同じ時を生きる
フィエンドに抱きつく。
「どうしてここが分ったの?」
「単純に、彼らが俺を呼び寄せたから、途中の何かあった時の待機組みに連絡をして……エルフィンの予知で俺の未来を見て、それですぐに連携を取った。……素直に俺が連れてこられるわけないだろう?」
「うん、そっか」
嬉しそうにシズがフィエンドの胸に顔を埋める。
実の所、確かにその待機組みに連絡はしたのだが、応援を呼ばすに単身でフィエンドは乗り込もうとしたのだ。
中にいる奴らは全員皆殺しだ、と。
それはシズを再び、みすみす連れ攫われた事がフィエンド自身許せなかったからなのだ。
が、そうやって単身乗り込もうとするフィエンドを、シズがこのまま、ここにいる奴らを皆殺しにしたら悲しみますよという事でどうにか引き止められたのだ。
とはいえ、援軍が来たらきたで、彼らを無視してフィエンド一人で単身飛び込んできて(敵は全員ほど程に気絶させて)、そういうわけなのでここに一番に辿り着いたのがフィエンドなのである。
そこで、更に足音が聞こえて、
「フィエンド、待て……全員倒されている?」
現れたアースレイが周りの状況を見て、絶句したようだった。
またアースレイと一緒に、ブラウニングや、オルウェルとエルフィンが現れる。
そこで幸せそうにシズを抱きしめているフィエンドに、アースレイはうんざりしたように声をかける。
「フィエンド、一人で先に行くから、途中エルフィンに再び予知を使ってもらうことになったが……」
「シズ、もう大丈夫だから」
「うん……フィン、好き」
「おい! 話を聞け! まったく……ウィル?」
そこでいつまでも黙って立っているウィルにアースレイは気づいた。
そのウィルは俯いたままで、
「ウィル?」
不思議そうにアースレイが問いかけると、ウィルはびくりと体を震わせた。
そしてアースレイが近づこうとすると、一歩後ずさり距離をとろうとする。
そのウィルの行動にアースレイが目を細めて足を速めてウィルに近づこうとする。
すると今度はウィルが背を向けて駆け出そうとして、そこでウィルはアースレイに後ろから抱きしめられた。
「放して……」
「放さない、どうして逃げるんだ、ウィル」
「僕は……アースレイの役に立ちたかった。もっと一人で如何にか出来るのだと、示したかったんだ」
「……ウィル」
「こんな、アースレイに守られないと何も出来ない存在になりたくなかった」
「ウィル」
「なのに、結局今回も、騙されて、アースレイに迷惑をかけた」
「……そうだな」
アースレイに同意されて、更にウィルは俯く。
そんなウィルを更にぎゅっとアースレイは力をこめて抱きしめて、
「だからずっとこれから、私の屋敷で、良い子で私を待っているんだ」
「! ……幻滅していないの?」
「ウィルは昔からそうだから、もう慣れたよ。その代わり約束してくれないか? もう一人で全てを決めてしまわないと」
「それは……」
「私はウィルがそばにいる、それだけで十分なんだ」
「でも」
「傍にいてくれるだけで私は幸せだ。だが、そこまで言うなら、手伝ってもらおうか」
「本当!」
「こんな風に、身勝手に動かれては困るからな。大変だがかまわないか?」
頷き、嬉しそうに振り返るウィルに、アースレイはそのままキスをした。
そんなこんなで、アースレイとウィルのカップルは元の鞘に戻ったのだが。
あそこで近づいてくるブラウニングにリグが悲鳴を上げた。
「うわあああああ、来るなぁあああ、来るなぁああああ」
「随分な言い草だな、心配してきたというのに」
「……そ、そんな言葉で僕は絆されないからな!」
「悪さばかりしているから、仕返しをされるのが怖いのか?」
「それは……ふん、僕は“維持の神”の子だから多少は、遊んだって……」
「傲慢な子供には、躾が必要だと思わないか?」
鬼畜に笑うブラウニングにリグは、言葉が詰まる。
そして今度は何をされるのだろうと思いつつ睨み返し、
「うっ……だ、大体僕はする側で……」
「なんだ、まだそんな事を言っているのか」
「そんな事も何もない! それに、僕にはまだ利用価値があるだろう、この使い勝手の良さとか力とか……」
「少なくとも今回の件で、目的の分らない敵対分子は排除できるから……お前の存在価値はもう、その体くらいしかないな」
「ふ、ふざけるな! く、こうなったら敵をつくって……」
「そんな悪い子は、ここで捕らえて悪さが出来ないようにしておくのが一番良さそうだ」
「な、何する気……え?」
そこで、リグはブラウニングに抱きしめられた。
「心配した」
「! ……そう、か」
たった一言抱きしめられて、告げられただけでリグは酷く満たされるのも感じる。
同時に、もしかしたならこんな自分でも本当に愛してくれているのかと思う。
もしもそれならば……そう思ったところで、リグは縄で縛り上げられた。
魔法を使って一瞬で縛り上げられてリグはブラウニングを睨みつけながら、
「! 何をする!」
「縛られたり拘束されてされるのがリグは好きそうだから」
「冗談じゃない! そんな趣味は僕にない!」
「だったらどうしてずっと鎖に繋がれたままだったんだ? そういうのが好きなんだろう?」
「そんなわけあるか! 大体僕はするほうなんだ! ウィルとかシズを襲いたいんだ!」
「ほう」
そこですぐ傍から別の声が聞こえて、リグはびくりとする。
声のしたほうを見ると、アースレイが笑っており、彼はすぐにブラウニングを見て、
「ウィルやシズを襲おうと思わないくらい、たっぷり開発してやれ」
「はい」
「ふざけるな! 僕はそんな事なんてされるつもりは……むぐ」
「うるさいからこうしておこうか、リグ」
「むーむー」
猿轡をされてしまったリグは涙目だった。それがブラウニングの腕の中でじたばたもがいている。
そんな三者三様の有様を見せていたわけだが、そこで濃いメンバーに存在をかき消されたオルウェルが声をかけた。
「結局、何がどうなったのか、教えて欲しいのだが」
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とりあえず、シズが、彼らが言っていた頭の痛くなる理由を説明した。
「……人間の願いをかなえる力は恐ろしい」
ポツリとアースレイが零した言葉。
そして、周りにいる黒ローブを片付けていく。
後は、シズ達は戻ればいいだけだったのだが、シズが最後まで中々動こうとしない。
なので、フィエンドがシズの手を引き、
「シズ、行くぞ」
「……おかしいんだ」
シズがポツリと呟き、黒い靄を見る。
その濃度がそれほど変化していなかったのだが、シズがどこかぼんやりとした口調で、
「繋がっているのに入ってこないんだ。本当はもっと……」
「シズ!」
強い声でフィエンドがシズを呼び、それと同時に、黒い靄が噴出して、その突然の行動に逃げ切れなかったシズ。
そしてそれを助け出そうと手を引いたフィエンドも、その黒い靄に飲み込まれてしまったのだった。
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黒々とした闇に吸い込まれて、シズは面倒なと思って、そこで目を大きく見開く。
フィエンドがシズに手を伸ばして、庇うように抱きしめたのだ。
次いでシャボン玉のような薄い膜状の結界が張られる。
シズを守ろうとしての行動だと分る。
けれどそれでも、その行動は嬉しくて、けれど同時にとても危険だと思って……抱きしめると同時にフィエンドを覆う魔法の結界を更に強化する。
「……フィン、僕を守ろうとしてくれるのはいいけれど、危ないよ?」
「……好きな相手を守ろうとして何が悪いんだ」
「だって……危ないよ? この闇は、“無”だから」
「“無”?」
「そう、僕と反対の存在。昔から僕を欲しがっていて……フィン?」
そこでフィエンドはシズを抱きしめた。
シズは瞳を瞬いているが、それでもその麗しさは、押さえきれない。
それはきっとエルフィンよりもずっと尊い、清純であり鮮烈な美しさ。
けれどあまりに美しければ人は怖さを覚える。
だから多分シズはずっと隠していたのだろう。
そして今再びシズは、シズでない何かになりかけている。
ここに来たばかりの時はそこまでではなかったが、そのタガが少しずつ外れていったようにフィエンドは思う。
何故かは、要因を探るには色々ありすぎる。
ただ、今は探るよりも、シズを引き止めるほうが先だった。
フィエンドは、自分以外の誰にもシズを渡すつもりもないし、何処にも行かせる気がないのだから。
だからシズと他の誰か……おそらくは“創造の神”を別けなければならない。
そしてフィエンドは囁くように問いかける。
「“昔から”は、いつからだ?」
その問いかけに、シズははっとした。
自分は“シズ”だ。それ以外の何者でもない。
そう小刻みにシズは体を震わす。
自分はシズだからフィエンドと一緒にいて、シズだから一緒にいたいのだ。
だからシズはフィエンドの背に手をやり抱きしめる。
こうしていれば少しは安心できる、自分は随分と弱くて脆いなと、今更ながらシズは気づいた。
フィエンドがいなければシズは、シズとしてすらいられないのかもしれない。
シズは自分がフィエンドを守れると思っていたのに気づけば、フィエンドに守られていたのだ。
そう思うと心に温かいものが溢れてきて、
「フィン……」
「なんだシズ?」
「大好き」
ついシズは呟いてしまう。
それをフィエンドは優しげに微笑みながら見つめて……そこで周りの暗闇が、シズ達の張った結界を壊そうとする。
それを見ていたシズが、
「せっかくフィンの事が好きで幸せな気持ちになっているのに」
「……シズは、声が聞こえないのか?」
妙な事をフィエンドが言い出す。
それにシズは首をかしげて、
「そんな声聞こえないよ、全然。僕とフィン以外に、誰がいるんだ」
「“闇”が」
その問いかけにシズは周りの闇を見た。
黒々としている、その周り全て……否、天上に光が見える。
明るく眩しい、その輝きはその闇とは異なるもので、無意識の内に手を伸ばしたくなるような、そんな華やかさを湛えている。
そこで聞こえた声に、フィエンドは反応した。
「入り口が開かれて、入り込んだ?」
「フィン、何の話?」
「闇が、俺達の世界に入り込んだって。彼らが言っている」
「彼ら?」
「闇の声らしいが彼らは、一つの存在であると同時に、無限にいるらしい。同一存在でありながら幾つもの意志があって、そのうちの二人が俺に話しかけている。けれど彼らの中には“闇”でありながら、光に恋焦がれすぎて狂い、外れたものがいるらしい。それが、いつかの、けれど近い時間に、かの世界に入り込んだと」
「……魔物が……また倒さないと」
焦りだすシズだが、そこでフィエンドが声をシズに伝えるべく続ける。
「“闇”はせっかく手に入れたのだから、シズを逃すつもりはないといっている」
「! そんなもの、僕の力を使えば……」
「それで、何処に逃げるのだと、逃げるのならば、逃げる先を壊せばいいと問いかけている」
「それは……」
とんでもない恫喝だと“闇”を睨みつけるシズ。
けれど次いでの言葉に、フィエンドが迷うように瞳を揺らす。
そしてシズを見つめて、フィエンドは微笑んだ。
「一つだけ、シズを元の世界に戻してもいい方法があるらしい」
「どんな! あいつらは何を要求したの!」
「“闇”を俺が幾らか受け入れて同化すればいい」
「! 駄目だよ、もしもそんな事をしたら……」
「元々、“創造の神”以外の二人の神は、“闇”を幾らか持っていて、俺の父親に当たる“破壊の神”が三人の中で一番“闇”に近い。そうだろう?」
「……うん、でも、フィンが“闇”になるって事?」
そのシズの問いかけに、フィエンドはその声を聞いて、
「しばらくは慣らす意味も兼ねて、俺のままでいてもいいらしい。しかも俺の意志と同化するけれど排除する訳ではないと言っている。それに……」
「それに?」
「受け入れれば、少しでもシズに近づいた強さを手に入れて、同じ時を、一緒にいられるかもしれない」
「それは……」
「シズはいずれ人でなくなるだろう? その後もずっと一緒にいられるんだ」
フィエンドは、ずっと自分の中で燻っていたシズへの不安をそこでようやく理解した。
フィエンドは自分がシズと共に生きていきたかったのだ。
そしてフィエンドのその言葉に思案するようにシズは黙ってから、“闇”に問いかけた。
「その条件は僕に都合がいい気がする。どうして?」
それの答えが、フィエンドにとってはまるで自分にとても似ている事に気づいて、フィエンドは小さく笑ってしまう。
けれどシズは分らないから、フィエンドの服を小さく引っ張って、
「何ていっているの?」
「俺と同じだよ」
「? よく分らないよ」
「……“闇”もまたシズの事を大好きらしい。……狂うほどに、ね」
「でも……」
「同じだから、きっとシズを、みんなを守れる。だから大丈夫」
その答えを聞いて、シズは一瞬唖然とする。
フィエンドは怖がりで優しくて、でも強くて、けれど守ってあげないといけないとシズは思っていた。
でも今のフィエンドはとても頼もしくて、確かに可愛いといえば可愛いし昔の面影はあるのだけれど……凛々しく見える。
けれどそんな強さに、シズは逆に戸惑う。
「フィンは、“闇”が怖くないの?」
「“闇”が、確かに怖いと思ったが、この周りに満たされているそれに、どこか……安心する気がするんだ」
「安心?」
「きっと俺は、“闇”の力が強いんだ。“破壊の神”がいっていたように俺は特に強い力をもっていると」
「うん」
「今まで“破壊の神”の子が、僅かにひいていても俺みたいに脆くないように、きっと俺は闇が強かったから、特別だった」
シズが小さく口を開いて、口をつぐむ。
それを見ながら、フィエンドは思う。
弱くて、けれどだからフィエンドはシズとで会えて。
もしもそれが、疎ましい体の弱さに繋がった“闇”だとすればそれもまた、大切な自分の一部のようにも思えた。
きっとシズがいるなら、どんな事があったとしても、満たされるだろうとフィエンドは思う。
「シズは、“闇”と同化した俺は嫌いか?」
「そんな事はないよ!」
その答えにフィエンドは微笑む。
だからこの選択は間違いではないと。
「お前達を、俺は、受け入れる」
フィエンドがそう答えて……一瞬、闇が嬉しそうに笑うのをシズは聞いたのだった。
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“闇”が膨れ上がりけれど守るようにシズはぎゅうっと強い力で、フィエンドを抱きしめる。
それに気づいてフィエンドは小さく笑って、“闇”を受け入れていく。
それほど違和感がないのに驚きながらも、受け入れてゆく。
と、声が聞こえて、フィエンドは頷いた。
「終わり、らしい」
「……ちょっとだけ“闇”が強くなったね」
「分るのか?」
「うん、でも大丈夫そう。……“闇”が上手く形作っているから」
ほっとしたようなシズの声に、フィエンドも優しくシズを抱きしめる。
そこで再び幾つかの声がして、
「……揺り籠に、“闇”が入り込んだと。呼んだ者達がいたと」
「……でも呼ばれたとしても細かく分かれたならここで対処出来るから、僕達が手を出すまでもないはずだよね」
「そうだな……だが奴らは、凶悪な魔物を神殿ないで呼び出しただろう?」
「確かに。でも、その時はまた、前の沢山の魔物を呼び込んだ時みたいに、僕が何とかすから」
「俺も手伝うよ」
「うん」
そう話してから抱きしめあうと、お互い酷く幸せで、ようやく一つの出来事が終わったのを感じたのだった。
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急に現れたフィエンドとシズに、どうやら対策を立てようとしたアースレイ達が驚いていた。
そしてアースレイが何かを言う前に、ウィルがシズを抱きしめて、
「心配したんだぞ、このっ、このっ」
「ごめんなさい……」
謝るシズに、そうだぞ、と答えて笑うウィル。
一方フィエンドの元にアースレイが来て、
「無事でよかった。闇が濃すぎて我々では対処できない」
また、“闇”のなかはどうだったのかなどを問われるも、フィエンドは自身に闇を受け入れた事はわざと隠し、代わりに、
「“闇”を彼らが呼んだだと? また厄介な事を……」
「ですが魔物が来たとしても、少なくともシズがいますし、俺がいれば何とかなるでしょう」
「半分神の血を引いているだけで、異様に強い事は確かだな。だが、リグの手助けは必要ないのか?」
「シズに次に手を出したら俺は何をするかわからない」
「相性が悪いし理由も分るが……そうだな、彼にはいざ都市の方に来たときの防衛を頼もう。ただ……前回、シズとウィルが魔物の大量発生を食い止めた事を知っているか?」
そう問いかけながら、アースレイはちらりとウィルとシズの様子を見る。
楽しそうにふざけあっている二人だが、そんな二人に以前助けられたのだ。
そこでふとフィエンドが、
「“維持の神”の息子であるリグは、その時手伝わなかったのですか?」
「殺されるはずだった」
「……魔物達に対抗できなかったのですか?」
「そうだ。魔物達は確かに量は多く、借り出されて死ぬはずだった。それゆえに、ブラウニングも指揮を取っていたが、実はブラウニングはそのドサクサに紛れてリグを連れ去って逃げようとしたのだが……結局はそうならずに今に至る」
「なるほど……でも魔力では、確かにシズは強いけれどまだ人間だから、それほど差があるのかどうかが俺には疑問だ。“創造の神”……もしかしたなら、創造に派生する別の力をシズは持っている?」
そうなってくるとその力はどのようなものだろうと、フィエンドが考え始める。と、
「“おかしい事”が分るような素振りは無かったか?」
アースレイがフィエンドに問いかけて、そういえば、フィエンドの事も、オルウェルとエルフィンの事も、シズがこのままでは駄目だといって導いた先に、上手くいっていた感がある。
つまり、物事の動き、感情や状況も含めて
「生じている事象がどうすれば上手く働くか、かみ合うかが分る?」
「なるほど、確かに創造ではあるな」
「作り上げる道筋が理解できるからこそ、おかしな部分が分るか。……まるで未来まで見渡せそうだ」
苦笑するフィエンドに珍しく真面目な表情でアースレイが、
「それは、ただ誰かの背中を押せば前に進むかもしれないという、推定だ。それは本当に起るかどうか分らないし、起った僅かな違いで、未来に起る事は違うかもしれない。それは人が将来に対して思い描くものよりもほんの少しだけ確実なだけだ」
「……慰められていますか? 俺」
「……シズはお前の事を愛していて夢中だ。誰の目にも明らかだ」
「……未来まで見渡せるからといって、俺がシズが好きな事には変わりない。それに、今更逃せない」
そう、アースレイに惚気るフィエンドに、アースレイは小さく嘆息してそこで、
「二人とも僕達を放っておいて何を話しているんだ?」
「そうだよフィン。は! まさか、アースレイ学園長の事が……むぐっ」
とりあえず半眼で覗き込んできたシズとウィルだが、シズが余計な恐ろしい事を言おうとしていた気がしたので手で口を塞ぐ。すると、
「むぐ、フィン、酷いよ。どうしてこんな……んんっ」
文句を言おうとするシズの唇を奪うフィエンド。
暫く抗議をしたそうなシズだったが、すぐに重ねられた唇にとろんとしてきて、放す頃にはフィエンドにぎゅうとしがみついていた。
「キス一つで僕を如何こうするなんて……フィンはずるい」
「そうだな、俺はずるいから、シズを可愛がって甘やかして、とろとろにするんだ」
「うう……フィンのばかぁ」
顔を赤くするシズをフィエンドが抱きしめる。
相変わらず可愛いなと、このままベットに引きづり込んでやろうかとフィエンドは不穏な事を考える。そこで、
「フィエンドはいるか?」
唐突に現れたのは、困ったような顔をした“破壊の神”。
そして引き連れていたもう一人もまた“破壊の神”に似ているが何処となく、リグに似ている。
そのリグににた彼は、フィエンドを睨みつけており、そんな彼を見てシズが、
「“維持の神”」
そう呟いたのだった。
。" ゜☆,。・:*:・゜★+★,。・:*:・☆゜"
呟くシズに、苛立ったような“維持の神”が睥睨するようにシズを見て、はっとしたようだった。
けれどすぐにその視線は、シズを抱きしめているフィエンドに向かう。
「……お前が、リグを殺そうとした存在か」
「……シズに手を出そうとして、更にもっと危険な状況に陥らせようとした。だから、殺そうと思ったが……見逃した」
その殺すという言葉に一瞬、“維持の神”は苛立ったように瞳を見開くも、それを諌めるように“”
「止めてくれ。こう見えてもフィエンドは私の子だ」
「……だが、リグを……」
「リグだってやりたいほうだいしていただろう。だから、結局は殺さなかったんだから良いだろう?」
「だが、止めに入らなければ……」
「それに、“創造の神”の恋人だ。その意味が分るだろう? そして、他にも話すことも聞くこともあるだろう」
“維持の神”は“破壊の神”を睨みつけて、けれど言い返しはせずに黙る。
そして、“破壊の神”はフィエンドに、
「少し、我々だけで話せないだろうか」
そう、フィエンドに話しかけたのだった。
。" ゜☆,。・:*:・゜★+★,。・:*:・☆゜"
シズはフィエンドが去っていくのを見ながら不安に狩られる。
また妙な事が起りはしないかとそう思うけれど、フィエンドが大丈夫だからと微笑んだので、シズは黙るしかなかった。
一方、連れて行かれたフィエンドは、父である“破壊の神”に、
「とりあえずはよくやった」
「? 何がでしょうか?」
「“闇”を受け入れて同化したという事は、より我々に近い存在になったという事だ。つまり、お前は今、四番目の新しい“神”になろうとしている、そういう事だ」
「……俺は、シズとずっと一緒にいられるよう“闇”と利害が一致しただけです」
「それでもそれは喜ばしい事だ。そして、それならばお前も一緒にいずれ“創造の神”……シズを連れて、こちら側に戻る事となるだろう」
「シズと……」
「まだ暫く先の事となるだろうが、いずれはそうなる。ただそれゆえに不安が我々にはあるのだ」
不安、と言われてもフィエンドには、今の話からすれば何が問題なのかが分らない。
そこで、“維持の神”が意地悪そうに鼻で笑い、
「お前が、“創造の神”に振られる事だってありうるだろう」
「! そんな事はありません」
「どうだか。その、すぐにリグを殺そうとするような短絡的な性格が、仇となるかもしれないぞ」
「俺はそんなに短絡的じゃない。シズに危険を及ぼさなくて、俺の敵でなければ殺そうなどとはしませんでした」
「だが、あのそ……シズが絡めばそんな短絡的な行動に出るのだろう? 人の心は移ろいやすい。それで万が一お前がシズを傷つけないとも限らないだろう?」
「ありません、そんな事は」
言い切ってしまうフィエンドに、“維持の神”は憎らしそうにフィエンドを見た。
「言葉では、信用できない。確かな証を見せてもらわなければ、な」
「何をすれば良いのですか?」
その問いかけに、“維持の神”はとてもとても楽しそうに笑う。
その意地悪そうな表情に、何処となくあのアンノウン……ではなくリグに似ているなと思いながら、フィエンドは何を言われるのか待っていると、
「一時的に、お前からシズの記憶を消す」
「冗談じゃない! シズの記憶を消すなんて……」
「なんだ、記憶を失っても愛す自信がないとお前は言いたいのか?」
「! 違う。俺にとってはシズの記憶は大切な宝物のようなものだから……」
「別に完全に消すわけじゃない。一時的にだ。それもある条件によって、一瞬にして戻る。そういった類の魔法だ」
「俺にとっては大切なもので、そんな危険な賭けにのれません」
まっすぐとした眼差しに、一瞬、“維持の神”はたじろぐ。
確かに神になった、“維持の神”の子とはいえ、まだまだ自分には劣ると思っていただけに“維持の神”は苛立ちを覚える。
けれどそれの助け舟は、“破壊の神”が出した。
「確かに不安かもしれないが、一度試しておいた方がいい。はっきりいって、我々二人が束になっても“創造の神”に勝てない。そんな彼がもしも……フィエンド、お前を嫌ってしまったなら、手助けすることなど出来ない」
「シズが俺を嫌う事なんてありません!」
「そういった希望もあるし、フィエンドがシズとお互いに夢中なのは分る。だが、もしも何かがあった後では遅いのだ」
「それは……」
「記憶を消したまっさらな状態で、出会って、どういった部分が合って、そして合わないのかを見極めるにはいいのでは?」
フィエンドは考え込んでしまう。
合う、とか、合わない、とか、そんなものを通り越してフィエンドはシズ無しではいられない。
けれどもしもシズが無理してフィエンドに合わせていて、疲れきってしまったなら?
俺は、シズに無理をさせていないのか? そうフィエンドは思う。
初めはここまで追いかけてきたシズを邪険に扱い、けれど今は一緒で。
そして先ほどのまでの気持ちを思い出して、フィエンドは決めた。
「どうあっても俺は、例え一時的にでもシズを忘れる事なんてできません。たとえ貴方方に逆らう事となろうとも、それでも俺は頷く事はできません」
きっぱりとフィエンドは告げる。
それを聞きながら、“維持の神”は呟く。
「説得や同意など、初めから求める事自体が間違っていたんだ」
その意味を問いただそうとする前に、フィエンドは気を失う。
“維持の神”が一時的にフィエンドからシズの記憶を封じたその副作用だった。
そして“維持の神”は“破壊の神”に、
「これでリグの事は無かった事にしてやる」
「分った」
これで溜飲を下げたらしい“維持の神”。
確かにこれは当初の目的もあったが、“維持の神”のリグに関する鬱憤を晴らすという意味も兼ねていた。
そう思い出しながら瞳を閉じたフィエンドを見て、“破壊の神”は奇妙な胸騒ぎを覚えたのだった。
。" ゜☆,。・:*:・゜★+★,。・:*:・☆゜"
気絶したフィエンドを連れてくると、案の定シズが噛み付いてくるも、“破壊の神”は、
「これは人には解けない魔法だ。だが、フィエンドが本当にシズの事を愛しているのなら解けるだろう」
「フィンに、何をした」
「フィエンドが目を覚ませば分る。そしてこれで、“維持の神”の怒りを抑えるには必要だった」
その言葉に、シズは黙る。
人であるから、この魔法は解けず、そしてその“維持の神”が怒りを覚えているのは、他ならないシズに起因する出来事でもある。
だから不安そうにフィエンドを見て、シズは黙るしかない。
そしてその倒れたフィエンドを、シズには荷が重いのでアースレイ達に預けて、“破壊の神”と“維持の神”はその場を去ったのだった。




