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青い霧  作者: 田中元一


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27/29

第7話 訴えと転落 ――人体実験の入口――

翌日。

李成鎮は、取引相手の**金健衛キム・ゴンウィ**を訪ねた。

彼は、日本軍部にも顔が利く人物だった。

息子を失った経緯を、李成鎮は言葉を選びながら説明した。

金健衛は黙って聞き、最後に静かにこう言った。

「……分かった。必ず、上に話を通す」

その言葉は、救いに聞こえた。

だが——

それは“出口”ではなかった。

◆ 2日後の夜

李成鎮一家の家を、突然、数名の憲兵が取り囲んだ。

理由は——スパイ容疑。

抗議も、説明も、一切聞き入れられない。

殴られ、蹴られ、家族は引き離され、闇の中へ連行された。

向かった先は——

特設監獄。

その名だけが告げられた。

◆ 特設監獄

鉄扉の向こうで、彼らは初めて知る。

ここが731部隊の施設であること。

囚人は、常時80〜100名いること。

そして——

毎週10名が消え、誰も戻らないという事実。

年齢も、性別も、不思議なほど均等に揃えられていた。

偶然ではない。

最初から、選ばれている。

◆ “戻った者”の証言

ただ一度だけ、「戻ってきた」囚人がいた。

彼は、低い声で語った。

・通路に並ぶ、動物実験用の箱

・記号と番号が貼られた扉

・ガラス容器に保存された、人の臓器

・朝7時に呼び出された組は、二度と戻らないこと

話し終えると、その男は二度と口を開かなかった。

数日後。

彼もまた、消えた。

◆ 慣らされていく日常

恐怖は、やがて諦めに変わっていく。

配膳係から渡される、黄色い錠剤。

「ビタミン剤だ」と言われた。

昼食後は、中庭に集められ、日本式の体操。

空には、綿毛のような花が舞っていた。

季節だけが、穏やかに移ろっていく。

だが——

彼らの運命は、すでに巨大な渦の中にあった。

ここは、裁判も、罪状もない。

ただ、人が

“材料”へと変わる場所。


次回予告

「“実験”の始まり」

ここから先、戻れる者はいない。

人体実験は、静かに、

日常の延長として始まる。


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