が判明した。


 時々見えていた青み掛った霧は霧では無く自然の魔素だったのだ。


 そして不思議な事に魔素は、リュウジが有る程度緊張していないと見えないと言う事、また、魔素の向こう側が見たいと意識すれば見え無くなったりするのだ、眼が自然に遠近の調節をしてピントを合わせる様に、有る程度緊張していれば魔素も自然に視界に入ったり消えたりするようだ、何処の器官で調整しているのかは、定かで無いが、魔素が見える以上確かに此の機能は無くては困るだろう。


 リュウジがその眼で街を見渡した時、不思議な光景が目に映った。


 普通の人間は、肌からある程度の魔素を常時放出させているのだ、人によって異なる色の魔素がリュウジの目には見て取れた、殆どは薄い透過性の色で、放出量も若干の個人差しかなかった。


 しかし身近に二人ほど例外が居た、リュウジ本人とガゼックだ、ガゼックからは、魔法を使う時以外殆ど魔素が放出されていないのだ、それは魔法を巧く操れるからなのか、ドラドナイトだからなのか今のところ判別する材料は無かったが、今後リゼルダに会えば、判明するかもしれない。


 リュウジに至っては、まったく放出されておらず、今のところ魔法も使えなかった、此れもリュウジが異世界人だからなのか、自分の魔素は見えないのか、今のところ判別し兼ねた、此れも今後リュウジの魔法の修行が進めば明らかになるかもしれない。


 ただガゼックの紺色の魔素は極めて珍しい色に思えたが、此の魔素の色が一体何を示すものなのか今のところ、其れを知る術は無かった。


 只他に変わった色と言えば木漏れ日亭のマスターの銀色と、僅かでは有るがギルの魔素は金色だった、肌からほんの少しでは有るが、金色の魔素が放出されていた。


因みにイルベリーさんは藤色、ザルクはブルーだ。



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