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時雨の化

ここからは短編小説「時雨の化」のネタバレ、及び作品解説となります。

ネタバレ、もしくは作品解説を好まない方はぜひ、本編を読んでからいらしてください。

では、どうぞ──







 お次は文学フリマ短編小説賞参加作品の一つ、「時雨の化」について。

 まず簡単なあらすじをば。


 ヒトの形をした薄膜の中に水が詰まってできている生き物ウジン。

 そんなウジンの一人が、ある日変わった生き物と出会った。

 そいつはウジンと同じ形の、ウジンと違う生き物。

 そいつは言う。「この世界はもうすぐ終わる」と。


 これは一夜漬けで完成させた衝動作品の一つです。謎かけ解答、というよりは作品解説の色が濃くなるかな、と。


 この作品を書いた原因が「雨の本」というやつで。

 具体的に言うと、雨の名前が書いてある本だったんです。それを読んで、色々、インスピレーションが湧いてきて、あんな作品が仕上がりました。

 時々出てくる"水の名前"が雨の名前の一つだったりするので、軽く説明を。


 神立カンダチ

 原初のウジンと呼ばれ、ウジンたちの間で崇められていた存在。

 意味は、雷、雷鳴を表します。神様が現れたことを言っていた言葉だそうですが、雷は雨を伴うことが多いので、夕立や雷雨のことを指す言葉となったそうです。


 血雨ケツウ

 ウジンたちを不治の病に至らしめる水として恐れられていたものです。作中では赤黒いと表現されています。

 実際はそんな物騒なものではなく、赤土などが混じって降る雨のことを指します。


 狐雨(キツネ)

 作中では、差別用語として使われていました"キツネ"という単語。これの語源は"狐雨"からきています。

 狐雨とはなんぞや? という話になるかと思いますが、皆さま、"狐の嫁入り"というのは聞いたことありませんか? お天気雨のことです。

 日が照っているのに、雨が降る。それはもしかして、狐が我々を化かしているのではないか? ──そんな考えから生まれた言葉です。

 狐と雨(主にお天気雨)が絡むお話は、作者は大好きです。

 ちなみに、キツネが差別用語なのは、作中では、ずっと雨が降っていなければならない、雨が晴れると世界が終わってしまう、という考えから見ると、お天道様が覗いているのに雨が降るという現象は異端だったからです。


 日照雨ソバエ

 これも差別用語の一つでしたね。実はこれ、狐雨やお天気雨の別称です。読んで字のごとく、なのです。

 字を見ると納得ですが、音だけだと全くわかりませんよね。日本語の不思議が詰まった言葉で、作者は気にいっています。


 氷雨ヒサメ

 主人公・コトのあんちゃんの生まれ水で、味のない固い水。

 これは皆さまも聞いたことがあるのではないでしょうか。

 元々は夏の季語で、雹や霰を表すものだったようですが、最近では雪や霙に変わる直前のとても冷たい雨を表すものとしても扱われるそうです。

 "氷"という字が入るのに、夏の季語だったとは。字面だけでは計れないのもまた日本語の不思議であり、よさかもしれませんね。


 華雨カウ

 コトのおねえの生まれ水。甘い味がするものです。

 雨としての意味は春の花が咲き誇っている頃に降る雨のことを指します。類義で"桜雨"というのもありますが、桜に限定せずに示す場合は華雨を使うのでしょう。

 華雨の"カ"は何故"花"ではなく、わざわざ"華"と書くのかというと、"花雨"という言葉もあるのですが、なんと、字が違うだけで、全く違う意味になるのです。

 "花"の"花雨"は雨のように降り注ぐ花のことを示し、雨のことを表す言葉ではないようです。

 同音類義語も奥が深い……


 霧雨キリサメ

 アメの声をコトが比喩した表現。

 これも有名な雨の一種ですね。霧のように細やかな粒の雨を示します。

 霧雨のような声とは、一体どんなものなのでしょう?


 甘露の雨(カンロ)

 青い色をしたとても甘い稀少な水。

 "甘露"は耳にしたことがあるのではないでしょうか。中国の古い伝説の霊薬です。それくらいありがたい恵みの雨のことを"甘露の雨"というのだそうです。

 作中でも、この雨は貴重なもので、ウジンたちの間でも楽しみの一つだったようですね。コトはあんちゃんに意地悪されてあまり飲めなかったようですが。


 篠突く雨(シノツキ)

 とても硬い雨。薄膜の脆いウジンは当たると膜が削れてしまいます。

 作中では"シノツキ"と呼ばれているこれは本来は"篠突く雨"というなんだか格好いい名前の雨です。

 篠という細くてとても固い竹がしなるほどの激しい雨のことを言います。


 時雨シグレ

 アメが自分の名前候補として挙げたうちの一つ。

 時雨は知ってのとおり、気まぐれに降る雨です。実は冬の季語なんですって。

 様々な言葉とくっついて"〜時雨"というのがたくさんあります。その中には"青時雨"という言葉があって、これは初夏の新緑に降り注ぐ時雨を示し、夏の季語になるんだとか。時雨は上につく言葉で、様々な表情に変わる雨です。


 白雨ハクウ

 アメが自分の名前候補として挙げたうちの一つ。

 夕立、にわか雨、雹のことを示します。地面を打ち付けるしぶきが白く見えるところからこのような呼び名になったようです。


 桜雨ハナビエ

 アメが自分の名前候補として挙げたうちの一つ。

 "桜雨"は"サクラアメ"と呼びます。"ハナビエ"とは桜雨の別称で、花時に降る雨です。


 と、こんなところでしょうか。

 もう一つ、雨の名前ではありませんが、この話に出てくる"ウジン"は"雨人"と書きます。雨から生まれる人、と、そのままの意味ですね。


 ああ、大事なことを忘れるところでした。

 タイトルの「時雨の化」これも雨関連の言葉です。

 この場合の"時雨"は"シグレ"と読まずに"ジウ"と読みます。"ジウ"は"シグレ"という意味も表しますが、ほどよいときに降る恵みの雨のことを言います。

 「時雨の化」は雨がありとあらゆるものを潤すのと同じように、誰もに平等であるという徳をそなえた主君の教えのことを言うのだとか。

 そこまで深い意味を込めたつもりはありませんが、存在することに気づいてほしかったカンダチさま、ヒトであった頃に様々な傷を負い、ウジンと化したものたち、どこまでも異端だったコト──それぞれが皆、救いを得られればいいな、と作者は願います。

 空を見上げて昼空にぷかぷか浮かぶ浮き雲は、もしかしたらアメとコトかもしれませんよ。




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