第1章 4話 『朝は早く起きましょう』
遅れましたスミマセン(´;ω;`)
「ふぁああ……、もはよう、アリス……」
「あー、もう何寝ぼけてるんですかソラフ様! 今何時だと思ってるんですか!」
今日もまた屋敷にアリスの怒号が響きわたる。
「んー、まだ明るいなー、おやすみぃ……」
「あの、言ってることが支離滅裂なんですけど……」
アリスは小さくため息をつくと、一間空けてから掛布団の隅に手をかけて思いっきり引っ張る。
バサッ!!
「うぇ、わ、ふぁい! 自分、生きてます!」
すると、布団にミノムシのようにくるまっていたソラフが意味不明なことを口走りながら飛び起きる。
「生きてるのは知ってます! それより、いつまで寝てるんですかソラフ様!」
「いつまでって、朝までだよ?」
相変わらず寝ぼけているのか、それともわざと惚けているのかはわからないが、ソラフはまたふざけたような返答をする。
「……。それは知ってますぅ! じゃなくて遅すぎませんか!?」
「んー、今何時?」
「もう陽刻の11時ですよ!?」
「陽刻11時!? 俺朝飯食ってない! 待て、マイブレックファーストはどうした?」
「エリス様が『朝寝坊するような悪い人は朝ごはん抜きにしますわ!』とか言って片づけてましたよ?」
「えーっ! マジかよ! ヤバい!」
この世界の時間の概念は主に陽刻と陰刻の二つから成り立つ陰陽刻で動いている。太陽の出てくる朝、つまり日付が変わってから太陽が南中するまでの時間を陽刻、太陽の沈む夜、すなわち南中した太陽が再び沈み闇夜が訪れて日付が変わるまでの時間を陰刻と表す。陽刻の11時といえばもう昼ごはんの方が近い時間帯となる。王都の市場では朝市の店が人で溢れかえっている頃だ。
「早く謝りに行った方がいいんじゃないですか?」
アリスが少しパーマのかかった艶のある金髪を手串でとかしながらソラフに向かって呟く。
「うーむ、やっぱりそうか……。ちょっくら顔出してくる!」
アリスの催促に素直に応じたソラフは着替えもせずに部屋を飛び出そうとする。
「え、ちょっと! 待ってくださいソラフ様! せめてズボン!」
「え? わっ! 昨日寝苦しくて汗かいたからパンイチで寝たんだった!」
アリスの指摘にようやく自分の無様な格好に気づいたソラフは少し顔を赤らめてフィル爺御用達の支給服に着替えるとそそくさと部屋を飛び出していった。
「はぁ……。朝起きたら布団くらいたたんでくれてもいいのでは!?」
アリスは誰もいなくなった部屋を文句を垂れながらひとりで掃除し始める。
―――今日も住み込みメイドの多忙な1日が始まる……
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「はぁ……。もうっ! このお屋敷広すぎじゃない!?」
今アリスがいるのはお屋敷の中で最も正面玄関から遠い西館のその更に最奥の部屋だ。かつてアルソレア家が権威を誇っていた時代に応接間兼宴会場として使われていた部屋である。現在、この屋敷に住んでいるのは、当主であるエリス、その正騎士ソラフ、そして執事のフィールズ、それにアリスを含む住み込みメイドと使用人が10名弱といったところだ。絶対的な使用頻度が少ないので屋敷のほとんどの部屋は常にほこりをかぶっている。それを管理するのが使用人の務めだ。
「もう! 姉さまたちったら面倒な掃除だけ私に押し付けて!」
アリスは心の中に溜まりにたまりきった不満をぶちまけながら丁寧にはたきで掃除をしていく。
姉さま、といっても別にアリスと血のつながりがあるわけではない。この屋敷では先に入った先輩メイドが姉として後輩メイドの面倒を見る決まりなのである。
「入ったら早々に『あなたの仕事は掃除よー』とか言って面倒な西館の仕事を押し付けて……、あーもう! イライラする!」
別にアリスの姉たちはアリスに嫌がらせがしたいわけではない。西館は最も正面玄関から遠いのと同時に、エリスのいる執務室から最も距離のある場所なのである。末っ子の彼女がミスをしても極力怒られないようにしてあげようという姉たちの気配りなのだが、当然アリスはそんなこと知るわけがない、むしろ姉たちが自分に嫌がらせしていると思っているのだ。
「……はぁ、やっと5部屋終わったわ。……あと25部屋……。うわぁぁん! もうやだよーっ!」
アリスは心の底から嫌気がさして大声で泣きわめくが誰一人として駆けつけてくれる人はいない。
「……もう、いい……」
アリスはついに吹っ切れたかのように冷静になると無言で次の仕事へと取りかかり始めた……。
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―――アリスが不満を爆発させていた頃、ちょうど時を同じくしてエリスの執務室でも一悶着起きていた。
「ソラフっ!! 今何時だと思ってるんですの!?」
「ん、何時って陽刻の11時だろ? 俺だって時計くらい読め……る……」
「……ソーラーフー……!! 私はそんな意味で聞いてるんじゃないんですのよっ!?」
自分の立たされている立場もわきまえず、冗談なのかはたまた本気なのかはわからないがエリスの質問の揚げ足を取ったソラフに対し、エリスは顔を真っ赤にしながら怒鳴りつける。
「ヒィィイっ! う、嘘です! 何でもないです! 寝坊しましたすみません!!」
エリスの激怒に完全にてんぱってしまったソラフは突然人が変わったかのように下手に出ていく。
「……反省してますのね? ならよろしいですわ、午後は剣術のお稽古があるのでしょう? 頑張ってくださいね」
「おう! サンキューな! ところでなんだけど、俺の朝ごはんは?」
「もちろん、寝坊した罰として抜きですわよ?」
当然だとでもいうような顔でエリスがサラッと答える。
「……え? えーーっ!! 許してくれたんじゃないのォ!?」
「許しはしましたが、悪事を罰っせられるのは当然の報いですわ。仕方がないので昼食は用意いたしますけれども」
「なにその厳罰主義! ああ、神よ、この罪深い私にお許しを……。愛を、平和を、そして朝食を私にめぐんでくだされ……」
エリスの厳罰法治主義にいよいよソラフは狂ったかのように訳のわからないことを言い出し始めた。
「何勝手に信仰宗教開いて悟ってるんですの? 前から変人だとは思ってはいましたけれど、とうとう壊れたみたいですわね……。大体、もう陽刻の11時半じゃないですの。あと30分もすれば昼食ですわよ?」
「……え? ……昼食? ……!? やった! 飯だ、飯が食えるぞ!」
「え? あ、はい。よかったですわね」
ソラフの急激なテンションの切り替えに困ってしまったエリスはとっさに適当な返事をする。
「よし! 今から食堂行って並んでる! またあとでな!」
そう言い放つとソラフは慌てて部屋を出て行ってしまった。
「あ、ちょっと! そんなに早く行っても……。」
エリスは走り去るソラフに一声かけようとしたが、ドアの閉まる音に遮られ彼の元までは届かなかった。
「あの食堂、12時にならないと開かないんですわよ……?」
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『 9月7日 晴れ
今日は朝からソラフが寝坊して大変な1日でした。午後の剣術の訓練もまるでだめで、明日1日を練習に費やしても王都で馬鹿にされるのは必至かと思います。でも、彼はとても頑張っています。私はそんな彼を応援したいです。ソラフに12神の加護あれ。』
―――パタン……。
エリスはいつものように日記に今日の出来事を書き記すと明かりを消して寝床に入った。まさかあんなことが起きるなんて夢にも思わないまま……。
遅れてすみません(´;ω;`)
タイトルが『朝は早く起きましょう』なのに、作者は風邪こじらせて今日は15時までベッドで寝てました。
(前日の19時から一切ベッドから降りなかった( ・´ー・`)ドヤ)
それはさておき、エリスが悟りもしなかった事件とは!?次回もお楽しみに!
感想お待ちしております!