さまざまな誤解
そんな心の狭いフィエンドの発言が、アンノウンにはおかしくて仕方がない。
色々とフィエンドに関する情報は、“敵”という意味でも聞いていたから。
随分と色んな人々と遊んでいたようだったが……そういえばよく、黒髪、茶色瞳の少年ばかりを求めていた。
そして、シズは黒髪に茶色い瞳で、昔からの知り合いらしい。
この気に食わないすかした彼にしては、随分と一途で、可愛げがある。
なので冗談めかしてアンノウンは挑発してみる。
にやにやと笑いながら新しい玩具を見つけたように、
「ちょっとキスしただけです。大した事な……」
そこで、アンノウンの周りに控えていたカラスの魔物が破壊される。
ひらひらとその片鱗である黒い羽が何枚か石畳の地面に落ちる。
何が起こったのか、アンノウンには分らなかった。
フィエンドは先ほどと同じように、表情を変えずに立っているのみ。
そのあまりの変化の無さに、いっそ不気味さを感じてアンノウンは警戒する。
そこでフィエンドは、アンノウンに告げた。
「俺は怒っている。そして、シズに危害を加える者を許さない」
「へえ、じゃあどうするつもりですか?」
アンノウンは軽口を叩きながら、けれど嫌な予感がして炎の魔法で攻撃を加えつつ、防御の結界を何重にもする。
けれど、気づけばフィエンドがアンノウンの目の前に立っていた。
攻撃魔法を受けた様子もない。
フィエンドの緑色の瞳が暗がりの中で、酷く輝いているように見える。
そこには何の感情も浮かんでいない。
まるで虫か何か、興味のない矮小なものを見るかのようにアンノウンを見下ろしている。
その瞳に、アンノウンはぞっとするような恐ろしさを感じる。
自分よりも幼い子供だと思っていた彼は、予想以上に恐ろしい敵だった。
そしてガラスのように防御の壁を砕き、フィエンドの手がアンノウンの頭に伸びる。
アンノウンはこれは、砂の体だと、作り上げたものだと思う。けれど、
「ぐあぁっ」
神殿の地下に囚われたアンノウンは悲鳴を上げた。
その間も呻く事すらできない苦しみと痛みに苛まれる。
あれは砂の人形で、本体まで影響するはずが無かった。
なのに、人形のつかまれた頭のあたりから、アンノウンの本体は苦痛を感じる。
その苦しさに必死でフィエンドの手をはずそうとするも、その力は強く抵抗できない。
このまま殺されてしまうのかと思った。けれどそこで、
「フィン、それ以上は駄目!」
そう、シズの声が聞こえてアンノウンは意識を手放したのだった。
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ぐったりとしている人形のアンノウン、それを掴んでいるフィエンドは振り返る。
「シズ」
「それ以上は駄目だよ……えい」
そう言って、アンノウンの人形の体に触れる。
何をやったかに気づいて、フィエンドはシズに、
「治す事はない。あいつは敵だ」
「……敵だけれど、ここまでしなくて良いよ」
「シズに手を出したのに?」
「……僕のせいだね、ごめん」
謝るシズに、フィエンドは何か言おうとして、やめる。
代わりにシズを抱きしめる。
薄れていく体が満たされていくような、そんな感覚をフィエンドは覚える。
そんな二人の前に、遅まきながらアースレイが現れた。
「アンノウンか。どうしてフィエンドに手を出した?」
アースレイはアンノウンに問いかけるが、それに答えたのはフィエンドだった。
「神殿へのお誘いだ。けれど俺はこれが気に入らないから、シズに手を出したのが気に入らないから、本当は苦痛を与えて殺してやろうと思ったのですが、シズが止めたのでやめました」
淡々と告げるその言葉に一瞬アースレイはいきを呑む。
けれど、結果として大丈夫だったのに気づいて、アースレイは、
「……義理の弟の、“ブルーアイ”が気に入っている。彼は神殿との関わりが深い。だから、彼の機嫌を損ね……ああ、なるほど、アンノウンが傷つけられれば、私とフィエンドの派閥は協力できなくなる、と。やってくれたな」
アースレイが笑って、けれどすぐに真剣な表情で、
「フィエンドにアンノウンが勝ち目はないのに当ててきた、か。随分と……ブラウニングが聞いたら面白い事になりそうな手を使うな……そういえば、アンノウンは無事なのか?」
「シズが治しました。本体は」
「そうか。けれど苦痛を与えたのだからそれで、仕返しは終わりだ。いいな」
けれどフィエンドは頷かない。
抱きついたシズをぎゅうと抱きしめるだけだ。
なのでしっかりと言い聞かせるために、アースレイは、
「仕返しは終わりだ、わかったな」
「……はい」
渋々といったように、フィエンドは頷いた。
それに、アースレイはほっとしながら、早めにブラウニングに伝えておこうと歩き出したのだった。
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この世界ではない場所で、彼は怒っていた。
一部始終を見ていたから。
生きていたから、まだ許せる。
止められたから。
もしも、死んでいたなら。
「許さないぞ、“破壊の神”、そして、その子供よ」
そう、怒りをぶつけるようにこぶしを握り締め、“維持の神”は地面を叩いたのだった。
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治ったとはいえ、あの衝撃はきつくてアンノウンは気絶をしてしまう。
そのまま囚われた無防備な姿で気絶しているアンノウンは、抵抗する力も意識も無かった。
けれどこれもまた、彼らにとって都合が良かった。
音も無く、彼らは部屋に入り込んで、誰にも気づかれる事無く、その場を後にする。
そしてブラウニングがアースレイに話を聞いて、この場所に急いで駆けつけたのはそれから暫く経ってからの事。
開かれた扉の中には白い部屋。
浅い水溜りに浮かべられた黒い大きな鳥篭。
けれどその扉は開かれて、閉じ込めるべき、ブラウニングの愛おしいあの美しい鳥の姿は何処にもなかったのだった。
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裏で事態が刻々と変化している頃。
部屋に戻ってきたフィエンドとシズがいつものようにいちゃついていたのだが。
オルウェルがぐったりしていたのは良いとして。
エルフィンがシズに近づいてきた。
「それで鬼ごっこの話ですが、明日のお昼休みにいかがですか?」
「本気でやるの?」
「ええ、僕のこの力が効かなくともシズを捕まえられることを証明して見せましょう!」
「……なんだか話が変わっているような」
「気のせいです。なので僕が勝ったら……」
そういえばさっき、エルフィンに襲われるような話になっていたような気が、とシズが警戒を強めるとエルフィンが耳元で、
「オルウェルをベットに縛り付けるのを手伝ってください。最近、すぐ逃げるし、痺れ薬やら媚薬を使った事があるせいか警戒して仕込んでも飲んでもらえないですし」
「仕込んだんだ」
「もちろんです。僕のテクでたっぷり気持ちよくしてあげているのに、全然反応は初心なままで……」
悲しげにそっと顔を伏せるエルフィン。
その憂いだ仕草に本来の美しさも合わさって、手伝ってあげなくてはいけないような気持ちにさせられる。
だが流石にそれはオルウェルが可哀想かなとシズは思ったので、断ろうと口を開きかけると再びエルフィンが耳元で、
「フィエンドがどうすれば喜ぶか、教えてあげましょうか?」
「え! えっと……」
「どうしますか?」
「じゃあやる!」
上手く言いくるめたし、こちらの方が有利なのにシズは気づいていないなとエルフィンは思いながら、自分の取り巻きにどう指示を出そうかエルフィンは画策する。
そこで、フィエンドがシズに話しかける。
「この前の事もあるから、今はあまり……」
「フィンに喜んでもらうためだから、絶対に譲れない!」
「エルフィン、シズに何を吹き込んだ」
「それは後のお楽しみですね。……おや、オルウェル、何で寝た振りをしているのですか?」
「ひいいいいいいい」
がばっといつものように、エルフィンがオルウェルに襲い掛かり、フィエンドが壁を作りいつものように眠りについたのだった。
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次の日のお昼にて。
「卑怯だよ! エルフィン!」
「残念ですね。僕は一言も他の人達に手伝ってもらわないといっていませんよ?」
「というか、リノはなんでそっちに付いたんだ!」
何故か学園の情報やという学園内を知り尽くしたエキスパートがエルフィンについて、シズは追い掛け回されていた。
そして何処に追い詰めようかと嬉々として話している様子に、シズは更にうわああんっ、となる。
そんなシズが涙目になっているのをフィエンドが何故放っておいているかというと、
「独占欲の強い男は嫌われますよ? 少しは自由にしてあげてもいいのでは?」
と、エルフィンに囁かれたからだ。
シズに嫌われる、その恐ろしい魔法の言葉の前ではフィエンドは無力だった。
なので追い掛け回されているシズがフィエンドの前を行ったり来たり通り過ぎるのを、1、2、3と数えていたわけだが。
「フィエンド様、少し良いですか?」
現れたのは、レイクだ。
そういえばイルがいないなと思っていると、
「先ほどイルはあの追いかける集団に入ってしまいまして。イルはシズが好きですね」
「……不安にならないのか?」
「だって遊んでいるだけですからねぇ、イルは」
「最近どんどんシズが綺麗になっている気がして、俺は不安だ」
「確かに綺麗になりましね、この前の一件以来。……本性を現しただけかもしれませんが」
そうレイクが含みを持たせて言うので、フィエンドは警戒したようにレイクを見る。
それにレイクは笑って、
「“創造の神”」
「……貴方は」
「多分それを知っているだけで聡い君は分るだろうね。それと、あの“維持の神”の子、昨日君が半殺しにした彼、行方不明らしいよ」
「彼は、そうなのですか」
「うん、知らなかったの?」
「いえ、シズが以前襲われて頭にきて、つい」
「シズに関して随分不安定だね。まあ、そういう人間らしい所は魅力にもなるから良いと思うけれど……注意した方が良い。彼らの動きは早い」
声を潜めて、彼らと告げるレイク。
その彼らとは、オルトネイを殺した張本人ではないかと思い、ついでに、
「彼らは、シズを狙っているのですか?」
「そうだね、シズを、そして君を狙っている。“闇”として暗躍している神殿の彼ら」
「随分とお詳しいのですね」
「出し抜かれないように僕達もしないといけないからね。ただ、君達二人は、敵に回られると困るから少し、忠告」
世間話をするかのようにレイクが告げて、そろそろ失礼するよ、とその場を離れていく。
その先には倒れているイルがいた。
「うう、シズを捕まえられなかった」
「残念だったね。でもそろそろお昼ご飯を食べようよ、お腹すいちゃったよ、僕」
そう会話をして去って行く二人を見送りながら、シズを守るとフィエンドは決意を新たにする。
そんなフィエンドに、シズが抱きつくように逃げ込んで、その結果シズはエルフィンに捕まった挙句、再びリノの着せ替え人形にされてしまったのだった。
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目が覚めたアンノウンことリグは、自分がいつもの場所にいない事に気づいた。
フィエンドを襲って苦痛を覚えた事は覚えている。
けれどどうしてこんな場所にいるのか分らない。
そこに足音が聞こえてくる。
音は、複数人。
全員が黒い布を体に身に纏い、同じ瞳で笑っている。
笑ってリグを見ている。
それがリグには気に入らない。そもそも、
「僕をこんな所に連れてきてどうするつもりだ? 協力関係なだけだろう!」
「ええ、ですから貴方を餌にします。裏切らせて、利用するための、ね」
そうフードを取って、現れたのは年齢は様々な者達だった。
けれど一様に闇がまとわりついている。
リグは知らなかったが、何人も学園でシズが“神殿”と警戒した者達がいた。
そんな彼らに、リグは笑う。
「僕のために動く人間なんていませんよ? だから僕は利用価値しかない」
「それはやってから考えます。ではしばしこちらでお待ちください。“維持の神”の子よ」
そう彼らが同じように声を重ねてリグに告げて、黒い影の中に消えるように去っていったのだった。
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リグはくだらないと彼らがいなくなった後で吐き捨てた。
そもそも、リグは“維持の神”の子だ。それをこんな場所に、閉じ込められると彼らは思っているのか。
「わざわざ囚われた振りをしてやっていたのに、大体神殿内での、あんなもので僕は閉じ込められないのに」
何を勘違いしているのかは知らないが、あの道具では多少リグを弱めるだけで、それ以上の効果はない。
なのにあそこにあったものと同じもので、彼らはリグを拘束している。
そう思ってリグは、自身を拘束している黒い、魔法のかかった鎖を見る。
見て、つい笑ってしまう。
笑って、次にばかばかしくなって、立ち上がる。
早くあそこに戻って大人しくして、神殿の庇護下で好きなように遊んだ方がいいだろう。
「フィエンドは危険だって分ったから、彼を気をつけて、シズとウィルで遊ぶのが楽しいだろうな。ちょっとくらいつまみ食いしてもいいだろう」
ふふと楽しそうにリグは笑って、そこではたと気づいた。
現在の神殿の勢力図の変化だ。
つまり、今神殿に戻ったとしても、リグが近づかないといけない長老は、ブラウニングの息のかかった相手ばかり。
そもそもそれに反抗的な勢力も、ブラウニングには逆らえない状態になっていた。
まさかオルトネイが死ぬとは思わなかったし、あんな若い奴が頂点に上り詰めるとは思わなかった。
それが僅か数日で全てがくるくると変わってしまったのだ。しかも、
「あいつ、僕の事を利用しないどころか、愛しているなんて言ってきて……利用価値がないなんて、僕の存在意義がないじゃないか」
必要とされないのはいらないと同じこと。
そしてリグの事を愛していると囁いて体を求めてきたブラウニング。
他にだって幾らでもいるだろう。
彼ならば、その相手は、リグでなくてもいいはず。
「……確かに、半分は“維持の神”の血を引いているから見掛けはいいからね」
だから、欲しいのだろうか。
愛していると囁いてまで。
都合の良い玩具じゃないかとリグは思って、そう考えるといらいらする。
そして他の誰かにその役目を投げられないか考えて、その相手に愛していると告げているブラウニングを想像して何故だかもっといらいらした。
そこで拘束している鎖にリグは目をやる。
大体が前も考えたように、この程度でリグは止められないのだ。だから、
「この前は油断しただけ。今度やってきたら、倒して気絶させてやれば良い」
そう自分に言い聞かせて、元の場所へと、ブラウニング達がいる領域へ戻ろうとして……そこで闇が揺らめいた。
神殿に彼らが現れてから漂うようになったが、随分と大きくなったと嗤って、リグは彼らの傍を通り、鎖が引っかかってそれ以上歩き出せない場所に来る。
そこでようやく鎖の存在を思い出したリグはそれを思い出して、力をこめて壊そうとする。
けれど、その力を持ってしても一向に鎖は解けない。
冗談ではないと、今更ながら顔を蒼白にして必死に壊そうとするも、そこで鎖を引きずられた。
振り返ると闇が鎖をずるずると引っ張っている。
「お前達、何で僕にこんなことするんだ!」
リグが叫ぶと、闇が手?を止めて少し思案するようににょろにょろ動かして、馬鹿にしたようにリグを見るしぐさをする。
けれどその後、まあ、こいつでも良いかといったようにリグを元の場所に引きずり込む。
そしてそのままリグの体に纏わりつく。
それにリグは焦ったようにじたばたするが、その闇に口を塞がれて体をまさぐられる。
うめき声のような声を上げられないリグは、そのまま闇に暫く弄ばれて気絶してしまったのだった。
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シズは、深々と嘆息した。
目の前では、瞳を輝かせたリノがいる。
そして三つの服が目の前に並べられていた。
どれもがフリルの付いたとても可愛らしいものばかりだが、どれもスカートの丈が短い。
「……これ以外の選択肢は?」
「え? ないよ。前にオルウェル様がスカートの丈をこう、恥ずかしそうに引っ張っているのを見て、僕、目覚めちゃって。ぜひ、シズにもやってほしいなって」
「……自分でやれ」
「やだなー、可愛い子がしているのを見るのが楽しいじゃん。シズは最近特に綺麗になっているし」
「そうなの?」
そのシズの問いかけに、珍しく不安そうな響きがあって、けれどそれにリノは気づかずに、
「きっと恋をしているからだねー、せっかくだからフィエンド様を誘惑しちゃいなよ」
「え?」
「可愛い服を着てこう、迫ってみるのも良いかも」
「う、え……で、でも」
「ロイはこういう格好をして僕が迫るととても嬉しそうだよ? 現に嬉しいらしいし」
「そ、そうなのかな」
「そうそう、だから、やってみると良いよ!」
そうすれば、週末になるまでシズにてを出さないと行っているあのフィエンドが我慢できずにシズを襲う事になるかもしれないのだ。
あのフィエンドは来るもの拒まずに、色々と乱れていたのにシズが来てからはもう……な事になっており、しかもお預け状態はあまりに可哀想と思ったリノだ。
ついでに獣のようにシズが襲い掛かられてしまったらそれもまた面白いとリノは思っていた。
ちなみに後者の感情の方がリノは強い。
そんな風にシズを唆しているリノだが、そこでリノがエルフィンに問いかけられる。
「後で料金を支払いますので、僕に似合う服を一つ譲っていただけませんか?」
「エルフィン様、それはかまいませんが……どうしたのですか?」
「オルウェルが僕の事を求めてくちゃぐちゃにしてくれないのです」
リノが沈黙した。
エルフィンとオルウェルの噂はすでに広がっており、授業中もオルウェルは時折生気が抜かれたような雰囲気を見せたという話である。
そして、夜にはエルフィンに許してくれと懇願するオルウェルの声が聞こえたとかなんとか……。
ちなみにエルフィンが絶倫なのは有名な話だった。
多分途中でへばったんだろうなとリノが見当をつけつつ、
「まあまあ、オルウェル様は真面目で頭が固いから、そういったことには疎いのでしょう」
「でも、オルウェルからは他の男の匂いがするんです! 僕以外の誰かを抱いているかと思うと、許せなくて」
「え? あの、オルウェル様がですか?」
「ええ、だって、童貞で僕しか相手がいなかったはずなのに……フィエンドに付いた僕がいけなくて、寂しい思いをさせてしまったのは分っているのです。でも、キスした時に少しだけ上手くなっていて……」
しゅんと俯くエルフィン。
けれどリノもオルウェルが他の誰かと仲が良かった、というのはしらない。
そもそも、そういった事には淡白な方なのだ、オルウェルは。
けれどそれが誰だと思うと同時に、リノはエルフィンに少し応援したい気分になる。
ようやく自由になれたのだから。
と思っていたらシズが逃げようとしていたので、リノは捕まえる。
「シズ、逃げちゃ駄目じゃない」
「だ、だってこんなの恥ずかしいよ!」
「オルウェル様だってやったんだから良いじゃん」
「恥ずかしがっていたじゃん、僕は……」
「そういえば、オルウェルの女装姿は本当に可愛くて、性的な意味で美味しそうでしたね……結局僕はいただけなかった。そうですね、ふふふふ」
エルフィンが不気味な笑い声を上げる。
けれどすぐに俯いて、
「もっと、オルウェルをその気にさせる方法はないのでしょうか。この僕がオルウェルすらも落とせないなんて、プライドが許せない。それとも僕の手管がさび付いているのでしょうか……」
そこでエルフィンがシズのほうを向いて、
「シズ、ちょっと僕の相手をしていただけませんか?」
「え……いやだ」
「少しですから」
そうエルフィンに切実そうに頼まれて、シズは断りきれなかったのだった。
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現在シズ達の部屋は、フィエンドとオルウェルの二人だけという、酷く居心地の悪い状況になっていた。
オルウェルの事を空気としか思っていないフィエンドに、少しはフィエンドに心を許したかのように見えたが相変わらず気に喰わないオルウェルという……。
お陰で二人の取り巻きも足早に逃げていった。
そんなわけで今は重苦しい空気にこの部屋が包まれているわけである。
そもそも何故この二人がこの部屋に揃って待機しているかといえば、この二人の恋人達が――正確にはシズだけという事になっているが――女装をする事になっていたからだ。
ちなみにオルウェルはエルフィンがここにいないのでほんの少しだけほっとしていた。
もしもいたならまた……。
そう思えばこの時間は心休まる時間に他ならないとオルウェルは大きく頷いた。
ただでさえ、キスの事でエルフィンの機嫌が悪いのだ。
けれど、実はさくらんぼの柄で練習しました何て言ったら、
「よくもこの僕を騙して苛立たせましたね、オルウェル……お仕置きですよ?」
と、いつも以上にハードに……そこまで考えて、オルウェルはそれ以上考えるのを止めた。
いわなければ良いだけだ、そうオルウェルは心の中で繰り返し続ける。
一方フィエンドといえば、女装したシズも可愛いなとぼんやりと思いつつも、先日のアンノウンという“維持の神”の子を思い出す。
シズに手を出す不埒な敵。
昔はシズの叔父に手を出して楽しんでいたらしく、シズも気に入っているらしい。
けれど先日は、フィエンドを誘ってきた。
神殿に来ないかと。
“破壊の神”の子だから。
うっとうしいとフィエンドは一蹴する。
そもそも神殿とフィエンドの家は仲があまり良くない。
それも含めてシズを攫い傷つけようとするような神殿は許せない。
確かに、シズは……いや、考えるのを止めよう、フィエンドはそう思った。
それを考えてしまえば、神殿がシズにとってふさわしい場所になって、そしてフィエンドの手で捕らえられなくなってしまいそうだから。
シズは、フィエンドのもので、もう二度と逃すつもりはないのだから。
そこで深々と溜息をついてフィエンドは体の向きを変えた。
意図せずオルウェルと見つめ合う形にフィエンドはなる。
しばしの沈黙後、フィエンドは深々と溜息をついて、
「気色悪いな」
「な! それは私の台詞だ」
「それで、随分と元気がないが、どうした」
「……それを私に聞くのか?」
「ナントカは風邪をひかないらしいから良かったな」
「貴様……またそういう事を言って……そもそもどうしてかは、同じ部屋なのだから見ていれば分るだろう!」
オルウェルは叫んだ。
日ごろエルフィンに押し倒されて、美味しく頂かれている事はフィエンドも見て知っているはずなのだ。
それなのにわざわざそう言うあたりが、オルウェルは気に食わない。
相変わらず性格と根性と性根が腐っていて見かけがいい分たちが悪い傲慢なフィエンドのままだ。
と、オルウェルが心の中で毒づいていたら、
「俺はシズのことしか興味がない」
「……ああそうだな、お前はそんな奴だったな」
オルウェルは嘆息した。
そういえばフィエンドはシズに夢中でそれ以外はどうでも良いようだったと。
笑えない、とオルウェルが思っているとそこで、フィエンドが何気ない世間話をするかのように、
「……それにエルフィンは、絶倫と言われているが、俺に対してはお前ほど襲って、求めてきた事はない」
「え?」
「俺を慰めるためと言いながら、自分が寂しいから、俺に抱いて欲しいようだった」
「だ、だが、エルフィンは自分からお前を誘ったりとか……」
「そんな誘いは、他の者もされている。確かにエルフィンは上手いが、俺にはどれも大差ない」
淡々とした口調で告げるその言葉に、オルウェルは何処かほっとしてしまう。
それはエルフィンがオルウェルだけ特別に求めていると。
そんな風に、自惚れて良いのかと。
そんなオルウェルを見て、フィエンドは、
「エルフィンはああ見えて寂しがりやで、お前が思っている以上にお前の事を愛してる」
「そんなの言われなくとも分っている」
「心をもっと満たしてやれ。お前が甘やかして可愛がれば、自然と襲う事も少なくなるだろう」
「だが、エルフィンは、絶倫で……」
「そういった方法でしか好意を示す事が出来ないのだろう、エルフィンは」
「それは……」
思い当たる節があるオルウェル。
ずっと、神殿で姫として予知能力者というよりもそういった扱いを受けて、長老に囲われて。
だから、あんな風なのだろうか。
押し黙るオルウェルに、フィエンドは嘆息して、それから、
「行くぞ」
そう言って立ち上がる。何処へとオルウェルが問いかければ、更にフィエンドは嘆息して、
「俺はシズを、お前はエルフィンを迎えに行け」
気だるそうに、フィエンドはオルウェルにそう告げたのだった。
。" ゜☆,。・:*:・゜★+★,。・:*:・☆゜"
そんなこんなでフィエンドとオルウェルがリノの部屋に着くと、シズがエルフィンに押し倒されかかって、その傍には真っ青になっているリノがいた。
ちなみにシズとエルフィンは可愛らしい服を着せられていていた。
但しシズがエルフィンに押し倒されて涙目になっていたが。
「フィン……」
涙目でシズがフィエンドを呼ぶと、フィエンドは無表情に二人の前にやってくると、エルフィンの襟首を掴んで持ち上げたかと思うと、そのままオルウェルに投げつけた。
相当怒っているらしいフィエンド。
そんなフィエンドにシズは助かったと胸をなでおろして、
「ありがとう、フィン」
「どうしてこんな事になったんだ?」
「エルが、自分の技術がさび付いているからオルウェルが襲ってくれないんじゃないかと言い出して、だから、さび付いていないか僕で試そうと……」
「面倒な……」
フィエンドが、じろりとオルウェルを睨む。
そのさっきにオルウェルがびくっとしていると、オルウェルの腕の中にいるエルフィンが、
「どうしたのですか、オルウェル」
「どうしたのか……か。どうして、シズに手を出したんだ?」
「オルウェルに僕の誘惑が効かないみたいだから、ちょっと試そうかなと。大丈夫ですよ、僕、そういうのは得意ですから」
にこにこと、エルフィンは何でもないことのように笑う。
それを見たオルウェルは苛立ちを覚える。
どうしてそんなに、気にする事のない、当たり前の事のように言うのだと。
オルウェルはシズにまで嫉妬してしまいそうになるのに。
けれどそこでエルフィンは瞳を翳らして、
「だって、少しでも僕にオルウェルを惹き付けておかないと、他の男の所に行ってしまうでしょう?」
「エルフィン?」
他の男って、何の話だとオルウェルは思った。
そもそもそんなものがオルウェルにいるような話は一度もないはず。
それだけお堅い人間だと思われていたのだが、それゆえに理由が分らない。だから、
「何の話だ?」
「だって、キスした時……」
エルフィンの声がか細くなりオルウェルは思い出した。
けれどそれを言った瞬間、エルフィンにお仕置きされてしまう恐れを覚えたオルウェルは口をつぐんでしまう。
そんな二人を見ていたシズは、フィエンドに問いかけた。
「オルウェルには他に男がいるの? エルフィン以外と繋がっていないように見えるけれど……」
「エルフィンの勘違いだろう。そういえばキスがオルウェルが上手かったと言っていたが、以前キスだけでも負けて堪るかとさくらんぼの柄を口の中で結ぶ練習をしていたらしいからそれを勘違いしているんじゃないか」
なぜかフィエンドが冷静にオルウェルが密かにやっていた、と思っていた事を知っていた。
ギギギとオルウェルは首をフィエンドの方に向けて、
「何故、お前が知っている」
「取り巻き達が一時期噂をしていて、皆知っている話だ」
オルウェルは心の中で泣いた。
こっそりやっていたのが皆に知られていたとか、恥ずかしすぎる。
だがそこでオルウェルははっと気づいた。
ここにはエルフィンがいる。
そう思ったオルウェルは慌てて腕の中のエルフィンを見ると……顔を真っ赤にしていた。
そのいつもと違う、大人しく顔を赤らめている様子に、オルウェルは意外に思いながらも、
「エルフィン?」
「あ……う……そ、そうですよね、オルウェルに、そう、です……あ、僕用事を思い出して……」
そう告げて、顔を赤らめたままエルフィンはオルウェルから逃げようとした。
けれどオルウェルはとっさに、エルフィンをぎゅうと抱きしめる。
それにエルフィンは更に顔を赤くして、
「は、放して下さい……オルウェル」
「……嫌だ」
「な、何で、いつもは……」
「可愛いから、嫌だ」
腕の中にいるエルフィンが、びくっと震える。
そして、不安そうな、恥ずかしそうな顔でオルウェルを見上げて、それを見たオルウェルの中で何かが音を立てて切れた。
そのままエルフィンを抱き上げて、オルウェルは何処かへと走り去る。
後に残ったシズが、その一部始終を見て、
「……オルウェルはどうしたの、かな」
心配そうなシズだがそれにフィエンドが、
「普段真面目なやつが切れると凄いんだろう」
「……エルフィン、大丈夫かな」
「自分が望んだ結果なのだから、本望だろう」
それを聞いてシズもそうだねと呟く。
加えて、まだ部屋には戻らない方が良いだろうという事で、フィエンドの好みの服をシズは着せられてリノに写真を撮られる羽目になったのだった。
。" ゜☆,。・:*:・゜★+★,。・:*:・☆゜"
神殿にて。
ブラウニングのもとに、黒い男達がやってきた。
闇を引きずる彼らは、ブラウニングにリグを人質になったことをつげ、利用しようとする。
けれど、それにブラウニングは面白そうに笑った。
「その要求には呑めないが、お前達という取っ掛かりからリグを返してもらう」




