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接触

 呼び出されたシズは、何故かウィルに抱きしめられていた。


「えっと、ウィル叔父さん?」

「……シズ可愛い。もうシズとずっと一緒いる」

「ウィル叔父さんに何をしたのですか? アースレイ学園長」


 けれどアースレイは黙ったままで、代わりにウィルが、


「こいつがしつこくしつこくしつこく……」

「えっと……」

「でも仕返ししてやりたい。あ、そうだ! ごめん、ちょっと行ってくる」

「あ、はい……」


 怒った様なウィルだったが何かを思いついたらしい。

 うきうきとしたようにここから離れていく。

 そしてウィルがいなくなってから真剣な声で、アースレイが問いかけた。


「シズ、君は精霊を操れるのか? イルのように」

「……やろうと思えば出来ますが、でも今までそれを……あれ、何で僕は……」


 アースレイの問いかけに当たり前のように答えようとしたシズは、ぎょっとしたようだった。

 その様子を観察しながらアースレイは、


「……あまり特異なことは見せないよう極力注意しろ。まだ暗殺した人間達が誰なのかは分っていないのだから」

「彼らが僕を欲しがっているわけではないのでしょう?」

「シズ、お前の事はすでに彼らに伝わっていたのなら、捕らえられてしまうかもしれないぞ?」

「……本当に捕まえるつもりなら、きっと今ここに僕は居ないのかも」


 冗談めかしてシズは呟いた。

 本当にそのつもりだったのだがエルフィンが、シズの服の袖を掴む。

 小刻みに震えているのを見てシズはしまったと思う。


「大丈夫、ここには皆いるし、エルフィンの味方だって沢山いる」

「……僕は、上手く立ち回れるから良いんです。でも、オルウェルに危険が及ぶ事だけは、僕は許せないのです」

「泳がされているのだとしても、大丈夫。そうでしょう、アースレイ学園長」


 シズに話を振られたアースレイが頷く。


「そうだ。そもそも君は、“神殿”を抜けてはいないし、そして君は、私の義理の弟のブラウニングの管理下にある」

「! 彼が? 長老の一人の?」

「そうだ。君は彼の管轄という形になった。最も古い長老であるオルトネイが死に、彼の抱えていたものの奪い合いが発生している」

「……ですが一度他の長老のものとなった予知者の扱いは……」


 口ごもるエルフィンにアースレイは、小さく笑い、


「君はここに来て知らなかっただろうが、以前“神殿”がこの学園を攻撃した時に、予知者が予知をはずしたことは知っているか?」

「はい」

「そういえばフィエンドはその時何をやったか知っているか?」

「……彼らの一族の力を借りました」

「フィエンドが、“破壊の神”の血を引き、その力を使ったのは?」

「……知りません」


 知らないと答えるエルフィン、隠そうとしているが、それこそがエルフィンが知っている事に他ならない。

 なので以前フィエンドの兄に言った様に、アースレイは、


「隠さなくて良い。“破壊の神”自身がフィエンドか自分の子だと言っている」

「あの、おしゃべりがっ」


 アースレイはエルフィンに話していたのだが、シズはまた面倒な事しやがったというかのような言い回しで呟く。

 けれどアースレイは何となくそこには触れない方がいい気がしたのでそこは無視して、


「話を戻すが、“神殿”とのいざこざから、その外した予知者達は粗末に扱われて、自然と他の長老の庇護を求める事になった。だから今は予知者を誰かが囲うといった関係よりも、利害の一致で居ることが多くなっている」

「そうなのですか?」


 初耳といったようなエルフィン。

 そんなエルフィンを見ながらアースレイは、それほどまでにこの少年はオルトネイに執着されて縛られていたと知る。

 気の毒といえば気の毒に思いながらもアースレイは更に続ける。


「加えて現在、“破壊の神”がこちらに降り立っている。その時点で、彼の不興を買う事の恐ろしさを我々は知っている。それ故に、今予知者をぞんざいに扱えない部分もある」

「そう、なのですか。そう、なら……僕は、自由に……」


 エルフィンがふっと幸せそうに笑う。

 まだまだ不安は大きかったのだろうけれど、何処かほっとしたようだった。

 その様子を確認して、後は、シズにもう一度釘をさしておこうとアースレイが何かを言おうとしたところで、


「シズが呼び出されたと聞いたが!」

「フィン!」

「シズ! 何があった……」


 アースレイ学園長室に、飛び込んできたフィエンド。

 そしてシズはフィエンドを視界に入れた瞬間、これまで見たこともないほどに綺麗に微笑んだ。

 その美しさに一瞬唖然として、見惚れてしまう輝きを放ちながら、シズはフィエンドに抱きついた。


「フィン……」


 甘えるように呟くシズ。

 一方その輝きにフィエンドも目奪われているかと思えばそんな事は無く、


「シズ、ここに呼ばれたと聞いて、教師も倒れたという話じゃないか。大丈夫か?」

「うん、ちょっと失敗しちゃって」

「シズが?」

「うん、うっかり話しかけてしまったから、精霊達に。でも、これからはしないようにするから」

「そう、か。……所で、アースレイ学園長とエルフィンは何で驚いたように俺を見ているんだ?」


 あまりにもいつも通りで逆に驚いている二人にフィエンドは問いかける。

 それにエルフィンは、少し黙ってから正直に今の感想をいう事にした。


「シズが、やけに綺麗に見えまして……」

「シズは元々凄く綺麗で可愛いんだ。何を今更」


 当たり前の事を言うなというかのようにフィエンドは答える。

 その答えに、エルフィンとアースレイは理解した。

 ただのバカップルだと。


「シズ、シズがこんなに可愛いから、閉じ込めてしまいたくなる。何時にも増して可愛いから」

「……僕、そんなに可愛くないよ」

「そんなことはない! 俺は何時だって不安なんだ。シズが誰かのものになってしまうんじゃないかと」

「フィン……嬉しい」

「シズ……」


 ぎゅうと抱き合うその二人に、エルフィンは羨ましさを覚える。

 どうしてオルウェルはしてくれないのだろうかと。

 エルフィンはほんの少し嫉妬を覚えてしまう。

 あまりにも二人が幸せそうだから。

 そしてエルフィンが呼び出された事を知ったオルウェルが現れて、エルフィンが甘えてみるも、オルウェルが怯えて、結果としてエルフィンのS心に火をつけることとなる。



。" ゜☆,。・:*:・゜★+★,。・:*:・☆゜"




 白い部屋の鳥篭の中で、アンノウン……リグは大きく溜息をついた。


「読みを間違えたか。あーあー、どうしようかな……」


 呼び出された魔物は倒されて、しかもオルトネイは死んで、“破壊の神”はこの地に降り立った挙句リグに挨拶をしてきた。

 神様ってあんなに気軽なものだっただろうかと、色々と思う所はあるが、彼は約束してくれた。

 “維持の神”に伝えておくと。


「それまでは生き残らないと」


 未来に夢を持つなんて、リグは随分と久しぶりだった。

 ずっと“今”だけだったから。

 生き残り、惰性で生かされ飼い殺される。

 ここに囚われていたまま、遊びだけ。


「さて、次は誰につこうか。もちろん、ブラウニングは、どの程度の強さか分らないけれど、彼には絶対につかない」


 リグは恨めしそうに青い瞳を細めて、口をへの字に曲げる。

 この前の事を思い出すたびに、悔しさで一杯になる。

 あんな自分よりも年下の子供に弄ばれたのだ。

 ちなみにブラウニングは20代だが、長い時間を生きたリグにとっては赤ん坊と同じである。

 とはいえ、面と向かって絶対的な対立はしない程度に、彼との関係は築くつもりだった。

 敵対はするが。


「それに敵対していた方が、ウィルに、シズ。あの二人とも遊べるしね。まあ、あの暗い連中とも付き合いのある派閥にするのも良いかもしれない。あいつらは魔物の召喚もやってのけるから、面白いんだよね」


 くすくす笑い、彼らも自分の力が欲しいだろうとリグは笑う。

 リグは自分の利用価値を知っている。

 力も強く、簡単に雑用を言いつけられる相手なのだ、リグは。

 この力ゆえにずっとここにいるしかない、そんな“弱み”をもった存在なのだから。

 せっかくだから一番にここに来た相手に力を貸すのも良い。

 いっそ唆してやろうかと画策する。


 裏で糸を引く遊びも中々面白いのだ。

 気に入れば助けるし気に入らなければ放っておけば良いだけの話。

 それにここを知る者は限られており、たまに迷った者がここに来る程度である。

 昨日の今日で、思いの他早く騒ぎは収束している。

 そこで靴音がした。

 一番にここに来る奴は誰だろうと、リグにやぁと笑みを深くする。

 けれど現れた人影に一瞬、リグは唇の笑みが上下逆さになるもすぐに微笑みながら、


「ブラウニング様じきじきにいらすとは、どのような用件ですか?」

「お前を私のものにする」


 リグは何を言われたのか良く理解できなかった。

 否、理解したくなかったのかもしれない。

 色恋沙汰も、弄ぶのが面白い遊びであったため人の恋路を弄っていたリグなので、恋愛的な意味がある事は知っている。

 そしてどうやらブラウニングが頬を少し染めている様子からそうらしい事もリグは分っていたし、そんなブラウニングを可愛いような気持ちになりながらも、そんな事を考えてしまった自分は気の迷いだとリグは慌てて振り払った。

 そもそも恋心で縛って、利用しようとしているのではないかとリグはすぐに思いなおして、


「そんな風にいわなくても、僕は貴方様方が望めばなんだってしますよ?」

「貴方様方じゃない。私だけに忠誠を誓え」

「いや、やっぱり幾つもの人たちに媚を売っておかないと……ほら、僕は“維持の神”の子ですから、ここ以外に生きていくのは難しいですから」

「それで? 私のいうことを聞いて私のものになれば、もう少し自由にしてやっても良い」

「ですから一人に囚われるつもりは僕にはありません」


 リグはブラウニングに微笑む。

 余裕のような表情を浮かべながらも、リグは焦っていた。

 今までリグ本人を欲しがるというよりは、利用できる駒がいるので便利だから、そういった理由で近づかれてきていたために、彼にどう対処すれば良いのか分らなかったのだ。

 それ以上に一人と密接にかかわるのが怖かった。


 広く浅く適度に楽しんで享楽的に生きれれば、リグはそれで十分だった。

 確かに、ウィルやシズは欲しいとリグは思ったが、彼が望んでいた以上の執着をブラウニングから感じる。

 それが怖い。

 未知の生き物にあったような感覚を覚えて、けれど抵抗しようとするリグに、ブラウニングがそっと手を伸ばす。

 頬に触れた手は温かく、いやおうなしにもこの前の出来事を思い出させる。

 あんな恥ずかしい思いをよくもさせやがってという思いから、リグは自然の睨みつける。

 けれどその表情はブラウニングからしてみれば、


「誘っているのか?」

「……冗談にしては面白くありませんね。むしろ最悪です……んんっ」


 憎まれ口を叩くリグの唇に、ブラウニングは自分の唇を重ねた。

 温かい感触に以前のように舌が入り込んでくる。

 ねっとりと温かいしたが絡まり、軽く吸う。

 相変わらずキスは上手いと思いながらリグの目じりに涙が浮かぶ。

 そのまま口腔のなかをたっぷりと犯されて、唇を離される頃には息も絶え絶えで、頬を染めた潤んだ瞳でリグはブラウニングを見つめていた。

 その可愛さに再び軽く、ちゅうっとブラウニングはリグの唇を吸ってから、


「私のものにならないか? 気持ちよくして、幸せにしてやるぞ?」

「……お断りだ」

「どうしてそんなに意地を張るんだ? こんなに気持ち良さそうな顔をして」


 耳元で笑うように囁かれて、リグはそれだけでびくっとしてしまう。

 それが更にブラウニングを楽しませていることに気づいて、リグはきっと睨みつけながら、


「良いのですか? 僕は“維持の神”の子ですよ?」

「そうだな、それで?」

「今は、“破壊の神”しか来ていないが、そのうち、“維持の神”がここに来るぞ?」

「そうだろう。それで?」

「だ、だから僕にこんな事をして……それを言いつけられたなら……」

「ああなるほど、“維持の神”が来る前に体と心を落とさないといけないな」

「どうしてそんな話になった!」

「今日はこの体を私のものにします、諦めなさい」


 微笑むブラウニングに、リグは怯える。

 そして拘束されて動けないリグはじたばた暴れるもそれは抵抗にすらならず、そのままブラウニングに美味しく頂かれてしまう。

 だが気持ち良くなってしまった事と、リグは年上のプライドから許せなくなり、事が全て終わった後、絶対にお前にだけはつかないと意地を張り宣言する。

 それが、リグ伸した選択としては間違っていたのだが、この時はまだ恥ずかしさもあって、狡猾なリグにしては何も気づいていなかったのだった。




。" ゜☆,。・:*:・゜★+★,。・:*:・☆゜"




 たっぷりとブラウニングに体を頂かれたリグことアンノウンは苛立っていた。


「何が、貴方の心が堕ちてくるのを楽しみにしています、だ。何が、体から躾けていくので、これからも通わせて頂きますよ? だ。あんなに感じさせられて……屈辱だ。初めてだったのに……」


 実の所リグは、砂を使った分身でセクハラまがいのエロい事をしていたのだが、本体は綺麗な体のままだった。

 そしてそれを気づかれて、ねちねちブラウニングに囁かれて、初めてなら記憶に残るように丁寧にしないといけませんねと、それはもう、じっくりと時間をかけてされてしまったのだ。

 自分がされる側なのは、百歩以上譲って、良いとする。

 ねっとりとした愛撫に鳴かされるのも気持ちが良いから五十歩譲るとする。


 けれど相手があの、ブラウニングという若造なのが許せない。

 確かに見た目は良いし、若くして長老に上り詰めるだけの力もある。

 でも嫌いだ。

 リグはあいつが大っっ嫌いなのだ。

 それでも行き場も無く、“維持の神”の混血という力が強い故に閉じ込められているリグは、ここに囚われたままだ。

 だから嫌なあいつでも、利用できると匂わせて、そして自分の体に手を出してこれないようにあらゆる手を使ってきたのに……あいつは、利用すらしない。


「利用価値が僕にはないってことなのだろうか」


 呟いてリグは妙に悲しい気持ちになって、けれどすぐになんでこんな気持ちになるんだ自分と思った。

 思うも、抱かれているときに幾度と無く囁かれた、『愛している』という言葉が蘇り、リグは頬を染めて俯く。

 あいつは、リグの力を一度も利用しない。

 汚い事もさせない。

 求めるのは、リグだけなのだ。


「敵だったはずなのに」


 何度かウィルに手を出したときに、アースレイと一緒に邪魔をしてきた記憶しかない。

 正直に言えば特に気にもしていない相手で、他の奴らと同じだと思っていたのに、まさかこんな事になるなんて。


「そもそも本気で抵抗すればあいつは殺せた」


 でもリグはしなかった。

 その理由はリグ自身にもまだ良く分らない。自分の気持ちなのに。

 そこで再び人影が現れる。

 リグを利用する暗闇の者達。

 あいつに付くのは嫌だったので、付く相手は彼らが良いだろうとリグは笑う。

 

 何しろまだ、彼らがオルトネイを殺した事すら分らない、そんな気づかれていない勢力なのだ。

 これから大きく伸びていくだろうと、損得勘定で考える。

 いずれ彼らが神殿を乗っ取った暁には、ブラウニングを貰って従えさせるのも面白いかもしれない。

 散々好き勝手リグにしたのだから。

 そう気づかない内に珍しく求めているリグの欲望を見透かすように、彼らはリグを見て、


「貴方様のお力を借りたいのです。貸して頂ければ、欲しいものを差し上げましょう」


 それにリグは楽しそうに頷き、彼らの策を聞く。

 とても簡単なないようだとリグが笑うので彼らも笑う。

 失敗する事が前提だったのだから。

 こうして、事態は刻々と変化していったのだった。



。" ゜☆,。・:*:・゜★+★,。・:*:・☆゜"



 昼食をとり、午後の授業を受けて再びいつもの部屋に戻ってきた四人だったが。

 オルウェルがエルフィンに襲い掛かられて、悲鳴を上げたのだが。

 そのあまりにもエルフィンを求めてくれない様子に、いい加減頭にきたエルフィンがシズと良い雰囲気になっているフィエンドの方に近寄っていき、


「そういえば、僕はまだ貴方と同室者でしたね。シズと出来なくて貴方も欲求不満でしょう? 相手をして差し上げましょうか?」

「エルフィン、前に断ったはずだ」

「そうだよ、エル! フィンは渡さない! って、うわぁ!」


 そこでフィエンドはシズを抱きしめた。

 そのままシズは可愛い、と囁きながらキスをする。

 そのあまりにも甘い空気にエルフィンは羨ましさも感じたが……キスされているシズの表情。

 見慣れているはずなのに、さらさらと流れる黒髪は黒曜石のように艶やかに輝き、様々な色を浮かべる茶色の瞳、白い肌も相まって酷く神秘的な美しさを見せている。


 彼は普通で平凡だったはずだ。

 けれど今見せられているシズは、時折見せた背筋がぞっとするような怖さというか威圧感を感じる。

 美しすぎて怖い。

 けれどそれをどこかでエルフィンは見た覚えがある事を思い出した。確か、


「“破壊の神”に、似ている?」


 その呟きにシズがびくっと反応した。

 すると、まるでそれが夢か幻であったかのようにそういった雰囲気も何もかもが無くなって、いつもの平凡で普通なシズに見えてしまう。

 その奇妙さにエルフィンは疑問を覚えていると、そこで唇を離したフィエンドが、


「俺は、“破壊の神”に似ていないと聞いたが」

「似ていませんね。美形ではありますが」

「似ていると言わなかったか?」

「言い間違えただけです」


 エルフィンは微笑んで、さらっと嘘をついた。

 この話はフィエンドにしない方が良いだろう、せっかく二人が幸せそうだからとエルフィンは判断した。

 そしてフィエンドもそれ以上追求しない。

 フィエンドはフィエンドで、誰が誰に似ているの分ったから。そう思いながらフィエンドはシズを見て、


「最近、シズの可愛さや美しさが他の奴等に気づかれているようで気が気じゃない」

「そんな事を言うのは、フィンだけだよ」

「……シズが遠くにいてしまいそうで、俺は、怖い」


 そのフィエンドの言葉に、シズははっとしたように見上げて、そして少し考えてから、


「……大丈夫。僕はフィンの傍にいるから。それが僕の望みだから。愛してる」

「俺もだ、愛してる」


 そう言って再びキスを交わして抱きしめあう。

 戻ってきてからこの二人は特にいちゃいちゃするようになって、それが、エルフィンにはとても羨ましくて。

 くるっとオルウェルの方を向くと、オルウェルにびくっとされた。

 あまり攻め立てても仕方がないと思って、エルフィンは怯えるオルウェルに近づいていって、ぎゅうと抱きついた。


 それ以上何もしないで、代わりに少しオルウェルの服に顔をこすり付ける。

 すると、オルウェルの手がエルフィンの頭を撫ぜた。

 それが心地よくてエルフィンが小さく笑うと、オルウェルも微笑む。

 珍しく穏やかな二人だった。


 そんな時、窓にこつんと白いものが当たる。

 紙飛行機のようなそれだが、シズは一目見て警戒するように目を細める。

 そこでフィエンドが窓を開けてその紙を取って、さっと中を読むと、シズに見せる前に燃やしてしまう。そして、


「少し出てくる」

「今の、“闇”の気配がしたよ?」 

「少し様子見するだけだ。それに一人のほうが都合が良い」

「でも……」

「俺は強いよ。シズはそれが信じられないのか?」

「……分った」


 頷いたシズにフィエンドはキスをして、暗くなった空を見上げる。

 ポツリポツリと街灯に白い光が灯っている。

 紛れ込むには暗くて良いなと皮肉げに思いながら、フィエンドは部屋を後にしたのだった。





。" ゜☆,。・:*:・゜★+★,。・:*:・☆゜"




 そんなフィエンドを不安そうに見送っているシズ。

 と、エルフィンが、


「シズ、どうなるか見ましょうか?」

「気持ちは嬉しいけれど、いいよ。不安になったら助けに行くし」

「フィエンドを、ですか?」

「うん、フィンは繊細で優しくて、だから僕のために傷つこうとするかもしれないから」

「そうですか」


 シズにとってのフィエンド像にエルフィンはちょっと呆れてしまう。

 本当にどれだけフィエンドのことをシズは愛しているのだろうと。

 けれどそれなら、


「僕が見た方が良いのでは?」

「え? いいよ。どうせ僕は見れないから外れたも同然じゃん」


 エルフィンの予知にシズが出てこないからそういったのだが、シズのその言葉はエルフィンのプライドに響いた。


「それは僕へと挑戦ですか?」

「外れさせる自信があるもん。僕は見えないのでしょう?」

「なるほど……では、勝負しますか?」

「え? えっと、エル、なんだか怖いよ?」

「僕が鬼ごっこでシズを捕まえられなかったら、僕の矜持を傷つけた事は見逃してあげます」

「えっと……そんなに酷いことだったんだ。ごめん、そんなつもり無くて……」

「いえいえ、ですから、僕がもしもシズを見つけたなら、オルウェルと一緒に三人でしましょう!」

「「いや、その理屈はおかしい(だろう)!」」


 オルウェルとシズが同時に叫ぶも、エルフィンは楽しそうに笑い、


「大丈夫ですよ、優しくしますから」

「エ、エルフィン、それはフィエンドが怒り狂うだろう……」

「僕の欲求不満を全部オルウェルが受け止めてくれないからいけないんです」

「シズ、私のためにもよろしく頼む」


 オルウェルが自分の保身のために裏切った。

 けれどその答えはエルフィンには気に喰わなかったらしく、その時点でオルウェルはエルフィンに襲い掛かられていた。

 それを本当に仲が良いな、エルフィンはオルウェルを愛しているなと思いながらシズは、どうやらエルフィンの逆鱗に触れてしまったらしかった。

 どうやって逃げようとシズは考えていると、そこでシズは気づいた。


「……フィン」


 フィエンドの名前を呼んで、エルフィンとオルウェルが止めるまもなく、シズは走り出したのだった。



。" ゜☆,。・:*:・゜★+★,。・:*:・☆゜"



 まさかこの自分を呼び出すとは、そう思ってフィエンドはその愚かさに……特に感情を覚えなかった。

 そんなものを無視してしまってもいいし、実際に幾度かそうした事がある。

 けれどそこに記された名前には、覚えがあった。

 アンノウン。

 シズに手を出して、結局はアースレイ達に邪魔をされて、フィエンド自ら手を下す事はできなかった。

 あの時は一度引いたが、こうしてわざわざフィエンドの前に姿を現したのだ。

 これは自業自得。

 フィエンドの大切なシズに手を出したのだから。


 そう淡々と考えて、表情を変えないフィエンドは、内心で怒り狂っていたのだ。

 シズの事となると、フィエンドは沸点が数倍以上低くなる。

 それを計算し損ねたアンノウンも、先日からブラウニングに弄ばれた影響で、フィエンドの人となりを考える事を失念していた。

 やがて指定された場所にフィエンドは来ると、その暗闇の一角に向かって低い声で告げた。


「出て来い。呼び出したのはお前の方だろう」

「いやー、あまりにもフィエンド様が怒っているので、僕は怖くて怖くて……」

「御託は良い……何のようだ」


 とりつく島もないフィエンドの言葉に、アンノウンは肩をすくめながらゆっくりとフィエンドの前に姿を現す。

 その周りには以前入学式のときにシズに倒された黒いカラスのような作り上げられた魔物を数羽、従えていた。

 白い街灯の光の中、黒い外套をまとっているのも相まって、濃い闇を引きずるように現れたアンノウンは笑みを深くする。


 今回のアンノウンの目的は、フィエンドだ。

 どうやら“破壊の神”の血を引いているらしいが、所詮、アンノウンよりも遥かに幼い子供である。

 そんな彼を捕らえることなど、少し難しいがこの人形だけで出来ると判断した。

 しかも魔物達まで連れてきているのだから問題ないと。


多少弱らせて記憶を塗り替えるなりなんなりしてしまえば完璧だ。

 同じ、“神”の血を半分引く者が一人増える。

 それはずっと一人だったアンノウンにとっても嬉しさがある。

 加えてフィエンドがこちら側につけば、フィエンドを愛しているシズもこちらに来るのだ。

 フィエンドの恋人という形なのは、アンノウンはお気に入りがとられるという意味でいやな気持ちもあるが、もっと以前よりは手軽に会えるだろう。


 そんな事を打算していたアンノウンだが、そこでフィエンドが、


「用がないならば帰るぞ」

「いえ、実はですね、貴方も我々にとって必要なんですよ?」

「そうか」

「驚きませんね。前から貴方をこちら側に連れて来る話があったのですが、ご存知ありませんか?」

「それをお前に話す義理はない」


 表情を変えずに冷たく威圧する声で告げるフィエンド。

 その声だけでも常人では震え上がってしまいそうな、そんな恐ろしさがある。

 けれどそういった人間を見慣れているアンノウンは、それを嗤ってから、


「貴方は半分、“破壊の神”の血を引いている。こちらに来るべきです」

「興味がない」

「まあ、うちと貴方の家とは仲があまりよくありませんからね。けれど、対立するばかりが能ではないでしょう?」

「お前たちとは組むつもりもない。そして……俺は、お前が俺のシズに手を出した事を許していない」

「あー、あれはちょっと味を見ただけで、最後までしていませんよ?」

「触れただけでも許さない」


 そう、フィエンドはアンノウンに冷たく告げたのだった。



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