第4話 地下に築かれた“実験場”
山曽根中佐は、瀬戸内海の島で起きた**「失敗」**を決して忘れていなかった。
毒ガス兵器施設。
閉鎖されたはずの島。
それでも起きた、環境異変と噂。
——次は、絶対に外へ漏らさない。
彼が選んだ場所は、古舘村の外れにある
**「鬼火谷」**と呼ばれる渓谷だった。
谷底を流れる花月川。
その地形は、一年を通じて上昇気流が発生しやすい。
万が一、毒ガスが漏れても、谷の外へ流れにくい。
自然そのものが、巨大な“防壁”になる。
山曽根は、そう判断した。
だが同時にそれは——
外から何が起きているのか、決して見えない場所でもあった。
◆ 地下へ広がる施設
金山の廃坑のうち、老朽化していない坑道を二本選定。
地下およそ四メートルの地点でそれらを横方向に掘り進め、連結した。
内部には換気設備。
空気取り入れ口。
外部へ通じる複数の排気経路。
すべてが、**「実験のため」**に設計されていた。
工事を担ったのは、地元の人間ではない。
遠く徳島から集められた、四十名の人夫だった。
理由は、ただ一つ。
秘密を守るため。
仕事が終われば、彼らは夜中に幌付きトラックで連れ帰される。
自分たちが、どこで、何を作ったのか——
正確に知る者は、誰一人いなかった。
◆ 野心の男・山曽根中佐
山曽根は、信じて疑わなかった。
「この新兵器が完成すれば、将官への道は必ず開ける」
そのために彼は、一線を越えた。
731部隊で保管されていた
金。
ダイヤ。
翡翠。
軍需物資。
それらを、副官の西村少佐、天野少尉らと共に密かに横領していた。
彼の計算は、冷酷で現実的だった。
「この“宝”と研究資料があれば、たとえ敗戦しても交渉の材料になる」
「自分は助かる」
そう確信していた。
だが——
この時、山曽根中佐はまだ知らない。
この地下での選択が。
この村での決断が。
戦後四十五年を経て、223人の命を奪う未曾有の大惨事へと繋がることを。
これが、すべての惨劇の**“始点”**であったことを。
▶ 次回予告
「人体実験と、“囚人”たち」
戦争は、銃や砲弾だけで行われたのではない。
人間を「材料」に変える戦争があった。
地下の実験場に、どこから、どのような人間が運び込まれたのか。
“研究”という名のもとで、何が行われていたのか。
物語は、さらに深い闇へと降りていく。




