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白昼夢  作者: 佐崎らいむ
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第2章 扉(2)

その場所で再びその男を見つけたのはその日の夕方だった。

必ずここにもう一度来るという気がして制服姿のままマキはこの辺りをうろうろしていた。

学校を休むのはもう今月に入って6日目。罪悪感も薄れていた。今朝も母とは会話していない。


「ビンゴ」

男を見つけてマキは小悪魔的な笑いを浮かべた。

能力に裏付けされたものなのか、こういうカンは昔から冴えていた。


“何か”を探し疲れたのか男は行き止まりを作っている高い塀によりかかって

暮れていく空を眺めていた。

かなり年上だと思うのに、その目はやけに少年っぽく見える。

やはり"落とし物"は大事な物だったんだとマキは確信した。


じっと観察している視線に気づいたのか、男はマキのほうに視線をむけた。

「あ・・・」

「何か探し物ですか?」

少しばかり笑いを含んだ言い方になった。

「・・・・どうしてそう思うの?」

「わざわざ嫌いな猫が出没しそうな所に戻ってきてるから」

少し意地悪い言い方をしてみた。

「ああ、猫ね。・・・格好悪いところ見られちゃったな」

照れくさそうに髪をかき上げながら笑う。

笑うとなんとも優しい表情になるのにマキはすこし面食らった。


(ダメダメ、この人はきっと何か悪いことに荷担してるんだ。私だけが知ってるんだ)


思いがけず手に入れたスリリングなゲームだ。

目の前の男の運命を握っているようなワクワクした気分だった。

(犯罪者は必ず現場に戻って来るって言うじゃない)

「今日、そこのマンションにパトカーがいっぱい来てたの、知ってます?」

少しの変化も見逃さないようにマキは男の目を見て言った。


「へェー、そう? 何かあったの?」

トロンとした笑みには何の焦りも見られない。

「泥棒でも入ったんじゃないかしら」

「ふ〜ん、物騒だねぇ」

まったく顔色は変わらない。男は興味ありげにマンションをちらりと見上げただけだった。


(本当に何も知らないのかしら・・・)

パトカーや泥棒という言葉に必ず反応すると思っていたマキは、心の中で舌打ちをした。

昼間そのマンションにパトカーや救急車が来て騒ぎになったのは本当だった。

わくわくして野次馬に話を聞くと中年男性が部屋で一人、亡くなっていたそうだ。

心臓発作だろうということだった。

事件じゃないのか・・・。マキは少しがっかりした。

けれど、もしかするとこの男の犯罪はまだ発見されていないだけなのかもしれない。

「きのう・・・・夜中にマンションの前に居ませんでした?」マキは男の目を見ながら切り出した。

「・・・・僕が? どうして?」

(やった、ごまかした! これはもう絶対だ)


「前を通ったとき見かけたような気がしたから」

少し興奮して挑むような口調になったのでマキは内心シマッタと思った。

男はすっと首を伸ばすように立ち、ちょっと眉をひそめるようにしてマキを見つめた。


「何を見たの?」


表情のないトロンとした目でゆっくり近づいて来る。

猫に怯えていた人物と同じとは思えない、感情の読めない目。

初めてマキは少し恐怖を感じた。

一歩、後ろに後ずさる。心臓の鼓動が早くなる。


・・・だいじょうぶ、表通りはすぐそばだし人通りもある。・・・だいじょうぶ。・・・



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