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白昼夢  作者: 佐崎らいむ
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第1章 背徳の夢(4)

青年は悪びれもせず笑う髭の男に少し不満そうに言った。

「いつ僕のポケットに入れたんだよ。指令のメモ」

「いや、お前よく寝てたからさあ。起きたら説明しようと思ってたんだ」

「ったく」

軽く溜息をつく青年。まるで親子喧嘩か兄弟喧嘩のような軽いやり取り。


「・・・危なかったな」

改めて髭面が言う。

陽気だったジャズのナンバーが終わり、静かなブルース調のメロディに代わる。

青年はこくんと小さく頷き、視線を窓の外の夜景に逃がした。

緩くウエーブした髪の毛を左手でかき上げる。


「だけどその女、本当に大丈夫だったんだろうな。お前のこと怪しんで無かったか?」

少し険しい口調で髭面が言うと、ピクッとして青年は顔を上げた。

「うん、大丈夫」

前屈みに膝に肘をつき、綺麗なすらりとした指を組んで軽く顎をのせる。

思案しているときの癖だ。本人はそれに気づいていない。


「大丈夫じゃ無いんじゃないか?」

髭面が今度は少し意地悪そうにフフンと笑った。

「・・・うまく誤魔化せたと思うよ」

「しかし、よりによってその女、ターゲットの部下だったなんてな」

「うん・・・・彼女がカードを見たときの表情ですぐに分かった」

「訓練されたからな。8年間」

髭面の男が身を乗り出すように青年に近づく。


「俺たちの仕事を感づかれてもしもヤバイことになりそうだったら・・・分かってるよな」


大きな二重の目をキッと見開き、青年は髭面を睨みつけた。

「落ち度があったのはこっちだ。彼女に手は出させない」

今にも掴みかかりそうな勢いに一瞬たじろいで、髭面はニヤリと笑う。

「俺じゃないよ。本部の奴らだ。そんなことを言うのは」

「・・・・・・」

「『そういうルールだ』って、あいつらは言うな。ロボットみたいにさ」


力が抜けたように青年は目を伏せてソファーに沈み込んだ。

その様子を見ながら髭面は少し優しげに笑った。

「そう凹むな。今回のことはバレやしないさ。これから気を付けような、お互いに。

・・・どうした? 惚れたか? あの短時間に。即効だな」

「誰が!」

「正直なやつだ」

「そんなんじゃないって言ってるだろ!」

「ムキになるとこが怪しい」

「坂木さん!」

「冗談だよ」


・・・・冗談だよ。お前に恋ができるなら、俺は心配などしない・・・・・


青年をからかっていた髭面は、急に真顔になりトーンを変えて静かに言った。

「もう二度とこの街には帰らないからな」


・・・・ごめんな、よう・・・・


「・・・うん、わかってる」

さっき殴りかかりそうだった人物とは思えない、まるで幼い少年のような口調でぽつりと言う。

そんな様子をじっと見つめながら髭面は、疼くような胸の痛みを大きく息を吸い込み、紛らわした。

グラスのウィスキーを一気に飲み干す。


「よし。じゃ、行くぞ!」

髭面は手をのばして向かいの青年の柔らかい髪をくしゃくしゃっと撫でた。

「やめてってば。・・・・・行くってもう?・・・・今度はどこへ?」


髭面は小さく笑って言った。

「まだ教えないよ。俺たちはいつだってそうだろ?」




 (第1話「背徳の夢」END) ・・・第2章「扉」へ続く



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