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第1章 2話 『コーヒーに砂糖は入れない』

こんにちは!2話の改稿も無事終わりました!


感想お待ちしております!

 



「それにしても広いもんだな、このお屋敷は……」


 今日も朝からソラフは騒がしい。この青年がこのお屋敷に住み着いてからは毎日が苦難の連続だ。


「ソラフ様、ここが調理場になります」


「へぇ、調理場ねぇ、うんうん、ねぇあの部屋は何?」


「ちょっと! 聞いていらっしゃいますか!?」


 明らかに話を聞いていないソラフに一生懸命説明しようとしている彼女はお屋敷にいる中でも最年少のメイド、アリスだ。


「聞いてる聞いてるー、じゃ、次行ってみよー!!」


「はぁ……」


 とんでもない人が住み着いたもんだとアリスは大きくため息をつく。そうは言えど追い出すわけにはいかないのだ。なんせ彼は当主エリス様の正騎士なのだから……。




────事の巡りあわせはほんの偶然だった……。




「なぁ、フィル爺、俺が倒れてたとこ助けてくれたってのは分かった。んでもって俺はこのあとどうなんだ? 質問だけ答えさせられて首ちょんぱとかはごめんだぜ」


「ふふっ、そんなことするわけないですよ。」


あまりに拍子抜けたソラフの言葉にフィル爺は思わず笑みを漏らす。


「じゃあどうするってんだよ」


「心配しなくても大丈夫です。昼前にはエリス様がお戻りになられますのでそれまでに身支度を済ましておいてくださいませ」


「いや、まあ、言いたいことはわかるんだけど、俺、見ての通り一張羅だから着替える洋服持ってないんだよなぁ」


 ソラフはどうだと言わんばかりに、年季が入って赤黒く変色した革製のチョッキを見せつける。


「それなら衣装庫に余っている洋服がありますからあとでメイドにもっていかせましょう。その間ソラフ様はお風呂にお入りください」


「メイドがいるのかよ……さすが貴族様のおうちといったところか……」


「浴場はこの部屋をでてまっすぐ行ったところにありますので、ごゆっくりお過ごしください」


 フィル爺はそう言い残してから深々と一礼して部屋を後にした。


「と言われて廊下に出てみたはいいけども……この廊下長すぎだろ……」


 ソラフが驚くのも無理はない。なんせこの廊下、先が長すぎて終わりが見えないのだから。


「あー、もう5分は歩いたぞ……まだ着かないのか? さてはフィル爺のやつ、俺をだましたな」


 勝手にフィル爺を犯人に仕立て上げたソラフは不機嫌そうにつぶやく。どれくらい歩いただろう、ソラフはついに巨大な肖像画がかけられている壁の前に到着した。


「あ、着いた」


 なんといえばいいのか、そこには太い文字で「男」と書かれたのれんが下がっていた。中世ヨーロッパにありがちな白を基調とした豪華絢爛なお屋敷とはまるでミスマッチングなそれは、なんとも言えない雰囲気を醸し出している。


「なんかこの布が雰囲気ぶち壊してる気がするんだけど……」


 しかしそんなソラフの不安は一瞬にしてかき消された。


「で、でけぇ!!」


 ソラフの眼前に広がるのは巨大な風呂、というよりは巨大な池だった。一面に湯気が立ち込めてはっきりとは見えないが、30m四方はあろうかという浴槽はキズや汚れ一つなく綺麗に磨き上げられていた。おそらく日夜住み込みメイドたちが掃除しているのだろう。浸かってみると湯加減も丁度いい。ソラフはそのまましばらくの間、疲れた体を休ませた。


「ふぅ、気持ちいいけど広すぎて逆に落ち着かねーな」


 しかしどうにもこのだだっ広い風呂に1人でつかるのに飽きたソラフは体を洗うのもそこそこに浴室を出た。するとそこには何やら洋服らしきものを持った金髪ショート美少女が……


 バコンッ!!


突然ソラフの頭に鈍い衝撃が走った。心地よい痛み……いやそんな趣味はない。ただ普通に痛かった。


「痛っ!!殴るなってば!こっちだって恥ずかしいんだよ……!」


 脳内に響き続ける痛みに耐えつつソラフは美少女を諭す。


「……履きましたか?」


「……履きました……」


 かわいい!この金髪の子かわいい!けど凄く気まずい!


「……お着替え、ここに置いておきますね!失礼します!」


「あ、待って、君、名前は?」


 ソラフは逃げるように脱衣所をあとにしようとしていた美少女に問う。


「アリスです!次のお仕事がありますので、失礼いたします!」


 少女はそう言い残すと大慌てで脱衣所から出て行った。


「アリス……か」


足早に出ていく少女を見送ったソラフは彼女の名前を小声で復唱すると、置いてあったタキシードに袖を通した。


「手直しもしてないのにこのフィット感、流石フィル爺! 執事なだけあるぜ!」


 ひとりで手を叩いいて喜んでいた彼だったがとくにやることもないので部屋に戻った。するとちょうどソラフが部屋に戻ったのと同時にフィル爺がやってきた。


「ソラフ様、予定よりすこし早いですがエリス様がお戻りになられましたので執務室にご案内いたします」


「フィル爺ご苦労、ところでエリス様ってのはそんなにすごい人なのか?」


「ええ、それはもちろんですとも……なにせクリストフ王国の次期国王となられるお方ですぞ」


「え、そんな偉いひとなのか……俺そういうの苦手かも……」


 ソラフが小声で愚痴をこぼす。


「いま何かおっしゃいましたか?」


「何も言ってません」


「なら構いませんが」


 こんなこと聞かれたら何されるかわからないと思った彼は適当にはぐらかす。


「ソラフ様、ここが執務室になります」


 ソラフの目の前にそびえたつのは立派な彫刻があしらわれた木製のドアだった。


「入っていいんだな……?」



 ────キィィイッ


 ソラフは年季が入って動きが悪くなったドアを恐る恐る開けた。


 部屋は思っていたよりも小ぢんまりとしていて特に装飾品もなく真ん中に大きめの長机が一つとその前にある何やら岩に突き刺さった剣のようなものだけ。そして正面に腰かけるのは綺麗な水色の髪を肩の下まで垂らした小柄な美少女……


「あの、エリス様って方はどこに……?」


 ソラフが尋ねると少女は目を見開いて、


「私がこのルメール城当主エリス=アルソレアですわよ!?」


「まさか、嘘だろ?」


 なんという天国! これはまさに天国だ! こんなカワイイ娘が次期王様なんて、そんな、おとぎ話じゃないんだし……。


「あなた……あんまり無礼なことを抜かしていると今すぐ屋敷から追い出しますわよ!?」


 少女は机に置いてあった杖を手に取って構えて見せる。


「あぁ、悪かったよ、君がエリス様ね? えっと用件は何?」


「まず、その憎たらしい口調はどうにかなりませんの?」


「わりィな、俺は生まれた時から荒唐無稽のあほ面だからな。まぁ、記憶ねーからさっき生まれたばっかなんだけど」


「わかっているなら直しなさい。まあ、いですわ。ところであなた、魔女の森のことで

何かご存じないですの?」


 エリスは注意をしても彼の耳に入らないと気が付いたようで神妙な口調で話を本題へと移す。


「悪いけど俺はベッドで覚醒してからのことしか記憶にないんだ……」


「そうですわよね……ならいいんですの、ご協力感謝いたしますわ。しばらくの間はお屋敷に置いて差し上げますから体調が戻ったら街へ戻りなさい」


 エリスのどこか不思議と丁寧な口調にソラフは笑みを浮かべると、


「あぁ、ありがとな、俺のことなら心配いらねーぜ!この通りぴんぴんだぜ!!」


 と言って幸先よくスタートしたのはよかったのだが……


 ────ガシャーーーン!!


 案の定やらかした。走り出してわずか2歩で岩にささった剣でつまずいた。やはりこの男、バカだ。


「痛ってぇ……なんでこんなところに剣があんだよチクショー」


「その剣は先代の王によって封印された剣で、新たな正騎士があらわれ……っ!?」


「おいおいどうしたんだよ」


「つ……剣が……ぬ……抜けた!?」


 エリスは立ち尽くし顔を真っ青にして叫ぶ。


「わりぃ、壊しちまったみたいだ。弁償する……ような金持ってねぇな、まあ何とかすっから許してくれ…………っ!?」


 するとエリスは突然ソラフの腕を掴んで執務室右奥の壁の前に連れていく。


要素解放エレメントリリース!!」


 エリスが壁に向かって何やら呪文のようなものを口ずさむと壁に大きな穴が開いた。


「ま、魔法……?」


「…………」


 ソラフの声に耳を傾けることなくエリスは穴の先に通づる部屋へと入る。その部屋は四方の隅が見えないほど広く、どこまでも続いていた。壁際には返り血を浴びた甲冑や槍などが整然と並んでいた。その部屋の中央には何やら紫色の光を放つ怪しげな物体。エリスが杖を一振りするとそれが二人の前にゆっくりと近づいてきた。

 

「なあ……あれはなんだ?」


「そうですわね……言うのであれば……禁書……。先の大戦以降のアルソレア家のすべてが詰まっているんですの」


「禁書……?なんでそんなものが必要なんだ?」


「ここをご覧なさい」


 そこに書かれているのは見知らぬ象形文字。


「悪い、俺、この文字読めねぇや」


「はぁ……、ここには神聖語でアルソレアの聖剣……あの剣のことですわ、について記されているんですの」


「代わりに読んでもらってもいいか?」


「ええ……。この剣は次世代の正騎士のために封印せんとす。この剣が再び抜かれるとき、剣の封印は解かれ新たな正騎士が誕生する」


「は? え? ということはつまり……」


「ええ、信じられないけど、あなたが正騎士に選ばれたらしいですわ」


 エリスはまだ信じられないとでも言うような顔をしつつ答える。


「正騎士ってどんな役職なんだ……?」


「それは追って話をしますわ、とりあえずいまはフィールズに伝えないといけませんの!」


 そういい残すとエリスは秘宝庫を後にした。


「はあ……まったくわけがわかんねぇ……」



※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


────おい、アリス!アリス!おーい、なにぼーっとしてんだ?



「……え?あ、はい!失礼しました!」


「もう、突然倒れてその後もずっとぼーっとしてたから死んじまうかと思ったぜ」


「大げさですよソラフ様、貧血なだけです。早く次のお部屋へご案内しないと……」


「いや、それなら心配ないもう姉さまたちには伝えたから、今日はここで休んでろって」


「……でも……」


「いいから休めって!ほら、コーヒー飲むか?」


 ソラフはベッドに横たわる少女にコーヒーの入ったカップを差し出す。


「お気遣いありがとうございます。コーヒーですか……苦いの苦手……。あのお砂糖ありますか……?」


「わりぃな、コーヒーに砂糖は入れない主義なんだ」


「面白いこだわりですね……」


「飲んでみろって!うまいコーヒーは苦くないんだぞ!!」


「ほんと……ですか?」


「ああ、もちろん!多分!おそらく!きっとだ!」


 無論、数日前にソラフとして覚醒した彼がそんなこと知るわけがない。自信に満ち溢れたハッタリだ。


「ソラフ様って嘘をつくのが下手なんですね……」


「いいから、いいから!ほら飲めって!」


「んぐぅぐぐ……ぷはぁっ!!」


 ソラフはアリスの小さな口に無理やりコーヒーを流し込む。


「な、なにするんですか!! しかも苦い! 騙したんですね!?」


「んー? コーヒーが苦いってー? ひょっとしてアリスっておこちゃまなのー?」


「ち、ちがいます! アリスは正当な契約のもとに雇われた立派なメイドです!!」


 ソラフの挑発にまんまと乗せられてしまったアリスはコーヒーの苦みで涙目になりながらぷりぷりと怒る。


「かわいいな、やっぱおこちゃま……」


 ソラフとアリスがくだらないやり取りを繰り返しているとそこにフィル爺が現れる。


「ソラフ様、エリス様がお呼びです」


「ああ、ご苦労フィル爺、ちょっと行ってくるよ、あとは頼んだ」


「かしこまりました」




────カツン、カツン……。


 部屋をあとにしたソラフは、執務室へ向けてゆっくりと足を進める。月明かりのさす薄暗い廊下に彼の足音が響き渡る。




────正騎士ソラフ、ここに誕生す


どうも望月琴音です。以前より描写が増えたかなぁ、なんて個人的には思います!


全く関係ないですが、アニメ好きな方いたらTwitterで教えてください!一緒に語りましょう!


次回もお楽しみに!


感想くれたら5000円あげちゃう(大嘘)


それでは!!

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