05.
直視していると、なんだか気分が悪くなりそうだった。
「解ってるよ。キヨさんまだ此処までリアルに、大量に生み出せないしな」
肩を竦めて、それから真田君は真面目な顔をして眉を顰めた。
「厄介そうな予感がする」
「え?」
「キヨさん、取り敢えずどれか開けてみなよ」
「えぇ? 僕が?」
「俺の方が先輩だし」
「もう、仕方ないなぁ」
真田君のおかしな理屈に、僕は仕方なく手近な扉に手を伸ばす。
それは赤と黄と黒が混ざったぐにゃぐにゃとした色で、調度覗き穴のある位置に金輪を銜えた精巧な獅子の頭の細工があった。
良く見れば、他の扉も全て違う細工が同じように付いている。
「へぇ、随分凝った…え?」
取っ手を廻して扉を押した途端。
消えた扉の代わりに目の前に口を開けたのは、奈落のような穴。
支えを失った、取っ手を掴んでいた手が宙をかく。
「っ」
事態を把握する前に、後ろから思い切り反対の腕を引っ張られて白いタイルに尻餅をついていた。
「いてて」
「キヨさんって。度胸あるのか、ずぼらなのか、理解に苦しむんだけど」
呆れたような声が降ってきて、顔をあげると案の定真田君が眉を顰めて仁王立ちしている。
「あのね、予想してたんだったら危険性くらい示唆してくれても良いと思うよ、先輩」
「いくら俺でも、キヨさんがドアノッカーがあるのに、ノックもせずに開けるなんて予想できないよ、悪いけど」
「うっ」
「開けるにしてもさ、様子見もしないでよく一気に開けたよな。普通はもう少し、警戒しながら開けるだろ」
「うっ」
ざくざくと突き刺さる言葉に反論する言葉を持たないでいると、真田君は溜息を零して手を出した。
「取り敢えず立てば?」
「ありがと」
立ち上がって改めて扉のあった所に目を移すと、ぽっかりと底の見えない穴がやっぱり口を開けている。
「これ、なんだろ」
「さぁね。少なくとも第二階層に続く道じゃあ、なさそうだな」
第二階層。
嫌そうに呟いた真田君に、僕は漸く彼が懸念していた一つの理由に思い至った。