第8話 動けない捜査本部——刑事の勘
羽田空港警察署・2階。
捜査本部には、重苦しい沈黙が落ちていた。
「JNL特別便事故捜査本部」と書かれたプレートの奥に、臨時の会議室が設けられている。
本部長席に腰を下ろしているのは、警視庁から派遣された斎藤警視正だった。
彼は椅子の背にもたれ、机に足を投げ出し、積み上げられた朝刊を一紙ずつ読み込んでいく。
すべてに目を通すと、新聞の束を机の上に放り出し、低くつぶやいた。
「……ブン屋どもも、さすがに“かん口令”を敷かれたな」
窓の外には、JNLのオペレーションセンターが見える。
「景気の悪い時に……JNLさんも、とんだ災難だ。気の毒にな」
その横に立つのは、ベテラン刑事・五十嵐だった。
無意識に禿げ上がった頭をさすりながら、苦笑する。
「大臣閣下も、死ねば“ただの仏様”に変わりはないのに……他の被害者の鑑識くらい、させてくれてもよさそうなもんですがね」
肩をすくめ、続ける。
「ちょっと、掛け合ってきましょうか?」
斎藤は、答えなかった。
昨日と同じ、抜けるような青空をしばらく見上げる。
深く息を吸い、ゆっくりと吐き出してから、短く言った。
「――今回のヤマは、長くなるぞ」
それは長年の現場経験で培われた、刑事の勘だった。
この事件に絡んで、まだ何か“忌まわしい出来事”が起こる——。
その予感を、斎藤は胸の奥に押し込み、それ以上は口にしなかった。
五十嵐はその横顔を見つめ、心の中で静かにうなずく。
(この人の勘は……外れたことがない)
▶ 次回予告
捜査本部は、ついに動き出す。
そして斎藤の勘は、“ある一点”に向けられる。
それは偶然か。
それとも、仕組まれた死か。




