交換条件を差し出します
さて、フィエンドとオルウェルも、遅れながら授業に出たわけだが。
何故か、フィエンドとシズがとんでもない事になっているということで、授業の開始が少し遅れていた。
先生も含めて先に来ていた生徒達は興味津々という様子だが、フィエンド達に声をかける勇気は無いらしい。
そして授業が始まり、順番の関係上休んでいるわけだが、そんな折にフィエンドがリノに声をかけた。
「リノだったか? 一つ頼み事があるのだが」
「……どうしたのですかフィエンド様? 何だか気味が悪いですよ?」
「お前の恋人が確か豪商の息子だったはずだから、武器関係も扱っているだろう?」
最後の方の物騒な言葉に、リノも含めて周りの生徒が固まる。
「……一応何に使うのかお聞きしてもよろしいでしょうか?」
「神殿を更地にする。あと、この前剣術の授業でシズにけしからん事をした奴等を……」
暗く笑ったフィエンドにオルウェルが、
「待て! 別に悪気が有った訳では無いじゃないか!」
「オルウェル、何故その事を知っているんだ?」
オルウェルがしまったという顔をしてフィエンドを見る。
だが、それには深い訳がある。
「エルフィンが関わっている。それに、部下達も。たまたまそうなっただけで、わざとそうしたわけじゃない。そもそも、装備を整えていなかった学園側に問題がある!」
「……分かった。もっと温和な制裁にしておく」
温和な制裁ってどんなだよと思ったので、オルウェルは続ける。
「そんな事をしたらシズのこの学園の居心地が悪くなるぞ?」
「シズには俺がいる。だから問題ない」
「いや、フィエンド、お前はシズに悲しい顔をさせたいのか?」
「悲しいものから全てを遠ざけたいという気持ちが分からないのか?」
そこでオルウェルは黙ってしまう。確かに、自分もエルフィンの悲しそうな顔など見たくないし、悲しませるものになど近づかせたくない。
そんな駄目な感じの攻め二人に、リノはため息をついて、
「フィエンド様は今のシズが嫌いなのですか?」
と、爆弾を投下した。案の定、
「そんな事は無い! 今のシズが俺は大好きなんだ!」
「だったら、多少の自由は容認しないと。あんまり束縛し過ぎると潰れて壊れてしまいますよ?」
「けれど……」
「この学園でフィエンド様を恐れない人なんて基本は居ないですし、あまり束縛し過ぎると嫌われますよ? 僕だって、ロイがそんな恋人だったら嫌いになります」
説得力が有り過ぎて、フィエンドは黙った。
とりあえず一つ目の難関はクリアした。後もう一つは、
「ならば、神殿だけでも……」
「フィエンド、あまり相手を追い詰めすぎるとなりふり構わず抵抗するぞ?」
とりあえず、オルウェルはなだめるが、フィエンドはふふふと笑って、
「それ用に手は打つ。だから更地にさせろ。また動き出したという事と、シズに手を出した事をたっぷり後悔させてやる!」
「フィエンド、更地にすると言っている時点で、冷静な判断が下せていない。シズの事になると本当になんでそんな見境がなくなる……」
「オルウェル、お前だってエルフィンの事でシズに手を出そうとしたのでは?」
雲行きが怪しくなる。再び顔を真っ青にする周りの生徒達。と、
「所でフィエンド様、シズとの関係はどうなったのですか?」
リノが話題を変えようとした。
だがそれも地雷なのでは、と誰もが思った。
そこでフィエンドがふっと笑う。
「明後日、シズの全てを自分のものにする事にした」
本当に幸せそうに微笑むフィエンド。
よし、正解だ、とフィエンドを覗く周りの全員が思った。
なのでリノは続ける。
「フィエンド様は、シズとしたらそれで終わりなのですか?。捨てるのですか?」
「そんな事は無い!」
「だったら、デートもするわけですよね?」
「デー……ト? 確かに、そうだな」
「何処に連れて行くか決まっていますか?」
「決まっていない」
「じゃあ、どんな所か良いか決めておいてください。その案に合わせてどこが良いか紹介しますよ?」
と、無邪気にリノが話す。それにフィエンドも何かを感じ取ったのか、
「……どうしてそんなに積極的なんだ?」
「シズは僕の友達でもありますから。それに、初めては凄く印象に残りますよ? それなのに嫌な思い出にする気ですか?」
さすがにフィエンドはされる側の経験は無いので、リノの話しは参考になる。
シズとの思い出はいい物だけにしたい。
そんなフィエンドの様子に、リノは心の中で、よし、かかった、と呟いていたりする。
そして、更に畳み掛ける。
「後でお勧めスポットの本を持っていきましょうか?」
不安を煽ってから、その解決策を示す。さて、上手くいくかなとリノは見ていると、
「……そうか、だが持って来させるのはさすがに悪い。後でとりに行く。……ありがとう」
そう本当に嬉しそうにフィエンドが笑う。
その笑顔が優しくて綺麗で、確かにこれはシズの言う通りかもしれないと、リノはほんの少しだけ胸が高鳴ってしまう。
そこで、フィエンドの順番が来た。後に残ったリノにオルウェルは話しかける。
「助かった、ありがとう」
「いえいえ、その代わりメイド服の件はよろしくお願いします」
「……分かった」
嫌な事を思い出して気分が重くなるオルウェルだが、
「でも、考える事を与えておくのは良い手なのですよ? 余計な事を考えさせないようにね。色々面倒ですから」
オルウェルはリノって怖いと思った。力が強いとか弱いではなく、こういうタイプは味方に引き込んでおいたほうが良い。
「うちの派閥に入らないか?」
「中立って、意外に武装が必要なのですよ、両方の攻撃を受けないように対処しないといけないので」
「……本当に怖いな」
「僕は敵にも味方にもなりません。その方が僕は色々得ですから」
と笑うリノに、さてどうやって取り込もうかと考えるオルウェルだったが、
「所でオルウェル様、メイド服は何色がいいですか?」
「……オマカセシマス」
その質問に考える気力を失ったのだった。
。" ゜☆,。・:*:・゜★+★,。・:*:・☆゜"
森の中に入ったフィエンドは、自分についてくる気配に警戒する。
周りを気にせず戦えそうな場所に移動して立ち止まり、
「出てきたらどうだ?」
「ここまで分かって誘導したのかな?」
「……庭師?」
黒髪の細身の青年が現れる。声が何処となく、シズに似ているような気がする。
「ちょっと君がどういう子なのか知りたくてね?」
「……試したいのならさっさとしてくれ」
「あれ、余裕だね?」
「俺は貴方より強いから」
その言葉を合図に、剣を取り出してその庭師は攻撃してくるが、それをかわした挙句はじき返し、更に腕を掴んでひねりあげた。
「……痛い、痛い……分かった、僕の負け、だから放して」
その言葉にさっさと離すフィエンド。
その庭師は、はあっと困った容易に苦笑した。
「圧倒的で、僕では勝てないなんてね。魔法も使う余裕すら無いし」
「貴方から敵意は感じなかった。だから手加減しました」
「……手加減でこれか……まったく、でも、これなら任せられるかな?」
「?」
「僕は、ウィル。ウィル・アクトレス。シズの叔父に当る。シズが心配できたのだけれど、君ならば大丈夫だろう。シズも君も、お互いが大好きみたいだから」
「……貴方は、それだけのために?」
「シズに酷い事していたら半殺しにしようかと思っていたのだけれど、そんな事もなかったしね」
「……それだけのために?」
「……夢は叶わない事が多いけれど、それでも夢が無いと人間は生きられないんだ。本当に難儀だよね」
「……俺は、その夢に向って行動すべきだと思います。案外、上手くいってしまうかもしれません」
その答えに、ウィルは少し目うを見張って、楽しそうに笑った。
「前情報だと、傲慢で人の気持ちも分からないような酷い奴って話だったけれど、シズが言っていたとおりだね。優しくていい子だ」
そう頭を撫ぜられて、フィエンドは何となく兄に頭を撫でられているような気分になる。
この落ち着くような雰囲気はシズに通じるものがある。好感が持てる。
「さて、話せて楽しかったよ。後ついでに言っておくけれど、シズは多分君と同じだよ?」
「……どういう意味ですか?」
「人は自分と似た人間を選ぶ。遊んでいる人間は遊んでいる人間を、真面目な人間は真面目な人間を。どこかに共通する部分がなければ人は好意を持たないものだよ?。理解が出来ないからね」
「答えになっていません」
「シズに惹かれた部分は、多分君の中にある魅力だと僕は思った。それだけさ」
それは、フィエンドが求めて止まない輝きが、自分の中にもあるという事だろうか?。
もしそうならば、どれ程いいだろう。
「じゃあ、授業がんばってね。学生のうちに勉強はしておくものだよ? 大人になるとなかなか時間が取れなくてね」
そう手を振りながら、ウィルは去って行った。
とりあえずあれが将来のシズだと考えると、安心だなとフィエンドは思ったのだった。
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午後の授業に遅刻しつつも出席したわけだが。
シズは授業の内容など、一切頭に残っていなかった。
自動書記をするが如く、ひたすらノートに写しつつ頭の中は別の事でいっぱいでそれどころではない。
「明後日の休みに、俺の家に連れて行く。その時シズの初めてを貰う、覚悟をしておけ」
フィエンドが先程最後にシズに囁いた言葉。
確かにシズはフィエンドの事が大好きだ。そうでなければここまで追いかけて来ない。
だがはっきり言おう。
――そういう事をするとか、まったく考えていなかったよ……。
先程はいきなりであったので焦って抵抗出来たが、愛していると囁かれながら求められたら無理だ。
そして、ほんの少しだけ期待している自分がいることもシズは気付いていた。
本当は諦めていたから。手に入るわけが無いと思っていたから。
だから、一目見るだけでいいと思っていて。
自分から積極的に行こうと思った矢先に、色々な行き違いがあったけれど、結果としてフィエンドに求められた。
ようやく本当の両思いになれた気がする。
けれど不安もある。本当に自分で良いのだろうかと。自分は不釣合いでは無いかと。
そして、その行為でフィエンドを失望させたならどうしよう。自分は本当に満足させられるのだろうか。気持ち良くないからと飽きて捨てられてしまいはしないだろうか。
考えれば考えるほど、悪い方向に向かいそうになる。
怖い。
初めてより何より、フィエンドと一緒に居られなくなる事が怖い。
そこで肩を叩かれた。
「シズ、授業が終わった」
ロイの声に周りを見渡すと、もう随分多くの生徒達が教室を後にしている。慌ててノートを閉じて、立ち上がるシズにロイは続けた。
「シズにお願いがあるんだがいいか?」
「え? はい、良いですけれど……どんな事ですか?」
「ウィルさんて人に言われたんだが、どうも俺は神殿の奴らに記憶を操作されたらしい」
最後の方は声を小さくしてシズに話すと、シズの目がすっと鋭くなった。
「……それはウィル叔父さんが解いた方が良いと?」
「叔父さんだったのか……ああ、自分では無理でシズで無いと解けないと」
「……分かりました。なら、このまま行きましょう」
と外へと出ると、エルフィンが待ち構えていた。
「昼間は逃げられてしまいましたが、ロイさん今度こそ……シズさん?」
シズがエルフィンの手を掴んで、じっとエルフィンの顔をのぞきこんだ。そして、取り巻きの人達もざっと見てふむと頷く。
「……とりあえず、ロイと……でもエルは止めておいた方が良いかな?」
ひとしきり頷くシズに、
「あの、シズさん。一体何を言われているのか僕には良く分かりませんが……」
「エルは今が幸せ?」
「え、それは……まあ……」
そう答えながら昼間会った黒ローブの男を思い出す。
オルウェルに近づかせるわけには行かない。だから、手駒を……。
そんなエルフィンを見てシズがふと思い出したようにすぐ隣にいるロイに聞いた。
「ロイ、一つ聞いていい? 予知は変えられる?」
「予知の出来事が変えられたためしがない。しかし、それは断片的だからそれまでの過程を変更するのは可能だが……それがどうかしたか?」
エルフィンが顔を真っ青ににしてロイを見た。
その理由をシズは知っているので、一人にさせておくのは不味いとシズは思って、
「ロイはエルも一緒で良いかな」
「……分かった」
そのエルフィンの様子に何か感じるものがあったのだろう、ロイは頷くも一つ付け加える。
「俺やリノには変なちょっかいを出さないでくれ」
「……今回は出しません」
そう、顔を背けてエルフィンは答えたのだった。
。" ゜☆,。・:*:・゜★+★,。・:*:・☆゜"
「あれ、シズにエルフィン様どうしたの?」
そこには何故か、フィエンドとオルウェルの姿が。
シズは逃げ出した。
しかしすぐに後ろからフィエンドにシズは抱きしめられて耳元で囁かれる。
「どうしたんだ? 何で逃げるんだ、シズ……」
耳にフィエンドの吐息が当って、シズは体がぞわぞわする。
別に卑猥な事を言われているわけではないのに、フィエンドがすぐ傍にいて、だから……。
「耳まで真っ赤だぞ? シズは本当に可愛いな」
そう言ってシズは耳を軽く舌で舐められる。シズはもうどうしたらいいとか何も考えられない。と、
「……フィエンド、いちゃつくなら部屋でしたらどうだ?」
そんなオルウェルの助け舟にシズは少しほっとする。が、
「そうか、部屋で続きをすればいいな」
更にとんでもない事になりかけるが、
「フィエンド様、デートスポットの雑誌、どうしますか?」
というリノの声に、フィエンドは立ち止まった。
加えてシズが、不思議そうにフィエンドを見上げた。
その視線にふいっと照れたように、フィエンドが顔をそらして、
「シズが楽しんでもらえたらと思って……」
「フィン……するより先に、デートが来る気がする」
「……」
「……」
嫌な沈黙が走る。
さらっとツッコミを入れたシズに、周りのみんなが固唾を呑んで見守る。
そこで、本当に優しく柔らかな笑みをフィエンドが浮かべた。
「シズの気持ちは分かった。なら明後日はデートだけにして、今日中にシズの初めてをもらっていいってことだな?」
よく見ると、フィエンドのこめかみに青筋が浮かんでいる。ものすごく怒っている。
そんなフィエンドに、シズが顔を青くして必死になって謝る。
「ごめんなさい! フィン! 許して!」
「うん、良いんだ。シズがそういう風なのは、今に始まった事じゃないから。だから、ベッドの上でたっぷり喘がせて、泣かせて、俺がどんな気持ちか分かってもらおうと思う」
「やめ! フィン……ちゅっ」
シズがフィうエンドに自分からキスをした。
「フィン……今はこれだけじゃ、駄目?」
小動物のように見上げるように首をかしげるシズ。
それを見た瞬間、フィエンドはシズを向い合わせて抱きしめた。
「シズ、可愛い」
「フィン……大好き」
とか何とか。
とりあえず周りの傍観者が思った事。バカップルには関わらないようにしよう。まる。
。" ゜☆,。・:*:・゜★+★,。・:*:・☆゜"
「えーと、ここをこうやって、こうしてとーんなうにょうにょで……よいしょっと」
ぷちんと何かが切れる音がして、ロイは顔をしかめる。
そしてロイは気付く。
確かに独特の臭いのする薬品が染込まされた布を口に当てられて気絶し、何らかの魔法を施されたが、その魔法を施された理由にリノは関わっていなかった。
本当にあのウィルという人の言うとおりだった。そして、否が応でも巻き込まれていた事をロイは知る。
それらを説明して、さて、どうしようとロイが思った所で、リノがふふふふふと笑った。
「……リノ?」
「まさか僕のロイをこんな目にあわせるとは……じわじわと追い詰めてくれる……」
「リノ、心配してくれるのは嬉しいが、リノに危険が……」
「ロイ、僕はやられる前にやれ、先手必勝がモットーなんだ。知っているでしょう?」
確かにリノは昔から行動力があるほうではあったが、
「わざわざ名前を名乗ったって事は捕まえてくれって事だものね。ふふふ、逃がさん!」
「いや、大した事は……」
「薬品かがされて気絶とか、本当にロイ、特におかしい所は無い?」
「いや、多分あの薬品は揮発性が高いから気道に詰まって窒息しただけだと……」
「窒息させたの! 僕の大切なロイを!」
リノが暴走している。
ロイは長年の経験から放って置くしかない事を悟った。
そこで、リノが今度はシズの方を向いた。
「シズ、その変な名前の奴はシズの敵である可能性もあるんだよね」
「え、ええ、それはそうですが……」
「明日までに特定しておくから……そういえば、アースレイ学園長とシズは知り合いだったよね?」
何で知っているんだこの人とシズは思ったが、頷くとにやりと笑った。
「幾つか聞きたいことがあるから、シズも手伝って」
有無を言わせない雰囲気で言われて、シズはこくこく頷く。
世の中には本気で怒らせてはいけない人がいるのだとシズは思った。
それに満足したのか、リノはふふふと暗く笑っている。とりあえずこちらは放っておいた方が良さそうだ。そこでオルウェルが、
「……エルフィンの記憶は解いてくれないのか?」
それに、シズはじっとオルウェルを見て、
「きちんとエルとオルウェルは話した方がいいよ。エルは全部一人で抱え込もうとするから」
「……シズさん、オルウェルに余計な事を言わないでください」
「人は忘れるから生きていけるんだよ?」
「でも、僕は……」
「エルにかかっている魔法はエルに危害を及ぼすようなものでないから、だから、オルウェルを頼れ。だって一番話がこじれたのは、エルが一人で全部抱え込もうとしたからでしょう?」
そこで、エルフィンがシズの腕を掴んだ。その手は小刻みに震えている。
「……シズさん、貴方に一体何が分かるというのですか!」
だから安心させるようにシズは微笑みかける。
「僕は予知能力はないけれど、誰が信頼できるかは知っているよ。そして、エルフィンにとってオルウェルは信頼に足らない人物かな?」
「! それは……」
「話は僕も聞いて、そして必要なら手伝うよ。他の人達にも頼んでも良い。それに話してみたなら、他の良い考えも浮かぶかもしれない。だから……怖がらないで」
そう、震える手にそっとシズは手を重ねる。そうしてしばらくすると、息が落ち着いてくる。
そのままエルフィンは今度はオルウェルに向き直り、抱きついた。
「エルフィン……」
「……けて」
「……分かった」
そう抱きしめるオルウェル。
これで大丈夫だとシズは思う。本当に、これで?。
「シズ、俺も、もう二度とシズに怖い思いをさせないから」
そう、フィエンドがシズを抱きしめて、うっすらとシズの中に浮かんだ不安は霧散したのだった。
。" ゜☆,。・:*:・゜★+★,。・:*:・☆゜"
「つまり、教室内の画像をクレと、君はこういいたいわけだな?」
「はい!」
話は終わったねと、リノに引きずられてシズは学園長室に来ていた。
もうちょっとフィエンドに抱きしめて欲しかったのに、とシズは恨めしく思う。
だがいまリノが言った映像とは?。
「……それに、あいつは映っていないかな?」
「映っていないと思うよ、シズ。だからそれが狙いだよ」
意味が分からない。映っていなければ……でもフードや暗がりで顔も分からないのに?。
だが、アースレイ学園長は頷く。
「なるほど、まずはそちらから絞っていくという事か。だが、私はがそんなに簡単に内情を一生徒の君に教えると思うかい? 安全上の問題もある」
「というわけでシズ、任せた!」
「えっと、リノ、よく分からないのだけれど……」
そんなシズを見て、リノがはあとため息を付く。
「シズ、フィエンド様に食べられちゃうからって、そればっかり気にするのはいけないと思うんだ」
「な、ちが、そういうわけじゃ……」
そう言われて顔を真っ赤にして慌てるシズ。そんなシズを見てアースレイ学園長はにこやかに笑い、
「そうか、おめでとう」
と言った。それを見たリノがすかさず聞く。
「本音は?」
「リア充爆発しろ。私だってウィルとしたいのに……フィエンドなんてお預けを食らってしまえばいいんだ」
「……学園長、嫉妬は醜いですよ?」
呆れたようなリノのツッコミに、
「ふん、知らん。もうひたすら邪魔される呪いでもかかってしまえ」
大人げのないアースレイ学園長の発言。だが、ここであのカードが切れるとシズは気づく。
元々そうするつもりだったし。
「もしも、ウィル叔父さんが学園に来ているといったらどうしますか?」
その言葉にアースレイ学園長は、はっとしたように秘書のブルーアイ(あだ名)を見た。
「ブルーアイ……まさか」
「……ウィルに口止めされていますので」
「……君は私の秘書のはずだが」
「……どうせすぐにばれると思いまして」
それにしばしアースレイは考えて嘆息した。
「そうだな。あいつ、そういう所が抜けているからな……」
シズは何となく分かる。そして故郷の家族に、そういう所シズはそっくりだよね、と言われた事も。
嫌な事を思い出すも、それらをシズは頭から退ける。そして、
「では、今すぐにでも叔父さんを連れてきてもいいですよ?、どうします?」
「いいだろう、ウィルを連れて来たら、渡してやる……他の人には秘密だぞ?」
「「はい!」」
嬉しそうに一礼してから、出て行くシズとリノを見送ってから、アースレイはブルーアイに話しかけた。
「それで、この前の黒ローブのあいつ、アンノウンだったか?」
「はい、今聞きに来たリノの恋人、ロイと接触したのは彼です。以前はオーエンと名乗っていました」
「シズと接触したのは?」
「おそらく同一人物かと」
「あいつ、結局前回捕まえられなかった……」
「そうですね。貴方が泳がせておいたのですから」
それに、アースレイは子供のような悪戯っぽい笑みを浮かべて、
「……ばれていたのか」
「ええ、あの程度貴方様なら捕らえられたはずですから……兄さん」
「兄さん、久しぶりに聞いたな。異母兄弟なのだから、そんなに畏まる必要はないのに」
「いえ、仕事ですから」
「そうか」
あいつを泳がせるのは、あいつを使おうとする奴を炙り出すためだ。
ようは、アースレイ達の"敵"である。あのアンノウンと名乗る彼自身、狐のように色々な奴にくっついて優秀に任務をこなしている。使い勝手はいいのだが。
ただ、ウィルとめちゃくちゃ相性が悪かったんだよなとか、実はあいつ自身が唆している事も結構あったよなとか……ウィルに手を出そうとしたよなとか。
思い出すとアースレイは怒りが込み上げて来る。だが、
「彼は僕の獲物です、兄さん」
けん制するようなブルーアイ。昔から彼にこの弟は夢中だった。
「……分かっている。ならば、もう少し神殿の方の動きを抑えてくれ。シズはあちらに連れて行かれるのは危険すぎる」
「分かっています。それにそろそろあの狐も、狩ろうかと思っていた所ですから」
「……どれほど狡猾な狐も、最後は毛皮商の厄介になる、か」
「人聞きが悪いです。引き時だということです。今彼が付いているその人の力は、本当はもう殆ど残っていませんから。それを見誤った彼が悪いのです」
「自然消滅しないのか? そうなるよう手を打っていたはずだが」
「最後の足掻きでシズが取られては大問題でしょう?」
それにそうだな、とアースレイは頷く。そこで、
「それで兄さん、挙式はいつにするんですか?」
「……やめてくれ」
散々親戚に言われた言葉を思い出して、アースレイはげんなりしたのだった。
。" ゜☆,。・:*:・゜★+★,。・:*:・☆゜"
部屋の外に出ると、フィエンド達が待っていた。
そんなフィエンドの姿を見て、シズは先ほど抱きしめてもらったのが凄く温かくて気持ち良かった事を思い出して、ふらふらとそちらに行こうとしたシズをリノが掴んだ。
「シズ、フィエンド様といちゃいちゃするのは構わないけれど、本当の目的を忘れちゃ駄目だよ?」
「にゃー」
「猫のふりをしても駄目!」
「フィン、リノが酷いよう」
必死でフィエンドにシズは手を伸ばそうとするので、フィエンドはシズをリノから取り戻して抱きしめると、シズはフィエンドの腕の中で本当に幸せそうに顔をフィエンドに押し付ける。
なので、フィエンドは耳元で囁く。
「明後日が楽しみだな」
シズがびくんとなり、顔を赤くして慌てて逃げようともがく。それを押さえ込みつつ、フィエンドはリノに聞いた。
「それで、何を話していたんだ?」
「これからシズの叔父さんのウィルという人を捕獲して、アースレイ学園長に差し出すんです」
「ウィル……」
腕の中で相変わらずシズがもがいているが、フィエンドはシズに触れていると気持ちが落ち着くので無視した。
しばしフィエンドは黙って、オルウェルに振り返った。
「確かお前の兄の友人だったな? 違うか?」
「……調べたのか?」
「お前だって調べただろ?」
フィエンドの腕の中でシズがぴたりと動きをやめて、不安そうにシズがフィエンドを見上げていた。
「フィン、何で調べたの?」
「将来シズを嫁に貰うから」
「……」
「……」
顔を真っ赤にするシズ。
あまりのバカップルさに、周りが微妙な空気に包まれる。
その空気に、はあっとオルウェルがため息を付いた。
「フィエンド、もう少し周りを見てから言ったらどうだ?」
「俺が読むのでわなく周りが読むべきだろう?」
「……ああそうだな、私が間違っていたよ。お前はそういう奴だった。……エルフィン、一つ頼んでも構わないか?」
「ウィルが、貴方のお兄さん達といつ接触するかを視るのですか?」
「まだ会っていないのか、それともいるのか、そして、次にいつ会いそうなのか、そのどれかの断片さえ分かれば良い」
「分かりました」
そうエルフィンは答えて、大きく息を吸って瞳を閉じて何事かを呟く。
シズは予知の魔法を見るのは初めてであったが、周りにぽろぽろと生まれては零れ落ちて砂となる魔力の欠片を見て、ああと気付く。
これは"人"が背負うには重過ぎる。
それに、零れ落ちる未来の欠片が多すぎる。まるで予知は、未来の残渣のように見える。
「シズ、どうかしたのか? エルフィンの魔法を傍から見ていても、何かが普通は見えないはずだ」
そういうフィエンドをシズは、少しだけ驚いて見上げた。
そんなフィエンドに何かをシズは言おうとして、そこで、エルフィンが声を上げた。
「……丁度今、ウィルさんという方は、オルウェルのお兄さんといます」
全員が顔見合わせてそして頷くと、すぐに保健室へと走り出したのだった。




