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番外編-とある学園祭のひと時

 貴族のいる学校と言っても学園祭はあったりする。

 そしてシズ達のいるクラスは、メイド喫茶だった。

 裏方に回って、メイド服を着せられるという危険を回避しようと画策したシズだが、それは友人のエルフィンによってはばれてしまった。


 だが、そんな女装をしたシズを独り占めしたいフィエンドによってその陰謀は阻まれた……かに見えた、学園祭二日目の出来事はといえば。

 喫茶店の裏方にて。

 シズはフィオエンドの口添えもあってか、女装せずに裏方で食べ物の調理のお手伝いをしていた。

 

 そんなシズの隣では、ロールケーキを作るために、現在、真っ白な卵白を泡立て続けるエルフィンがいる。

 そんなエルフィンが混ぜる手を止めて、その美貌をかげらせ、憂いを帯びた表情で切なげにため息を付いた。


「まったく……どうしてオルウェルはすぐにへばってしまうのでしょう。そう思うでしょう? シズ」


 なぜか話しを振られたシズは、鍋を持ったまま一瞬氷つき、とりあえず目の前の鍋を火にかける。

 鍋には生姜を砂糖と蜂蜜と水が入っており、これから、ことことと煮るところだった。

 小さく呪文を唱えて、火をつけて……そこでシズはじっと自分を見つめるエルフィンから逃げられないと観念して、


「僕は、ちょっとだけオルウェルに同情するかも」

「シズは僕の味方になってくれないのですか?」


 悲しげにエルフィンがうつむく。

 エルフィンの美貌は、魔性ともいうべき美しさがあるが、こうやって影を帯びた時に日陰で咲く可憐な花のような美しさを醸し出す。

 現に周りで、皆が皆、ゴクリとつばを飲み込んでエルフィンを見つめている。

 

 そんなちょっとした仕草だけでも人の目を惹きつけて、相手を虜にしてしまう……エルフィンにはそういった魅力があった。

 だがシズは、そういった魅力には引っかからず、それどころか視線を宙に彷徨わせる。

 そんなシズにエルフィンはそこで、くすりと小さく笑った。


「そんな僕の味方になってくれないシズには、僕の相手をしてもらいましょうか」

「……休憩時間に、お話し相手ということで?」

「いえ、一度くらい味見をしてみたかったんですよね」

「……そういう事は、オルウェルに回復魔法をかけて相手をしてもらってからにしてください」


 何で僕が襲われないといけなんだと思ってから、次に、恋人に相手をしてもらいなよとシズは思ったのだ。

 そんなシズの答えに、エルフィンが嗤う。


「そんなもの、とうに試したに決まっています。する度に、気絶するので回復魔法を何度か使いましたから」

「……ちょっとだけ、オルウェルに同情するかも。もう少し我慢できないの?」

「だって、大好きすぎて、もっと欲しくなるのだから仕方がないでしょう?」

「……エルフィンは、不安なの?」


 沸騰し始めた鍋を見ながら、シズは火を弱めていく。

 エルフィンが沈黙した。

 そして突然卵白を泡立て始める。

 

 あまりにも力強く回すのであっという間に角が立ち始める。

 それをロールケーキのたねに混ぜ込み、鉄板に流し入れてオーブンに。

 火を入れてからようやくエルフィンはシズに答えた。


「そう、ですね。そうかもしれません。また僕は、オルウェルが僕の側からいなくなる不安があるのかも」

「……大丈夫だよ。エルフィンが望む限り、手に入れられるよ」

「そうでしょうか」

「うん、だから、ほどほどに、ね?」

「……でもオルウェルを前にすると、僕、欲望が止まらないんですよね。無理やり乗っかってしまいたくなるというか……」

「二人共、周りの人が引いているからそれくらいにしておいたほうがいいと思うよ?」


 苦笑するように、シズ達の後ろで声がした。

 シズが振り返るとそこには、シズの叔父であるウィルが立っている。


「ウィル叔父さん、どうしたの?」

「いや、シズ達がどうしたのか見に来たのだけれど、凄い会話だな~、と」

「……エルフィンはこう見えても真剣に悩んでいるんですよ?」

「ああ、ごめんごめん。でも、そうだね……だったらこんなものはどうだろう」


 そう言ってウィルがラベルを張った茶色い小瓶を取り出して、シズとエルフィンに渡す。


「これは、一時間程度、酒に酔ったような状態になる魔法薬。そうすれば、少しは欲望を抑えられてイチャイチャ出来るかもよ?」

「! エルフィン、使いなよ!」

「……確かにこういった方法もありですね。頂いてもよろしいのですか?」


 そんなエルフィンにウィルが肩をすくめて、


「アースレイが僕にだまし討で使ってきたから、隠していたのを、ね。処分予定だったけれど、二人に上げるよ」

「ありがとうございます」


 嬉しそうに微笑むエルフィン。

 一方シズは、


「あの、ウィル叔父さん、どうして僕にもこれを?」

「ん? めろめろになったところを可愛がってもらえばいいじゃないか。二人の恋人は、アースレイみたいに恋人に無体な真似はしなさそうだしね」


 その時のウィルの笑みがあまりにも壮絶だったのでそれ以上聞けなかったシズ。

 そしてウィルと別れて、オルウェルやフィオエンドが来る時間、そのあたりに休み時間を入れていたので、試しに二人は飲んでみた。

 結果は……動けなくなったので、襲えなくなったエルフィンをオルウェルは頭を撫ぜたりして、可愛がる。

 それにエルフィンは幸せにゴロゴロ啼いていた。


 他方、シズはといえば同じようにぐったりしながらフィエンドに抱きついて、フィン、大好き~と繰り返して、襲いたい気持ちを自制しているフィオエンドをただひたすらに悶々とさせていた。

 そして一時間後、正気に戻ったシズとエルフィンが顔を真赤にして恥ずかしくなってその場から逃走するのはまた、別の話である。

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