無理矢理
「フィン?」
シズは不安を覚えて、フィエンドの名前を呼んだ。
目の前に居るフィエンドがいつものフィエンドではなくて、上手くいえないが身の危険のようなものをシズは感じたから。
すると、フィエンドは更に笑みを深くして、
「フィエンド様、だろう? お前のような平民がその名で呼ぶな」
「え……」
その言葉にシズは、不安げにフィエンドを見る。
そこでフイエンドが呆然としているシズに近づき、その腕を掴む。
その力の強さに、シズは怖さを感じてしまう。
「フィン……」
「フィエンド様、だろう? 口で言っても分らないみたいだな」
そう顔は笑っているのに、冷たい声音でフィエンドはシズに告げた。
逃げなければ、そう本能が告げてシズはフィエンドから逃げようとする。
けれど腕を捕まれて逃げられず、それどころかそのままベットに仰向けに押し倒されてしまったのだった。
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ちなみに、そんなシズ達の様子に、“維持の神”と“破壊の神”は焦っていた。
「おい、どうするんだこれは……今すぐフィエンドを止めて来る。……“維持の神”?」
そこで自分を止めようとする“維持の神”をいぶかしそうに“破壊の神”は見るも、彼の顔は真っ青で、そんな彼は震え声で、
「もしここで彼らを止めて、そしてシズが本来の力を取り戻したなら、どうする?」
「……生き残れるだろうか、二人で」
「……だが少なくともここに居る限りは、大丈夫だ。まだシズはここまでこれない」
その言葉に“破壊の神”は少し黙って思案してから、
「……若い力に任せよう。きっと愛は偉大だ」
全てをシズ達に丸投げしたのだった。
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寝ずに待っていたエルフィン達の所にシズ達が戻ってきたのは夜遅くの事だった。
けれどぼんやりとした精気のない目で微笑むシズにエルフィンは不安を感じる。
だからおそるおそる問いかける。
「シズ、どうでしたか?」
「フィエンド様には、とても良くして頂きました。また抱いていただけるんです」
そう、張り付いたような笑顔でシズは答え、そんなシズにフィエンドは優しげに微笑み、良い子だと抱きしめてキスをしたのだった。
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その二人の様子を見てエルフィンが珍しく笑顔のまま凍りついていた。
正確には考える事を放棄していたのだが、はたから見ればいつも通り微笑んでいるだけに見えるエルフィンを、オルウェルが軽く揺さぶった。
「大丈夫かエルフィン」
「あ、は、い……そうですね、なんだかシズらしくない台詞を聞いた気がして、ええそうですとも。多分気のせいかな、うん」
そう呟いてシズを見るエルフィンだが、シズは再びフィエンドに抱きついて、
「フィエンド様、好き」
それを見たエルフィンが、
「お前は誰だ! こんなのシズじゃないです! シズはフィエンドをフィンて呼ぶはず! おかしいですこんな! ええそうですね抱いていただけるとかそんな事を言うはずがありませんから、シズが。だから散々僕が遊べたのにこんな事があるはずが……」
わなわなと震えながらそれを見たエルフィンが狼狽していたが、そんなエルフィンをオルウェルが、
「落ち着くんだエルフィン! きっと何か事情があるんだろう」
「そ、そうですね……ありえない光景に、僕とした事が……」
「シズには、フィエンド様と呼ぶように俺が強制した。何か問題あるか?」
そこでそんなエルフィン達に、シズを可愛がりながらフィエンドが告げる。
それを聞いたエルフィンとオルウェルが、フィエンドを変な物でも見るかのように見て、エルフィンが、
「……フィンとシズに呼ばれていた時、前はそう呼ばれると嬉しそうでしたが……貴方は」
「フィエンド様とシズに呼ばせれば、シズの全てを支配しているように感んじられるだろう?」
「……は?」
「いいじゃないか恋人なんだろうシズは。俺が全部支配して、その全てを俺のものに……」
「変態くさい台詞から、貴方の本質は全然変わっていない事が分りました。その独占欲を見ていると、なんだか記憶が戻っているように聞こえますが、そうではありませんね?」
「まったくシズの事は覚えていない。だが今は俺のものだろう? シズ」
「はい、フィエンド様」
素直にそう呼ぶシズに、フィエンドは満足そうに、
「良い子だ、可愛いよ、シズ……所でなんでお前達は、そんな変なものを見たような顔をするんだ」
目の前で頬を引きつらせて顔を蒼白にしているオルウェルとエルフィンに、フィエンドは疑問を投げかけると、エルフィンは唇の端をひくつかせながら、
「……シズは確か初めてのはずですよ? ここに来てから貴方が守っていましたから。そうですよね、オルウェル」
「そうだ、シズは誰にも汚されていない」
「ふん、オルウェル、お前が言うのか? シズと同室者のお前が」
「それは……だが私はシズには一切手を出していない。そもそも消し炭にされたくないし」
けれどそんなオルウェルを見て、フィエンドは鼻で嗤い、
「……だったらどうしてシズはあの宿に、マレーの宿にシズは来た事があるんだ?」
「それはお前が連れ込んだんだろう!」
「俺が?」
「そうだ。シズにも聞いてみろ」
「シズ、俺はあそこにお前を連れ込んだのか?」
「……うん」
相変わらず腕の中でシズの頭を撫ぜたりして可愛がりながら、フィエンドがシズの答えを聞いて、
「だが、それを言えばシズが初めてなはずがないな」
「……あそこに連れ込んで、フィエンド、お前は何もしなかったと聞いているが」
「ふん、語るに落ちたな、オルウェル。あの宿に連れ込んで俺が何もしないなんてそんなはずがないだろう」
嘘をつくならもっと上手くつけよというような顔で、フィエンドをオルウェルは見るが、オルウェルは頭痛を感じながら、
「いや、実際に手を出せなかったとお前が言っていたじゃないか」
「俺にそんな記憶はない」
「シズ関係の記憶が完全に今なくなっているからだろう!」
「信じられないな」
そう何処か陰湿な雰囲気の笑いを纏いながら、獰猛な気配を漂わせてシズを見るフィエンド。
そんなフィエンドにそこでエルフィンは、
「もう少しシズを優しく扱ってあげるわけにはいきませんか? 以前の貴方はもっとシズを大切に扱って、それこそ手を出すのを躊躇うくらい大切にしていましたよ?」
「……嘘は大概にしろ。俺がそんな誰かに優しい存在なはずがないだろう? お前達からも恐れられる……俺は誰からも恐れられる、怖くて冷たい存在だったはずだ」
「フィエンド……自覚があるならもう少しどうにかならなかったんですか?」
「直す必要が何処にある? 俺は俺だ。そしてシズは俺のものだ」
そう薄く嗤うフィエンドに、記憶があろうがなかろうが、シズへの独占欲は何一つ変わっていないとエルフィンとオルウェルは知る。
そしてその獰猛な欲望を封じ込める鍵であるシズとの忘れがたいフィエンドの記憶がない今は、ただただシズに向けられて、シズにフィエンド様と呼ばせる程度に歪んだ独占欲を発露させる事になっている。
そこでエルフィンがシズに、シズ、ちょっと、と呼んで連れて行く。
無駄な説得だとフィエンドは思い、オルウェルは流石にこのままでは良くないことになりそうだなと思ったのでエルフィンに任せようと思ったのだが……。
「あんな可愛いシズを見ていたら、僕もちょっとくらい味見しても良いよね?」
「! エル、何を!」
「いいじゃないですか、フィエンドに散々してもらったんでしょう! だからこの程度些細な事でしょう、だから、させて?」
「ひいいいい、やめっ、放し……」
エルフィンがシズに襲いかかった。
それに慌てて、フィエンドとオルウェルが駆け寄り、二人を引き剥がす。
「何をやっているんだエルフィン!」
「せっかくなのであまりにもシズがああだったので、ちょっとつまみ食いを」
「もっとフィエンドの見ていない所でしろ!」
オルウェルがエルフィンを責める。
けれど、一方でフィエンドとシズはといえば、
「シズ、大丈夫か?」
「……うん」
不安そうにフィエンドを見上げて、そこにかすかに怯えの色が宿る。
その瞳は、先ほどフィエンド様と呼んでいたシズよりも前の、自我があった時の……そんなシズはフィエンドに怯えている。
正気に戻ればフィエンドの事が怖いのだろうと唐突にフィエンドは気づく。
それを見てフィエンドは急速に頭が冷えていくのを感じて、同時に苛立ちを覚えて、自分以外の事など考えられないようにしてしまいたい気持ちになる。
子供じみた支配欲と独占欲。
好きなものを自分だけのものにしたい、フィエンドのシズへの執着。
そこでエルフィンはシズに問いかけた。
「シズ、無理する必要はありませんよ?」
その問いかけに、シズは黙って、けれど諦めたように笑う。
「……大丈夫、僕はフィンが好きだから、昔みたいに戻れるなら、何だってするよ」
「シズ……」
けれどフィンとシズが呟いた瞬間、シズはフィエンドに抱きしめられてキスをされる。
貪るような深い激しいキス。
そして唇を離してから、フィエンドはシズを睨みつけるように見て、
「フィエンド様だろう? シズ」
「あ……ごめんなさい……」
「返事は?」
「! ……わかり、ました」
「分りました、フィエンド様、だろう?」
「分り、ました、フィエンド様」
「良い子だ、シズ。たっぷりと可愛がってやる」
「は……い……」
小さな声で頷いて震えるシズに、フィエンドが嗤う。
と、そんなフィエンドにオルウェルが、
「フィエンド、そんな事をして……後悔するぞ?」
「シズは俺のものだ。恋人なのだから、俺とシズの間の問題だ」
「だからこそ、記憶が戻れば後悔する。お前はな。だからもう少し自分のしている事を考えろ」
「お前に如何こう言われる筋合いはない」
そう告げてフィエンドはシズを連れて部屋を出て行ってしまう。
それを止める事もできずに見送って、そこでエルフィンは嘆息した。
「やっぱりシズは、あのフィエンドを受け入れられないみたいですね、怖がって居ますし」
「そうみたいだな」
「ちょっと正気に戻すため、役得もあってシズを襲ったのですが……フィエンドに昔と同じように戻って欲しいみたいですね。そのためなら自分がどうされようとかまわないと。健気ですね」
「だが、フィエンドのシズへの執着、どう考えても昔とまったく変わらないな。記憶がない割りに」
そう話して、オルウェルとエルフィンは黙る。
何となく思ってしまった事があったから。つまり、
「正直、新手のプレイか何かかというきがしないでもないですが……」
「そうだな、シズはフィエンドをこんな風になっても好きで、フィエンドはおかしくなるくらいシズに溺れていて……単純に手を出していたかいないかの違いが大きいか?」
「段々考えていくと、少し放っておいて様子を見た方が良い気が……意外に早く戻るかもしれませんし」
「その時のフィエンドの様子が見ものだな」
「そうですね……悩んでいたら、からかって遊んであげましょう」
「エルフィン……それもそうだな」
そうエルフィンの言葉に、オルウェルは同意したのだった。
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ある一室に連れ込まれたシズは、不安そうにフィエンドを見上げた。
それを見ながらフィエンドは、シズをそのまま傍にあったベットに押し倒す。
また、と思ってシズはびくりと震える。
「フィン……あの……」
「フィエンド様だろう?」
「……フィエンド様」
シズガか細い声でフィエンドの名前を呼ぶ。
どうやらフィエンド様と、呼ぶことにまだ戸惑いがあるようだとフィエンドが気付く。
気に入らない。
けれどシズは不安そうにフィエンドを見ている。
後悔するぞ、と、あのオルウェルの言葉が思い出されて、フィエンドは苛立ちを感じる。
だからどうした、シズは俺のものだと、癇癪に近い思いを抱いてそこでシズが、
「フィ、エンド様、大丈夫?」
「……なんだ?」
「辛そうに見えたから」
フィエンドが苦しむのはシズの望む所ではないから。
そう呟きを聞いて、フィエンドはまさかそんな事をいわれるとは思わなかったフィエンドは瞳を大きく見開いて、罪悪感が湧く。
けれどフィエンドはそんな気持ちを抱いた事にすぐに悔しくなりながら、
「……今日は、このまま寝る」
「そう、なんですか」
「代わりに、シズ、お前を抱きしめて寝る」
「……はい」
そうシズは返事をすると同時に、フィエンドがシズを抱きしめて、シズの横に寝る。
すぐに瞳を閉じて、小さく寝息を立て始めるフィエンドをシズは見上げる。
その穏やかな幼げな表情は、記憶がなくなる前と何も変わっていなくて、シズを抱きしめるこの様も何も変わっていなくて。
そう思うと、少しだけシズは安堵する。
前と同じようなフィエンドが見えてシズは……早くもどって欲しいと思う。
「お休み、フィン」
眠っている時だからこそいえるその名前を、シズは口にしたのだった。
。" ゜☆,。・:*:・゜★+★,。・:*:・☆゜"
朝起きてシズが腕の中で眠っているのにフィエンドは気づいて、フィエンドはこのまま幼げな寝顔で眠っている可愛らしいシズに欲情する。
けれどすぐにシズは無意識の内だろう、フィエンドに抱きついてくる。
愛おしさがこみ上げて来て、フィエンドはそのまま起こさないように抱きしめたタマを撫ぜてやる。
シズガフィエンドの中で眠ったまま幸せそうに少し笑う。
「……俺は」
ふと口をついて出そうになる、罪悪感からくる言葉。
けれど、それは全部シズが悪いんだと、心の中でフィエンドはいじけた様に誤魔化したのだった。




