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驚愕の事実(笑)

 昼休みが終わろうとしているのに、シズが戻ってこない。

 フィエンドは嫌な予感を覚えて、


「俺は、シズ達を探してくる」

「ウィルというあの叔父がいるから大丈夫だろう? あの当時の剣術の教師をぼこぼこにして、魔法の教師をぼこぼこにして、逆らうものには闇討ちをしたという伝説の人物なのだろう?」

「闇討ちしていたのはアースレイ学園長と、エレン先生とお前の兄だ」


 言い返されたオルウェルが嫌そうな顔をした。

 それはそうだろう、実の兄が、シズの叔父を追い掛け回していたなど知りたくなかったのだから。

 とはいえ、自分も知らなかった事をフィエンドが知っているのは癪にさわるも、ここで時間を取らないほうが良いだろうと判断して珍しくオルウェルは黙った

 そもそもあのシズがこの前は狙われていたし、エルフィンの事もあって恩もある。

 そこでフィエンドが、


「もしも行き違いでシズが戻ってきたなら、連絡して欲しい」

「……分った。ここで待つ。そうすれば良いだろう」

「ありがとう」


 授業に遅れてしまうが、ここで待つとオルウェルは言っていた。

 しかもエルフィンも一緒に待つといって、少し嬉しそうなオルウェル。

 仲の良さげな様子に少し羨望を抱きながらもフィエンドは走る。

 それを追いかける取り巻きたち数人。

 そして、シズの消えた木々が密集する一角に入り込む。

 フィエンドは嫌な予感がしてたまらない。

 心臓が早鐘のように打ち、焦燥感が膨れ上がる。


 やはりあの時、一緒に自分も行くべきだったのだろうかと、すでに取り返しのつかない過去に悪態をつきながら進んでいくフィエンドは、そこで複数の人間が倒れているのを見つけた。

 そしてその状況に、やはりかとフィエンドは思う。

 彼らの容態を確認するのは取り巻きに任せて、更にフィエンドは歩を進める。

 闇雲に走っているが、何となくシズがここを通ったように感じて、走っていく。

 木々の葉から零れ日が舞い落ちる明るい森。

 なのにとても静かで、聞こえるのは風が葉を揺らす音のみ。

 愛おしいシズの人影は何処にもない。


 そこで、フィエンドは立ち止まった。

 目の前に広がるのは明るい昼間の木々。

 けれど異質な黒い気配を感じてフィエンドは黙ってそこに立ち止まる。

 出て来いなど、声をかける必要がない。

 現れた瞬間に、捕らえて、叩きのめせばいいだけだ。

 こんな場所に居るはずのないものがいる、それも、神殿の持っている嫌な気配を纏って。

 しかもシズがいたであろうこの森に、これがいる。

 関係ない、そう言い切ってしまうには出来すぎている。


 近くの木陰から、ゆっくりと黒いローブを着た男が姿を現す。


「気づかれていましたか。いやはや……」


 そこでフィエンドが魔法攻撃を仕掛ける。

 その黒ローブの男を封じ込めるかのように地面がどろりと溶けて、身動きが出来ないようにされるはずだった。

 面倒で地味だが、気絶させるよりは意識がある状態で情報を聞き出したかったからだ。

 自分が焦っている事を自覚しながら、フィエンドはそれすらも理解しながら冷静に相手を見て、どうするかを考えていく。

 異様な相手で、おそらくは彼らが神殿であると同時に、その中に潜む“闇”なのだろう。

 警戒をしておいて、損はないとフィエンドは少し距離をとって相手を伺う。


 そこで男がにやりと唇の端をあげる。

 同時に、男の足の周りに黒い靄のようなものがくゆり、解けた。

 後には小さな窪みが残り、その男の足周辺に穴が空いている。

 それを見ながらフィエンドは、自身の魔法があたかも初めからなかったかのようにされた感覚を覚える。

 予想以上に得体の知れない相手だと思いながらも、その力は自身の、それまではそうと認識していない自分独自のものだと思っていた、“破壊の神”の力に何処か似ている。

 そこで男は余裕の笑みを浮かべた。


「フィエンド様、貴方様にも、我々は来て欲しいと思っているのです」

「……シズ達をお前達は連れて行ったのか?」

「はい、そして貴方様にも来て欲しいのです。ぜひ我々の崇高な」

「お前達の話はどうでもいい。シズを返してもらう」

「行き先は私も知りませんよ? 途中から別の者達が連れて行っているのですから」

「ならばそこまで案内しろ」

「では素直に気絶していただけますか?」

「寝言は寝てから言え」


 冷たく言い放つフィエンドに、黒ローブの男はしばし迷ってから、


「では貴方様だけならば連れて行ってもかまいませんよ?」


 その言葉にフィエンドは悩む。

 明らかに罠だと分るも、今ここでシズを連れ去った彼らを逃すのは惜しい。

 しかもフィエンドの魔法が、どのような理由かは知らないが消されているのだ。

 その理由の一端を知りたくて、試しにフィエンドは問いかける。


「お前も、“破壊の神”の血を引いているのか?」

「まさか! 今の力を見てそう思われたのですか?」


 その問いかけに黙るフィエンド。

 どうやら違うらしいと、ではその力はいったい何処から来たものなのか。

 そんな警戒を強めるフィエンドに黒ローブの男は更に笑みを深くして、


「貴方様が特別なだけですよ」

「どういう意味だ?」

「そのことに関しても、後ほどお話します。一緒に来てくださるのでしょう?」


 シズを捕らえられた状態で単身でフィエンドが乗り込む。

 危険以外の何物でもないが、ここで彼を逃すのは惜しい。

 だからフィエンドはいくつか手を考えてから、


「……分った、案内しろ」

「承知いたしました」


 そう、黒ローブの男は答えたのだった。



。" ゜☆,。・:*:・゜★+★,。・:*:・☆゜"




 頭が、がんがんするなと思ってシズは起き上がると、そこは見知らぬ場所だった。

 そして、この状況には身に覚えがあって、 


「またか。どうして僕は……あれ?」


 そこで見知った気配を感じる。すぐ傍に転がるウィルは良いとして、


「アンノウン? ……あ、リグ、か。でも、あれ?」


 そうシズが考えようとした所で、アンノウン――リグは目を覚ましたのだった。




。" ゜☆,。・:*:・゜★+★,。・:*:・☆゜"




 目を覚ましたリグは、ぼんやりとシズを見てから次に、がばっと起き上がり押し倒した。


「うぎゃあ!」

「そうだよね、僕がここの所好き放題やられるなんて許せない。やっぱり、する側に回らないとね……」

「……なるほど、ブラウニングさんか」


 その言葉に、ぴしっとリグが凍りついた。

 そして顔から血の気が引いているリグが、おそるおそるシズを見て、


「……あいつから何か聞いているのか? というか言いふらしているのか?」

「いえ、“運命の赤い糸”のようなものがリグをがんじがらめにしているような……」

「やめろ、止めてくれ! どうやって切るんだそれ!」

「前に僕にキスをして、そして今も押し倒しているリグに教える義理はないかと」


 そうシズが言い返すと、そこでリグが無表情になる。

 ついで、ふっとあざ笑うかのような表情になり、


「シズは、愚かだね。そんな風に挑発して……僕は今、君を押し倒しているんだよ?」

「だから?」

「このまま犯してしまうか……って、えぇ!」


 そこで、リグの襟首が捕まれる。

 何が起こったのかという動揺と、せっかく良い所なのにという不機嫌さとで振り返ったリグは、笑顔で仁王立ちするウィルの存在に気づいた。

 そして口の端をひくひくとあげて、怒りの片鱗を見せるウィルに、あ、昔と同じだなとリグは思っていると、


「……今はリグと名乗っていると」

「いえ、本名です。僕の本体の前まで来たので、たまにはこういう趣向も面白いかなって」

「本体? ……まさか、今まで僕が戦っていたお前は……」

「全部砂でした」

「そして今ここに居るのは?」

「本体ですよ?」

「ほう?」


 そこで、にまぁーと笑ったウィルに、リグは嫌な予感がした。

 案の定、ウィルの口から放たれた言葉といえば、


「今まで散々、散々、散々、色々とやってくれたな」

「……良いじゃないか。ちょっとくらい遊んだって」

「遊び? アレが?」

「そうだよ。それに僕だって自分の身を守るためにはああするしかない部分もあったし」

「へぇ、黒幕だったり、僕を惑わしたり、挙句の果てに僕を襲おうとしたり……」

「えー、だってウィル、可愛いしその負けん気の強さが、こう、ぐちゃぐちゃにして支配してやりたいという欲求にからせるというか……」

「その、アースレイみたいな言動は止めてもらえますか?」


 ウィルはここで初めて嘆息するように告げた。

 この前もベットの中で……思い出すとウィルは、怒りがこみ上げてきた。

 そんなウィルを見ながらリグは、


「……なんだ、昔から狙ってたあいつにウィルは落ちちゃったんだ。つまんないなー」

「……それで、どうしてやろうか。今まで僕に、何をしたかリグは覚えているかな?」

「僕はウィルに何をしたかな?」


 悪びれない笑顔でそう答えるリグ。

 それとは対称的に、更に怒ったらしいウィル。と、そこでシズが、


「ウィル叔父さん、気持ちは分るけれど、リグを締め上げても事態の解決にはならないよ?」

「でも大概こいつは黒幕だったり情報を持っていたりして、締め出して吐かせないと……」

「リグの手足が鎖で繋がれてあまり広く移動できないようにされているから、立ち回りに失敗して捕まったんだと僕は思う」

「なるほど……しかし間抜けだな」

「そうだね、間抜けだね」


 二人して、間抜け、間抜け言われたリグは、悔しそうに、


「お前達二人にだけは言われたくない!」

「それで捕まえた相手とか、理由とか思い当たる節はあるのか?」

「……分らない」


 そこで声がすぼまるリグに、思い当たる節があるのだとウィルとシズは気づく。

 そしてウィルが目配せをして、シズが頷きリグに近づいて、


「ぎゃははははは」

「ほーら、本当の事を言わないと、くすぐっちゃうぞー」

「ぎゃあははは……やめ、ぁあああは……め」

「言うと約束するなら止めて上げるよー」

「ぎゃはあぁあっ……暴力には屈しない、あははっは」

「そーれ、こちょこちょこちょ」


 それから少ししてリグは耐え切れなくなったらしく話すと答えた。

 案外こらえしょうがになーと、リグを見ながらシズとウィルは同じ事を心の中で思っていると、


「僕の事を……今神殿で一番力を持っている、ブラウニングが僕の事を好きだから、人質にすると」

「……ブラウニングはアースレイの、義理の弟でしたね。アースレイに関係があるから僕が人質として連れてこられたのでしょうか」


 これでは本当に足手まといではないかとウィルは思って、苛立つ。

 こんなはずではなかったのに。

 もっと、アースレイに認めてもらえるようになりたかったのに、そうウィルは心の中で悔しく思ってしまう。

 そんなウィルの感情を何となく感じ取りながらも、


「多分そうだろうね。彼ら“闇”の目的なんて、僕は知った事ではないけれど。……大体、僕がそんな人質になるわけがないのに。……こんな僕が、愛されるはずがない」


 最後の方の言葉は小さくなってしまうが、リグは俯く。

 それはずっとリグの中にあった思いであり、言葉だった。

 自分が愛されるはずがないと。

 けれどそう呟くリグにシズは半眼で、


「……人質になると思われるくらい、リグはブラウニングさんに愛されていると彼らはみたんじゃないのかな?」

「……僕の何処に愛される要素があると?」

「うん、趣味が悪いと思う」

「……やっぱり襲ってやる」

「これだけ、赤い糸の様な物で逃さないというくらいがんじがらめに囚われているのに、逃げられるとどうして思うのかな」

「……シズの言う事は抽象的でよく分らない」

「……ま、どうせすぐに事実と分るだろうからいいとして、そうなってくると僕はフィンの人質になるのかな?」


 フィエンドの名前をポツリと出すと、リグが顔を蒼白にした。

 フィエンドに反撃を食らったあの恐ろしさが忘れられないらしい。

 その珍しくぶるぶる震えるリグに、これはもしや反撃の機会! とシズとウィルがが思ったところで、うっすらと黒いもやのようなものが何処からとも無くあふれ出る。

 今更ながら周りを見回すと、そこはただただ病的なほどに白い大きな部屋で、そこのそこかしこから黒い靄が湧き出しているようだった。

 けれどそれを見ていたリグが、ぶるっと体を震わせる。


「まただ」

「また?」

「また、あの黒い靄に体をまさぐられるんだ」


 ウィルの問いかけに体を震わすリグだが、その間に黒い靄が密度を増してうぞうぞと触手のようなものをはやし始める。

 けれどそこでウィルも目を丸くする。

 黒い靄の持つ魔力が、一気に膨れ上がったのだ。

 それを見て即座に警戒するようにウィルが魔法を使おうとして、そこで、その黒い靄のようなものがべちべちと何かによって、床に叩きつけられた。

 しかもその攻撃を受けてすごすごと引き下がっていく。

 何が起こったのだろうと、唖然とするリグとウィルだが、そこで、


「まったく、また手を出してこようとして……」


 シズが、呆れたように呟いた。

 そんなシズに二人の視線は集中するが、そのときのシズの表情がいつもと違い、ウィルは不安に覚える。

 纏う雰囲気も、美しさを備えたその空気も、人のものとしては違和感がある。

 だから、ウィルはシズをぎゅっと抱きしめて頭をぐしゃぐしゃ撫ぜる。


「わ、何をするんですか、ウィル叔父さん」

「いや、相変わらずシズは強いなと思って」


 そう適当に誤魔化すも、シズは何かに感づいたらしくにっこりと笑い、ありがとうと小声で言った。

 そんな時だった。


「流石に、素晴らしいお力ですね」


 現れたのは、黒いローブを被った集団だった。





。" ゜☆,。・:*:・゜★+★,。・:*:・☆゜"





 目の前に現れた黒ローブの集団。

 どれもが無個性で、瞳が虚ろげで、けれど学園内にちらほら見かけた者や、以前シズに消しゴムの欠片を投げてきた者もいる。

 嫌な雰囲気を纏った奴らだとシズは思っていると、そこで先ほどシズに向かって話しかけてきた男が前に進んで出てくる。

 そしてシズの目の前まで来てから、


「貴方様のお力をお借りしたいのです」

「……僕は普通の人間だ」

「ご謙遜を。“創造の神”」


 そう呼ぶ黒ローブの男。

 けれどそんなもの聞いた事のないウィルは不安そうにシズを見る。

 その視線を感じながらも、再びシズはその黒ローブの男に、


「僕は本当にただの、ごく普通の人間です」


 睨み付けるようにその人物を見るシズに、黒ローブの男は嘆息する。と、そこでリグが、


「“創造の神”か。通りでアレだけの底なしの魔力を持っているわけだ」

「……僕は、人間だ」

「しかも神殿内の何重もの魔法で、逃げられたかどうか分る罠も作動しない。でもそれが、この世界を作り上げた“創造の神”であったなら、話は別だ」

「……リグ、何を知っている」

「僕の母親は“維持の神”から色々な話を聞いて、僕にしていたからね。そして、人間も、“維持の神”も“破壊の神”も、光と闇が混ざって出来ていると」

「それがどうかした?」

「この世界は光なのに、人間は両方を持っている。どうしてそんな事をした?」


 シズは少し黙って、答えてはいけないと思いながらも、その理由が分ってしまって小さく嘆息する。


「変化を引き起こして、進化をしていくように。“闇”は無へと帰す力だけれど、僕は作り出すことしか出来ないから。おかしなものが出来たとしてもそれを完全に消す事などできない。歪み、ねじれて、最後はどうにもならない呪いとなってしまう」


 独白のように呟くシズに、リグは更に続ける。 


「進化をさせて、どうしたかったの?」

「三人しかいないのは、寂しかったから。違う、闇も入れれば四人だから、でもそれでも少ない。だからもっと沢山いたらいいと思って、楽しいと思って」


 そんなささやかな理由だったのだ。でも、


「貴方はずっと恐れられ、人間に拒まれていたではありませんか」


 黒ローブの男が告げるその言葉に、シズは俯く。

 その言葉は、ここしばらくシズと“創造の神”の境界が揺らぐ“シズ”にとって、胸に突き刺さる言葉だった。

 波が押し寄せるように、悲しい感情が押し寄せる。


 そうだ、僕は、誰も望んでいなかった。

 いつも人間達は怖がって、でも、“破壊の神”や“維持の神”は怖がっていたけれど、同時に、敬われて。

 僕だけが忘れられた。

 僕だけが望んだ世界で必要とされなくて……違う。

 精霊達は楽しそうに囁いて、だから、でも、彼らは違う。

 僕は、僕達に一番近い人間と……。


「失敗だと思いませんか? この世界、そのものが」

「失敗?」

「シズ! 話に耳を傾けたら駄目です!」


 ウィルの叱咤する声。

 けれどシズは虚ろな眼差しで、ウィルを見た。

 それにウィルはたじろぐ。

 シズが得体の知れない何かに見えて、ウィルは恐れを抱く。

 しかも今まで見たことのないくらい魔力があふれ出ているのだ。

 そしてそれを見た黒ローブの男が、


「ほら、その人間も、貴方を恐れ、拒んでいる」

「……そうだね」

「こんなものが、貴方の望んだ世界だったのですか?」


 違うと思って、でも他の人間なら、どうだろうとすぐ傍のリグを見る。

 案の定怯えたようにシズを見た。

 リグは、確かにシズに魅力を感じていたが、この何者か分からない強くて美しくて恐ろしい生き物はシズの面影などなかった。

 今にも押しつぶされそうなその雰囲気に気おされながら、けれどついリグは顔をそらしてしまう。

 それに、シズは、ああそうかと思ってしまう。

 やっぱり僕は……。

 けれどそこでウィルが、シズを抱きしめた。

 その手は小刻みに震えている。

 それでもその温かさを感じて、シズの瞳が揺れる。


「シズ、戻ってくるんだ。大好きな、フィエンドと一緒に……」

「そのフィエンドも、もうすぐこちらに来ますから問題はないでしょう?」


 黒ローブの言葉に、シズがはっとした。

 すうっと威圧感と共に、魔力が収まりいつものシズに戻る。

 それにウィルはほっとしながらも、そのすぐ傍でリグがばたっと倒れた。

 シズの威圧感が収まって、安心して気が抜けたのかもしれない。

 案外好き勝手やっている人間の方が、打たれ弱いのかもしれない。

 そう酷い事を思いながら、その黒ローブの男を見ると、残念そうに溜息をついて、


「人質は生きているから価値があると思っていましたが、こんな風に、人間側に引きずり込むようであれば早めに殺しておいた方がよかったかもしれませんね」

「……一緒にしておいたのは、僕を拒絶するウィル叔父さんや、“維持の神”の子であるリグを僕に見せ付けたかったから?」

「ええ、神々の血をひいていても拒まれるのだと、分って頂きたかったのです。けれど先ほどの事で分ったでしょう? 人間は、貴方様を拒むだけなのです」


 そう告げる黒ローブ。

 相かわらず気分の悪くなるような笑みを浮かべている。

 それを見ながらシズはウィルに抱きしめられたまま、


「フィンに何かしたら許さない」

「彼の力もまた、我々には必要なのです。彼の力は、“破壊の神”であると同時に、“闇”の力がとても強い。あれほど壊れやすいのに、まだ存在できるのは奇跡と言えるほどに」

「フィンは、お前達のような狂った集団に手を貸したりしない」

「狂っている? いえ、我々は理想を掲げているのです」

「そう、フィエンドの力を使って、闇を誘引してこの世界を無に帰し、新しい理想の世界を作り上げるのです」

「それを、新しく作るのを、僕がするの?」

「そうです、“創造の神”!」


 熱っぽく叫ぶその黒ローブの男に、シズは、余りのくだらなさに嘆息しそうになったんだ。





。" ゜☆,。・:*:・゜★+★,。・:*:・☆゜"





「そんな下らない理由で人が死んで、大勢の人が苦しんだのに?」


 シズの問いかけに、黒ローブ達は首をかしげた。


「代わりなど幾らでもいるでしょう」

「……お前達の代わりも幾らでもいるだろう?」

「分っていませんね、我々のような者達が他にいましたか? いないでしょう、だから我々は特別なのですよ!」


 そう恍惚とした表情で語る彼らに、やっている事はとてつもない陰謀であるのに、何故その信じているものに穴がありすぎることが分らないのだろうと思う。

 矛盾に気づかない彼らに、苛立ち以上に疲労を覚えながらシズは、


「この世界が、そんなに嫌いなの?」

「この世界に潜む悪夢を貴方は何も知らないのですか?」

「……知っている」

「それなのに貴方は何もしないのですか? そしてそれだからこそ、このような事になっているのでは?」


 不条理だと思うことなんて幾らでもある。

 それはシズだって知っている。

 けれどそこでウィルが言い返した。


「不条理を乗り越えたなら、その分だけまた一つ強くなる。それすらも否定するのか!」

「乗り越えられない者だってあるのですよ? 貴方も人の中で強いからそんな事を言えるのだ。それに貴方の場合、あのアースレイの恋人という理由で、守られているのでは?」

「そんな事は……」


 ウィルは完全に否定できなかった。

 それはウィルがずっと思っていたことで、彼らの甘言に乗ってしまった理由だからだ。

 ウィル一人でも出来るのだと示したい、その欲求が現実の裏返しだった。

 そんなウィルの唇をかむ悔しそうな様子に、シズは思う。

 ウィル叔父さんは素直だからと。

 だから信頼できて、大好きで、そして先ほど求めてくれたのだろう。

 そこでむくりとリグが起き上がった。


「ああ、なんだか凄い怖いものに当てられた気がする……あ、お前達、よくも僕を……」


 起き上がったリグの、状況をまったく読めていない様子に、シズとウィルが顔を向かい合わせて噴出す。

 それに向かってリグが、むっとしたように見るのでウィルは、


「彼らの目的は、世界を無に帰し、新しい理想の世界を作り上げる事らしいですよ」

「……」


 リグは絶句したらしい。

 そしてまじまじと黒ローブ達を見やってから、


「冗談でしょう?」

「本当ですよ、貴方はもっと頭の回転が速いと思っていましたが、いやはや」

「いや、もっと神殿内部を支配しようとか、王族すらも恐れる一大勢力とか、もっとこう……」

「そんな俗物的な欲求を我々は持っていると、そう思っておいでですか! 我々の望みはもっと高尚で、純粋なものなのです!」

「……え?」

「貴方も、“維持の神”の血をひくのであれば、もっと素晴らしい理想を抱くべきです!」

「いえ、そんなものを押し付けられても……」

「分りました、世界が終わるまでの短い期間に、貴方にお教えしましょう」


 そう告げる黒ローブに、リグはシズ達を見て、


「この世界は終わるのですか?」


 おそるおそるリグがシズに聞くが、シズは困ったように、


「彼らはそうして欲しいらしい。でも、僕はそんな事をするつもりはないし、フィンにもそんな事をさせるつもりはない」

「まだそんな事を言っているのですか! この世界は……」

「……じゃあ、例え話をしようか」


 シズが深々と嘆息して、


「例えば、とても手の込んだ料理を作ったとしよう。それを、もっといい物が作れるはずだからと、捨てられたら作った人は怒るだろう?」

「……出来たものが良くないのですから仕方がないでしょう」

「しかももっと良い物が出来るはずだからと言う人は何のアイデアも無くて、しかも準備も何もかも、料理を作った人にお任せだという」

「違う、我々は、もっと皆が幸せになれる世界を……」

「じゃあどうすれば良いの? そしてそれは今ある世界では実現できないの? 今ある世界でも個人個人で幸せの定義は異なるけれど、何らかの幸せはあるよね? よりよく改善していくだけでは物足りないの?」

「根底からこの世界が腐っているから仕方がないのです」

「ならば、どうすれば良いの?」

「それは貴方の仕事です! この世界を作り上げた、“創造の神”」

「でもそれは……」

「それに私が言っているのは新しいものを作り上げるという事です。この世界は古すぎる。古くて腐っている。新しくないと、何の価値もない!」

「貴方が使っている様々なものも、ある日突然天才が何もないところから生み出したわけではないよ? 過去の知識や蓄積があって、初めてそれを作ったり、今の魔法が作り上げられているんだ。そのささやかな事の積み重ねで今の僕達は生かされているのに、その全てを否定するの?」


 一瞬黙るも、すぐに黒ローブが反論する。


「それはこの世界が完璧ではないからです。変化がないというのは完璧な……」

「完璧という事は、過去に起こったことを、やり方を、ただただ同じように続けていけばいいという事?」

「そうです!」

「それはどうしてそういった事をしたのか、その意味が無くなる事だよ? 何かをすること自体に意味がない、だってそういう存在だから、で終わってしまうものになってしまう。それこそ人が、世界という機械を構成するただの歯車になるのだけれど、それで良いの? 多分感情そのものが必要なくなるだろうけれど」

「それは完璧な世界ではない! 悪いものを全て排した世界こそ、最も美しいのです」

「……失敗だって蓄積すれば、こうすると失敗するからと分って、より良く前に進めるんだよ? それすらも、“悪”と思うの?」

「御託はいい! 我々は正しい、そしてこの世界は狂っている! だから壊さなければならない!」


 黒ローブが逆切れした。

 そしてなにやら筒状のものを取り出すが、それは良くない物だと気づいてシズは魔法を放つが、それは少し遅い。

 何らかの魔法を発して、一瞬輝くもすぐに消える。誰かに何かを伝達したのかもしれない。


「対話は不可能だから、倒しちゃおう!」


 シズの提案にウィルは頷き、リグは行ってらっしゃーいと手を振って、ウィルに睨まれて耳を引っ張られて、強制的に働かさせられそうになっていたのだが、


「どうやら貴方方には、言葉で言っても分らないようですね」


 そう、にぃ、と黒ローブは笑う。

 同時に、シズは眩暈を感じる。

 ここに連れ込まれたとき何らかの魔法を受けたのかもしれない。

 それはウィルもリグも同じようで、それと同時に“闇”の密度が増す。

 この魔法の解除を、と思った所で、悲鳴が聞こえた。

 何人もの人間が倒れるような音。

 同時に、誰かがかけてくる足音。

 その姿見えた時には、黒ローブ達は瞬時に倒されていく。


「大丈夫だったか? シズ」

「フィン!」


 現れた人影に、シズは嬉しそうに声を上げたのだった。



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