一つ目の結末
ふと、フィエンドはゲームを進める駒を止める。
そのフィエンドの躊躇する様子に、連敗中のオルウェルはにやりと笑って、
「どうしたフィエンド。負けを悟ったか」
「……シズが脱走したような気がする」
オルウェルが嬉々として動かそうとした駒をぽとりと落とした。
そして見る見る顔が蒼白になり、
「……何となくだろう。フィエンド」
「シズの性格だと、やりかねない。迎えに行って来る」
「何処へ」
「神殿に」
「……ついでに何かしようとか考えていないだろうな」
「シズの事だから、エルフィンも連れて来るだろう。だからついでに更地に……」
「だからそれを止めろと!」
オルウェルが、いい加減にしろというようにフィエンドに告げる。
とはいえ、フィエンドの気持ちはオルウェルには痛いほど分る。
なまじ理性的で堅物な分、オルウェルはそういう行動をとらないわけで、本当は今すぐにでもエルフィンを連れ戻したい。
けれどそれだけの力がオルウェルにはない。
本来なら、神殿のものと通じることでエルフィンは引き戻さない約束だったのだ。
気づかれた……というわけでなく、初めからオルウェルとの約束を彼らは守るつもりは無かったのだ。
そういった考えが頭に浮かんで、堰を切ったように感情が流れ出しそうになるのをオルウェルは必死に押さえながらフィエンドを押さえようとする。と、
「すまなかった」
フィエンドから意外な言葉が出て、オルウェルは目を見開く。
あの唯我独尊のフィエンドが今何を言った? すまなかった? ……私は疲れているのだろうかとオルウェルが呆然としていると、フィエンドが更に、
「お前が、エルフィンに精一杯な事も分っていたのに、俺はつい感情のままに動いてしまいそうになる」
「自覚があるんだったら、もう少し自重しろ。いつもの完璧超人で冷徹なフィエンド、はどうした」
「……俺は、完璧超人なんかじゃない」
「ふん、それそれの力を持って、いつもなら冷静に……シズがらみ以外なら冷静なお前が完璧超人でなければなんだというんだ」
「……褒められたと受け取っておこう。だが、俺はそこまで色々出来るわけじゃない。昔は、オルウェル、お前以上に何も出来なかった」
「面白い冗談だな、幼い時から神童だったんじゃないのか?」
フィエンドの才に関しては、有名だったから。
この容姿も含めて、目立つ存在だった。
けれどそこでフィエンドは頭をふり、
「それは、シズに出会った後の俺だ。俺は、その前は酷く体が弱くて、消えてしまいたいと思っていた」
初耳な話にオルウェルは目を見張る。
けれどそんなオルウェルに、フィエンドは、
「シズに出会って、あの輝きに俺は憧れて、そしてそれまで自分ができなかったことを全部やろうと思って、努力した。本当は、シズが再び会った瞬間、捕らえて放さない様な魅力的な人間になりたいと思っていたんだ。会うつもりなんて無かったのに、愚かだ」
「……別に恥じる事ではない。認めるのは癪だが、私はどうやってもお前には勝てないからな」
「関わりのない他人の評価ではなく、評価して欲しい人間にされたのなら、それで十分だろう」
「誰だ?」
「お前の場合はエルフィンだろう? 何時だってエルフィンは、お前に夢中だった」
「本当に?」
「無意識だろうが、抱いている時にお前の名前を呼んでいた」
「その程度にお前にエルフィンは心を許していたという事か? エルフィンはそんな失敗はしない」
「お互い本当に欲しいものが手に入らない者同士、傷を舐めあっていた部分もある」
そう呟くフィエンドを見ながら、オルウェルは、
「随分と饒舌だな。らしくない」
「シズがいなくなることがこんなに堪えるとは思わなかった。しかも、酷い目に遭うかもしれないと思うと気が狂いそうだ。ようやく、決めて、手に入ったのに」
「……弱っているな。だが、私も自分の事で精一杯だ。お前が今言った事を考えるなら、今のお前を見ている限り、お前の兄がここに来たのは正解だな。とてもではないが任せられない」
それにフィエンドは珍しく反論できないようだった。
けれどオルウェルは、フィエンドに対してほんの少し人間らしい部分もあるのだなと考えを改めるも、そこでフィエンドは駒を進めた。
「俺の勝ちだ」
「ぐっ! 弱っている割に連勝だな」
「お前が弱いだけだ、オルウェル」
「……」
「……」
「もう一回だ!」
そう、オルエウェルは、癇癪を起こした子供のように叫ぶ。そこで、リードが息を切らして走りこんでくる。
「神殿に、魔物が現れた。状況が変わったから、これで堂々と入り込める」
その言葉に、フィエンド達は立ち上がり、駆け出したのだった。
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“破壊の神”は去っていくシズ達の気配を感じながらも、別の人間がここに近づいてきている事をに気づく。
現れたのは年若い長老のブラウニング。
現在の……シズの叔父の恋人の異母弟に当たる彼は、“破壊の神”もしっていた。
けれどそれ以上に、“維持の神”がワーワー騒いでいたのでその印象が強かった。
とはいえそんな内輪の話はおくびにも出さず、彼の目的に気づいて“破壊の神”は笑う。
「気が早いんじゃないのか?」
「……ご存知でしたか。ですがすでに準備は整い舞台ははじまっています。そして貴方様が来られたこの千載一遇のチャンスを活用したいかと」
「お前の味方をしろと?」
「認めていただけるだけで結構です」
「後は自分でやると」
「はい」
「……相変わらず恐ろしいな、人間というものは」
「お褒め頂ありがとうございます」
その会話を聞きながら、“破壊の神”はこの若い長老が頂点に立つであろう未来を見る。
どの道、自分の末裔を“姫”として扱う奴らを許すつもりなど無かった。
干渉するなと釘を刺されたから止めただけで、本当は今すぐにでも八つ裂きにしてやりたい。
けれどそれも、長い時間をかけて苦痛を味わうように終わるのだと思えば、“破壊の神”も溜飲が下がる。
そこで、“破壊の神”の手に握られている髪にブラウニングは気づき、
「それは?」
「こちら側にこれから容易に来るために必要なものだ」
「もう一柱の神も、いらっしゃるのですか?」
「それほどすぐにではないはずだ」
「わかりました」
何が分りましたなのかに気づいて、“破壊の神”は心の中で笑う。
親がいないうちに、あらゆる手も使い口説き落としてしまうつもりなのだろう。
そんな思惑が、“維持の神”の子に夢中なブラウニングから透けて見えて、“破壊の神”は面白いと思う。
相変わらず人は面白い。
そう思いながらも、“破壊の神”は別の事を問いかける。
「あの、シズという少年が脱走したようだが」
「知っています、エルフィンを連れて。ですが誘導しようにも予想外の方向にばかり行ってしまい、困っています」
「むしろ捕まっていた方が逃がしやすかった、と?」
「はい」
「もしかしたなら、私や彼に無意識の内に会いに来ていたのかもしれない」
黙るブラウニング。そして、
「……ですが彼は天敵のようなものですが」
「本気になればあのシズに敵はいない」
その言葉に黙ってしまうブラウニング。
けれど“破壊の神”はそれだけではない事にも気づいていた。
奇妙な“闇”の鼓動をそこかしこに感じる。
それに警戒したのかもしれないと“破壊の神”は思う。
なまじ中途半端に覚醒しているようだから、あのシズは。
「……分りました。それでは失礼します」
ブラウニングが、そう丁寧に一礼してその場を去る。
さて、どうなるかを見届けて、少し様子見をしてから戻ろうと“破壊の神”は思う。
相変わらず、人間達の現実という名の劇は面白いのだから。
それに、“破壊の神”も会いたい人がいるという理由もある。
「悪いが、もう少しこちらにいさせてもらう」
そう、悪びれるように“維持の神”に向かって“破壊の神”は呟いた。
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「シズ、なんだか余計に深くなっていませんか? こんな深い場所、僕も来たことがありませんよ?」
「……でも、ここに行っておいた方がいい気がするんだ」
そうシズは告げて、走っていく。
仕方がないなとエルフィンが思っていると、隠れるように襟首の下に良く見れば黒い模様のようなものが見える。
シズ、とエルフィンはそれについて問いかけようとするも、そこで白い部屋があらわれた。
窓もない地下で、けれど幾つもの灯りが浮かんでいる。
そこには水が張られており、その中心に大きな鳥かごがあり、誰かが小鳥のように囚われていた。
誰だろうとエルフィンは目を凝らす。
と、そこでシズが嫌そうな顔をして、
「……変な奴の所に来ちゃった」
「その言い方はないんじゃないかな。僕は君に会えて嬉しいよ? それに“姫”もいるしね」
その声に、エルフィンは気づいた。
アンノウンだ。
けれどその鳥篭に囚われている彼は、いつもの不気味さとは違い酷く倒錯的な美しさが見て取れる。
黒い鳥篭の格子に、彼を捉える鎖とは対照的な銀色の髪い青い瞳。
色調からも静かな印象を受けるが、ただ赤い唇は何処か病んだ笑いを浮かべて、そこだけは今までの印象と変わらなかった。
そんな彼はくすくすと楽しそうに笑いながら、
「僕に会いに来てくれたのかな? シズ」
「……付く相手を間違えると、酷い目に遭うよ?」
「あいつみたいな事を言うのは止めてくれないかな」
先日散々体を弄んだブラウニングを思い出してアンノウンは機嫌が悪くなる。
けれど同時に体が火照る。
その意味にアンノウンは、違う違うと首を小さく振ってから目の前の獲物達に目を移す。
「それで、二人とも逃げられると思っているのかな? しかも僕を前にして」
その意地の悪いアンノウンの物言いと、この危険な相手にあってしまったならもう捕まるしかないのではないかとエルフィンは思うも、そこでシズが、
「逃げられると思っているし、大体鳥篭に捕らえられているんだから手出しできないでしょう? ……は!」
そこで何かにシズが気づいたらしい。
けれどエルフィンはあんまり良い事ではない気がした。
だってシズが悪そうな笑みを浮かべているから。
「という事は、手出しの出来ないお前に悪口を言いたい放題できるって事! 散々怖い思いさせたんだから仕返ししてやる! やーい、ばーか」
「な! ふん、子供だねー」
「はーげ」
「禿げてない!」
「変態変態!」
「手を出したくなる容姿をしているシズが悪い!」
「な! 僕は平凡だ! そっちこそ自分の姿を鏡を見てから言え!」
「何だウィルに似て可愛くてこんなに跳ね返りな性格で、弄りたくてたまらないのが悪い!」
「叔父さんに手を出そうとしたのですか! というか、何歳?」
「さあねー、忘れちゃった。というかまた弄ってやる」
「かごの鳥が何を言っているんですか、ばーか」
「馬鹿っていったほうが馬鹿なんだ!」
子供じみた仕返しと応答に、シズ……とエルフィンは嘆息しそうになりながらも、そういえばこのアンノウンにはずいぶんと嫌な思いをさせられたなとエルフィンは思って、ついでに彼の容姿をまじまじと見て、
「何処からどう見てもされる側の人ですね。何でシズを襲っているんでしょうね」
その言葉が、何故かアンノウンの心を一番えぐった。
黙ってしまう様子に、エルフィンは今までの諸々の嫌な思いを思い出して、色々なストレスからエルフィンもほんの少しS心がうずいて、
「おやおや、その様子ではどなたかに襲われてしまいましたか? そういえば貴方は独断行動が多いと言われていましたね? 案外シズを襲った事でお仕置きを誰かにされたのでは?」
アンノウンが更に黙った。心なしか小刻みに方が震えている。
らしくないその様子にシズは空気を読んだ。
「エ、エル、そこでやめたほうが良いかも」
「どうしてですか? シズ」
「えっと、なんだか挑発しすぎた気が」
「でもあそこに閉じ込められているではありませんか。きっと悪さをしすぎるから閉じ込められたのかと、普段から神殿内をうろついていましたから、彼」
そう笑うエルフィンだが、そこで、アンノウンが暗く笑う。
「ふふふふ、面白いですが違います、“姫”。僕はずっとここに閉じ込められていて、外にいるのは全部僕の人形達なんですよ、こんな風な、ね」
アンノウンが何かを小さく呟く。
すると水の底から何かがばさっと立ち上がる。
それはアンノウンと同じ形をしていた。
しかも何体も現れる。
けれどシズはそれに纏わり付く気配に目を細める。
「……なんで、君が“闇”に染められているの?」
「ここはそういう場所だというのもあるし、仲間だと思ってもらわないと僕の身が危ないからね」
「“闇”に染められているから、嫌な気配が染み付いている」
「慣れると結構心地が良いよ?」
「早いうちに、止めた方が良いよ。巻き込まれて酷い目に会う前に」
「ご忠告ありがとう。でも、今はそんな事を気にしている暇があるのかな?」
「……言う事は言ったし、エルフィン、行こう」
シズはエルフィンの手を握ってきびすを返す。けれど、
「逃すと思うのかい?」
笑うアンノウン。
そしてシズたちへと向かってくるそのアンノウンの姿をした何か。
けれどそれをシズは一瞥する。
それだけでそれらが砂のようにさらさらと解けてしまう。
「邪魔するな」
短く一言告げるシズ。
それにアンノウンは、今までとは違う得体の知れなさをシズに感じる。
違う、確かにアンノウンはシズから巨大な力を前に感じ取ったのだ。
それこそ……アンノウンを凌駕するくらい。
彼が本気を出せばアンノウンは一たまりもない。
そもそも今ここにあるのは分身の人形である砂ではなく、本体である。
シズほどの力がないものであれば本体であるアンノウンが一番強いので問題ないのだが、相手はこれである。
まともにぶつかって怪我をする危険はおかしたくない。
加えて、アンノウンは長いものには巻かれる主義だった。
「あー、はいはい。それでは、僕は何も見なかったということにしておきます。それと今度からは君に、リグと読んで欲しいな」
「リグ……覚えておくよ。行こうエルフィン、そろそろ時間だから」
「時間?」
けれどその問いにシズは答えない。
とはいえアンノウンはシズの言うその意味が分っていたが。
末期だな、と笑うと同時に、自分から名乗るのは久しぶりだなとリグは思って、次はどうシズに手を出してやろうかと思案する。
まだ起っていない事には命令は出せないから、リグはそちらは静観する事に決めていた。
それが更なる墓穴を掘るとは知らずに。
そしてエルフィンもシズがいつもと違って、否、いつも以上に強さを感じる。
そういえば、“破壊の神”はシズを知っているようだったが、本当はシズは一体何なのだろうとエルフィンは思う。
けれど、すぐにその考えをエルフィンは自分の中から振り払う。
シズは、エルフィンの心も溶かしてくれるような親友、それで良いのではないかと。
エルフィン自身もこの力を恐れられたのだ。
だから、それを知りながらも友として傍にいてくれるのなら、それで良いとエルフィンは決める。
そこで、ポツリとシズが呟く。
「僕は、普通の人間だ」
それがシズがシズ自身に強いているように、エルフィンは感じられたのだった。
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渦巻く“闇”の気配。
それが幾つもの形作りはじめる。
その準備をした者達はすでにここにはいない。
ここから逃げて安全な場所にいる。
否。
目的のある者もいる。
すなわち、混乱に乗じて事をなそうという者。
混沌はすぐ傍にあったのだった。
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ゆらゆらと黒い影が立ち昇る。
異変に真っ先に気づいたのは、シズ達を探している兵達だった。
その禍々しい気配に兵達は慌ててその部屋から出てソン部屋を隔離し人集めに奔走する。
まず守られるのは神子や“姫”、高官達。
けれど。
逃げ出す時間は気づかれた時にはすでに無かった。
あふれ出る瘴気に獣のような咆哮。
襲い掛かる魔物達は大きいものが三匹、小さいものが二匹。
けれどどれも力が同じ程度なたため、小さいものの方が小柄ですばしっこい分厄介だった。
とはいえどれもが恐ろしい魔物以外の何者でもなかったが。
「何故、こんな事に」
オルトネイは呟く。
しかも現れたのは神殿ないでもオルトネイの支配下にある場所だった。
面倒な、一体誰が、罰を与えてやると怒りに任せて指示を出し自身も逃げる準備をする。
こちらですと誘導されるがままに出口に向かおうとするオルトネイ。
エルフィンは、この際諦めるしかないのかとふと考えるも、傍にシズというあの少年が、都市を滅ぼす魔物達を食い止め、エルフィンが追放に近い事をされる切欠を作ったあの少年が、そして……もう一人であるであろうかの少年がいるならば生き残れるだろうとオルトネイは笑う。
その時再び手中に収めれば良いだけだ。
そしてシズにはエルフィンを連れて逃げた罰を与えねばならない。
遠くで悲鳴と方向が聞こえる。
阿鼻叫喚の地獄と化している事だろう。
「ブラウニングという若造は若さゆえに対応せざる負えないだろうがな」
もともと彼は王族とも繋がりがある。
そしてあの忌々しいフィエンドの実家とも仲はそれほど良くないが、関係はある。
それもあってか以前の魔物の襲撃に対して総指揮をあいつがとっていたのだ。
今回もそうなるだろう。
お陰で自分は逃げられるのだとオルトネイは思う。
とんだ貧乏くじを引かされたなと、そのまま魔物によって命を落としてしまえばもっと楽なのにな、とオルトネイは笑う。
けれどそこで、オルトネイは“破壊の神”が今ここにいる事を思い出して、幸運が彼らに味方しているように思得て舌打ちをしたい気分になった。
とはいえ沈静化してからその罪をあいつに被せてしまうのも良いとオルトネイは思案する。
あの身の程知らずな若者を踏みつける快感を思えば心が躍る。
それらは全てもう少し後になってから。
事後処理も含めて彼ら忙しい時期も含めて、オルトネイには策略を練る時間があるのだから。
そんなオルトネイは、自分の護衛が随分と少なくなっている事に気づかなかった。
目の前の誘導をする兵に一人に、後ろの兵一人。
相変わらず無表情な彼ら。
そこで風を切る音をオルトネイは聞いた。
「ぐ、あっ?」
背中に衝撃を感じた。
オルトネイにはそれしか分らない。
休息に体の力が抜けてじくじくと胸に痛みが走り、けれどそれがどうしてか分からず意識を失う。
そのままオルトネイは地面に転がる。
それがオルトネイのあっけない最後だった。
年老いた男の死体に、その兵の一人が呟く。
「貴方は必要ありません。あちらの方が、我々には都合が良いのですから」
感情のない声で兵士が告げる。けれど聞くものは傍にいるもう一人の仲間しかいない。
そして彼らは、オルトネイが事切れているの確認してから、兵達はその場からはなれる。
そんな彼らの体に黒い闇の気配が漂っていた事に気づく者は誰一人いなかった。
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悲鳴が響く。
けれど“破壊の神”は動くかどうかを悩む。
「干渉をしすぎるのは、人間の自立を奪うから……理由は分かるが、気持ちの良いものではないな。……とはいえ、俺の末裔に手を出すような事があれば、手を出すが」
そうにいっと笑う“破壊の神”。
久しぶりの破壊は、“破壊の神”にとって楽しみでもあるのだが。
そこでシズが動く気配を感じて、魔物の気配が二つ消えた。
そして、傷ついた弱々しい人間の気配が再び大きくなる。
それを感じながら“破壊の神”半眼になって、
「一番好き放題干渉しているのはお前の方じゃないか。……ああ、今は人間だからか」
ずるい抜け道だと思いつつ、けれど、それで人が守られ癒されるならば良いだろうと“破壊の神”は一休み仕様とベットに横になる。
どうせ“闇”は、“闇”が幾分か混ざっている“破壊の神”に手出しはしない。
それは“維持の神”にも同様だが。
そう、純粋な“光”であるのはただ一人だけなのだ、手を出すのは。
適当にいつもあしらわれていたが。
そして維持と破壊の力である魔法を使う人は、“闇”により近くなる。
だから、“闇”に誘われてなびき、光を差し出す事も厭わなくなるのか。
「そんなに簡単ではないか」
一言、最後に“破壊の神”は呟き、瞳を閉じたのだった。
。" ゜☆,。・:*:・゜★+★,。・:*:・☆゜"
目の前で魔物がいとも簡単に倒されて、そして倒れた人々が癒されていく。
「うーん、この魔物達、“弱い”ね」
「シ、シズ……どう考えても僕には、どうにか対応できるかという恐ろしい魔物にしか見えないのですが」
「そうなの? うーん、でももっと凄い魔物……昔、都市の半分を壊滅に追い込むくらい危険だったらしい魔物も倒した事があるけれど、それと比べたら可愛いものだと思う」
「都市の半分を壊滅、ですか?」
その単語にエルフィンは、ぞくっとする。
だってそれはエルフィンがここを追われかけて学園に入った切っ掛けで、けれど、エルフィンにとって大切な、出会えた奇跡に感謝してしまうようなオルウェルと触れ合う事の出来た切欠なのだ。
それが、全てシズに起因していると?
あの神殿と暗闇で笑っていた自分の隙間を埋めて満たしてくれる、そんなオルウェルに出会えた、そんなものがあるなんて知らなかったエルフィンにオルウェルは、そう、“愛”を教えてくれて、その始まりがシズで。
「ありがとう」
「? 何が? ああ、大丈夫、魔物は全部倒すから」
誤解したらしいシズ。
けれど出会う前から、エルフィンはシズに一見不幸に見えるような幸運をもらえた事に気づいて、微笑む。
こんな風に人と人が繋がっているなんて思わなかった。
そしてそんな温かい気持ちを覚えながら、“破壊の神”にで会えた事もエルフィンは思い出して、自分の中で何かが変わった気がした。
シズが魔物と戦っている間に、エルフィンは怪我をした人達の癒しを行い微笑む。
せっかくだからと悩殺しつつ、エルフィンは癒していく。
「エル……」
「どうかしましたか? シズ」
「……オルウェルがやきもちを焼くよ?」
「焼かせておけば良いんです」
それ以上シズは何も言わなかった。
ちなみにこの時思ったのは、オルウェルってエルフィンに弄ばれるのが好きなマゾなんじゃないかという疑惑だったのだが、それは良いとして。
「でも、シズ、強いですね。こんな強い人だとは思いませんでした。それに警報にも引っかからないし」
「警報?」
「神殿内で人が強い魔法を使うと、そういう物が鳴るのですが、壊れているのでしょうか」
もっとも、緊急事態だから仕方がないですねとエルフィンは笑う。
そこでシズが顔を蒼白にしている事に気づく。
「鳴るもの、なの?」
「ええ、でも壊れて……」
そこでエルフィンは以前、図書館で入ったり出来ない場所にシズが入り込んでいたことを思い出す。
その時も警報は作動しなくて。
ここでエルフィンがそういった魔法に関する意味で、シズが認識されていないのではという可能性に気づく。
理由は分からないが、そしてそれはシズにとって恐ろしいものであるらしい。
そして先ほどの言葉で、シズは人だと自分に暗示をかけているのだろうかとエルフィンは気づく。
そう思うと、以前よりもシズが、平凡とは言い切れないような美しさを放っている事に気づく。けれど、
「僕は平凡だ」
たった一言呟いて、同時にエルフィンはシズが平凡に見える。
この変わり様には目を疑いたくなるエルフィン。
そういえばフィエンドはシズを綺麗だといっていたと思い出して、彼だけはシズの本質を見抜いていたのではないかとエルフィンは思って、そこで、獣の方向が聞こえた。
首の三つある肉食獣の大柄な魔物が襲い掛かってきて、エルフィンは自分に向かってくるそれに大きく目を見開いて……今更ながら実戦経験のない神子なのだとエルフィンは自覚して、そこでシズに庇われるように棒立ちになったエルフィンは押し倒される。
「シズ!」
エルフィンはシズの名を呼んで、その背後に大きな魔物の牙が、宙を舞う魔法の炎が見て取れて……そこで、魔物が粉々に吹き飛ばされる。
その力の巨大さに、助かったながらもエルフィンは恐怖を感じてしまう。
シズの穏やかさではなく猛々しい何かを壊そうとするその魔力。けれど、
「シズ、それにエルフィンも大丈夫か?」
焦るような、息を切らす声。
その声にはエルフィンは聞き覚えがある。
そしてその声にまたシズも、安堵する。
彼がいるなら、きっとシズはシズのままでいられるから。
だからシズは彼の名を呼んだ。
「フィン!」
「シズ、無茶をして。怪我をしたらどうするんだ」
「だって、僕は強いもん」
「……今だって危なかっただろう!」
怒ったようなフィエンドの声にシズはごめんなさいとしゅんとする。
それはエルフィンにはいつものシズに見えた。
そしてエルフィンから離れて、シズはぎゅうとフィエンドに抱きついて、
「会いたかった」
「俺もだよ。連れ攫われたと聞いた時、俺がどんな気持ちだったか分かるか?」
「ごめんなさい」
「……やはりこんなにシズは俺の事を心配させるから、閉じ込めてしまおうか。誰も知らない場所に」
「無理だと思う」
「……」
「……」
「……やっぱり戻ったら週末まで待たずにシズを犯しておこう」
「えうっ! なんで!」
「俺を心配させた罰は、シズは受けないといけないよな?」
「で、でも僕は被害者……むぎゅう」
そこでフィエンドはシズをぎゅうと力強く抱きしめて、シズを感じながらほっとする。
シズがどんな形でも傷つけられていたならと思うと気が狂いそうだった。
そしてもう二度と自分の手に戻ってこないのではないのかと、そんな悪い想像ばかりが浮かんでずっと苦しい思いをしていた。
そんなフィエンドの不安をシズは感じ取り、
「ごめん。フィン、大丈夫。僕はフィンの傍にいるから」
「……離れたいなんて言われても、俺はもう逃せない」
「……うん」
そんな幸せそうなバカップルに、そこで、
「おい! そこでいちゃいちゃするな! 怪我人の手当てを手伝え!」
オルウェルが走ってきて怒ったように怒鳴る。そして次にエルフィンに気づいて、すぐさまエルフィンにオルウェルは走り寄る。
「エルフィン……良かった、無事で」
「……僕は自分でここに来たのですよ?」
「知っている。それでも、私はエルフィンに傍にいて欲しいし、心配した」
「……どれだけお人よしなんですか、オルウェルは」
「お人よしなんかじゃない。私は、エルフィンを諦め切れないだけだ」
その言葉にエルフィンは瞳を見開いて。
嬉しい事を言ってくれますね、恥ずかしい人です、とか、本当に一途ですね、とか、いつもならば照れ隠しもかねて余裕を持ちながら軽口を叩くのに、この時は、感涙極まった感情を覚えてエルフィンは、
「そんなオルウェルを僕はお慕いしています」
そう、気恥ずかしさを覚えながらも、エルフィンは素直に口に出してみた。
が、そこでオルウェルは顔色を悪くして、エルフィンの肩を掴みながら真剣な表情で、
「エルフィン、やはり熱か何かあるのか? いつもなら、『本当に一途ですね』とかそういう言葉が出て……ぐふっ」
エルフィンはそんなオルウェルをにこやかに微笑みながら軽く頭をはたいて、
「やはり貴方は朴念仁です、オルウェル」
そう一言告げてから、いちゃいちゃしているシズにちょっかいをエルフィンが手を出して、それにオルウェルが何故かフィエンドに突っかかる。
そこにあったのはいつもの光景だった。
。" ゜☆,。・:*:・゜★+★,。・:*:・☆゜"
こうして一つの出来事が終わり、平穏が戻る。
けれどこれはまだ始まりに過ぎなかった。




