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青い霧  作者: 田中元一


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28/38

第8話 博多港から山奥へ ――移送される囚人たち――

連れて行かれる時、

人はまだ

「帰れる」と

思っている。

本当に恐ろしいのは、

帰れないと

悟る瞬間だ。

◆ 1940年5月初旬

李成鎮一家は、他の囚人20名と共に、突然、列車へ乗せられた。

行き先は告げられない。

ただ、

黙って座れ。

窓を見るな。

そう命じられただけだった。

◆ 海を越え、列車を乗り継ぐ

満洲・大連港。

そこから船で九州・博多へ。

さらに列車で、久留米へ。

ここまでは、一見するとただの

**「移送」**に過ぎなかった。

誰も殴られない。

怒号もない。

だが——

久留米駅から先が、違っていた。

◆ 覆いのかかったトラック

囚人たちは、陸軍トラックの荷台へ押し込まれた。

荷台には、外が見えぬよう厚い布の覆い。

同行する兵士は2名。

そして——

久留米駅を出ると、1台のジープが前を走り始めた。

助手席に座る男。

斉藤和男中尉。

彼は振り返らない。

ただ黙って、山道へ進んでいく。

◆ 山へ

舗装路が終わると、車体は激しく揺れ始めた。

布の隙間から、断片的に見えた景色。

・満洲とはまるで違う、濃い緑

・谷底を流れる、澄んだ川

・竹笠をかぶり、稲を植える村人たち

あまりにも普通の、日本の風景だった。

博多の蒸し暑さが嘘のように、山間部の空気は冷えていた。

海抜、約600メートル。

◆ 迫る夕闇

太陽が、驚くほど早く山の向こうへ沈んでいく。

トラックの荷台で、誰かが小さく息を呑んだ。

ここは、どこなのか。

なぜ、こんな場所へ。

誰も答えを知らない。

ただ一つ、全員が同時に感じていた。

——戻るための道が、

確実に、後ろで閉じられていくという感覚を。


次回予告


「坑道の入口」

ここが、

**“戻れない場所”**だと

誰もが悟る瞬間。

闇は、地上ではなく、

地下に口を開けていた。


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