表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
青い霧  作者: 田中元一


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

25/29

第5話 囚人と人体実験 ――731部隊という“世界”――

1931年9月。

関東軍は、満洲事変を引き起こした。

それは単なる領土拡張のための戦争ではなかった。

——「実験場」を確保するための戦争でもあった。

◆ 満洲に築かれた「特別軍事区」

1933年夏。

現在の中国・黒竜江省、ハルビン郊外の平房区。

関東軍は、およそ6平方キロに及ぶ広大な土地を接収し、ある組織を設置した。

表向きの名称は、

「防疫給水部本部」。

だが、その正体は——

後に世界を震撼させる

**「731部隊」**だった。

目的は、ただ一つ。

細菌兵器と毒ガス兵器の研究・製造。

◆ 世界から切り離された施設

施設内には専用鉄道が引き込まれ、独自の発電所が設けられ、飛行場まで併設された。

周囲一帯は**「特別軍事区」**に指定され、中国人の立ち入りは禁止。

情報漏洩を防ぐため、日本軍機ですら上空の飛行を禁じられていた。

ここは——

地図の上には存在しても、世界から切り離された**“閉ざされた空間”**だった。

◆ 科学者たちと、与えられた特権

この地には、帝国大学出身の医師、教授、研究者が次々と集められた。

軍属として。

総数、およそ2,600名。

彼らは当時の日本が誇る最先端の医学と科学を携えていた。

そして同時に——

ある**“特権”**を与えられていた。

人間を、実験材料として扱う権限。

そこでは、被験者は「囚人」ですらなかった。

名前もない。

年齢もない。

家族もない。

彼らはただ——

**「マルタ(丸太)」**と呼ばれた。

切ってもいい。

焼いてもいい。

凍らせてもいい。

壊れても、記録に残らない。

それが、731部隊という“世界”の常識だった。

だが——

最も恐ろしいのは、残酷さではない。

それが、日常として扱われていたことだった。

白衣の袖を整えながら、研究者たちは静かに次の実験の準備をする。

そこに怒号はない。

狂気の笑いもない。

ただ、作業があるだけだった。

この場所で行われていたことは、戦争が終わるまで、ほとんど知られることはなかった。

だが——

その**“思想”と“技術”**は、決して満洲だけに留まらない。

やがて日本本土へも、静かに持ち込まれていく。

そして。

古舘村の地下に築かれた実験場は、まさにその延長線上に存在していた。

すべては、繋がっていたのである。


▶ 次回予告

「李成鎮一家の悲劇」

戦争は、国境だけを壊すのではない。

ある夜、それは一つの家庭の扉を叩いた。

逃げ場は、なかった。

その瞬間、

一人の人間が——

「マルタ」になる。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ