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青い霧  作者: 田中元一


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第3話 特別機の客室で——すべてが順調すぎた

機内には、祝賀の空気が満ちていた。

シャンパンとオレンジジュースが配られ、竹村外務大臣の音頭で「親善訪問成功」の乾杯が行われている。

グラスが軽く触れ合い、控えめな拍手が起こった。

その輪の中心にいたのは、山曽根厚生大臣だった。

彼は珍しくエコノミー・クラスの通路に立ち、老人ホーム関係者一人ひとりに深々と頭を下げて回っていた。

「長旅、大変お疲れさまでした。ありがとうございました」

老人たちは慌てて立ち上がり、何度も何度も頭を下げ返す。

その光景を、新聞社とテレビ局のカメラが一斉に捉えていた。

——理想的な政治家の姿。

そう映ったに違いない。

その時、機内放送が静かに流れた。

「当機は午後5時55分、羽田空港に到着予定です。東京は晴れ、気温20度です」

淡々とした、日常のアナウンス。

その直後——

一人の老齢の男性客が、老人ホームの職員が記念写真を撮る予定になっているため、駐機場に到着する正確な時刻を担当の山本パーサーに尋ねていた。

後部ギャレーでは、スチュワーデスの南が群馬日報の記者から取材を受けている。

彼女は群馬県出身。山曽根大臣と同郷という理由で、今回の特別便クルーに選ばれていた。

色白の肌に、笑うと小さなえくぼが浮かぶ。乗務3年目。来春にはアシスタント・パーサー昇格が内定しており、若手事務官たちの間では“アイドル的存在”だった。

機体2階の特設ラウンジでは、外務省とJNL幹部が着陸後の動線を最終確認している。

すべてが、順調すぎるほど順調だった。

そして、その頃——

ファーストクラスで、ほんの「ささいな出来事」が起きていた。

誰も深刻には受け止めなかった。

記録にも、記憶にも残らない程度の出来事。

だが——

それこそが、すべての歯車を狂わせる最初の“ズレ”だった。

人は、大惨事の直前ほど安心しきっている。

この機内も、例外ではなかった。


▶ 次回予告

ファーストクラスで起きた

「取るに足らない出来事」が、

やがて取り返しのつかない結果を招く。

到着まで、あと50分。


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