一匹狼のニクいあんちきしょう
企画短編モノですw
昭和の匂いプンプンな死語使いをお楽しみください。
かなり無理矢理でベタな展開ですが、死語ありきなのですみません(先に謝る)
「ゆっこー、今日半ドンだけど、ウチ寄る?」
「メンゴ! ゆきベエのお父さんのパフェは魅力だけど、今日は日直なの」
両手を合わせて謝ると、ゆきベエこと小長谷由紀はしょうがないなーと頬を膨らませた。ゆきベエの家は喫茶店を経営していて、お父さんの作る新作パフェを私はよく味見(実験台?)に呼ばれていたのだ。
「でも大丈夫? ゆっこの日直ペアってあの一匹狼でしょ?」
「う、うん。でもそんな悪い人じゃないと、お、もう、けど……」
「もう! ゆっこは優しいんだから!」
気をつけなさいよ! と、ゆきベエは幾度か振り返りながら学生カバンを胸に抱えて教室を出た。
そうだ、喫茶店で思い出した。
先日行ったゆきベエの喫茶店で、卓上に置いてあった『星座占い機』に100円入れて出てきた結果。
―――― 初恋叶う
私の初恋? 初恋ってナンダロウ? 私の赤い糸は誰と繋がっているのかしら?
初恋という単語に文通相手を含むのなら、あったのかもしれない。けれど関西に住むうるわしの君は中学二年の冬から手紙は途絶えたままだった。
未だ恋に恋する乙女な私は、叶うも何もないなと思ったけれど、大事にポシェットにしまった。
今日の日直のペア、ゆきベエが心配した相手は『鈴木健二』といって、私の隣の席に座る人だ。クラスの窓側一番後ろで、普段授業中ずっと外を見ているか寝ているかの表情しか私は見た事がない。
半ドンの今日、日直は来週テストの為のプリントを刷る作業を、手伝う仕事も含まれていた。
―――― 鈴木君、いない…… のかな?
黒板を綺麗に拭き、窓の外でポンポンとはたく。すると、後から声がかかった。
「おーい、日直は佐藤と…… ああいた、鈴木だな? 印刷室まで来てくれ」
えっ、いたの?! そんなバナナ!
担任の目線を追ったら、そこには教室の端のロッカー付近にしゃがんでいた鈴木君がいた。呼びかけに低い声で「…… はい」と立ち上がりながら答えた。
―――― あ、こういう声だったんだ。
いつも出席確認では返事をしないため、教師達も諦めてそのままにしている。
鈴木君は手に持った何かを教室後の壁に押し付けて、そのまま出ていった。私は一体何をしたのか気になって、その場所に行って見たら…… 画鋲が刺さっていた。
―――― 落ちてて危ないから?
なんだ、優しい所あるじゃない。
意外な一面を見た気がした。鈴木君は見た目も硬派で、短めに揃えた髪と大柄な体格で見る者に威圧感を与えるのだ。教室で誰か仲良く話すところを見た事がなく、まさに一匹狼と揶揄されるのもうなずけるというものだ。
私は担任と鈴木君二人に遅れて、印刷室へと走った。
印刷の量はかなりあった。
とっくに昼ごはんの時間は過ぎていたけれど、終わらないと帰れない。
「おい、そこ――――」
「えっ、キャッ!!」
急に鈴木君がこっちを見て声をかけたので、私はそれに驚いて足元を留守してしまった。ガターンと派手な音を立ててインクの入ったバケツをひっくり返してしまった。
「あっちゃー! やったな佐藤! おい、着替え持ってるか?」
担任が慌てた声で私に言うから、ビックリ仰天して自分を見下ろすとインクがべっとりと制服上下についていた。
…… 残念ながら私は今日着替えを持っていない。
半泣きで担任に言う。すると……。
「佐藤、こっちこい」
「へっ?」
急に手を引っ張られ、印刷室を出る。
「ちょっと、す、鈴木君?」
再び教室に戻ったかと思うと、鈴木君は自分のロッカーから大き目の巾着袋を出したかと思うと、私にぽいと放り投げた。
「これ、着てろ」
そう言うと教室の引き戸を閉めて、立ち去った。
受け取った袋を開けてみると、そこには鈴木君のジャージが入っていた。
…… これを貸してくれたの?
袖を通すと、私の体には大きすぎるそのジャージ。鈴木君の香りが少しだけ私を覆う。
あーあ、せめて靴下位はナウいの履いていたかったな。三つ折の白い靴下は少しダサい。
着替えて印刷室へと戻れば、すでに汚れた床も綺麗に拭き上げてくれていた。
「あ、あの鈴木君、ありがとう」
「いや……」
ぼそっと返事をしてくれた鈴木君。
「よし、じゃあこれを教室に運んだら終わりだ! お前らお疲れさん。これやるから、昼飯食べて帰れ」
そういって、担任は鈴木君に二千円渡し、出て行ってしまった。
私は結局手伝いらしい事何もしてないや、と軽く落ち込んだ。
「ほら、持って行くぞ」
「あっ、うん」
鈴木君が沢山のプリントを持って、私に声を掛ける。慌てて私も持とうとすると、そこには鈴木君の持つ量からすれば半分にも満たない量のプリントが残されていた。
「え、あの…… 私もっと持つよ?」
「俺が持てない分だけ、手伝ってくれ」
教室に向かいながら、私は鈴木君に言いそびれていたお礼を伝える。
「あの、鈴木君? このジャージ貸してくれてありがとう。助かっちゃった」
洗って返すね、と言うと、「…… そのままでいい」とぶっきらぼうに返事が返ってきた。
教室に着いて、先生の机にプリントの山を置くと、鈴木君は私をじっと見下ろした。その間の沈黙が何故か居心地が悪く、私は軽く首を傾げて尋ねた。
「鈴木君?」
「…… ずっと聞けへんかったけど、俺の事、わからへん?」
―――― 関西弁?!
「え? す、鈴木君?」
「俺、転校してん。せやけどゆっこに黙っとった。驚かせたろおもて」
ビックリ仰天した私は、まさかとの思いが湧き上がった。
まさか…… 関西に住む『けーちゃん』って、鈴木君?! 小学生の時に文通相手として出会い、中学二年生までずっと手紙を交わしていた……!
「けーちゃん?」
「そうや! おぼえとってくれたんか!」
「え、えっと、何で今まで黙ってたの? 私、ずっと手紙待ってたのに」
すると、鈴木君…… けーちゃんは、これまでの経緯を話してくれた。
親の都合でこちらに引っ越してきたこと。最後の手紙に、私が受験しようと思っている高校に自分も行く事にしたこと。驚かせようと黙っていた事。しかし、この体格と関西弁で不良と間違われたりするので、極力話さないようにしていたこと……。
えー、ちょっと! タンマ!
私遠い距離に離れた人だからと思って色々書いちゃってたよ!
「Aもまだやろ? でも先輩がニャンニャンした事を聞いて焦っている……」
「きゃーー!! わかった、わかったからぁ!」
文通相手しか知りえぬ私の秘密を語りだしたけーちゃん。ああ、間違いない……。
「字ぃ綺麗やし、手紙の内容もほんまかわいかってん。会ってみたら絶対言うたろ思うことがあってな?」
「字? ああ、私『日ペンの美子ちゃん』やってたから」
戸惑いながら、私もけーちゃんを見る。けーちゃんの目の端は、ほんの少し赤らんでいた。
「もう、玉砕覚悟やけどアタックするわ。俺、ゆっこの事がめっちゃ好きや。付き合ってくれへんか?」
―――― 初恋叶う
星座占い機のあの文字が脳裏に浮かんだ。
まさにこの事か。
「は、はい」
「やった!」
ぎゅうっとけーちゃんが私を抱き締めた。そのままクルクル回りだして、私は「ちょっとタンマ!」と堪らず声をあげた。
「な、ゆっこ。一緒にメシ食いにいこ。これが初デートやな」
も、もう頭がわけわかめ! でもめちゃんこ嬉しい。初恋叶った……。
一緒に並んで帰る私達は、アベックに見えるかな、なんて頭の片隅でそう思った。
関西弁は適当です。わからないからw