それぞれの休日~休日の終了
シズの寝顔を見ながら、フィエンドは頭を抱えていた。
「何故だ、何故シズはこんなに可愛いんだ」
シズは眠っているだけなのだが、それがフィエンドには可愛くて可愛くて今すぐ手を出したくて堪らないのだが……現在手を出せない状況だった。
そんな眠っているシズの頭を軽く撫でて、優しげに微笑む。
このまま閉じ込めてしまえたなら、どれほど良かったのだろうと思いつつ、そういえばあのアースレイ学園長は誰かを閉じ込めるための部屋を作っているとか、彼の義理の弟であるブルーアイも、すでに丁度いい鳥篭に閉じこもっているので好都合だといっているらしいと思い出した。
あの二人と同じにするなと、フィエンドは自分自身で突っ込みを入れながら再びシズの顔を見る。
眠っているシズは穏やかで、その安心した様子がフィエンドを信頼しているように感じられて、フィエンドも心なしか穏やかな気持ちになる。
フィエンドは、都市でそうとは知らずに再会した時から、シズが特別らしい事に薄々感づいていた。
それ故に取り巻く環境が厳しい事も。
ましてや、フィエンド自身がこれほどまで溺愛しているのだから、弱点と思われて当然だった。
だから、人を何人もつけて手を出されないようにしていたのだ。
昔は何も分らず、ただただ純粋にシズの事がフィエンドは好きだった。
それ故に、今は色々な思惑もあって、考え過ぎてしまいそうになる自分がフィエンドには怖かった。
純粋にシズが好きなのに、それが穢れていくようで、その分シズへと伸ばした手が遠のいていく錯覚を覚える。
好きで堪らないからこそ不安を掻き立てられるのだ。
「シズ、愛してる」
答えを期待したわけではなく、けれど言葉に出す事で、シズが愛してくれている今の幸せを感じたかっただけだ。
そこで、シズが小さく呻いて瞳をぼんやりと開ける。
愛していると告げた言葉で起こしてしまったのかとフィエンドは焦るが、シズはふっと優しげに微笑んでフィエンドの手を握る。
「……大丈夫。フィンは僕が守るから。だから、安心して」
そう言うと、すぐに瞳を閉じてしまうシズ。
守るのは俺の方だ、とフィエンドは言い返そうとして……けれど、シズが傍にいるただ傍にいるというそれだけでフィエンドは満たされてしまう事実を思うと、フィエンドの方が逆にシズに守られている気がした。
本当にシズは不思議で、けれど愛おしいと思いフィエンドはそっと唇を重ねる。
触れるだけのキスは甘く、このまま貪ってしまいたくなるような獰猛な感情を覚えて、フィエンドは慌ててシズから体を離した。
けれどフィエンドはシズから目を離せない。
暫くその眠っているシズを見ながら、フィエンドは神話を思い出す。
忘れられた一人の神の話。
その力は、それは他の二人の神々よりも強い、と。
けれど彼はただ、地上を見守るのみだと聞いている。
「父様達は明言しなかったが、それとシズは関係あるのは間違いない。だから、狙われている?」
けれど以前都市に魔物の大群が押し寄せて恐ろしい事になるという予知は外れ、そしてその魔物達の痕跡はシズの村の傍で消えうせている。
どうしてシズはこんなにも“特別”なんだろう。
他にも代わりの効くような平凡さであれば良かったのに、とフィエンドは思う。
そうすればきっとフィエンドにとって“特別”なだけだから。
今よりもずっと思うがままにシズを独り占めできる。
忘れたくても忘れられなかったのだ。
それ位に想っていたから、父様達が連れ去ってこようとするのを必死でフィエンドは止めた。
確かに傍にいて欲しかったけれど、好きで堪らなかったから、だから、シズがあの村で幸せに暮らしていればそれで良かったのだ。
だからずっと、シズに関しては調べていなかった。
あの日の光に輝く宝石のような思い出だけを胸に生きていればそれで良いと自分を誤魔化して、結局は完全にでは無いが手に入れてしまった。
そこで、ふとシズはエルフィンと関係していたフィエンドをどう思っているのだろうと思う。
シズに他の誰かが触れそうになるだけで、フィエンドは怒りで燃え尽きてしまいそうになるのに、シズはといえばエルフィンと仲の良いお友達だ。
そう考えると、フィエンドは力が抜けてくる。
シズは変なところで抜けている。
とはいえ、シズはエルフィンと仲がよくて楽しそうなのでそれで良いと今はフィエンドは思っている。
フィエンドは、事情があってエルフィンと同室者となり、そして寂しさを紛らわすように体を重ねていた。
理由があってのことだが、シズと同じ黒髪に茶色い瞳の少年である彼にシズを重ねて、フィエンドは耐えてきた。
それはエルフィンも気づいていたし、エルフィンもフィエンドにオルウェルを重ねていて、時々抱かれている時に切なげにオルウェルの名を呼んでいた。
大切な相手と離れ離れになる苦しみはフィエンドの身にも覚えがあるためか、エルフィンをそういった意味でもフィエンドは大事にしていたのだった。
とはいえ、フィエンドはシズを、エルフィンはオルウェルを手に入れているような状況に今はなっているが。
「……こんな事になるなら、もっと早くに自分のものにしてしまえば良かった」
結果論だと分っていても、悩み続けた自分が今となってはフィエンドは愚かしいと思う。
どうせ耐え切れないのだから、悩むだけ無駄だったのだ。
だから、これからどんな苦難が降りかかろうとも守りきるとフィエンドは決意する。
そして、眠っているシズに寄り添うように、フィエンドもまたベットに入り込んだのだった。
そこは神殿の一角。
豪奢に飾り立てられた部屋の主は、年老いた男だった。
けれど眼光は鋭く、笑みを浮かべたとしても威圧感を感じる、そんな男だった。
そんな彼は、傍にいた少年を呼び、問いかける。
「エルフィンは、まだか」
幾度と無く聞いたその言葉に少年は、心の中で歯軋りをしながら、まだでございますと答えた。
目の前のこの年老いた男が、エルフィンに狂うほどに執着している事は有名だった。
“姫”と呼ばれる、神殿内部でも地位の高い神子であり、長老達に寵愛されるもの達。
若く美しく、予知という破格の力を持つエルフィンはその中でも特に魅力的だった。
その美貌に虜になった者は数知れず、その賢さもまた人を惹きつける。
けれどそれらを差し引いても、それ以上に人を惑わす生来の妖しい魅力にをエルフィンは孕んでいた。
その香りに惑わされてその身を滅ぼした者も多い魔性。
それは、この年老いた長老の狂愛に起因する事も多かった。
とはいえその寵愛を受ける事でエルフィンが他の“姫”に嫉妬に曝されて、現に傍にいる少年もまた、美貌と力を持つ神子であり“姫”だった。
エルフィンはここでは常に孤独だったが、それもこの年老いた長老の望みでもあった。
孤独であれば誰かを求めずにはいられない。
そしてエルフィンの心に誰かが巣食う事など、この長老は許さない。
そこで長老は、ポツリと呟く。
「フィエンド、か。エルフィンが共にいて、我々の求める若者……」
貴族の子であり、稀なる、“破壊の神”の血を半分も引いた子。
半分血を引く“維持の神”の子も手中に収め、多くの予知能力者も、他の幾人もの長老を治めたが、あのフィエンド一人でひっくり返される恐れがある以上、確実に捕まえる必要がある。
でなければ殺すか。
「……無理だな」
殺せるような相手ではないし、それに異分子が一人が彼を愛している。
シズ、といったか。
あれはフィエンドよりも更に恐ろしいが、それはただ力に関してだ。
捕らえる方法は幾らでもあり、そしてフィエンドさえ手中に収めてしまえば何の問題もない。
むしろあちらを先に捕らえてしまった王がことが早く進むだろう。
そうすれば完全にこちらの勝利だ。
そして、エルフィンも戻ってくる。
「そうだ、そうしよう」
待つ事に疲れた長老はにやりと笑い、傍にいた少年に指示を出したのだった。
夜になって部屋へと帰ってきたシズとフィエンドは、やけにつやつやしたエルフィンに出迎えられた。
その様子と、ベットの上でぐったりとしているオルウェルに気づいてシズは、
「エルフィンは……随分と元気そうだね」
「オルウェルの体力が無さ過ぎるのです。僕は、もっと……」
涙を浮かべて切なそうにエルフィンが言うも、それを聞いていたらしいオルウェルがびくっと震えて、真っ青な顔でベットから起き上がり、
「あれだけやったのに、まだ足りないのか?」
「あれだけしかしていないじゃないですか。じゃあ後は、フィエンドに相手をしてもらいましょうか」
ぺろりと唇を舐めてフィエンドをみるエルフィン。
一方オルウェルは、自分のふがいなさを感じたのだろう、悔しそうに横を向く。
その様子を見てフィエンドは嘆息して、
「……俺にはシズがいるから、もうエルフィンとはしない」
「へぇ? そんなにシズとするのが良かったのですか?」
「いや、まだシズに俺は手を出していない」
重い沈黙が部屋を支配した。
そしてエルフィンがそこで真剣な表情で、シズの肩をがしっとつかみ、
「シズ、酷すぎます。ここでお預けは流石の僕も酷いと思います」
「えっと、フィンのお兄さんに媚薬を飲まされちゃって」
「いいじゃないですか。一生面倒を見てもらえば」
「! で、でも……」
顔を赤くして焦るシズ。
可愛いなと思ったエルフィンは、シズがとても美味しそうに見えたので、
「もったいない……だったら僕が襲ってもかまいませんよね?」
「「それは駄目だ」」
珍しくフィエンドとオルウェルの声が重なった。
フィエンドはすぐさま固まっているシズを抱き寄せて自分の背に隠す。
そしてベットから起き上がったオルウェルがエルフィンを抱き寄せてそのままベットに引きずり込んだ。
オルウェルの表情は必死で、エルフィンはそれをニヤニヤ笑いながら見上げて、
「どうしますか? 貴方が僕の相手をしてくれますか?」
「……くっ、分った。だが、もう少しお手柔らかに……エルフィン、何故私の手を縛るのだ」
「オルウェルが逃げ出さないようにと、決まっているじゃないですか。僕はまだまだ全然オルウェルが足りないんですから……ね?」
微笑むエルフィンにオルウェルが悲鳴を上げたような気がしたが、フィエンドが不可視であり音の聞こえない壁を作ってしまったので中で何が起こっているか、シズは分らなかった。
そこで、シズはぎゅっと再びフィエンドに抱きしめられる。だからシズは、謝る事にした。
「……ごめんね、フィン」
「シズが謝る事はない。全部兄さんがあんな事するから……まったく、シズの体の事を考えたら休みしか手を出せないのに……」
「じゃあ、来週、しようね」
「シズ……」
「僕も、その……したかったから」
頬をかきながら照れたようにシズは言う。
確かにするのは怖いけれど、フィエンドと一つになれるのは、シズだって望んでいたから。
だから完全には拒めなかったのだ。
その言葉を聞いたフィエンドが、すぐさまシズをベットに押し倒した。
そのまま唇を重ねて、貪るように舌を絡める。お互いの熱を感じて、シズとフィエンドは夢中になってキスをして、やがて息が苦しくなって唇を離す。
赤くなった頬のシズに、フィエンドは優しげに笑いかけて、
「来週は、逃さないからな」
「……うん」
フィエンドの言葉にシズは頷いて、求められる幸せを感じて嬉しくなり、シズはフィエンドに抱きついたのだった。




