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異世界の誓約者  作者: 七足八羽
序章
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プロローグ

長編初の挑戦となります、『異世界の誓約者』昔から書きたくて頭の中にあった作品の文書化です。

一生懸命書きますので、楽しんでいただければ幸です。

「人の想像し得る物はいつか実現できる」誰かが言ったそんな言葉が本気で信じられるような時代においても、彼の才能は稀有で、際立っていた。


 その時代においても不可能と言われる様な事柄を、彼はいくつも実現させていた。


 その鬼才たる彼自身にして、この発明は彼の生涯が閉じる前に具現化することを確信できなかった発明だった。


早期に試作品の完成にまで至ったのは、彼の才能にいくつかの幸運、いくつかの奇蹟、そして、ほんの少しの事故と偶然を加えることが出来たおかげだった。


次元転移装置とでも呼ぶのが相応しいだろうその装置は、二つのゲートから成り、片方のゲートを通過したものが、もう片方のゲートから出てくる、そんな単純なものだ。


 誰もが考えるが具現化出来ると思わなかったもの。


 しかし、彼は実現の可能性を見出し、生涯をかけたのだ。


 その努力により次元転移装置の試作品は、偶然、事故、等で理論は解明されていないが稼働している、そんな部分を何箇所か残してはいるが、具現化できたのだ、それを解明し安全性を証明できれば十分実用に耐えるものだった。


 現在では、今では当初信じられないくらいかかった電力も抑えられ、下手なエアコンよりも省エネになっている。


 その完成度と汎用性の高さから、量産は既に可能な状態なため、理論の解明や安全性よりも実用を急ぐこえも高まっていた。 


 それでもこの装置を彼が実用化に踏み切れないのは、ひとつの大きな問題があったからだ。


 そしてそれは、彼の好奇心の対象でもあった。


 片方のゲートだけ稼働させて物質を通過させようとすると、物質が消えてしまうのだ。


 彼はいろいろな物でこの事象を試してみたが、全ての物質はゲートから入ったきり出てこなかった。


 鍋、ヤカンや本から等身大の置物まで、生物もネズミ鶏から大型犬まで何処からも現れない。


 魚釣りよろしく糸やロープをつけてみたりもしたが、ロープを送り込むことは出来ても、引き戻すことはできなかった、どんなに引いても、一寸たりとも戻らないのだ、放せばどんどん入っては行くのだが、今のところ、一部でも入ってしまうとそこで切断するか、全部入れてしまうかだ、途中からもう片方のゲートを稼働させても見たが、一度消えたものは現れなかった。


 上からは両方が稼働していなければ、閉じてしまう扉の様な安全装置を付けろと言う案も上がってきているが、消えてしまった物は何処へ行ったのか、どうなってしまったのか、この謎が解けるまで次元転移装置が彼の実験室から出ることはないだろう。


そして彼の興味は既に次元転移装置ではなく、物質の消えた原因に移っていた、消えた物質はどこへ行ってどうなってしまうのか、と言う事に移っていた、この謎は解明されるまで、生涯彼の頭から離れることはないだろう。


 彼の名は真柴秀喜、今世紀最大の発明家と言われている男である。


 秀喜はふと溜息をつくと、水面を映したような次元転移装置のゲートから、視線を逸した。



◇◆◇◆◇◆◇



「おーい緑子」


 彼はアパートの階段を駆け上るとノックもせずに扉を開け大声で叫んだ。


「引越し祝い持ってきたぞ」


 春日 緑子は今年大学を卒業し、就職先近くのアパートに引越してきたばかりで、まだ荷解きすらしていない状態だった。


「へー何持ってきてくれたの、」


 緑子が顔を出すと、大事そうに毛布くるまれた大きなパネルのようなものが、駐車場のワンボックスに立て掛けてあった。


 それを見た緑子は顔をしかめると、竜司に向き直る。


「竜司、あれは拙くない、  お父さんの発明品じゃないの?」


 彼、真柴竜司は緑子の幼馴染にして、恋人、そして今世紀最大の発明家と言われている、真柴博士の息子でもある。


 昔は野球が大好きな少年で、ずっとリリーフピッチャーだった、針の孔すら通すコントロールと言われるくらいコントロールの良いピッチャーだったが、球速は上がらず、高校時代までリリーフ、そして、野球はそこでやめてしまっていた。


 緑子の知る竜司は昔から結構大胆で、何度もその行動に驚かされた記憶がある。さらに時々言いだしたら聴かなくなってしまう悪い癖も持っていて、今回はそれが同時に発動しているのだろう、緑子は脳裏には嫌な予感しかなかった。


「大丈夫、気にするな、例のヤツの試作品で、倉庫に何年も眠っていたやつだ、誰も気にしないよ」


 多分緑子の嫌な予感は的中だろう。


 嬉々としてしゃべる竜司は、緑子が何を考えているか等、微塵も気にしてはいないが。


「やっぱり‥‥よく持ち出せたわね」


 試作品とは言っても、性能的には何の問題もなく起動するのだから、この発明の価値を知っている者ならば、気が気ではない、恐ろしくてとても持ち出せないだろう。


 汎用性が高すぎて悪用の方法も限りなく思いつくし、もし誰かに盗まれたらとか、考える事すら恐ろしい。


 それでなくても、これを喉から手が出るほど欲しがっている奴がどれほどいる事か。


それをあの保管庫から持ち出してきたと、身内だからといってよく持ち出せたものだ、緑子の嫌な予感は的中確定である。


「誰の為に持ち出したと思っているんだ、お前がこんな遠くに引っ越すからだろう、でもまあ、こいつがあればゼロ距離だ」


 そう言うと竜司は破顔した、本来なら車で二時間百キロ以上の距離があるのだ。


 自分の為にここまでしてくれているのは解るが、これはいかがなものか。


 緑子は嬉しくもあるが受け入れる訳にもいかないだろう。


 しかしこういう時の竜司は強引で、本当の駄々子と言うのはこういうのを言うのだろう、せっかく持ってきたのに、設置しないのなら、壊すとか言い始めたのだ。

こうなってしまった竜司はもうどうにもならない。


 緑子はまた始まったか、と思い、深い溜息を付くと、諦めて一緒にその世界一貴重な荷物を部屋にを運び始めた。


(後で返すしかないか)


緑子は部屋に鍵をかけると、いそいそと次元転移装置を部屋の壁に設置する竜司に、コーヒーを渡し、作業を眺めていた。


 それにしても酷い話である、全世界がこれをどれ程この装置を欲している事か。


 あとほんの少しで実用化すると言っても、もうここ何年か研究は滞り進展を見せていない。


 そんな事もあって表に出せないこの装置を、事もあろうか、自分達のの横着の道具に使おう言うのだ、そのうち撥が当たるのではなかろうか。


 緑子はそう思ったが、一方ではこの使い方は、この装置の一番平和的な本来の使い方なのではなかろうかとも思っていた。


 そんな心が緑子にほんの少しだけこの装置で横着してもいいかな、などと思わせているため、竜司の説得にも今ひとつ本腰が入らなかったのだった。


「出来たぞ、と。」


 緑子の部屋の壁に、はちょっとメカメカしい等身大額縁が設置されていた。


 その横では竜司がドライバーを片手で弄びながらニヤニヤと緑子の方を見ている。


「女の子の部屋のインテリアじゃないわね。」


「機能重視だ、だいたいインテリアにするな、コイツがなんだか解っているだろう、インテリアなんて可愛い代物じゃない。」


 緑子はあきれ果ててしまった、その代物を勝手に持ち出して、こんな所に取り付けたのは何処のどいつだ、どの口がそんな台詞を吐くのだろうか。


「どの口が・・・」


つぶやくと、緑子の眉間にしわが寄る。


「起動するぞ」


そんなことお構いなしに、竜司は機動宣言すると、まるでテレビのスイッチで入れるかのように電源を入れた。


僅かな起動音とともに、額縁の内側が水面のように変化する。


「ちょっと見づらいが、これで普段は鏡として・. ・・」


言いかけたが、風景は何も映っていなかった、鏡のようにも見えるが、何も映りこまない、とても不思議な光景だった。


「鏡は無理みたいね、でも竜司の部屋には行けるのでしょう。」


緑子もその不思議に美しいゲートの表面に見とれてしまう。


この不思議に美しいゲートを使えば竜司の部屋まであっという間だ、緑子の心は既に竜司と一緒にゲートの向こうだ。


「もちろんだ、準備はバッチリ」


 緑子は不思議な顔をする。


「準備? 何の」


 緑子には何の準備か思い当たらない。


「私の誕生日じゃないわよ 竜司のでもないわよねー」


「誰が自分の誕生日の用意何なんかするか、引越し祝いだと言っただろう」


「何かくれるの」


 緑子がちょっと嬉しそうに聞いてくる。


「行ってみれば解る」


 竜司がぶっきらぼうに言うと、緑子の顔がだんだんと何かがこみあげてきたらしく、不思議顔からなにか嬉しそうな子供のような笑顔に変わっていた。


「じゃあ行ってみましょう」


 緑子は竜司の手を引くと足早にゲートを潜っていった。


 二人がゲートの中に消えると、すぐにパチンと言う軽い音と共に、緑子の部屋の全ての電力の供給はストップした。

竜司の持ち出した試作品はあまりエコでは無かったらしい。



◇◆◇◆◇



「食事! ディナー」


 緑子は満面の笑みを浮かべていた。


 ゲートを潜ると、目の前には小さな丸テーブルがセットされていた。その上にはキャンドルが灯り、ナイフにフォークにワイングラス、そして向かい合う二脚の椅子、美味しそうなワインに分厚い生肉。


「生肉 牛刺し?」


「そんな訳あるか、焼いておいたら冷めちまうだろーが、そう言う訳だから焼いてくれ緑子」


「私の引越し祝いじゃなかったの」


 そう言いながらも、竜司に焼かせれば、折角の美味しそうな肉が台無しになってしまうのは明らかだ、目の前の肉をおいしく食べたければ、引き受けるしかない。


「そう言わない、絶対旨いぞ」


 緑子は昔から料理は好きな方だし、凝り性も手伝って、今では其の辺のレストランコック程度じゃ太刀打ちできないほどの腕になっていた。


 男二人暮らしの真柴家のキッチンにも、緑子の持ち込んだ料理器具や、調味料が整然と並んでいた。いつの頃からか、春日家のキッチンよりも真柴家のキッチンの方が遥かに充実しているのは、緑子のみ知るところである。


「できたわよー」


 そう言うと緑子が焼きたてのステーキを皿に載せて入ってきた。


「おー旨そう」


 焼きたてのガーリックステーキの香りが、胃液を大量に分泌させる。


「絶対旨いぞ、私が料理したんだから」


「おう」


「ついでに、竜司お気に入りの野菜のバラ肉包、どうだ!」


「流石だ!」


 二人は緑子の料理を堪能しつつ長い夜を楽しんだ、ステーキも竜司の好みのミディアムレア、御つまみも切れるとすぐに魔法の様に作り出す、もちろんメイドイン緑子なので全て絶品御つまみばかりだ。


 気がつけばワインはカラになり、竜司が持ち出してきた秀喜秘蔵のウイスキーの口も開けられていた。


 いつの間に眠ったのか、目覚めてみればリュウジの部屋のベッドで、となりに竜司が寝息を立てている。


 緑子はふと夕べを思い出し口元を緩めると、ベッドから降りて、ゆっくりと服を着始める。


 その気配に竜司が目を覚ますと、目の前に緑子のシュルエットが映っている、少し細いがかえってそれが色香を醸し出し背中まで伸ばした髪がさらにそれを引きたてる。


「帰るのか」


「そうよ 今日からお仕事」


 名残惜しそうに声をかけたが、そっけない返事が返ってきた。


「まだ薄暗いぞ」


「女の子は支度が大変なの」


 緑子は服を着終わると、秀喜秘蔵のウイスキーのボトルを手に取り、竜司に渡した。


「私の代わりに抱いていて」


 そう言って、悪戯っぽく微笑むと、手を振りながら後ろ向きにゲートを潜っていった。


「代わりって言われてもなー、此れあんまり色気無いし」


 竜司は手の中のボトルを眺めながら呟いた。


 ボトルの首には、いつか緑子がどこかのお土産に買ってきたお揃いの、四葉のクローバーを模ったストラップが掛かっていた。


 竜司も服を着ると、ウイスキー片手に、緑子を追ってゲートを潜っていった。


今回はプロローグとなります。

次回から本編こうご期待。

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