08.
○月×日
今日入った夢では、哀しそうな女の人の声で、『足りない、足りない』と繰り返し聴こえた。
でも足りないものが解らなくて、できる限り探し回ったけれど、第一階層では何も見つからなかった。
第一階層にあったのは日本家屋と庭で庭先に古い井戸があって、覗き込むと第二階層に繋がる路があった。
気のせいかも知れないが、井戸に近付くと『足りない』という声が強くなった気がした。
第2階層に抜けると、そこは草原だった。
白いものが跳ねていて、良く見れば兎だった。
その兎が、ほのかに青白く光っていて、慌てて追いかけた。
兎は怯えて逃げるので、追いかけるのを止めて後ろ向きで呼んでみると、兎は自分から腕の中に入ってくれた。
気付いたらそれは兎の描かれた一枚の皿だった。
○月○日
この日記を、いつか誰かが読むかも知れないことを考えて、言葉の定義を書き留めておくことにした。
夢主:その夢をみている人。
夢の中で響く声が、現実の人と対応していることは少ない。
階層:夢は大抵階層に分かれて存在していて、それぞれの階層は独立して成り立っている(高層ビルのようなもの)。
夢に入って最初にたどり着くのは第一階層(ビルでいうと、一番上の階)である。階層は下に行くほど古く、埋没された記憶になっていく。
階層は大抵ひとつずつしか渡っていけず、それぞれの階層に上や下へ渡る路がある。
路:夢の階層を隔てる扉や階段のようなもの。